呪神

いつの時代も潰えることのない“いじめ”とテーマにしました。
イジメはよくないと真正面から言えないこと、自分がやられそうだから集団でいじめてしまうこと、いじめられている現状から解決の糸口が見いだせないこと。イジメという問題がなくならない限り、私たちは何かしらのかかわり方をしているのではないでしょうか。この話を読んでくれた方が、少しでもイジメについて考える時間が出来ることを期待し、執筆します。

プロローグ

~20年前~

ハァ……ハァ…ハァ

暗闇の中で聞こえる荒い息。


ガサガサガサガサガサガサ

草が音をたて、普段の静かな雰囲気とは違うことを語りかける。


ザ~ンザブ~ンザバ~ン


波の音が聞こえてくる荒々しい、波立つ崖。


そして、今まで聞こえていた足音が聞こえなくなった。
その代わりに聞こえてくるのは少年の声。

「今までしてきたのでもう……ハァハァ、十分じゃないか……ハァハァ」

余程長いこと走ったのだろうか、息が荒れ、声が豪雨と雷鳴にかきけされゆく。


ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ

雷の光で見えたのは、向かい会う2つの人影。

「これもお前の運命なんだよ」

残酷な言葉は豪雨と雷鳴に劣ることないほどに力強く吐かれた。

そして、その言葉が合図となり一方が動き出す。

「ま、待て。話し合えば分か……
ピカゴロゴロゴロゴロゴロゴロ


稲妻の光で見えたのは一人の人間と地に這いつくばっているもう一人の人間と崖の上に建つ鳥居だった。

第一章 始まり

~現在~


青い空。

流れゆく雲。

眩しい太陽の光。

気持ちいいそよ風。


窓を開け、自然を肌で感じているのは僕、桐島敦。

僕はどこにでもいそうな高校2年生。

ただ……

「よぉ、桐島。なに一人でボォーーとしてんだ??」

「俺らと遊ばねぇ??」

ほら、来た来た。
この3人組は毎日僕の所に来て、苛めるんだ。
田島、池倉、そして山辺。

3人とは去年から同じクラス。
最初は特に何もなかったんだけど、今年になってからは頻繁に僕の所に来るようになった。

「さぁ今日は何して遊ぼうか?」

池倉の言葉に大将の山辺が威厳を降りかざす。

「最近俺さぁ、野球に興味あるんだよねぇ。特にピッチャー。」

それにそってお調子者の田島はとても楽しそうに言い出す。

「よし、やろうじゃん。ピッチャー山辺、キャッチャーは俺、守備は池倉。そして……」

いつもの話だ。
そして、結果も同じようなのだ。

「バッターはお前だ、敦。」

勝手に決められる。

これだけ聞いていると楽しく絡んでいるように見えるだろうけど、実際はかなり苦痛だ。

「ボールはないかなぁ?」

山辺は辺りを見渡し、そしていかにもわざとらしく

「おっと、こんなところにビーダマが入ってる。」

そういうとポケットから直径3㌢ほどのビーダマを取り出した。

「これを新聞にくるんで、…………。よし。野球ボールの完成。」

山辺はビーダマの周りに何枚もの新聞紙を巻いてセロハンテープでぐるぐると固めた。

「よし、ボールも出来たし、これで野球出来るなぁ。」

池倉の陽気な声は僕の気分をよりいっそう悪くする。

「敦、早くバッターボックスに立てよ。」

田島に背中を押され、ほうきを持って適当な所にたたされた。

もうだいたいこれから山辺達がすることくらい分かる。

それくらい毎日やられてきたし………。

「ピッチャー山辺、降りかぶって投げた。」

自分で解説しながらかなり真剣に投げた。

山辺は小学校の時、野球をやっていたと話に聞く。なのでコントロールがある。ボールは僕めがけて飛んでくる。

そのまま軌道をかえることなく、新聞紙とビーダマで作られたボールはまっすぐ僕の横腹を直撃した。

「うぅぅぅ………。」

僕はやっぱりと思い、強度あるボールを食らってその場にうずくまった。

ガタン。
椅子から立ち上がる一人の少年がいた。

江藤卓。
僕の親友。

イジメのことで最初に相談に乗ってくれた奴だ。

僕が辛い時に僕の所に来て、笑わせてくれる、一緒に泣いてくれる。

本当に良い奴だ。

前に

「もし今度いじめられてたら俺が止めてやるから。」

なんて言ってくれて………。

本当に嬉しかったけど、迷惑はかけられないので断った。


今度は江藤がイジメの対象になってしまうから……。

それにこれは僕の問題なんだ。僕自身で解決しなければいけない。

しかし、立ち上がった江藤は僕の方に来ようと一歩踏み出していたので、僕は目で訴えた。


『来たら駄目だ。来るな。』

するとピタッっと止まってその場に立っていた。

やっぱり親友は違う。
言葉に出さなくても、伝えることが出来る。
まさに以心伝心。
そうしていると、昼休み終了のチャイムがなった。

「ちっ、今日はここまでだな。」

そうして3人は何処かに行ってしまった。
うずくまっていた僕の所に2人来てくれた。
1人は江藤。

もう一人は……。

小島聡美。
いつも僕の事を気にかけてくれている。
優しくて明るい子だ。

「大丈夫??」

優しく問いかけてくれる小島さん。

「わき腹見せてみろ。」

そうして江藤は僕の脇腹を見た。
黒染みになっていた。

「大丈夫だって。もう慣れっこだしさ。」

そうして僕はにっこり笑って見せた。
こんな風に毎日だ。
そろそろ自分で決着つけなければいけない……。



いつもと変わらない日はどんどん過ぎていく。
あの日から3日後……。
ザワザワと騒ぐ教室。
それぞれが友達と話をしている。
今は3限授業前の10分休憩の時間だ。
僕は自分の椅子に座っていた。
いつものように窓から外を眺めていた。

「今日はちょっと暗いな。」

青い空は黒い雲の下に隠れて、太陽の光は僕の所まで届かない。
光のない世界。
まるで、今僕だけがいる世界そのものだ。
一人ぶつぶつ言ってる僕は、周りから見るとおかしな奴に見えるだろう。
だけど僕を見る人なんてここにはいない。
僕は空気のような存在だから……。
ふと前を向くと、黒板の前では山辺がチョークで遊んでいた。
なにか作っているようだ。
そこにいつもの池倉と田島の2人が行く。

「何作ってんだよ?」

「鳥居だよ。こういうの作っておくと中野さんどういう反応するかなぁ??って思ってさ。」

「確かに、なんか話し始めて授業潰れるかもな。」

山辺の話の中で中野さんがでてきたが、国語の中野たかし先生のことだ。何かと雑談が多く、授業が楽なことで有名な先生だ。
そして、このクラスの担任でもあった。
そうしているとチャイムがなった。
中野先生がやってきて授業を始めようと振り向くと、先程のチョークの鳥居に気付いたらしい。
山辺の思惑通りに中野先生は話始めた。
「誰だぁ?こんなの作ったのは。こんなに不吉な物作って………。これは山谷の鳥居に似てるなぁ。誰かが意識して作ったのか?」

そこまで話すと一人手を上げた女子がいた。冨倉さんだ。

「先生。山谷の鳥居ってなんですか?」

「そ、それはだねぇ。昔……。」

中野先生は急にしゃべるのを辞めてしまった。なにか様子がおかしかった。
質問した冨倉さんは自分が質問したことは聞いてはいけないことではなかったのだろうかと心配になった。

「先生?」

「ごめん。気分が悪い。悪いが今日は静かに自習をしてくれ。」

そういうと中野先生は教室から出て行った。
中野先生が出ていくと生徒達はざわめき出した。

「中野さんあそこまで話して辞めるなんてねぇぜ。せっかく俺がネタ振りしたのにさ…」

「確かに無いよなぁ。」

「まぁいいや。授業は潰れたし、最高。俺、早弁しよう。」

相変わらず田島は暢気だ。
僕は中野先生が心配だった。
そしてこっちでも

「来たときは普通だったのに、あの山谷の鳥居のことになると気分が悪くなったんだよ。きっと呪いよ。『私のことを気安く口にするなぁ。』ってね。」

「えぇ?呪い………?こわい…。」

「やだなそんなの冗談に決まってんじゃん。普通にびびらないでよ。それより、先生大丈夫かなぁ?」

「大丈夫でしょ?また後でいつもみたいに陽気な感じで来るんじゃない?」

でも、中野先生はそのあと教室には戻って来なかった。
この出来事が最悪な事件の幕開けになることを僕たちは知る由もなかった………。

第二章 悪夢

3限の授業終了後に僕は中野先生の言っていた何とかの鳥居に似ていると言う、山辺がつくった物を見に黒板のところに行った。
下には小さなチョークが少し盛っていて、その上に長いチョークで立てられた鳥居。
見ると別になんにもないような、でもなにか違和感を感じる不思議な物だった。

「よぅ、桐島。何やってんだ?」

「敦は山辺がつくったこの鳥居壊そうとしたんじゃね?だろ?だろう?」

「山辺が輪島の時もこのまんまにしとくって言ったのになぁ。」

この3人はあくまでも僕に濡れ衣を着せようとする。

「いや、別に僕は……。」

そんなつもりは毛頭ないのだ。

「お?口答えするきかぁ?」

「じゃあ口答え出来ない位までたっぷり可愛がってあげようかなぁ。」

いつも手を出すのは山辺。時々池倉も暴力を振るってくる。だけど、田島だけは手を出さない。
僕は田島の方を見る。あまり浮かない顔だ。田島は去年一番親しかった。途中からパタリと絡むことはなくなったのだが……。
あの頃から山辺たちと付き合い始めたんだ。
そうだ。
田島は根は優しい奴だったよ。だから…

考えていたその時だった。
ボコッ、ドォォォン。僕は殴られて黒板に直撃。
チョークの鳥居は壊れてしまった。
あまりの大きな音に教室がシーンとなる。

「イッ……。」

山辺だ、すぐ殴るんだ。
何で僕がこんな目に……。
「ちょっと、やめなさいよ。」

小島さんが止めに入ってくれた。小島さんは女子なのに僕が殴られるのを見るといつも山辺達に立ち向かって、いじめを止めようとしてくれる。
去年から僕と田島と小島さんは仲良くしていた。
だからかもしれないが守ってくれるんだ。

「小島……」

「うぜぇんだよ。もしかしてあれか?お前桐島が好きなのか?なぁ山辺。………山辺?」

池倉の言葉には山辺からの返事がない。
そして山辺は口を押さえている。
倒された僕は何がおこったのか分からなかった。

ポトン……ポトン。
山辺の口から赤いものが出てきていた。

「キャーー。」

クラスの女子のかんだかい声に他クラスからも人が集まってくる。
僕は唖然としていた。
殴ったのは山辺なのに殴った山辺が口から血を出しているのだ。
状況が理解出来ないままその場にいる全員が立ちすくんでいた。
騒がしいこの教室に小走りで英語の輪島先生がきた。

「お~い、騒がしいぞ。静かにせんか。ほら、全員席に着かんか。山辺、お前どうした?ちょ、ちょっと待てよ。今救急車呼んでやるからな。一緒に来い。」

山辺の口からでる血をみて慌てた輪島先生は山辺を連れて行ってしまった。
静かになった教室には座り込んでいる僕と、僕の前に残る山辺の血と、立ちすくむ生徒達がいた。
ふと我にかえった池倉が僕の胸ぐらをつかんできた。

