三題噺「記憶」「七色」「目的」

 ヨウコは美しい女性だった。一目で恋に落ちた。
 彼女のために何でもやった。彼女が微笑むだけで幸せだった。
 ヨウコのロッジで過ごした日々は虹色に輝いていた。
 けれど、私は彼女を裏切ってしまった。
 七色に輝く世界から私は逃げ出したのだ。
 そして、私は別の女性と結婚した。

 ユウタは私の犬だった。
 私の言うことは何でも聞いてくれたし、私のそばにいつでもいてくれた。
 私はユウタが大好きだった。
 だけど、ユウタはもういない。
 古くなったロッジの梁がギシギシと音を立てる。
 このロッジの中の小さな世界。残っているのは私だけ。
 だって、ユウタは私を残して去っていってしまったのだから。

 あれからしばらくして、ヨウコから荷物が届いた。
 宛名にはモリモトシンヤ様と書かれていた。
 内容物の欄には、何も書いていなかった。
 これは何だろう? 記憶にない。
 驚き、疑問、不安、私は戸惑った。
 そして私はおそるおそる封を開け、悲鳴を上げた。

 私は目的のためなら手段を選ばない。
 私を裏切ったあなたを絶対に許さない。
 そうだ。あなたを後悔させてあげよう。
 ラッピングしてあなたに届けてあげる。
 きっとあなたのことだ。すぐに気付くだろう。
 それが、あなたの可愛がっていたものだと。

 叫んでいるのは誰の声だろう。そうだ、私の声だ。
 段ボール箱の中から二つの目玉がこっちを見ていた。
 箱の中のそれには虫がたかっていた。生きていないことは明確だった。
 私はその顔に向かって呟いた。
 ――ユウタ、と。

 モリモトさん。ユウタはあなたに殺された。
 あなたが散歩の途中でリードを離さなければユウタは死ななかった。
 あなたは嫉妬したのだ。私があなたではなくユウタを選んだから。
 だからあなたは、道路の前でリードを離したのでしょう?
 でも、安心して。私は離さなかったわ。
 あなたの大事な人が、死ぬまでずっとね。

 “それ”が吊り下がる部屋で、私はそっと微笑んだ。

三題噺「記憶」「七色」「目的」

三題噺「記憶」「七色」「目的」

ヨウコは美しい女性だった。一目で恋に落ちた。 彼女のために何でもやった。彼女が微笑むだけで幸せだった。 ヨウコのロッジで過ごした日々は虹色に輝いていた。 けれど、私は彼女を裏切ってしまった。 七色に輝く世界から私は逃げ出したのだ。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-25

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