幸運
とにかく早く、とにかく終わらせるを意識して書き上げた作品です。故・藤子・F・不二雄先生のSF・異色短編のような雰囲気に仕上げられたと考えています。製作時間約三十分。
幸運
この個人用宇宙船で旅立って長い時間が過ぎた。
人類が宇宙に進出してから長い時が経っていたが、なんだかんだ言って旅行というのは高くつくものに変わりない。宇宙船も勿論、かつての自家用ジェット機、クルーザーと同じく、高額な嗜好品として変わりなかった。そんなわけで、これに乗るのが私の夢だった。そしてなぜ私がこの個人用宇宙船に乗っているかというと、この船は懸賞で当たったのだ。これまでぱっとしなかった私の人生だったが、こんな形で夢が叶うとは思いもしなかった。当選の通知が家に送られてきた時には、まるで子供のようにはしゃいだ。小型宇宙船舶免許もお金はかかったがすぐに取得し、こうして宇宙旅行に出かけているわけなのだった。
と、そこまでは良かったのだが、今は打って変わってかなりまずい状況に立たされていた。宇宙船に蓄えられていた資源が底をつきかけているのだ。特に水がほとんど残っていない。普通ならば、どこかで補給ステーションを見つけて補給してもらえば済む話だ。ただ残念なことに、気ままな宇宙旅行を楽しんでいた結果、ちょっと目を離したすきにどこの航路にも属していない未知宙域に迷いこんでしまったのだ。救難信号も数日前から発信しているものの、未だ返事は来ていない。限りなく絶望に近い状況と言ってよかった。
しかし最後のところで、私の幸運が命をつなぎとめてくれた。人が住める環境の惑星が近場にあるとレーダーが示したのである。まさに蜘蛛の糸だ。私はありったけの燃料を使用してその星へと向かった。
到着してみると、より幸いなことに大気が存在していた。水もあり、かなり地球と近い環境らしく、宇宙服の着用なしで活動ができるほどだった。私は神と自身にまだ残っていた幸運に感謝した。
だが感動もそうそうしていられない。喜ばしいのは事実だが、私はもう昨日からずっと何も飲んでいない。食料はあるが、保存食しか積み込まれていなかったので、乾燥食品ばかりで喉を潤すどころの話でなかった。当然、水分がないと死んでしまう。そのため私はせっせと給水の準備にとりかかった。
しかしまた恐ろしいことが起きた。この星の水には、現在の地球に存在していない・加えて解明されていない化学物質が含まれているらしかった。話は変わるがこの宇宙船に搭載されている全自動浄水器は、今の地球の科学技術を用いることで様々な種類の汚染水を真水に濾過できることで知られている。だがそれもこの浄水器に保存されている情報を引用することで浄化を可能としているわけであり、そのデータに含まれていない物質が含まれているなら話が変わってくるのであった。どうにかならないかと思って浄水器に望みを託したが、この未知物質が人体に影響を与えないかを確認するために、最悪なことに数日の調査実験が必要との計算結果が算出された。
私はそれから大慌てでこの星の調査に乗り出した。この星で見つけた果実、植物、動物全てを利用してでも水を入手しようとしたが、それらを目的に合わせた解析器にかけても、結局無駄だった。この星の生命の根源である水からすでに未知物質が含まれているのだ。それを摂取して生きているものが似たような物質を含んでいないわけがなかった。
まだ調査されていないものはないかと、私はもつれた足取りで再びこの星へと降り立った。だがそこで強い目眩に襲われ、私はその場に倒れた。
幸運
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