チョコレイトを割るとき

処女作となります。拙い文章、表現等あるかと思います。暖かな心で見守っていただけると幸いです。更新中。私らしく言葉を紡いでいきます。

廊下

教室に眩しい日が照っている。窓から差し込む光がいつもよりも少しだけ強く感じて、ヨウは目を細めた。今日はこのまま暑い日になる、と今朝のニュースで言っていた。暑い日は嫌いではないけれど、眩しい日差しが苦手なのは昔から変わらないところのひとつだった。少しでも日差しが和らげばいいとヨウは感じていた。
「ヨウ」
柔らかい声に呼ばれて振り返った。風に吹かれながら、優しく笑うホシがそこにいた。「ホシ。どうしたの。」
「教科書忘れた。貸して。」
最近、何故か仲良くなったふたり。他の人から見れば、付き合っている、と思われているようだったが当人たちは気にする素振りもなく友人として着実に距離を縮めていた。
「また?教科書わすれすぎだよ。」
「ん、持ってくるのも持って帰るのも面倒。ヨウが持って来てるのわかるし、貸してもらうほうがいい。」
「いや、おかしいでしょ。しょうがないから貸してあげるけど。」
「ありがと。」
ホシは教科書を左に抱えて右手でヨウの頭をふわりと撫で、その場を去って行った。こうした行動があらぬ噂のタネだとはふたりとも気づいていなかった。それが、当たり前になっていたからだ。手をつなぐことも、抱きしめることも、キスをすることもない。ただ時々一緒に帰るだけ。毎日言葉を交わすこともなく、気が向いたらどちらからともなく声をかけて話す、そんな仲であった。それでも、あの頃に比べれば明らかに近しい間柄になっていた。

ヨウは女子クラスに在籍しており、あまり友人と一緒にいることもなかった。勿論、近しい友人はいたが基本的に1人で行動することが好きだった。あの日も、ふと1人で図書室へと向かう途中だった。小説の続きを借りようと教室から少し離れた吹き抜けの廊下を歩いていた。この廊下は普段からあまり先生も生徒も通らない場所だが、ヨウは優しい光が差し込むこの場所が好きで時々訪れては、景色を楽しんだり、日向ぼっこをしたりしていた。ただ、そのときは図書室へと向かうための通り道のはずだったのだが。
「ヨウさん」
後ろから声が聞こえて、振り返った目線の先には、知らない、でも同学年のバッチをつけた男の子が笑ってそこに佇んでいた。
「はじめまして。ホシです。夜には見える、あのホシです。」
「はあ。はじめまして。私のこと、よく知ってましたね。」
「噂になってるよ。女の子なのに、グループに属さないで1人で行動するって。でも、僕はそういう君が好きです。一目惚れというやつです。」
「えぇと。うん。ありがとう」
それだけ言葉を交わすとホシはその場を去った。それがふたりの初対面。

そこから、今に至る。特に何があるわけでもないが、時々現れてはヨウが知らない話をよくしてくれる。それも、興味があると知ってか知らずか、そのときに知りたい内容ばかりだった。はじめは不思議に思ったが、それも慣れれば当たり前になっていた。そうして笑いあって話していると、周りを取り囲む人だかりが増えて、ふたりが笑い合うところを姫と王子と名付けて写真を撮り合うなんてことが行われていることをヨウとホシは知らない。

教室

会いたいと思ったときに、人に会いに行く。それがホシの基本スタイルだ。特に会いたいと思う人も滅多におらず1人が好きな男の子だと周りからはよく理解されていた。そんなホシも心を動かされる女の子がいた。それが、隣の教室によく1人で読書している女の子。大体同じ歳の女の子たちはグループを作って自分を守らないと何も出来ないように見えていたが、直感でこの子は違うのだと感じた時に興味を持ったのがきっかけで気付けば姿を目で追うようになっていた。だいたい1人で行動することが多かった女の子だが、友人はいるようだった。仲良さげに笑いあっているその子の顔をみると、少し胸のあたりが苦しくなるような、息苦しいような感覚に襲われるようになってきた頃に、女の子がヨウという名前だと知った。少しだけ、ヨウに近付けた気がした。たまにすれ違うと、よく図書室から借りた本を持っていることに気づいた。ホシがお気に入りの場所で写真を撮っていると、よくその場所を通ることも分かった。それも、図書室へと向かう時が多いようだった。次にこの場所で見かけたら、少しの勇気を持って話しかけてみよう、と決意した。そして、すぐにその時は来た。
「ヨウさん」
声を掛けたまではよかった。その後、何を言ったのかはあまり覚えていないが勢い余って、君が好きです、と言葉が零れた。
"あぁ、僕はヨウさんが好きなのだ。"
今まで何故こんな大切なことを見逃していたのかと不思議だったが、それでもこの後に話しかけるタネを蒔くことが出来たと思うとその場を離れる足取りも軽かった。ホシがお気に入りの場所は、2人の出会いの場になった。

チョコレイトを割るとき

チョコレイトを割るとき

僕は、きっと君を幸せには出来ない。 私は、きっと貴方の本当の気持ちが見えない。 2人の男女が互いに互いを想うが故のすれ違い。 大切な人を想う日々。

  • 小説
  • 掌編
  • 恋愛
  • 青年向け
更新日
登録日
2015-07-05

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