消し去られた者
序章 消された者
ざあざあと雨が地面や木の葉を叩きつけ、滴り落ち、大きな湖を形成する中を一人の少女が走り抜ける。
少女が身に纏っている服は目も当てられないような無残なものだ。全身びしょ濡れな上に泥だらけ。ブーツはもはや役目を果たしておらず、マントは数箇所に傷があり血が滲んでいる。腰からぶら下げている鞘も傷だらけで、剣は入っていない。
それだけボロボロになっているにも関わらず、少女はただひたすら走り続ける。
名前も、家も、大切な人も、何もかも全てを失った少女。
当然理由も当の昔に失った。
なら、なぜ走り続けるのか。
それは少女にも分からなかった。
消し去られた者