天国
とにかく早く、とにかく終わらせるを意識して書き上げた作品です。前作「地獄」の続編というよりは対になる作品です。製作時間約一時間。
天国
どうやら私は死んでしまったらしい。目覚める前の記憶は、家族が回りにいて、それで終わっていた。幸せな死に方だっただろうと思う。死ぬには少し早いかな、と自分でも思ったが、実際に死んだ今となっては特に気にすることもない。
そんなわけで私は今天国にいた。今では天使と思わしき人物から説明を受け、この天国と呼ばれている広場へとやってきた。まあ、想像に難くない、天国らしい天国だった。人影はまばらで、ぽつぽつと建物が建っていた。地平線は果てしなく続いているので、ずっとそんな調子なのだろう。
天使はなかなかに人の良い奴で、私の不躾な質問にも丁寧に答えてくれた。
話によると、ここにいる人々は適性がある人物らしい。何の適性かといえば、現し世での生活に対するものだ。それがあると、その人間は大体幸せな死に方を遂げ、天国へと逝けるらしい。ただし、うまく現世で生活できない、つまり適性がなかった者は地獄へと落とされるらしい。天国があるのだから、もしかするととは思っていたが、やはり地獄という場所も存在するらしかった。付け加えると私は天国に来た以上、地獄に落ちることはできないようだ。
そして地獄で行われることはといえば、なんと教育とのことだ。適性がないとみなされた人間を、ある一定水準まで適性を保てるように育てるらしい。納得はできるが、なんとも不思議なものだ。生前は「地獄は苦しみに満ちた場所」と教えられることが多かったので、この話はかなり興味を引いた。実際、地獄では現世に近い環境のもとで教育が施されるようだ。そしてある程度適性が養われたと判断された場合、再度現世に転生するのだという。その際当然地獄で過ごした記憶はなくなり、生きている最中に思い出すことは殆どないそうだ。それでは教育の意味がないと思いきや、三つ子の魂百まで、と似ていて魂の芯の部分で役立ってくれるらしい。そんなわけで地獄を過ごした人間は、今度は天国へ逝きやすくなるようだ。ただそれでもまた不幸せな死に方をしてしまった場合は、再度地獄で教育を受けることになる。
それでは天国に逝った者はどうなるのか。適性があると判断されれば、ある程度現世の社会機構がさらに進化するまで、天国で過ごすことになるらしい。今天国にいる者は、現代の社会機構において適性を持っていることがわかっている。故にある程度機構が進化、つまり変わった上で、再度適性があるかどうか試されるらしい。これまた転生するというわけだ。そうやってある程度適性のある者が、一定以上の割合で現世に生まれるよう調節が施されているようだ。そんな風に調節してくれているのは誰かと尋ねたら、秘密と言われた。いわゆる神なのだろうか。
とにかく、こうして今の人間社会は発展を遂げてきた、と天使は言った。はるか昔、石器を持って狩りに出ていた時代と比べれば、確かに現代の社会は見違えるほどの進化を遂げたと考えていいだろう。
しかし、一体どうしてこのような天国、地獄といった死後の世界が生まれたのだろう。そしてどうして死後の世界を利用してまで、人間、ひいてはそれが織りなす社会を発展させようとしたのだろう。天使に尋ねたら、それも秘密と言われた。気さくな奴だが、意外とけちだ。
とりあえず私はしばらく転生することもないらしい。社会がまた変わったら、また適性をはかるために生まれることになるだろう。天使の奴が言っていたが、ここでは歳を取ることも腹が減ることもないらしい。ただ天国らしく、幸福を満たすことなら何でもできるとのことだ。適当なところで話を打ち切った後、天使と別れて気ままに天国を見まわることにした。別に焦る必要はない。私が生まれるまでまだ時間はあるのだから。
天国
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