貝の海

あの打ち寄せる浜辺を想う

それはいつかの記憶

知らない海

砂の中に裸足で立てば

波が来る度

足元がすくわれていくような

かかとのあたり

くすぐったい

それ以上海に入るのは怖いので

ただ、波打ち際にいる

よく見ると 濡れた砂のあたりに

何か光るものが

星が落ちている

手のひらに乗るほどの

真珠貝のような質感の星

ミルク色に静かに光る

波が来るたびに

少しずつ増えている

いつしか

砂浜は白く発光している

宇宙から見たら

この浜辺は光って見えるだろうか

ここにいる

信号を宇宙へ放つ

なぜか懐かしい気持ちで

涙がこぼれた

それは小さな星粒になり

星の浜辺に落ちた

混ざったらどれだかわからないほど

あたりは輝きはじめた

呼吸をする

光の粒が少し肺に入って

私はまた世界を愛してみようと思う

君が守ってくれた灯火だ

これが道を照らしてくれる

自分を愛する、うまくできないけど

やってみるよもう一度

自分と

私を信じる幼い目のために

雨の海

初めて君のそばを離れて
見えた

いろいろなこと

私が君にしてきたこと

変わらず思うこと

また泣きながら笑う君を見た

前にも同じことした


君の痛みを感じたかった
君を知りたかった

それが思い上がりで
君を傷つけることだと
わかっていて依存した

あのヤドリギみたいに
少し離れて
互いを感じていればよかったけど
近くに感じたくて
触れたくて



君の魅力はたくさんあって
君がそばにいてくれるだけで
声を聞くだけで安心して

世間体や罪悪感が私を覆いつくして
私は真っ黒になって
君を困らせ続けて


何度も助けてきてくれたきみに

ごめんなさいとありがとうを
言いたい

私らしいとかありのままの自分が
私にはわからなくて

けど
何にも考えないでその瞬間を
生きることができたら
それが私らしいってことなのかと
思いはじめている

君が伝え続けてくれたこと


私は君と季節を過ごして
その短い時間の中でしか知らないけど
君という人間が好きだ

見えない傷をたくさん負いながらも優しい人間でいようとする姿が
強い人だな、と変わらず思う

信頼して欲しいとはもう言えないけど、

手を温める必要がある時は温めたい
それを伝えたかった

音の海

はじめはひたひたと

砂を濡らすように

少しずつ歩をすすめてゆく

柔らかい波がひざを撫でる

胸まで浸かるあたりには

鼓動が呼び覚ましている

生きている音を

音の波は私を全身つつむ

からだは揺れて

また少しずつ波打ち際へ

幸福な旅路

音の海に感謝

七夕の海

宇宙のオルゴール

星巡り

たった一度の逢瀬なら

一秒を一時間に

どうかのばしてあげてほしい

糸と糸を織り上げ

車輪を廻して

そのひとときに星が降る

いつかの海

いつか

いつかの遠い朝

幼いわたしは海にいた

早朝の海の匂い

はだしの足が砂を感じる

波の音

あの波の音

空の海

澄んだ青 指でつなぐ 雲と雲
あかるい昼にも 星座が見えて

安息の海

ロウソクの
灯りはゆれる
音もなく
君といるよな
静けさの中

ガラスの海

見えぬ海 まぶたをとじて 感じたら
こぼしたグラスに 夏が始まり

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-04

Copyrighted
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  1. 貝の海
  2. 雨の海
  3. 音の海
  4. 七夕の海
  5. いつかの海
  6. 空の海
  7. 安息の海
  8. ガラスの海