「てめぇ、俺たちが小島に構ってる間に山辺に何をした?」

教室は混乱の渦だった。
ザワザワしている中、僕はあまり声が出なかった。

「僕は別になにも………。」

「敦、お前なんかやったんだろ?何やったか言えよ。」

田島もさすがに興奮していた。

「待ちなさいよ。」

「またお前か。お前らぐるだな。」

凄い形相で言う池倉に負けじと、小島さんは声を大きくする。

「今の状況で誰が山辺君に手が出せたのよ。まして殴られて倒れてる桐島君に………」

そんな小島の言葉を遮るように池倉が怒りをあらわにする。

「じゃあ山辺が病気だったとでも?あいつはなぁ、風邪も引いたことないような丈夫な身体してるんだ。そんな山辺が病気で、しかも、このタイミングで悪化したっていうのかよ……。」

そして、しばらくの間は沈黙が続き、誰一人口を開こうと思う者はいなかった。

その日の帰りの時間には、担任の中野先生のかわりに輪島先生がきた。

「今日は悲しいお知らせがある。先程、山辺が亡くなった。」

輪島先生が言った瞬間、教室が凍り付いた。まるで時を止めたかのように……。

「冗談だろ……。」

教室がざわめく。

「朝はいつもみたいに普通に絡んでたのに……。」

池倉の言葉には反応することなく、輪島先生は続けた。

「あのあと意識を失って、痙攣し始めて、救急車で運ばれたんだ。搬送された病院で、一時的に意識を取り戻したらしいんだが、『ごめんなさい、ごめんなさい、………。』謝り続けて、最期には『呪神様……。』とわけの分からんことを一言残して亡くなったそうだ。亡くなった原因は未だ分からないらしい。」

突然、口から血を吹き出して意識不明、そのうえ痙攣おこして死んだ………。
何の病気なのか……。
それすら原因不明??
医者でもわかんない?
そして、ある言葉が引っかかった。

「呪神様……。」

「呪神様……。」

「呪神様……。」

「何だよそれ……。」

「全然意味分かんねぇよ……。」

教室はクラスメイトの死に何か不吉な物を感じとっていた。
再び、教室は沈黙が続いた。
窓から外を見ると、朝にも増して、今にも雨が降りだしそうな、嵐がきそうな天気だった。
空は、僕たちの心の中を映した鏡のようなものであり、これから起こる出来事を映し出す水晶玉みたいだった。

「実は、もう一つあるんだ……。中野先生なんだが、今、病院で意識不明の重体らしい。中野先生も痙攣を起こして救急車で運ばれて……。」

もう誰一人、口を開けなかった。
やはり、空は朝からこの不吉な出来事を僕に教えようとしていたのだろうか。
そしてそのまま下校となった。
僕は、今日一日が訳が分からないままだった。


家に帰り着くと家には誰もいなかった。
家は母子家庭だ。母は僕を養う為に頑張って仕事をしてくれているので、この時間は家にはいない。しかも、一人っ子だったので当然のことだった。
風呂に入ってリフレッシュしようと考えた僕は風呂を洗い、入った。
風呂の中で今日一日を整理しようとおもった。
まず、中野先生が体調不良を訴えた。
そして、山辺が血を吐いて、病院で死んだ。
偶然なのか……。
同じ日に同じように痙攣を起こして意識不明になる。
風呂から上がり、テレビをつけるとニュースがやっていた。
別にニュースなんか見たくなかったので、新聞で良いチャンネルがないか探していた。
するとテレビから耳を疑うような事実が流れた。
最初は聞き間違えだと思ったが、そうでないことがすぐわかった。

「速報です。今、T通りで無差別殺傷事件が発生しました。容疑者は田島浩平16歳。T高校に通う高校2年生。田島容疑者はその場で現行犯逮捕されました。警察の調べによると、田島容疑者は『呪神様』という単語を何度も発していたそうです。警察側は薬物を使用していたのではないかと調査を進める方針です。この事件により1人が死亡、4人が軽傷をおったとのことです。死亡したのは同じ高校に通う池倉孝志さん16歳、軽傷をおったのは………。」

「………え?」

思わず声に出てしまった。
嘘だろ?
田島が容疑者で池倉が被害者………。
しかも、田島が発したって言う『呪神様』って、山辺が死に際に発したのと同じじゃないか。
田島が薬物を使用していたなんて嘘っぱちだ。そりゃ、僕をいじめていたから憎い存在ではある。でも、去年まで仲良かった奴が薬物やってたなんて………信じたくない。大体、なんで今日なんだ?いったい僕の周りで何がおこってるんだ?

待てよ……。
そういえば、中野先生が教室から出ていく前に何か言ってたよなぁ……。

ま、まさかあのチョークの鳥居『山谷の鳥居』が関係するのか?

不吉なものとか言ってたからなぁ。呪いとかあるんじゃないのか……。

いや、まさかな。
先生がいくら不吉な物だって言っても、所詮はチョークだ。
呪いなんか有るわけが………。

そしてその日が終わった。

次の日、学校に行くと騒がしかった。
おそらく全校に知れているのだろう。
山辺、池倉、田島、中野先生の4人が話題になっている。
少し前から気になっていたんだが、話している生徒は僕を見ると向こうを向いたり、何処かへ移動している気がする……。
なんなんだ?

教室も騒がしくて階段までまる聞こえだった。教室に入ると僕の方を見て皆がシーンとなった。

やっぱり何かおかしい。

僕が何かやった?
すると小島さんが僕の近くに来て話してくれた。

「昨日のことは全部桐島君が恨んで呪ったからあんなことになったんじゃないのかって。呪いなんて皆どうかしてるよ。桐島君が悪いわけないじゃんね。」

なんだ。
そういうことか…。
虐められてた僕が呪い殺したとねぇ。
笑える。そんな能力あるわけないじゃん、とんだ勘違いだよ。

「小島さんありがとう。そういえば、昨日の山辺が血を吐いた時、どんな感じだった?僕はちょっとどうなったのか……。」

現状を整理しなきゃ解決しない。何かわからないけど何かが僕にそう教えてくれている気がするのだ。初めて感じた虫の知らせ…。

「ゴメンね。説明してあげたいけど、私も2人に構ってたから良く分かんない……。」

なんで僕は小島さんに謝らせてるんだ。

「いや、謝んないでよ。いつも助けてもらってたんだし……。あ、あのさぁ、こんなときに言うのもなんだけど、……ありがとう。」

小島さんはちょっとビックリした様子でそれまでより大きな声で僕の背を叩いてきた。

「な、なによいきなり………。いつものことじゃん。」

「2人ともお暑いねぇ。あれ??さっちゃん顔が真っ赤だよ??」

「もう、真弥子。からかわないでよ。」

こうして僕の不安要素は取り除かれたけど、このあと何週間かは皆からの避けられた。
やはり呪神様には引っ掛かっていた。
やっぱり呪いなのかなぁ。
でも、小島さんの言う通り、現実にそんなの有るわけないよな。

あれから土日をはさみ、いつもの通りガヤガヤした教室になった。
しかし、まだ中野先生は意識を取り戻しておらず、輪島先生が今日も朝礼にきた。
3人の机は残されたままで、3つの空席となっていた。

…でも、良く見ると空席は4つだった。

「あそこはたしか………。」

出席確認をしていた輪島先生は名簿を見ながら確認しようとしている。

「荒垣さんです。」

隣の席にいる早瀬さんが素早く答える。

「そうか、サンキュー早瀬。荒垣から学校に連絡は無いんだが、誰かまだ来てない理由を知ってるやつはいるか?」

みんなの反応はなかった。

「わかった。じゃあ後で連絡しておこう……。」

そうして朝礼が終わろうとしていた。

「よし、じゃぁ…………。」

その時に、ドアが勢い良く空いて、事務員の先生がきた。
入り口にに近寄る輪島先生。
なにやら事務の先生は輪島先生の耳元で言っている。
教室もざわついてきた。
事務員の先生が言い終わるとただならぬ赴きで僕たちの方を向き、喋りだした。

「今連絡があって…………。」

そこで輪島先生の言葉は止まってしまい、生徒達が不思議そうにしていた。
すると、そこに1限が始まるチャイムがなった。

「いや、なんでもない。スマンな。俺のせいで遅れたと伝えておく。」

そういってそそくさと教室を出ていった。
輪島先生が出ていくと教室は騒がしくなった。

「なんだよ、何の話をしようとしたんだよ。」

教室の入口を開けて入ってきた先生は余りの騒がしさに少し驚いている。普段は静かなクラスだからだ。

「はーーい、静かに!!授業は始まってるよ。」

一限は数学だ。鷹野先生は声を張り上げて教室を静まらせた。
そして、1限が始まるとどんどん1日が過ぎてった。
皆が朝の輪島先生が言いかけたことを忘れてガヤガヤ話している終礼の前の時間、輪島先生がきて静かになり終礼が始まった。

「よし、今日も1日お疲れ。今日からまた一週間が始まって………、まぁ気持ちを切り替えていこうな。」

中野先生や山辺たちのことを言ってるんだとみんな理解していた。

「それとあとは、朝言いかけた事だが、」

先生がそこまで言うといきなり立ち上がる一人の生徒がいた。

「そうですよ。あんなところで止まったから気になってしょうがなかったんですよ。」

そういって立ち上がっていたのはムードメーカー中島だった。
この悪い空気をかえようとしてくれたのは分かったが、あまり効果はなかった。
無論、皆も同じらしく、ウンともスンとも言わなかった。
結局そのまま流されて、輪島先生が話始めた。

「え~っと、朝のことなんだが、………荒垣が…交通事故で亡くなった。」

クラス全体がまた死人が出たのかと顔を上げた。
周りの女子はないている人もいる。
しかし、今回は事故死。
やはり山辺達のこととは関係無いことだろう。
偶然だ………いや、偶然であって欲しい。
そう考えた。
だが、そんな僕の気持ちを完全に無視しているかのように、日が過ぎるに連れて殺害、自殺、事故などで死者は多くでた。
11月半ば、クラスの人数は3分の1にまで減っていた。
いつか自分もその中の一人となり死んでしまうのではないだろうか?
僕はそう考えるとぞっとした。

第三章 残された者達

流石におかしい、なにかの祟りか呪いではないか、と言うことで、学校側は対処として1ヶ月の休みをとり、校舎をお祓いしてもらうことになった。
僕達は自宅待機となった。
この休みを利用して中野先生に会いに行こう。
そう思った僕は、休み2日目に病院へでかけた。
中野先生は未だ意識不明らしく、お見舞いにも行ったことがなかったのでそうした。
病院までは自転車で15分ほどゆっくり漕げばつくくらいの距離だった。
行く途中、事故に会わないように、不審者がいないかなど細心の注意をはらった。
やはり、怖いのだ。
特に危ないことはなく、無事に病院へついた。
受付で中野先生の部屋を聞き、向かった。
中野の部屋は3階だった。
部屋のドアを開けると誰かが座っている。
誰だろう?
そう思い、ゆっくり入る僕を向こうも気付いたらしく、振り向いた。
それは江藤だった。

「よう。」

いつもみたいに挨拶は一言、変わらぬ習慣。

「来てたのか。」

そう言って、近づいた僕は中野先生が目に入った。
ベッドに横たわる中野先生の周りにはたくさんの機械から伸びるコードやなにやらで凄いことになっていた。

「中野先生、まだ独身だし、しかも、両親は亡くなってるって聞いたから一人ぼっちなのかな?」

いつも明るく振る舞ってた中野先生を見つめて江藤はボソッとつぶやいた。

「そうだったんだ。なんか辛い生活の果てにこんなことになったのかもね。」

僕は思っても無いことを口にした。
確かに、辛いから体調が悪くなったのかもしれないが、やはり、今休みになってここにいるという原因が中野先生と少しでも関係があるだろうと思っていた。
いつも見ていた先生が、なにか違和感と共に、違う人に見えてきた。
僕はぞっとして、思わず江藤に言おうとした。

