僕が彼女を殺した日

化学の勉強をしていて思いついて書きました。
宿題しろって話ですよね。
知識が浅いのでもうなにがなんやら分からない状況です。
でも、急にこんなの書きたいなーって思って書いただけなので、雰囲気だけなんとなく察してください。

設定的には薄くしすぎたと思っています。現実味がないので。
後悔はするけど、反省はしません。めんどうなので。
現実から少し切り離した感じで読んでいただけるといいかなと思っています。

「人殺し……」

彼女は決まって僕のことをそう呼ぶ。その度に僕は微笑んで彼女に諭のだ。人殺しではない、と。
だって僕は生まれてから今まで一度も人を殺したことなんてないのだ。それなのにどうして彼女が僕を「人殺し」と呼ぶのか。

「理解できないよ。だって僕は殺してないのだから。」

ねっ、首を傾げれば彼女は目から大粒の雫を零した。僕は微笑みながら彼女の頬に触れると彼女は小さく震えた。
ああ、寒いのかな。こんなコンクリートで出来ている建物の中にいればそうなるか。
後で彼女に毛布を持ってきてあげよう。そうすれば少しは暖かくなるだろう。

「…君は温かいね。」

触れた頬から伝わる体温になんとも言えない気持ちが芽生える。僕の手はこんなにも冷たい。
君の体温が高いのかな?それとも僕の手が冷たいのかな?
なんて問えば彼女はぽろぽろ涙を零す。その涙すら暖かくて僕は彼女を抱きしめた。

「ほら、君はこんなにも暖かい。僕に比べて…こんなにも…。」

君はちゃんと生きているんだよ。その暖かい皮膚の下で血液が体内を廻っているんだ。
君が今、肺に冷え切った空気を取り入れているのも、その目に涙を溜めているのも、それは全部全部。

「君が生きているからだよ。」

そういうと彼女は俯いた。もう涙は流れていない。
僕は彼女の頬から手を離す。
彼女に背を向け、この狭い窓の無い六畳のコンクリートの部屋に続く唯一の扉に手をかける。

「また来るよ。」

彼女に聞こえないくらいの声で呟くと同時に扉を閉ざした。
殺風景な通路を抜けると階段に足をかける。
誰もいない。誰にも分からないハズのこの地下通路で僕はぼんやりと彼女の事を考えていた。
少なくとも僕と彼女の間にはまともな関係な時期があった。
その時は名前で呼び合っていたし、彼女は外で太陽の光を浴びて楽しそうにはしゃいでいた。
僕の掌は彼女の小さな手を包んでいたし、緑が一面に広がる公園でアイスを食べて笑いあっていた。
彼女は僕の隣で笑っていて、僕はそんな彼女を見て幸せな気持ちで溢れていた。
あの頃はそれが当たり前だったのだ。僕も彼女も幸せだったのだ。
あんな話を聞くまでは。


僕は薬品開発を専門とする会社に勤めている。表では医療に関する薬品の研究・開発をする会社なのだが、実際にやっていることはそれだけではない。
毒薬の開発までしていた。僕は人の命を救いたくてこの会社に入ったというのに、真逆な事をしている事を知りショックを受けた。
会社の先輩曰く、人を救うためには人を蝕むものを知る事も必要らしい。
僕は人を救うための薬品開発につければそれでいいと思っていた。もしここで凄い毒薬が作られようが、それを治療できる薬品を作れればいいと思っていた。
浅はかな考えだった。僕は毒薬開発のチームにつかされた。強制的だった。
それでも僕は働いた。ここで成果を挙げれば、毒薬開発チームから抜け出させてくれると言われたからだ。

「人殺しする為の薬品なんざ作りたくないだろうが…作らないと一生毒薬の実験体になるからなあ」

先輩の声に僕は背筋が凍った。その日から僕はひたすら毒薬を研究した。勿論、その解毒剤の作り方の研究もしていた。
作れる薬が多くなってある法則性にも気づき始めてきた僕はひょんなことを言った。

