光を忘れてしまった人
お題サイト「サディスティックアップル」 http://loose.in/sadistichoney/ より
shortお題 「たくさんの人がいたこの星で」
私は目が不自由だ。ほぼ全盲である。
生まれた時から視力は弱く、成長していくに従って悪くなる目はやがて見えなくなった。光すら感じられない目にはもう慣れた。歩行時に足の裏に受ける点字ブロックの感覚も必ず持ち歩き振るう白杖も私の一部になっている。
通勤途中にふと何かにぶつかった。固い痛みが足を襲った。
「すみません」
返事はない。またか、と思った。
点字ブロックの上に置かれた自転車にぶつかったようだ。白杖をいつもより幅を大きくスライドさせて自転車の位置を確認し、点字ブロックの上から道をそらす。足の裏から点字ブロックの感覚が消えるとわずかばかり不安になる。この時間、通りは雑踏している。きっと人にぶつかってしまうだろう。早く点字ブロックの上に戻ってしまいたかった。
狭い道幅なので何度か人とぶつかり、私は謝りながらようやくいつもの点字ブロックの上へと帰る。
それでも人とぶつかった。私の足が何かを蹴った。
人だったようだ。舌打ちが聞こえた。
罪悪感を覚えて、また歩みを進める。
どこかで私は感じていた。
失わなければ気付けない物事の多さを。
持っていることの幸せを忘れている人の多さを。
誰かに成り代わって感じることは出来ないし、それを強いることは本当は出来ない。他人の立場に立って考えることは思っている以上に難しいことなのだ。
きっと諦めてしまえば。
安易な推測や上辺の同調を許してしまえば。
そのときはきっと、私すら光を失ってしまうだろう。
見えないからこそ、私はその点では綺麗でいられる。
見えない光を感じていられるのだ。
光を忘れてしまった人
障害者視点で話を書くことは少しはばかられました。
健常者である私が勝手に想像して書くことは、それこそ本編に書いたように安易な推測でしかありません。しかしこうして書くことで世界が広がる気がしたので、取り組んでみました。
本編がかなり尻切れトンボのようになってしまったので、手直しすることもあるかもしれません。