「なぁ、なんか……。」

すると、部屋のドアが開いた。
ビクッとした僕はドアの方をみた。
そこには綺麗な女性が立っていた。

「あの、あなた方はどちら様ですか?」

初対面の僕たちに対し、きちんと敬語を使ってくれた。

「僕達は、T高校の2年B組の生徒です。中野先生は僕たちの担任の先生で……。」

僕が言う前に江藤がしっかり説明してくれた。

「そうですか。私は中野孝志の妹の中野彩音と言います。」

ソレを聞いてびっくりだった。

「妹さんですか?中野先生はてっきり1人ぼっちなんじゃないかなぁって思ってたんです。」

「心配してくれてありがとう。兄はまだ起きないのよ。もう半月起きないのよ。ねぼすけよね。」

そう言いながら彩音さんは泣いていた。
その後も彩音さんは家族は2人だけで、今まで支えあってきた兄がもしかするとこのまま植物人間になってしまうかもしれないことや昔の出来事などいろいろ話してくれた。

気がつけば、大分長居をしていたらしい。そろそろ帰ろうと思い、江藤に合図を送った。

「じゃあ僕達はこの辺で。」

2人で立ち上がって帰る支度をした。

「またいつでも来てね。」

そう言って手を振ってくれた。

「はい。また来ます。お大事に。」

そうして僕達は病室を出た。
時間は3時ほど。
窓から見える空は遠くが黒くなっていた。

「雨が降るかもね。」

江藤の言葉にそういえば傘は持ってきてないことを思い出した。

「ところでこの後どうすんの?」



「どうするって俺たち一緒に来た訳じゃないじゃん。」

「あ、そっか。忘れてた。」

江藤も大分ボケてんなと思って一人心の中で笑っていた。

「でも暇なら江藤ん家に行ってもいい?」

「うん。大丈夫。じゃあ行こっか。」

そして、忘れていたあのことを思い出した。中野先生に感じた違和感だ。
あれは何だったんだろう?
江藤も感じたのかなぁ?

「あのさぁ、江藤。言いそびれてたんだけどさぁ、中野先生を見てた時に………」

その時、救急車が玄関に止まった。
急いでよけた僕達は言葉を失った。

僕達の目に入ってきたのは、紛れもなく早瀬さんだった。
しかも、救急車の中から怪我人として運ばれている。
早瀬さんのお母さんが看護師と一緒にストレッチャーを囲んで走っていってる。

「なぁ、今のって……。」

「うん、早瀬さんだった。江藤、ちょっと行くぞ。」

「おう。」

そう言って2人でついていった。

「まさか早瀬さんも死んじゃうとかないよな?」

「縁起でもねぇこと言うなよ………。」

追い付く前に手術室に入って行った。
扉の前に残された早瀬さんの母は放心状態だった。

「あの~。僕達早瀬さんと同じクラスの桐島と言う者なんですが、早瀬さんはどうして……。」

「出血多量。」

「え?」

あまりに小さい声で聞き取れない。

「リストカットしてたの。気が付かなかった。いつもは浅くやってたみたいだったんだけど、その時に私がドアを開けちゃったから、あの子びっくりしてついザクッと……。」

「でも、出血だけなら止血して、輸血を…。」

「駄目なのよ。あの子の血はRh-のO型で、珍しい血だから輸血出来る血の持ち主も大勢いる訳じゃないの。知人もいなければ、病院にも今ない状態なのよ。」

江藤の問いかけに答えた早瀬さんのお母さんの言葉はあまりにも衝撃的だった。

「そんな……。」

「じゃぁ早瀬さんはどうなるんですか………。」「最悪の場合、出血死してしまう……」

そういうと泣き出してしまった。
現段階では絶望的だった。

「あれ?桐島君に江藤君。どうしたの?」

そう言いながらジュースを片手にこっちにきたのは彩音さんだった。

「僕達のクラスの女子がリストカットで深く切ってしまって、出血多量で運ばれてきたんです。」

「でも、特殊な血らしくてここにはないらしくて今危険なんです。」

2人で説明をすると、

「なるほど。お母さん、私もO型のマイナスなんです。もし、娘さんの血に適してるなら、提供しますよ。」

その一言で、泣いて床に座っていた早瀬さんの母はすっと顔を上げ立ち上がり彩音さんの肩を掴んだ。

「お願いします。娘を助けてください。お願いします。お願いします。」

「わかりました。お母さん落ち着いてください。」

そういうと、早瀬さんのお母さんは彩音さんと一緒に手術室に入っていった。
窓から外を見ると、空はとても澄みわたったオレンジに染まり、時刻は6時になっていた。

「本当にありがとうございました。あなたのお陰で娘は助かりました。貴方は命の恩人です。お名前をよろしいでしょうか?」
早瀬さんの母親は、喜びに浸っていた。

「中野彩音と言います。」

「おばさん、彩音さんは僕たちの担任、中野先生の妹さんなんだよ。」

「あら、いつもお世話になってたんですね。」

「いえいえ、兄がお世話になります。」

彩音さんの血液のお陰で早瀬さんは大事には至らなかった。

この後、早瀬さんは意識が戻った。
しかし、何故リストカットなんかしたのか母親から聞かれても答えなかった。

「もし今話しにくいならまた今度こっそり相談して。」

江藤は、早瀬さんの耳元でボソッと呟き、僕の背中を押して病室を後にした。
そのまま僕達は家へ帰ることにした。

「中野さんのお見舞いにまた今度行こうな。」

「そうだね。」

そういって僕たちは別れた。
夜、7:00ほど家に帰りついた。病院から出てきた時からポツポツと雨が降りだしていて、家についたときは土砂降りだった。
傘を持っていなくて、びしょ濡れになったのですぐそのまま風呂にはいった。
風呂の中で考えた。
このままだとうちのクラスは全員死んでしまうんじゃないか?
きっと原因があるんだ。
それを突き止めなきゃ。
まずは呪神様ってのがなんなのか、山谷の鳥居に何があったのか調べなきゃな。

そういえば、早瀬さんが入院してるの冨倉さんや小島さんは知らないんだろうな。
風呂から出て電話で教えてあげよう。
そしたらお見舞いに行けるだろう。
よし、電話しよう。
そう思い、風呂を出た。

まだ母親のいない家は静まりかえっていて、不気味に感じた。
電話を手に取った時、静電気がきた。
例え静電気であっても、いつも起こらない出来事が不吉な展開の幕開けのように思えてならない。
外はまだ雨が降っていて、風が強くなり、まるで台風のようにうなっている。
僕の周り全てが電話することを拒絶しているみたいだ。
受話器を持つ手が震える。
臆病な僕にとってこの状況はかなり怖い。
まさか、僕はここで殺されてしまうのだろうか……。
まだ死にたくないなぁ。僕は皆と同じ運命を歩むのか……。

ふっ、馬鹿げてる。

偶然が重なっただけだ。
早く冨倉さんに電話してあげよう。
きっと明日病院へ飛んで行くんだろうな。

プルル…
ガチャ

「もしも……。」

「真弥子!真弥子!」

電話の向こうの声はとてもとり乱れていて、声が大きい。

「あの……。」

「今どこにいるの?心配したんだから。」

ん??
どこにいるのってどういうことだ?

「すいません。桐島です。真弥子さんと同じクラスの……。」

「え?あぁ桐島君。ごめんなさい。ちょっと…。」

電話の向こうの声は一気に小さくなった。
きっと何かあったに違いない。
すると、また元の大きな声に戻り、何かを思い出したかのように話だした。

「そうだ。桐島君、うちの真弥子知らない??昼から家に帰って来ないし、連絡も取れないのよ。」

「え?」

冨倉さんが行方不明……?
嫌な予感は的中した。
まさかこれも呪神様と関係が有るのか?

「もし、真弥子がそっちに行ったら電話してね。」

冨倉さんのお母さんは必死だった。
我が子が帰ってこないのだ。心配なのはわかる。
でももし、これが今までと同じように呪神様とか言うのが関わっているなら………。
―――今それを伝えると発狂してしまうだろう。それに根拠もないことを伝えるのは良くない。

「わかりました。分かり次第連絡します。では、失礼します。」

そうして電話を切った。
そうすると突然小島さんも心配になった。
電話しよう。

「無事でいてくれよ。」

他人の心配より自分の心配をするべきだったが、この時は自分より小島さんのほうが心配だった。
頼むから出てくれよ。

プルルルルル…プルルルルル……プルルルルル……
プルルルルル……プルルルルル……プルルルルル……

ガチャ

「もしもし」

「敦です。小島さん?」

「き、桐島くん。なに?」

「良かった~。家にいた。」

どうやら小島さんは無事なようだ。

「フフッ。どうしたの?そんなに慌てて。」

電話の向こうで小島さんは笑ってた。
僕は早瀬さんのこと、冨倉さんの事を全て話した。
それを話終えると、小島さんに最初の笑いはなかった。

「小島さん?」

「…………」

返事がない。
どうしたんだろう。まさか………。

「小島さん、小島さん。」

焦って僕は小島さんの名前を連呼した。

「え?あぁ。ごめん、ごめん。ちょっと考え込んでた。」

「もう、びっくりしたよ。小島さんに何かあったのかと思っちゃったよ。」

僕は安心した。

「ねぇ。明日さ、病院に一緒に行かない?」

「病院に?」

いきなりの誘いにびっくりだった。

「恵末と先生のお見舞いに行こうと思うんだけど……。ダメかなぁ?一緒には行けないかな?」

「いや、そんなことはないよ。僕なんかで良いんならお供します。」

「ありがとう。正直1人はきつかったんだよね。じゃあ明日、学校近くの公園で待ち合わせね。じゃあバイバイ。」

「うん、じゃぁ。」

そうして電話を切った。

明日の予定が出来た。
でも小島さん無事でよかった。
これ以上死者が出るともう嫌だし……。
僕のクラスのメンバーもあと12人しかいない。
あの日以来、24人が死んでしまった。
異常だ。
あれこれと考えながら江藤にメールを打つ。
直ぐに返事があり、江藤も無事であることが分かった。
少し安心したが、これからどうなるんだろう?という思いだけは拭いきれなかった。
そのままゆっくりと2階に上がり自分のベッドの上でゆっくり過ごしていた。

目の前が明るかった。
ベッドの上でねっころがっている。
小鳥がさえずっている。

そういえば、小島さんと約束してたんだっけ?