「この液体とこれをを混ぜてできる毒薬の事なのですが…」

この法則性を使えばここにこれを投与して加熱して気体を冷却すれば、細胞を即破壊する液体をつくれるのでは?
僕がそういうと先輩は毒薬開発チームを集めた。会議を始めてここはこうするべきだなどと意見交換をした後に実験に入る許可を得に先輩が研究室を出た。
先輩が戻ってくるのはそう遅くはなくて、先輩は嬉しそうに実験の許可が下りたという。
そして僕らは実験に移った。先輩の指示に従い細心の注意を払って薬品を作り上げた。
実験は成功した。そして晴れて僕は毒薬開発チームから外れる事ができ、医療薬開発チームに昇格できた。
僕は今まで培ってきた薬の知識を最大限まで活かして医療薬の開発に打ち込んだ。
その間も彼女は僕を優しく見守っていてくれたし、僕は仕事も私生活もうまくいっていて最高な時期だった。
ある日、僕は毒薬開発の時にお世話になった先輩に解毒剤を作るためのある細菌について尋ねに行った。
先輩は誰かと電話中だった。邪魔するのも失礼だと思い踵を返そうとした時だった。

「ああ、あの小僧のおかげで俺らの夢は果たされるぜ」

僕は先輩の様子が変だと思った。小僧?夢?
いろいろと疑問は浮かび、僕は先輩に気づかれないように身を潜めて会話を盗聴した。

「細胞を破壊する強力な液体。死後一時間も経てば薬品が検出されることなんてないような改良まで加えた。無差別テロを起こすには充分だろう?」

僕は聞いてはいけないことを聞いてしまったらしい。
僕が開発した毒薬で無差別テロが起こされようとしている。僕は頭が真っ白になった。
なぜだ、何故…。僕は人を助けたかったはずなのに。なのに、僕が作った薬品のせいで人が無差別に殺されるかもしれない。
僕は急いでその場から逃げ出した。そして僕が開発した毒薬の資料をかき集めた。
解毒剤をつくらないと。即効性の毒薬を抑える為の即効性の解毒薬を作らないと…っ!
僕の頭はいっぱいだった。いつ無差別テロが起きるか分からない。僕は研究に明け暮れた。

ふとテレビを見ると綺麗な身だしなみをしている女性が「緊急速報です」と慌てた様子で喋る。

「今日、午後8時にセンタービルで無差別テロがありました。現在確認できている死者は160名、重傷者は100名です。犯人たちはインターネット等でテロ予告を流していたようです。あ、たった今次の犯行予告が届きました。犯人たちは二日後の午後に違う場所で無差別テロを起こすと言っています。」

女性はまだ何かを喋っていたが耳に入ってこない。僕の作った薬で犠牲者が出た。解毒薬はまだ開発できていない。
先輩が無差別テロを起こした可能性が高い、いや、それ以外考えられない。次はどこで…?
ぐるぐるぐるぐる頭の中が廻る感覚に陥る。どうしようどうしようどうしよう…っ!!!
必死に考えていると「どうしたの?」と柔らかな声がした。僕はとっさにテレビの電源を切った。

「なんでもない…よ」

知られたくない。彼女にはテロが起きていることも、自分が毒薬開発に関わっていた事も、今起きている無差別テロが僕のせいで起きたのだということも全部知られたくない。
僕は彼女の手を引いた。何度も僕の名前を呼ぶ彼女を無視して隠していた地下の研究室に彼女を閉じ込めた。
少なくとも、彼女を僕の作った毒薬で殺したくは無い。解毒剤ができるまでは安全な場所で…。
彼女は何か叫んでいたが僕はそれどころではない。彼女を守るためには、解毒剤を作らないと。そして早くこの無差別テロが終わるように何か手を打たないと。
その日から僕は彼女を監禁した。時には彼女の言い分に苛立ち手を挙げた。彼女は泣いた。
僕は地下室とリビングを行き来しては外の動きに注意を払った。
日が経つにつれて無差別テロの被害は拡大していくばかりだ。国は混乱状態だった。そんな状況が半年も続いた。
彼女の笑顔を見なくなって半年が経った。もともと国が大きいからか、未だ僕のところでは無差別テロが起きていなかった。
会社が近いからか?…それとも、僕を生かす必要があるのか…。どちらにしろ僕は最後には殺されるのだろう。
僕は解毒薬の開発に成果が現れてきたところだった。サンプルがひとつできたころだ。
僕の家の扉が乱暴に開けられた。ずかずかと入り込んでくる5人の人間。完全に防備された服装をみるとテロの犯人だと予測を立てるのは容易い事だった。

