老婆の休日

ゲートボール篇

ミーンミーンミーンミーン……

夏真っ盛りのある日のこと、蝉のけたたましい鳴き声が
老婆の耳に突き刺さる。

あの鳴き声はたしかオスの蝉がメスの蝉におこなう交尾の
一種だったと老婆はふと思い出す。

いや、メスの蝉がオスの蝉におこなう交尾だったか?

それとも、オスの蝉がオスの蝉におこなう交尾だったか?

はたまた、メスの蝉がメスの蝉におこなう交尾だったか?

まぁ、85年も生きてきた老婆にとっては、そんなことは
どうでもいいのではあるが。

そもそも、10年ほど前から耳が遠くなったので、その鳴き声は
蝉というよりも蚊のようなものだったわけだが。

「そろそろ行きますかね」

老婆はふと何かを思い出したかのように立ち上がる。

実は、老人会のグループでゲートボールの約束をしていたのだ。

老婆はゲートボールに使うスティックとボールの準備をする。

ふと、老婆は玄関先に出しておいたチラシを目にする。

それは近所のスーパーのもので、『安売り大セール 明日まで!』と
デカデカと見出しが書かれているものだった。

「あらあら、そうね、あとでお買い物に行きましょうかね」

老婆は忘れないようにと近くに置いてあるメモ用紙に『スーパー行く』
と記入した。

「あら?」

と、老婆はふと立ち止まった。

「どちらに行くんでしたっけ?」

老婆は、ゲートボール用のスティックとボールを手にしたまま、
思い出そうと頑張っていた。

老婆の休日

老婆の休日

※あの名作映画ではありません。 タイトルは似ていますがまったくもって別作品です。 内容も大きく異なります。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-02

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