時間は10時だったな。
今は……、9時15分。
寝過ぎだ。
自分で自分に突っ込んでみたりしたが、むなしくなっただけで、急いで着替え、下に降りた。
まだ母親がいた。

「おはよう。」

「おはよう。早く食べちゃってね。」

「うん。」

久しぶりの母だった。
ここ一週間ほどずっと遅く帰ってきていたから会っていなかったのだ。
ご飯にがっついた。
そういえば、昨日何にも食べないで寝ちゃったからなぁ。
お腹も空いてるのも無理無いか。
みそ汁を流し込み、鯖を摘まみ、麦茶で口を潤す。
わずか5分。
ご飯もおかわりして、お腹のチャージも完了した。
急いで公園に行かなきゃ。
小島さん待ってるだろうなぁ。
自転車で5分、ぶっとばして着いた。
さっき食べたご飯が横腹を襲う。

「やべぇ。」

その瞬間、人が飛び出してきた。

「うぁ。」

咄嗟に避けた僕は自転車ごと電柱に衝突した。

「桐島、桐島……。」
ん?
誰かが僕を呼んでる。
薄れゆく意識の中、見た人影はぼんやりしてはっきり見えなかった。


次に目を覚ました時は僕は病院のベッドの上だった。横を見るとクラスメイトの橋本が座っていた。
橋本は僕に気付いたらしく焦って言った。

「大丈夫?僕が走って出たばっかりに………。」

うつ向いてボソッと言った。
――そうか、出てきたのは橋本だったんだ。僕はやっと理解出来た。

「大丈夫だよ。たいしたことないから。」

「なら良かっ…」
「あぁぁぁ。ヤバい。」

その時、あることに僕は気が付いた。

「どうしたの?いきなり。」

「小島さんを公園に待たせてるんだ。今何時?」

「今10時43分だけど………。」

「あぁ、最悪だぁ。急いで電話しよう。」

僕は携帯から小島さんに連絡した。
電話をかけようとした瞬間、ガラガラバタンと勢い良くドアが開いた。

びっくりした僕は目をやった。
そこにいたのは、江藤だった。

「何だよ、意識有んじゃん!橋本が意識不明の状態だって言ったからぶっとばして来たのに……。」

「ごめん、ごめん。それにしても卓は焦りすぎだよ!」

「普通親友が病院だって聞いたら焦るだろ!」

段々討論が激しくなってきてうるさくなってきた。

「んん~。御二人さん、ここは病院だよ。静かにしてよ。江藤、わざわざ来てくれてありがとうな。」

僕は咳払いして、二人に言った。

「良いってことよ。こんなに優しい友達を持ててお前もしあわ……。」
「あぁ~。」

突然、僕が話を切ってしまったので、江藤はブツブツ文句を言っていた。

「だから小島さんに連絡しなきゃダメなんだって。江藤がきたからし損ねたじゃん。」

そうして急いで電話しようとした。

すると、また邪魔をするようにドアが勢い良く開いた。
僕はまたびっくりしてしまったがイライラしていた。
2度も阻止された結果は悲惨だった。
そして、ドアのところに立っていたのは、なんと小島さんだった。
ものすごく息が切れてる。
僕はパニクった。

「え……、まだ連絡してないよ?」

小島さんは、息が切れて、膝に手を当ててるだけ。
なにも言わない。
その時、江藤が口を開いた。

「おう、小島じゃん。やっとついたか。公園さ、俺んちより近くない?」

そう言って陽気に振る舞っていた。

「連絡したなら、早く言えよ。」

そうして、江藤に突っ込んで僕は小島さんに言った。

「ごめんね、小島さん。公園で待たせちゃって。」

僕は謝った。
すると小島さんはこっちにきた。
顔はいかにも怒ってる。
やばい……。
そう思い、なんらかの覚悟を決めていた。

「びっくりしたじゃない。敦君まで死んじゃうんじゃないかって……。」

そう言って、泣いていた。
不安なのは僕だけじゃないんだ。
そう再認識した。

「泣くなよ。男だろ?」

「男じゃないわよ。」

そう言って涙を拭いながら、江藤を叩いた。
部屋の前を通ったナースの人が入って来た。

「病院ですので、静かにお願いします。」

注意されてしまった。

「みろ、注意された。さっき言っただろ?」

僕の声を聞いてナースはびっくりしていた。

「桐島さん、なんとも無いですか?」

ナースはとても驚いている。

「はい、なんともないです。」

僕は笑って言った。

「念のために先生と相談して脳に異常がないか見てみましょう。」

そう言ってナースは行ってしまった。

そのあと、言われた通りにいろいろ検査されて、異常なしということで帰って良いことになった。
皆は先生の所に行って帰ったらしい。
あれだけ心配してくれる友達がいるって良いなぁ。ずっとこの友情がもって、大人になっても続くと良いなぁ。なんて思いながら、僕はとりあえず家に帰った。
その後の休みは特にすることなく、家でのんびり過ごした。

第四章 呪神

その後の休みは何事もなく過ぎていった。僕達はペアを作り、一日に何回か連絡を取り合い、無事なことを確認しあったりとこれ以上の死者、怪我人が出ないように心がけた。

そして今日からまた学校が始まる………。

朝、7時45分。
僕は学校に着いた。
教室に入ると、すでに7人来ていた。
僕が来た後も2人来たが、それ以降、誰も来なかった。

「残っているのはこれだけか………。」

ムードメーカー中島もやはりテンションは上がらないようだ。
教室に居るのは10人。

「あと田島がいるだろ。ここにいないけど……。」

そういうと皆が一気に下を向いた。

「ん?どうしたの、みんな……。」

僕と江藤は顔を見合わせた。

「二人とも、知らないの?」

口を開いた藤本さんを見て、みんな顔を上げた。

「田島は……刑務所の中で死んだんだ……。」

僕達は仰天した。
休み中は早瀬さんと冨倉さんのことしか起こってないと思ったのに……。
教室を見渡すがやはり冨倉さんはいない。

「なぁ、冨倉さんから連絡有った人とか…………いる?」

一応皆に確認を取ったが、皆首を横に振る。

ガラガラ……

輪島先生が入って来る。

「皆おはよう。久しぶりだなぁ。」

結構無理して明るく振る舞っていた。
そして、輪島先生は表情強ばらせて口を開いた。

「一つ、悲しいお知らせがある。もしかしたら全員知ってるかもしれないが、田島が自殺した。牢獄の中で頭を何回もぶつけて発狂しながら……。」

そして、少しの間が出来た。
段々、輪島先生の強ばった顔が崩れて、一筋の涙が頬をつたった。
輪島先生の涙にはびっくりしてどうして良いのか分からなかった。
また輪島先生が口を開いた。

「もう…誰も……死なないでくれ。頼むから……。」

そう言って、また黙ってしまった。弱った。
普段は涙を見せない輪島先生が泣いているのは、どうすればいいのかわからなかった。
その時にムードメーカー中島が口をひらいた。

「大丈夫だよ、先生!俺ら不死身だから。」

そう言って中島は笑っていた。でもどこかぎこちなくて、やはり、不安なんだと感じた。

「ほら、先生。大人がそんなことじゃぁ、僕たち生徒まで不安になってしまいますよ。」


江藤のナイスフォローで先生が立ち直った。

「ごめん、みんな。俺がしっかりしなきゃな。よし、今から出席を取るぞ。」

そうして出席をとっていった。

教室に居る10人。

阿倍 朋美(あべ ともみ)

江藤 卓(えとう すぐる)

嘉山 由梨(かやま ゆり)

岸部 仁(きしべ じん)

桐島 敦(きりしま あつし)

小島 聡美(こじま さとみ)

中島 優樹(なかじま ゆうき)

西田 宏介(にしだ こうすけ)

早瀬 恵末(はやせ えみ)

橋本 聖(はしもと こうき)

欠席者1人
冨倉 真弥子(とみくら まみこ)


入院中の担任
中野 孝志(なかの たかし)

副担任
輪島 雅幸(わじま まさゆき)

これが今の2-Bである。

その後から授業に入った。
1限は英語だったのでそのまま輪島先生が始めた。
そのまま何事もなく、昼休みまで時は流れた。
そう。





この昼休みこそ悪夢再来の幕開けとなることをこの10人は知る由もなかった。
昼休みに入って誰か分からないけれども、大人の男性が教室に入って来た。

「由梨、由梨。」

そうして嘉山さんの前まで来て、立ち止まった。
少し息が切れている。
この人は何者なのか?
最初は不審者かと思ったが、嘉山さんの名前を呼んでいるから嘉山さんの知人なのだろうか?
嘉山さんは未だ一言も発さず、見つめあっている。
そして、口を開いた。

「なんだ、帰って来たの。」
「なんだ、じゃあないだろ。なんで学校に来てるんだ?」
「なんでって学生だからでしょ。」

二人の言い争いはいっそう増していく。

「学校がこんな状態なのに学校に来るなんてどうかしている。今すぐ家に帰るぞ。」

この男性は、嘉山さんの父親だったんだ。

「いやよ。ほとんど帰ってこないくせに、帰って来たら早々に学校に行くな、なんて………。」

父親は黙っていた。更に嘉山さんは続けた。

「どうかしてるのはあんただよ。私一人にしていっつも夜遅く帰ってきて……。」
言った瞬間、

パシン

嘉山さんの頬を父親の左手が叩いた。
頬を押さえて睨み付ける嘉山さん。

「仕事、仕事って……。たまには私のことも考えてよ。」

父親はなにも言えなくて、当然周りの僕らが口出しできないので教室にはセミの鳴き声が響く。
ちょっとしてから口を開く父親。

「か、帰るぞ。」

そうして嘉山さんは父親に手を引っ張られて教室から出ていった。
教室の9人はただ呆然と立ちすくんで昼休み終了のチャイムがなる1、2分間ずっとそのままだった。
そうして昼からの授業を9人で受けて放課後になった。
僕は江藤と中島と一緒に帰る事にした。
校門まで行くと、

「待って~。」

という声が聞こえた。
振り返ると声の主は小島さんだった。

「私も一緒に帰って良いかなぁ?」


そう言われて、江藤と二人で顔を見合わせていると、中島が速効、答える。

「いいよ。多い方が安全だし、それにレディーを1人で帰らせるなんてジェントルマンじゃないぜ、なぁ。」

そう言って、中島は僕たちのほうを向いて笑った。

「うん、構わないよ。帰ろっか。」

「うん。」

なんとなく小島さんは嬉しそうだった。
校門を出て、皆で話した。

「なぁ、なんでこんなことになっちまったんだろう?」

切り出したのは僕だった。
皆はどう思っているのか、妙に知りたくなったのだ。
中島が最初に口を開いた。

「なにかによって起こった『呪い』なんじゃないかな。今までのことは全部偶然なんかじゃない。僕はそう思う。」

中島が深刻な顔で真剣に言った。

「実は俺もそう思う。呪神様とか山谷の鳥居ってのも気になるし……。」

そう言って江藤も同意した。
やっぱり皆この事について考えてるんだなぁって感じた。

「こんなの早く終わって欲しいよ……。」

小島さんの不安そうな声に僕は、この原因を調べようと心に決めた。
その時だった。
中島が立ち止まり、道路の方を無言のまま見つめている。
その先には赤信号で誰も渡っていない横断歩道があり、向こう側には赤信号で止まっている人が10人ほどいた。

「どうした、中島。知り合いか?それとも可愛い子でも見つけたか?」

中島は、江藤の問いかけにも答えずにただひたすら一点を見ていた。

「……。」

中島は何かを口ずさんだようだったが何も聞き取れなかった。
すると突然、中島は横断歩道を渡ろうと歩き出した。
しかも、けっこう早足だ。

プップーー!!!!