「ひさしぶりだなぁ、小僧」

その声にはやはり聞き覚えがあった。…先輩だ。僕はテログループに囲まれた。
先輩は僕の顔をみて不敵に笑った。

「どうだ、小僧。自分の作った薬で人があっけなく死んでいく様はっ!」

滑稽だな、人を救うために会社に入ったはずなのに…自ら開発した毒薬で人を殺すだなんて。
先輩はそういうと狂ったように笑い出した。僕は先輩をにらみつけた。

「なんで、こんなことを…」

僕が問えば先輩は嘲笑した。ロマンのわからんやつだ、と言いながら試験管らしきものに入った液体を鞄から取り出す。
お前には俺らの夢を実現させてくれた借りがあるからなぁ…、などといい僕の右腕に液体を零した。

「うあぁああああああああっっっっ!!!」

焼け爛れるような熱さに思わず叫んだ。先輩はにやにや笑いながら僕をみる。

「どうだ?自分で開発した毒薬は?右腕からじわりじわりと細胞が破壊されていく感覚は?」

何も答えられない。ただ、痛みに呻く事しか僕にはできなかった。
そんな僕を見て先輩は、じゃあな小僧といい姿を消した。
僕は先輩たちがいなくなるのを確認して動く左手ですぐに解毒剤のサンプルを自分に投与した。
右手は蝕まれたがこれ以上、細胞の破壊が進行しないところを見るとサンプルはうまいこと出来たみたいだ。
僕は急いでサンプルを大量に生産した。これで僕は守れるんだ、誰かを救えるんだ、次の被害者たちは救える…そう思いテレビをつけた。
テレビを見ると街は変わっていた。中心都市は焼け野原になっている映像が目にはいる。

「うそだろ…」

世界は変わってしまったらしい。馬鹿みたいにならぶビルも、楽しそうに歩く人も、緑も、花も全部無い。
あるのは茶色いごみばかりだ。僕はテレビを消した。
ここも焼け野原になるのだろうか?消えてしまうのだろうか?
僕は彼女を閉じ込めている地下室に向かった。
扉を開けば彼女は僕を「人殺し」と呼ぶ。ああ、そうだ。僕は人殺しだ。
だけど、僕は今日もとぼける。何がいいたいの?、と。
僕の冷えた右手を左手で支えながら彼女の頬に添える。
暖かいか冷たいかすら分からない。だけどきっと僕の手は冷たいだろう。
だから僕は彼女に言う。彼女は暖かい、僕は冷たいのだと。
僕が触れるたび、言葉を紡ぐたび彼女は泣く。
あぁ、ごめん。そんな顔をさせるつもりはなかったんだ。ただ、守りたかっただけなんだ。

「どうして?…もう疲れたよ。」

人殺し、と彼女は呟いた。僕はごめんとしかいえなかった。
僕は彼女の幸せだという気持ちを殺した。楽しいという気持ちを殺した。
彼女だけじゃない。多くの人を殺した。
あぁ、未だテロは起こっているのだろうか。もうすぐここは焼け野原になるのだろうか。

「あいしてる」

僕はいつの間にか彼女を殺していた。それは物理的な話ではなく精神的な話なのだ。
だが、僕は物理的にも人を殺していた。直接的なものではなく間接的なものだ。
それでも、すべて僕が悪い。
僕は彼女を殺していない。だが殺してしまっていたようだ。
半年前のあの日から笑わない彼女を強く抱きしめ、僕は声を上げて泣いた。


僕が彼女を殺した日

読んでくださりありがとうございました。

無差別テロとか、毒薬開発とか…突込みどころ満載でお送りしました。
本当に申し訳ないです。
ただ、報われない話を書きたかっただけなんですよね。
こう…気持ちが平行線で交わることの無いような…なんて。

申し訳ありませんでした。
また気が向いたらほかの作品も読んでいただけると嬉しいです。
ありがとうございました。

僕が彼女を殺した日

僕が彼女を殺した日。 彼女は光の宿らない目をしていました。 僕はただ、彼女を守りたかっただけなのです。

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-26

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