横からはトラックが突っ込んできている。

「中島君!!!」

小島さんの大きな声にふと我に帰ったのだろう。
立ち止まり、こっちを振り返る。
トラックのクラクションにそっちを向くが、足が動かないのだろう、その場で固まっている。
僕はに中島を見ていることしかできなかった。
道路にはもう一人の姿があった。
そして、中島が僕たちの方に飛んで来た。

一瞬にして世界は静寂に包まれ世界が止まって見えた。


「救急車だ。」

「人が跳ねられたぞ。」

「死んじゃったのかしら。」

周りからいろんな声が聞こえる。
道路にはグッタリとうつ伏せで寝っ転がっている一人の少年。
そうして足元には頭から血が流れ出てる中島。

「嘘よ………。」

道路にいたのは―――

「江藤!!!!」


頭は真っ白だった。
中島も目の前で倒れてるし………。
すると隣で

バタン

という音がした。
小島さんが気絶してしまったらしい………。
この場面で僕はどうすれば良いんだ?
そのままずっと立ち尽くしていた。
とりあえず小島さんを起こさなければ……。
僕は小島さんを抱き、

「小島さん、しっかり。」

何度か揺さぶってみた。
すると遠くから救急車のサイレンの音が聞こえる。
多分、近くにいた人が救急車を呼んでくれたんだろう。
そして、小島さんは目を覚ました。

「わたし………」

救急車の方を見ていた僕は小島さんの声に少しホッとした。

そして救急車が到着した。
直ぐに2人を救急車に乗せて近くの病院に運びこまれた。
中島は軽く頭を打ってしまっていたので、脳に異常がないかを調べた。
江藤は危険な状態らしく、直ぐに手術室に連れて行かれた。
江藤は両親を早いうちに亡くしていたので、おじいちゃん、おばちゃんと一緒に暮らしていた。
なので2人が病院に駆けつけた。
中島の家のお母さんも飛んで来た。
小島さんは中島の方に、僕は江藤の方にいた。
本当は小島さんと一緒にいないと、また小島さんが倒れるといけないと思っていたんだが、小島さんから言われた。

「大丈夫。あの時はちょっとクラッと来ただけだから……。心配してくれてありがとう。」

だから僕は中島を小島さんに任せて江藤の所に来たのだ。
手術室に着くとおじいちゃんとおばあちゃんは手を合わせ目をつぶっていた。
僕はおじいちゃん、おばちゃんの隣に座ったが、かける言葉がみつからなかった。
その時、僕の名前を呼ぶ声がした。

「桐島君??」

うつ向いていた僕は顔を上げた。
するとそこには彩音さんがいた。

「今日はどうしたの?」

そうして、僕の隣に座った。
僕は手術室を見て言った。

「今手術をしてるのは俺の親友の江藤なんです。学校で以前いじめられてた時、相談に乗ってくれた奴なんです。その時まで話したことなんかなかったのに、僕に話しかけてくれてしかも『俺はお前の味方だから、またなんかあったら言えよな。』なんて……。1年の時にそんな奴いなかったから僕、本当に嬉しかった。」

江藤のこと考えると涙が出てきた。
そんな僕を彩音さんは優しく受け止めてくれた。

「事故の時、僕、道路に飛び出した中島になんにもできなかった。江藤みたいに体はって助けることができなかった。」

僕はなんとも言えない悲しさが込み上げてきた。
その場に立って、手術室の方をむき、叫んだ。

「死ぬな~、江藤!!!!」

奥から看護師が走って来てうるさい僕をおさえた。

「病院ですので静かにお願いします。」

僕はふと我にかえった。

「すいません。」

僕は謝るとゆっくりと椅子に座り直した。

「中野孝志さんの妹さんですよね。」

そう言われた彩音さんは、その場に立って

「そうですが………。」

そう答えて、息をのんだ。

「孝志さんの意識が戻りました。」

僕もそれを聞いて立ち上がった。

「中野先生が……。」

彩音さんは喜んでいた。

「お兄ちゃん。」

そうして一目散に走って行ってしまった。
おじいちゃん、おばあちゃんも顔を上げてこっちを見ながら、

「大丈夫じゃ。卓のことはいいから行っておいで。手術は当分かかるから。」

そう言ってくれた。

「でも…」

そう言われてもやはり江藤のことはしんぱいだった。
その時、さっきの江藤の言葉が背中を押してくれた。

「呪神様とか山谷の鳥居とかが気になるんだよね……。」

そうだ。山谷の鳥居は中野先生が言った事じゃないか。

「すいません。」

そう考えた僕は一礼をして、駆け出した。
中島と小島さんにも教えなきゃと思い、先にそっちに寄った。

「桐島君。」

小島さんは中島と一緒に椅子に座っていた。

「中島、どうなんだ?」

うつ向いている中島に問いかけた。

「まだちょっとだけ痛むけど、脳に異常はないらしいから大丈夫。」

そして、続けて言う。

「それより江藤はどうなんだよ。俺を守ってくれて犠牲になったんだろ。あいつじゃなくて俺が死ななきゃ意味ねぇんだよ。」

そう言ってまたうつ向いてしまった。

「わたし、中島君から聞いたの。あの時何があったのか。」

中島のかわりに小島さんが代弁してくれた。

「あの時、中島君は道路の真ん中に自分と同じくらいの男の子を見たんだって。」

さらに続けた。

「その男の子は何か口ずさんだらしいんだけど聞こえなかったらしいの。それで、ぼっと聞いていると手招きを始めたらしいわ。中島君はそれに誘われて近づいてみた。回りの声なんか聞こえなくて、その男の子が言っている言葉だけに耳を傾けてみたらしいの。そしたら、はっきりと聞こえたみたい。」

「な、何て………?」

恐る恐る聞いてみた。

「『許さない、絶対に………。』だって。」

中島は小島さんが言っただけで身震いしている。
よっぽど怖かったのだろう。

「でも、その男の子に見覚えがないらしいの。全く知らない人から許さないって………。」

謎解きのようなかんじで小島さんが険しい顔をした。

「やっぱり裏に何かあるよ。」

クラスメイトの死の直接の原因が分かるかもしれない、そう考えた。
その時、黙っていた中島が口を開いた。

「あれが呪神様なんだ。俺を間違いなく殺そうとした、あれが………。」

だとしたら呪神様に絶対に許さない程、恨まれるようなことを僕たちはやってしまったんだ。
それはなんなんだ?
そもそも、呪神様はなぜ僕たちのクラスだけをねらうのか?
今まで死んでしまった人の共通点は2-Bであることだけだ。
2-Bはこのままだと皆殺されてしまう。
どうすれば………。

「そ、そういえば江藤君は大丈夫なの?」

考え込んでた僕はふと我に戻った。

「まだ分からない。今は手術室の中だ。」

江藤のことを思い出すと心配になってきた。

「そういえば中野先生が意識取り戻したらしいんだ。2人は行って来てくれ。中野先生ならなにか分かるかもしれない。僕は江藤が心配だから手術室に戻るよ。」

驚いた2人は少しの間の後、コクリと頷き行ってしまった。
江藤のところに行くと言っても何か出来るわけじゃない。でも手術室の外から応援してやりたかった。

手術室前に戻るとまだ赤く光る手術中の文字が僕の目にはやけに眩しく見えた。
おじいちゃんとおばあちゃんの姿が無かったので、ちょっと動揺した。

「帰ったのかな?」

しばらく1人で椅子に座っていた。
時計の針はPM8:20をさしていた。
もうすっかり暗くなっている。
一人だと暇だった。
だんだんうとうとなってきて、目を閉じた。


目を開けてみた。
ここはどこだろう。
回りは真っ暗だ。
なにも分からない。
暗闇が広がっている。
でも、後ろには一点の光があった。
人が一人いる。
顔は見えない。
誰だろう?
あれ?
僕、声が出ない。
なんで?

「大丈夫。」

何か声が聞こえる。

「君と守ってくれる友達は助かるよ。」

ん??
この声の言っている意味が分からない。
助かる??
君と守ってくれる友達?
もしかして、この声は呪神様??
くそ、聞きたいけど声が………。
その時、また声がした。

「なにか聞きたいの??」

僕はびっくりした。
まるで心が読まれたみたいだ。
その時同時に声が出せる気がした。
すかさず僕は聞いてみた。

「あなたが呪神様なんだよね?なんで僕のクラスメイトを殺すの??」

声は答えない。
しばらく沈黙が続いた。
暗闇が一層静けさを増させた。
静かな暗闇の中。
突然辺りを輝く光が包み、男の子が見えた。
声の正体はこの子だ。
僕と同じくらいの優しそうな子だ。

「僕と君は似てるんだよ。」

優しい声だ。

「それってどういう…」

「山谷岬においで。」


そう言ってニコッと笑い、光と共に消えた。

「ま、待って。まだ話が…」

僕の声は届かなかった。
そうして、僕は真っ暗な暗闇に一人取り残された。
暗闇の中を一人さまよう。
するとまた声が聞こえた。
今度はさっきと違う気が………。

第五章 真実

「………まくん。桐島君。」

聞き覚えある声だった。

「桐島君、起きて。」

目を開けた。
目の前には小島さんと中島がいた。

「夢だったのか………。」

「桐島、中野先生に聞いたんだ。呪神様のこと。そしたらいろいろ分かったんだ。」

なにか焦るような、早く伝えたい感じだった。

「で、何が分かったの?」

夢で聞けなかったことが分かるかもしれない。
僕はそう思った。

「今から20年前、ある男の子が殺害された。それはある高校の2-Bのクラスの男の子。そのクラスではその子がずっといじめられてた。」

そこまで言うと、待ってましたのごとく、小島さんが話出した。

「その子がいじめられているのを周りは知ってたけど、何もしなかった。その子はずっとクラス全体を恨んでいた。そんなときに、その男の子はイジメの主犯から呼び出されてある場所に行った。だけど、主犯の子のただならない様子から走って逃げた。そして、無情にも行き止まりに着いてしまう。その場所こそ山谷岬。先生が言っていた山谷の鳥居がある場所。」

段々と分かってくる真実をただひたすら真剣に聞くしかなかった。

「そして、その子はその岬で………。」

その先は分かっている。

「殺されたわけ………。」

「そう。」

まるで凍ったかのように止まった空気は、病院の静けさを物語っていた。

「その子の家から一つの詩が見つかったらしいんだ。中野先生はそれを新聞で見たときの事を教えてくれたよ。」

沈黙を破り中島が喋ってくれた。

「いったい、どんな詩だったんだ?」
中島が僕の方へなにか二つ折りの紙切れを差し出した。

「何これ?」


中島は何も言わずに紙切れを開いた。

それは

『高校生殺害
 原因はいじめの延長?』

と書かれた新聞紙だった。
真ん中の方には写真がある。
『これはたしかに夢に出てきた男の子だ。やっぱりあの子は………。』

「それは当時の新聞記事。中野先生が持ってたの。その記事の下の方………。」

そう言われて記事の細かい文字を見つめた。

【昨日正午、山谷岬で高野清貴(16)男子高校生の遺体が発見された。遺体は近くにある鳥居に向かって手を伸ばし、うつ伏せの状態だった。死因はナイフや包丁などの鋭利な刃物による他殺。数ヵ所を刺されていた。
被害者と同じクラスにいた宮沢優(17)に話を聞いたところ、クラスでいじめがあったことが判明………。
「イジメは高校に入ってしばらく経ったときから最初はイタズラ程度から始まり、エスカレートした。最終的には目を覆いたくなるような酷いものだった。」と供述している。
被害者の部屋を捜索中、一枚の原稿用紙が出てきた。その用紙には次の詩が書かれていた。

『感情 2年 高野清貴

感情なんか無くて良い
つまらないことに
一喜一憂し
自分の都合が悪いと
人を恨む

感情のない
ただの虫のように
生きて行けたら
なんて幸せだろう

だって
嫌な彼奴を
嫌なクラスを
恨まなくて済むから』


この詩は、極めて短い詩だが、現状に対する嫌気が見られる。イジメをしている張本人や、それを止めてくれない周りのクラスメイトに対する激しい恨みなどが見られた。加害者はイジメの主犯格である井伊宗希(17)と見て、捜査を続けている】

僕はこの詩に少しの共感が持てた。
確かにいじめられているほうはこう感じるのだ。
周りにいるのは味方ではない。
でも敵でもない。
観客なのだ。
僕から見て

いじめられる側は“自分”
いじめる側は“敵”
周りのクラスメイトは“観客”

敵に対して感じる憎い気持ちは、時々観客にも向けられる。
イジメられてる側はいつも思う「助けて」という一言が口には出せず、心の中だけで叫び続ける。
高野清貴君の気持ちが分かる。

自分に似てる。

新聞を読み終えて、ずっと考えていた。
そして、ようやくある一つの決意へ変わった。

「中島、小島さん。僕、山谷岬に行ってくるよ。何か分かるかもしれない。」

小島さんは驚いていなかった。前から知っていたかのようだ。
でも、中島はびっくりしていた。

「な、なんで行くんだよ?仮に皆命を狙われてるんだぜ?動かないのが無難だぜ?」

中島は僕を説得してきた。
でも、僕の気持ちは変わらない。

「大丈夫だよ。僕山谷岬に呼ばれたんだ。」

中島はテンパっていた。

「誰にだよ。」

僕は新聞にある写真を指さした。
中島はゆっくりと目をおろし、写真の高野清貴を見て発狂した。

「そうだよ、こいつなんだよ。全てが……。交差点で呼んでたのもこいつだった。お前が今度は呼ばれたんだよ。行ったら殺されるんだ。」
すると突然、

「私は……」

小島さんが中島の言葉を遮り、更に続けた。

「私は、桐島君と一緒に山谷岬に行く。」

それを聞いて中島は頭がいかれてしまった。

「俺は行かないぞ。お前ら2人で行ってこいよ。そして殺されれば良いんだ。元々、桐島がいじめられてるからこんなことになったんだ。こいつに変な同情とかされるからだ。お前のせいだよ!!」

「ちょっと中島君。」

中島はもういつもの感じじゃない。

「だってそうだろ。桐島がいじめなんか受けてなかったら皆殺されずにすんだんだ。畜生……。」

もう泣きじゃくって手がつけられない。

「それは違う。」

後ろを振り向くと中野先生がいた。
隣には彩音さんもいた。

「中島。お前は勘違いしてる。桐島が悪いんじゃない、イジメを許していた2-B全員が悪いんだ。イジメをしていた山辺達も悪いし、それを見逃していた周りの皆も悪い。」

「そして、気づいてやれなかった俺も悪い。すまん、桐島。」

中野さんが深々と頭を下げた。

「いや、先生謝んないで下さい。中島が言うことも少しは合ってるんです。嫌なことは嫌だと言えなかった自分もいけないんです。確かに僕は山辺達やイジメを止めてくれないクラスメイトを恨みました。清貴君と同じです。」

ふと、横を見るとさっきまで発狂していた中島が落ち着きを取り戻して床を見ていた。
僕は思っていること全てを出しきることにした。
僕は手術室の方を向き、言った。

「でも、清貴君と違う点もあります。それは僕はどんなに辛くても人は傷つけないことです。結局は恨みが憎しみを生み、憎しみがまた恨みを作るからです。それに、もう一つ大きく違う点が、江藤や小島さんみたいにいつも僕の味方で居てくれた人がいることです。どんなに支えになったことか……。」

小島さんを見ると顔を赤らめて下をむいていた。

「そうか。味方になってくれた人がいたか……。」

そう言って中野先生は何度も何度も頷いていた。

「ごめん。ちょっと気が動転してたんだ。許してくれ。」

今までずっと下を向いてた中島がようやく口を開いた。
僕はなんだか照れ臭くなって下を向いて、小さく頷いた。
その時、手術室の扉が開いた。
キャスター付のベッドの上に江藤がいろんな管等を付けて出てきた。
医者が出てきて状況を説明してくれた。

「かなり危険な状態です。出来る限りの処置はしました。後は本人の生きるという強い意識です。」

連れて行かれる江藤を目で追った後、僕はさっきの決意を中野先生に話すことにした。

「先生、僕明日山谷岬に行って来ます。清貴君に呼ばれたんです。」
中野さんはびっくりした表情でこっちを見ている。

「夢を見たんです。一人の少年が『山谷岬においで』って言ってきた夢を……。その少年の顔は少ししか見えなかったけど、間違いなくこの清貴君でした。」

「大丈夫なの?」

彩音さんは心配そうな目で僕に訴えている。

「大丈夫です。その時の彼の顔は優しさを解き放ったかのように穏やかでした。なので大丈夫です。死にゃしません。」

そう言ってニコッと笑顔を見せた。

「中島、江藤を頼むよ。」

かなり心配だったので一度病室を訪れた。
そこには江藤のおじいちゃん、おばあちゃんもいた。

『帰ったんじゃなかったんだ。』

2人とも祈るようにベッドにくっついている。
たった1人の孫が現在生死を巡って戦っているのだから当然と言えばそうかもしれない。
そんな状態に背を向けて帰った。

「江藤、行ってくるよ。」

そう小言で言って、小島さんと一緒に病院を出た。
外に出ると電灯の光、星の輝き、月の光で照らされている道が続いていた。

2人歩いて帰る。

言葉は無く、ただ夜遅くの道の静けさが僕達をつつんでいる。
分かれ道まできた。
小島さんの家と僕の家を分ける道。

「じゃぁ私こっちだから……。また明日。」

小島さんは手を振り、背を向けて歩く。

「待って!」

咄嗟に出た言葉。
それに反応して振り向く小島さん。

「送って行くよ。」

そう言った。
小島さんは安心したような笑顔を見せた。
そして、また二人で歩き始めた。
目の前にみえる道には電灯がほとんどない。
それはまるでこれから僕達が歩み行く未来かのように行く手を暗く、そして物静かに僕達を誘っていた。
振り返ると進み行く道よりは明るくしかしどこか物寂しい暗さの道があった。
僕が過ごしてきた過去のように………。
僕は山辺達にいじめられていたつらかったあの日々を遠い過去のように懐かしんだ。
いろんなことがあったのも、全て彼等が生きていたから……。
これからは決して生身の彼等に会うことはない。
そう思うと今生きているクラスメイトへの気持ちが『怒り』から『少しの愛しさ』へと変わっていった。
どんなに憎い相手でも、どんなに嫌いな相手でも、その人が死んでしまえば少しグッと来るものがある。
例えどんな仕打ちをされていても………。
どんな人間でも死んで良い奴なんて誰一人いないんだ。
だからもし、清貴君が呪神を名乗り祟り殺しなどをしているならこの気持ちを伝えよう。
そしてもう二度と同じ過ちをしないように伝えなきゃ。
その為に僕は山谷岬に行くんだ。

「桐島君。」

小島さんは横で肩に手をかけ、揺さぶりながら僕を呼んでいた。

「うわぁ。ビックリした。え?な、なに小島さん?」

ふと我に帰った。
そこは既に小島さんの家を5メートルほど過ぎていた。

「もう、ビックリしたのはこっちだよ。私の家、着いたのに何にも応答してくれないんだもん。先にどんどん行っちゃうし………。」

小島さんは安心してホッと息を撫で下ろしていた。

「ごめん、ごめん。深く考えこんでて……。」
「もう、ちょっと怖かったんだから……。」

そしてそれから明日の打ち合わせをして、小島さんと家の前で別れた。
実を言うとその後のことはあまり覚えていない。
ふと気がつくとベッドの上に寝ていて、時計はAM2:00を指していた。
あれ?僕はいつの間に寝てたんだろう……。
そう考えつつも再び眠りに着いた。

第六章 終結

ピピピピピピ。
目覚ましの音で目が覚める。
時刻は7:30。
約束の時間まで1時間半ある。

まだ余裕だ。
日帰りだから荷物もほとんどない。
ここから山谷岬まではそんなにない。
電車、バスなど乗り換えなんかもしてざっと1時間くらいで着くだろう。
何もすることがない。
まぁいいや。
テレビでもみて時間を潰そう。
そう思いテレビをつけた。
毎朝やっているようなニュースばっかりだった。
とりあえずボォーーと見ていた。
すると、画面によく見慣れた景色が写し出された。

「これここら辺じゃん。」

そういって声を少し大きくした。

《昨夜この場所で女性の死体が発見されました。女性は胸部を鋭い刃物で数ヶ所刺されていた模様です。殺害された女性は小島聡美さん(17)。現場は自宅から100メートルほど離れたこの場所でした。》

ニュースを聞いた瞬間、鳥肌がたった。
小島さんが殺された??
あの時家に入っていったじゃないか。
あれからまた外に出たのか?
なんで??
もうパニックだった。
そしてまだニュースは続いた。

《目撃情報によると、犯人らしき小柄な男が現場から走って逃げたのを見たとのことです。その男は、この道を曲がってそのまま何処かへ消えてしまったとのことです。》

レポーターが道を辿り、曲がったところに来たとき、僕の家が写った。
………
小島さんが殺された。その事実はかなりショックだった。
立ち上がり、台所で水を飲もうとして行った瞬間、ある物に目がいって、体が急に動くのをやめてしまった。
そう、脳は動けと命じても、体が動かないのだ。
僕が台所で見たのは、真っ赤に染まり、固まってしまっていた一本の包丁だった。
お母さんがなにかやりっぱなしなのかな?
そう考えたがあり得なかった。
母は昨日から泊まりがけで社員旅行にいっている。
そもそもなぜあんなに真っ赤なのだろうか。それを考えた。
そして、ある一つの考えがうかんだ。
もしかしてあれって小島さん殺害に使われた凶器。
真っ赤なのは小島さんの血。
もしそうなら、小島さん殺したのは………
道を曲がって消えた。小柄な男。
当てはまる点はある。
いやいや、そんなはずはない。
大丈夫だ。
昨日、僕は小島さんを送っていって、そのまま……家に……。

あれ??
記憶がない。
あのあとなにやったんだ??
まさか僕が……。

ピンポーン。

家のインターホンがなった。
一回のインターホンでビクッとしてしまう自分がいる。
こんな朝早くから誰だ?
そう思いながらも、かき乱れた気持ちを一生懸命押さえて来客に対応しようと玄関に向かった。
誰かを確認するためにドアにある除き穴から見てみた。
そこで見えたのは2人の警官だった。
まさか警察は俺を怪しんでいる?
きっとそうだ。
よし、まずは落ち着け。
冷静にならなきゃ余計悪い方向にしか進まない。
心に言い聞かせ、ドアを開けた。

「すいません。遅くなりました。」

「どうも。桐島敦さんですよね。私たちこういう者です。」

そういって警察手帳を出した。
落ち着けよ、自分。

パニックを顔に出さないようにして必死だ。

「警察の方がなんでしょう。」

「昨夜、貴方と同じクラスの小島聡美さんが何者かに殺害されましてねぇ。すぐ近くで………。悲鳴とか聞こえませんでしたか?」

事実だったことにショックだった。

「事実だったんですね。小島さん………。」

警察は二人で見合って首をかしげた。

「あの、事実と言いますと?」

やばっ、つい出てしまった。なんか怪しまれてる……。

「そうか、さっき被害者の家の前に記者達がうろうろしていたなぁ。」

少し一安心だ。
小島さんを殺害したわけじゃない。記憶がないんだから別にビクビクしなくても……。
いや、記憶がないんだから無実を証明出来ない。

「昨日の23時から24時までの間、何をなさってましたか?」

よわったなぁ……。
その時間の記憶がありませんなんていったら確実にアウトだ。

「その時間は……、家で寝てました。」

警察に嘘をついてしまった。

「あぁっ、今さっきテレビでやってたもんで……。」

「そうですか。では、小島さんと連絡もとってないんですね。」

また質問か。

「いえ、とっていません。」

そこらへんは記憶がない。
俺は本当にあの時間何をしていたのだろうか…。

「おかしいですねぇ。小島さんの携帯には午後11時32分に最後の着信があってるんですよ。貴方からの……。こんな時間に不思議ですね。」

何だって?
俺が電話した??

「貴方がその電話で彼女を呼び出して殺害したのではないのですか?」

僕は何も言えなかった。

「署まで御同行お願いします。」

「嘘だ。なんで僕が小島さんを殺さなきゃいけないんですか。動機なんてありませんよ。」

家を背にして僕は二人の警官に連れられてパトカーの中に乗せられた。
そして、刑務所へ向かって走り出した。
何でこんなことになったんだろう。
なにか僕がしたのか?
何で皆死んじゃったんだろう。

清貴君……。
清貴君なのか?
平和ではなかったけど………、苦痛だったけど、大切な友がいて、大切な人がいたあのクラスを壊滅させたのは清貴君なのか??

パトカーに乗ってから5分くらい考えていた。
すると、気持ち悪くなってきた。
おかしいなぁ。
いつもは車酔いなんかしないのになぁ。

「すいません。気分が優れないので寝ていても構いませんか。」

横にいた警官に尋ねた。

「良いですよ。着いたら起こしますので。」

結構優しくしてくれた。
早速僕は目をつぶった。
すぐに寝ることができた。



ふと目を開いた。
辺りは真っ暗で何も見えない。
ここは何処だろう?
どこかで見たことがある。
そうか。
昨日の夢だ。
清貴君とあった場所だ。
僕が憎く思ったから出てきたんだな。
よし、ガツンと言ってまだ生きてる皆は殺さないように言わなきゃ。
どこだ?
探していると後方に光が見えた。
後ろか。
振り返ろうとした。
でも動けない。
金縛りだ。
夢の中でも金縛りってするんだ。
僕は動けないでいた。
後ろからカツン、カツンと靴の音がする。
近づいてくる。
声も出せない。
すると、音がピシャリと止まった。
最後になった音がしばらく響いた。
その響きが消えると声がした。

「君は僕とは違う。そう言ったよね。」

清貴君だ。
でも、昨日の声と違う。
声が低くなっている。
明らかに怒っている。そしてまた歩いて近づいてきた。
そして、また喋り続けた。

「じゃあどこが違う?君はいじめられてるよ?いじめてる奴等が憎かっただろ?僕だって同じだったよ。じゃあ何?……。君は答えたよね。仲間がいる。自分は人を傷つけないって。じゃあ今は?仲間、いないよ。仲間は自分で殺したんだ。敦君、君の手でね。君が仲間を傷つけたんだよ。」

清貴君の言葉に驚いた。そして、恐怖の存在に変わる……。
そんな恐怖の存在が、今、僕の後ろに立っている。
更に耳元で囁く。

「別れた後に僕は君に乗り移ってあの女の子を呼び出しに行ったさ。呼び出して、公園まで行って、ちょっと話して、その帰り道刺してやった。ぐったりして道に倒れたさ……。」

そういうと、なんだか肩に異物が置かれた。
嫌な予感がした。

「彼女も死んだ。江藤とかいうのも死んだ。中島って奴も死んだ。他の奴等も次々と……。先生には最後に死んでもらう。そして、僕が似ていると思っていた、裏切り者の君にはここで死んでもらう。僕は君を助けてあげようとしてたのにさ。残念だよ。俺がこの鎌を振り落とすと君は死んじゃうよ。」


清貴が一気に言った言葉はかなり構衝撃的だった。
江藤が死んだ?
皆も死んだ?
そして、僕はここで死ぬ?
嘘だ……。
横目で見た鎌の刃には清貴がかぶっている仮面が見える。
かなり不気味だ。
恐ろしくて声も出ない。

「とうとうお別れだね。残念だ。きっと君は僕と違うと否定したことを後悔するよ………。」

そういうと鎌が振り上げられた。

「死の世界で僕の目の触れないところでその仲間と仲良く暮らしな。バイバイ。」

言い終わると振り落とされる。
やばい、殺される。
殺される、殺される、殺される、殺される。



「桐島さん?」
………
目をあけた。
目の前には焦っている警察がいる。
夢だったか。
そりゃそうだ。
ってか目が覚めてよかった。
あのままショック死しててもおかしくなかった。

「大丈夫かい?さっきすごくうなされてたけど……。」

結構焦っている。
若い新人だからだろう…。
それにしても、清貴が夢の中で言っていたことは本当なのか?
まさか江藤まで……。
まさかな。
所詮夢だ…………所詮……………。
そう信じるしかないでしょ…………。
考えていると着いた。
手錠をかけられた僕はパトカーに乗るとき同様に2人の警官がわきに付いて、警察署の中に入る。
まだ気分が優れない。
時々、目眩がする。
これはダメだな。ヤバいぞ。
このまま死ぬのかな?
もうどうにでもなれば………。
もう投げ出しだ。
そんな馬鹿な事を考えていると取り調べ室に連れてこられていて、いつの間にか座らされていた。
普通に取り調べを受けた。

「単刀直入に聞きますが、小島聡美さんを殺したのは貴方ですか?」

よく刑事ドラマである取り調べみたいだ。

「それが昨日の夜のことをほとんどと言うより全く覚えてないんです。本当です、信じてください。小島さんには何の恨みもありません。逆に感謝してるんですよ。」

本当のことを言った。
嘘はついていない。

「と言いますと?」

聞いてきた。
嘘なんかつく必要はない。
事実を話せば良い。

「昨日は小島さんと病院から帰ってたんですけど………!!!!」

ふと顔を上げ、警察の人を見る。

後ろにはどこかで見覚えがある、小柄な……。

「うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……」

そう、それは間違いなく清貴だった。
それもパトカーの中でみた夢、鎌を持った死神のような格好。
驚きのあまり椅子から落ちてしまった。
いきなりの大声と椅子から落ちてしまった僕に驚いた警察が立ち上がった瞬間スゥーっと消えてしまった。

『殺される、清貴に、呪神様に殺される。』

ふと頭をよぎった。
嫌だ、死にたくない。
皆みたいに殺されたくない。
気分の悪さなどすっかり忘れてしまったが、かわりにどうしようもない恐怖が襲ってきた。

「大丈夫ですか?」

手をさしのべてくれたので、それにつかまり立ち上がり、椅子に座り直した。
両肘をつき、頭を抱える腕は震えが止まらず、死に対するどうしようもない恐怖がどうにも収まらない。
「………ださい。」

ふと口をついて出た。

「なんですか?」

「助けてください。」


大きな声を出し、警察の人の肩を持ち、前後に激しく振る。


「殺される……、殺される。嫌だ、死にたくない。刑事さん、助けてください。まだ死にたくないんです。」

もう精神が崩壊してしまっている。
頭の中は『恐怖』という2文字で埋めつくされ、正気には戻れない。

「わかりました、落ち着いてください。とりあえず、椅子に座って深呼吸をしてください。」

僕を宥めると、警察の2人で、なにやらコソコソと話始めた。

「あれは明らかにおかしいですね。」

「多分薬物だろう。何にしても、これ以上の取り調べは無理だ。その間部屋で待機させておけ。」

「わかりました。」

恐怖で警察の話し声が全く聞こえなかった。
僕は辺りを見渡し、清貴がいないことを確認した。
居ないみたいだ。
さっきからずっと見られてる気がしてならない。
キョロキョロしている僕に警察はこれからのことについて話した。
警察がコソコソ話していた通り、部屋へと連れて行かれた。

「ここで待機していてください。」

そう言って、警察は行ってしまい、1人になった。
そんなとき、病院でも事は進んでいた。


とある部屋。
ベッドの上に横たわる一人の少年、江藤卓。
一命は取り止めることは出来たが、未だ意識を取り戻していない。
周りにいろいろな機械を身にまとい、目は開かず………。
ベッド脇には一人の男、中野孝志。
静かに教え子を見守っていた。
最近彼も様子がおかしい…。
まるで今回の出来事の終止符がこの人だと言わんばかりに食欲は無くなり、睡眠もできず、ただただ寝ている江藤を見つめているだけ……。
一向に目を覚まさない江藤。
しかし、彼も戦っていた、夢の中で……。


辺りは真っ暗、周りは分からない。
ボォーッとする江藤。

「俺、死んだのかなぁ………。」

すると暗闇の中から他の声が聞こえた。

「死んでないぜ、まだ………。」

その言葉と同時目の前に光と人影が見えた。
大きな何かを持っていてマントみたいな服を着ているその人影はコツコツと足音をたてながら江藤に近づいてくる。

「自己紹介がまだだったねぇ、江藤くん。」

自分の名前を知りもしない相手から呼ばれ、びっくりする江藤。
目の前まで近づいてきたのは仮面をかぶり、鎌を持ち、マントをつけた、まるで漫画に出てくるような死神。
目の前で仮面をゆっくり外し、素顔を見せた。

「僕は清貴って言うんだ。何年も前にいじめの果てに殺されてしまった憐れな男だよ。」

下を向き、笑っていた清貴は顔を上げると微笑を浮かべながら更に続けた。

「そして、同じ境遇にある奴を見つけた。ソイツを救ってやろう、そう思った。」

江藤はふいに思った。
コイツは何故見ず知らずの俺の名前を知っていて、こんな格好をしていて、しかもこんな話をするのか。
そしてある1つの結論が頭をよぎった。

「なぁ、それって俺らのクラスの桐島………。」

そう口走った瞬間、いきなり目の前で清貴は大声で笑いだした。

「おやおや、察しが良いねぇ、江藤君。俺はたまたま見つけたんだよ、俺と同じような目にあっている敦君を………。救ってやろう、俺みたいな奴を二度と出すかって思ってね。」

次第に声が大きくなり、感情が入ってきた。

「だけど、あの男は俺の救いの手を断ってこう言ったのさ。『僕は君と違う』ってね。せっかく俺と同じ目にあわなくて済むようにしてあげたのにねぇ。」

だんだんと恐ろしくなる清貴の顔を見ていた江藤は鳥肌がたった。

「何処が俺たちの相違点かって聞いたら、江藤君、君たちみたいな味方になってくれる人がいることが違うらしいんだよ。だからさぁ、そんな人達がいなくなったらどうなのかなあって………。」

そうして鎌を振り上げる清貴をみて逃げなきゃと思うが逃げられない江藤。

「もうすぐで桐島もおんなじ場所に行くから。」

その言葉を聞いた瞬間、目の前が再び暗くなった。



ガラガラという音と共に彩音が現れた。

「江藤君はどうなの?」

「う~ん、相変わらず寝たまま…。」


彩音も心配しているみたいだ。
その時、中野さんの携帯が鳴った。

「もしもし………………!!!!!何ですって他の皆と輪島先生が………。え、えぇ……………はい、わかりました。江藤は今のところ落ち着いています。…はい、分かっています。失礼します。」

電話を切った孝志は気が動転していた。

「どうしたの?」

「学校に行ってた皆と輪島先生が突然入ってきた不審者に殺されたって………。」

そうやって話していたその時だった。

ピーーーーーーー。

病室に鳴り響く。
江藤の心肺が停止したのだった。

近くにいた孝志は突然の出来事に戸惑っていた。
隣にいた彩音が直ぐ様医者を呼び、医者も慌てて部屋に入るが既に遅しという状態だった。
自分のクラスの生徒が目の前で死んだ。
そして何もできなかった。
しかも、他のメンバーも守ってやれなかった。
またか……。
そんな気持ちが頭をよぎった孝志は意識を失ってその場に倒れた。
倒れた兄を妹が抱える。

「お兄ちゃん、お兄ちゃん………。」

返事はなかった………。
そんなことを知るわけがなく、一人座っている僕は何もすることがないし寝ようかな。と思い、目を閉じた。

静かな沈黙の空間。
目を閉じたから生じた静かな暗闇。
昨日、今日と続けて見ている夢を思い出し、反射的に目をあけた。
寝てなどいられない。
目をつぶると恐怖が襲ってくる。
頭を抱え込み、下を向いて座った。
静かな沈黙の空間は僕に恐怖を与えるだけ。
安らぎや安心を与えてくれはしない。
まさに地獄。
僕はいつまでこの地獄に耐えなきゃいけないんだ………。
ゾクッと寒気を感じた。

なんだ?

と思い、顔を上げた。
すると原因が分かった。
部屋の隅、小柄な人。
マスクをつけてて、鎌を持っている、夢と全く同じだ。
夢と同じで金縛りにあって動けない。
一歩、また一歩とこっちに近づいてくる。
高鳴る鼓動。
焦る気持ち。
それでも動かない体。
命を刈り取る鎌を持ち歩み寄ってくる死神。
嫌だ、まだ死にたくない。
誰か…助けて……。
僕の前でピタリと止まった死神は鎌を両手で持つと僕の肩のところに何時でも殺せるとばかりに持っていって止めた。
そして、死神は死の呪文のように呟いた。

「残念だよ。君は僕とにてるって思ったのにな。向こうでは仲良くしようね、同じ苛められっ子として。」

不気味な笑顔と共に鎌を僕に向かって振り落とす。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………………………………。」

一瞬、声が出せた。
が、それは叫び声にしかならなかった。
言葉にすることができなかった。
そして、一瞬にして目の前が暗くなった。

僕はこの時ほど山辺たちを恨んだことはなかった。
山谷が僕をいじめたりするから…………。
だが、それと同時にふと頭をよぎったのは清貴君の気持ちだった。
きっと彼もこの気持ちなんだと………。
この気持ちの延長線上が今も清貴君の中にあるのだ。
いじめのある世界だからこそ起こってしまう最悪のこと‘自殺’、イジメが進展してしまった末路‘殺害’。
今のこの国に必要なことはイジメのない平等の仲の良い人間関係作り、そして、相手を思いやる気持ち。
この国で、世界で、イジメが少しでも無くなること、それが僕の最後の望みです………。


僕の声を聞いて後から2人ほどの警察が走ってきた。

「おい、大丈夫か?」

鍵を開けて中に入り、倒れている僕のところに来て問いかける。
が、返事はない。
桐島敦は死亡した。解剖をした結果、ショック死だったことが分かった。
薬物を疑っていた警察の考えは外れ、薬物は検出されなかった。
また、桐島家より薬物を探していた警察チームは、台所より、血の付いた包丁を発見し、調べた結果、小島聡美の血液と一致したことから、桐島敦を小島聡美殺しの容疑として書類をまとめた。
敦の死体が片付けられたあとの静まり帰った場所にただずむ黒い影。

「なんで僕が、殺されなきゃいけなかったんだ?……仲間…か。僕にも一人いたさ。君みたいに………。だけど、やっぱり声をかけてくれるだけだった。……僕は助けて欲しかったのに………。この気持ち、君なら分かってくれると思ってたのに………。でも、また別のやつがいるはず。僕のこの気持ちをだれか……、わかってよ………。」

ボソッの呟いたのち、悲しそうなその姿は消えてしまった。

~数年後~

青い空。
流れゆく雲。
眩しい太陽の光。
気持ちいいそよ風。
そんな自然の中に立っている一人の女性、中野彩音。
全てが穏やかで、あの時が嘘のように感じていた。

数年前、兄の勤めていた学校で怪奇的な事件が起こった。それは《T高校連続死事件》として新聞に大きく取り上げられた。2-Bのクラスの1人が行方不明、その他自殺、殺害、事故などで死亡。そして担任だった兄は………その時の記憶を失っていた。

医者曰く、嫌な思い出等は本人が本能的に頭から消し去ってしまうらしい。いわゆる記憶喪失。しかし、全てを忘れているわけでなく、一部だけだった。
そんな兄も以前の明るさで教師として復帰して今はL高校に赴任して学校生活を楽しんでいるみたいだ。
2-2の教室の教卓には中野の姿があった。

「皆おはよう。土日はどうだったかぁ?お、中嶋、デレデレしてるな。さてはまた彼女とイチャイチャしてたのか。」

「してませんよ、先生。」

そんなやり取りでクラスは笑いの渦。
この高校に赴任して来て2ヶ月が経って生徒ともだいぶ打ち解けたんだ。

「今日はちょっと変則的な時間で行くからな。今から黒板に書いとくからそれで動いてくれ。」

そういって後ろを振り向きチョークを取ろうとした時、そこには異物が置かれていた。
いや、置かれていたというよりも、作られていたというのが正しい。
そこには小さな鳥居があった。
それを見た瞬間、恐怖を感じ、そこから動けなくなってしまった。

「先生どうしたの?」

生徒の言葉で我に返った。

「おう、悪い。ボォーッとしてしまった。」

そのあと時間を黒板に書き、教室を後にした。
そのあともあの時の恐怖がなんだったのかを考えていた。
何故だろうか?
ただのチョークだぞ?あれが怖いと思ってしまう自分は何を拒むんだ??
結局分からず仕舞いで、仕事も終わり、帰っていた。
L高校から1kmも無いくらいと、近いのでいつも歩いて帰る。
辺りは真っ暗で街灯もポツン、ポツンとしかない。
しばらく歩いていると後ろからコツコツと足音が聞こえる。
怖いという気持ちを押さえて後ろを振り向いた。
そこには一人の女の子がいた。
昔に見たことがあるような気がするのだが、思い出せなかった。

「あれ??もしかして私のこと忘れた??酷いなぁ、先生。」


昔の教え子か?
思い出せない………。

「あぁ………。度忘れしちゃったよ。俺も年だなぁ……。」

すると突然、目の前の少女は何かを言い出した。

「高浜、北松、矢部、赤城、田島、佐々木、日高、………」

呪文の様に聞こえるが、区切りながら言っているこの言葉が次第に全て名字だと悟る。
どんどん連ねる名字はなにか引っかかるのだが、分からない。

「松木、今藤、宮野、野々村、品川、八神、小島、早瀬、中島、江藤、桐島。」

最後の方になるにつれて、ゆっくりになる。それが止まると、最後が引っかかった。
桐島……!!!!
その名前を聞いた途端、走馬灯のように忘れていた記憶が呼び起こされる。

「私、冨倉真弥子だよ。」

待て、冨倉は行方不明になったと聞いていたんだぞ??

「本当に冨倉か?」
「体はね。」

「体は??」

「中は高野清貴だよ。ハハハハハハハハハ。」

数年前の教え子だ。

「そろそろケリを着けようと思ってね。」

そういうと懐から包丁を取り出した。
殺される。
そう頭をよぎった瞬間、体は反射的に反対方向に向かって走っていた。
嫌だ、死にたくない。
一生懸命走り続ける。
次第に雨が降りだす。
後ろから聞こえる笑い声と足音。
ふと建物と建物の間に入った。
行き着いたその先はフェンスがあって行き止まりだった。
後ろから来た清貴を見た瞬間、絶望感が頭をよぎった。

ゴロゴロ。

遂に雷が鳴りだし、雨も激しくなる。
息切れの酷い2人の息をする音は、豪雨の音に掻き消される。

「ちょうど20年前もこんな雨の日だった。雷が鳴って………。その時は命ごいをしたよ。死を直前に怖くなった。でも殺られた。『これもお前の運命なんだ』ってな。何で俺が殺されなきゃいけなかったんだよ……。なんで、新任の頃のあんたは俺を助けてくれなかったんだよ。しかも、記憶から消し去って、他人事のように……。しかもアンタのクラスには俺とおんなじような境遇の奴がまた出た。あんたはまた…………。」

ゴロゴロゴロゴロ。

その言葉を遮り、雷が鳴り響いた。


次の日の朝、あの建物の間の前には人だかりが出来ていて、パトカー1台があった。
そこには1人の女の子が横たわっている。
冨倉だった。
そして、その場には包丁が落ちていた。
誰もが死んでいるのではないかとざわめいていた。
しかし、冨倉は死んではいなかった。
気を失っているだけだった。
そのあと、警察に連れられて交番へ行った。
数年前からずっと行方不明だった上に、T校2-Bの最後の生き残りである冨倉は警察にいろいろ聞かれた。

「貴女は今までどこで、何をしていたのですか?」

そう聞かれると机をバンと叩き立ち上がり、

「私、今までのことは覚えてないんです。あの日、部屋で寝ていて……。起きたら外にいて、周りは人だらけ。びっくりしたのはこっちなんです。」

そういって、また椅子に座り直して、しゃべるのを続けた。

「私、教師になるのが夢なんです。寝てる間に夢を見ました。私の前に私と同い年くらいの知らない男の子が立っていて、『君将来何になりたいの?』って聞いてきたんです。」

「『教師になりたいんだ。』って答えました。そしたら『なんで?』って。私は『同じクラスでいじめられっ子がいるんだ。その子見てると可哀想で、でも‘いじめは悪いからやめよう’って言えなかった。それでずるずるいっちゃって結局言えないまま………。それで思ったんだ。先生の立場なら苛めはダメなんだって言えるって。それが理由なんだ。』って言ったらその男の子ニコッて笑って『いい先生になってね。』って言ってくれたんです。そこで夢は終わっちゃいました。」

そこまで一気に話すとふと我に返ったのか

「………ってなに話してるんですかね、すいません。」

と一言言った。
その後、中野孝志は行方不明らしい。
中野彩音は捜索願いを出していたが、未だ発見されていない。
風の噂では、古ぼけた屋敷に入るのを見たとか……。

結局いじめのあったクラスの多くは、辛く、悲しい想いをしている。
苛められてる人、苛める人、それを見る周りの人達、全ての人にそれぞれ想うことがある。その事を考えて、他人への思いやりを持つこと。それを現在、冨倉は子供達に教えているという。

昔のクラスメイト達を想いながら…………。

      (完)

呪神

読んで頂きありがとうございます。
これは、僕の気持ちを込めて書いた作品なので、最後まで読んで頂いた方々には本当に感謝致します。
僕は、いじめとか、悪口とかそういう類い全てが、人間の悪点だと考えます。
結局は、他人の事を思いやることが出来てないからなのです。
そうは言ってもやはり、人間には善し悪し問わず、感情というものがあります。
人の好き嫌いが有る人が多いはず……。
実際、僕にも人の好き嫌いは有ります。
このような作品を書いても、やはり、嫌いな人、苦手な人は多少います。
でも、そこで悪口を言っても仕方ありません。僕はそう思っています。
イジメが、良いことか悪いことくらい分かるはず。
悪口を全てなくせ、とまでは言えませんが、少しでもそういうのがなくなるといいなと思います。

読んで下さった皆さんが、イジメについてよく考え直してくれるといいなと思います。
もし、この作品でイジメについて考え直してくれたら、僕にとってこの作品は成功作だと思います。

この世から少しでも無意味なイジメが無くなり、多くの人達が思いやり精神を持って頂ける事を願い、終わりとさせていただきます。



~ε=☆爆走~

呪神

呪神(じゅしん) ある学校のあるクラスで起きた事件。 いじめられっ子の主人公の周りでクラスメイトが次々とおこる惨劇。 その原因とは?そしてその結末は…? 偶然では説明できない怪奇な日々を、貴方は目の当たりにする。 たくさんの人に見て考えてもらいたいから、無い文章力で書いたんです。 主な登場人物 桐島敦(きりしまあつし) ┗主人公。 江藤卓(えとうすぐる) ┗主人公の親友。 小島聡美(こじまさとみ) ┗正義感ある頼もしい女子。 早瀬恵末(はやせえみ) ┗小島と親友。 冨倉真弥子(とみくらまみこ) ┗将来の夢は学校の先生。 中野孝志(なかのたかし) ┗2年B組の担任教師。

  • 小説
  • 中編
  • サスペンス
  • ミステリー
  • ホラー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-25

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. プロローグ
  2. 第一章 始まり
  3. 第二章 悪夢
  4. 第三章 残された者達
  5. 第四章 呪神
  6. 第五章 真実
  7. 第六章 終結
  8. 8