《神霊捜査》第八部 「男、一、二、三」(中巻)
《目次》
第四章 中国中央部の捜索
(1) 夜行列車
(2) 東洋と西洋の接点
第五章 中国中心部の海
(1) 日月峠
(2) 青海湖
第六章 シルクロード
(1) 孫悟空
(2) 敦煌白馬塔
第四章 中国中央部の捜索
(1) 夜行列車
北京駅の特別待合室に午前10時30分に到着して、待機。
特別待合室の扉を係員が開けて、我々は切符も持たずに通過して広いプラットホームをかなり歩いて、11時10分発の内モンゴル経由蘭州(らんしゅう)行きの北線43列車に乗車して、寝台車に荷物を置いた。
日本と違って、プラットホームが列車の乗車口より低く、階段を昇る感じで乗車した。
18年前と違って、既に途中まで、高速鉄道が完成しているが、昔の神業旅行の再現の為に、あえて、この夜行列車を使うことにしたのだった。
目的地は内モンゴルの烏海(ウーハイ)という 黄河とゴビ砂漠の間にある街で、鉱業、発電、金属、化学鉱業とブドウ農家や酪農が主体の産業となっていた。
「ガタゴト、ゴトン」と広軌で日本の列車より重たい車輌を蒸気機関車が引っ張って行く。
三段ベットの寝台車は満杯であったが、何故か五島達の車輌は、他の車輌との間に車掌がいて、定員を制限しているようで、割と余裕があった。
酷いのは、便所であった。隣の車輌にしかなく、行くと、中は全て鋼鉄製で、多くの人々が使用しているので、足の踏み場の無い程に汚れていて、便器は穴が空いているだけで、下の軌道が丸見えであった。
外の景色は、広野だが、砂ではなく、まるで石炭の粉の砂利道みたいな風景が続き、至るところに石炭の露天堀の作業場や、ダンプカーの列が蠢いているのが、目についた。
翌朝、この列車は、朝7時50分に烏海駅に到着した。
列車の中で目覚めた雫は一晩中、ある男の姿を霊視していたと、五島に告げた。
「あの白山天池から出た男三だと思います。
確かにこの列車に乗った気配があります。烏海で降りたようです。」
「やはりな!」
烏海の天気は良好だったが、風が強く、烏海の街側を流れる黄河を舟で渡る予定であったから、少し気になっていた。出迎えの小型バスで、黄河の渡船場に行き、18年前の神業時に祭事した、対岸の砂漠の中の祭場を目指して細長い独特の船外機つきの小型の舟を走らせた。
対岸に上陸して五島が記憶している祭場迄歩く内に、皆、全身が風に舞い上げられた砂をかぶり、口の中迄不快感を感じてしまった。
「雫ちゃん、ここで五黄天帝黄人の創成神様に神合わせして、男三のことを訊ねてごらん。」
と、五島が伝えた。
雫は挨拶して神合わせに入ったが、
「五島先生。『わしの所には、眷族の金糸猴(きんしこう)からは何も言って来ていない。他の神々に訊ねられよ。』と言っていますよ。」
「よし、判った。それでは末代様、いや、上義姫様に訊ねておくれ。」
「『あの男は、ここで男一と落ち合って西に向かいましたよ。』と言われています。」
「ありがとう。それで充分だ。外山秘書室長。男三の日本人を国内で調査してくれましたか?」
「はい。五島先生にご連絡が遅れてすみませんでした。
あの男三は、日本のパスポートを所持していますが、実は、大阪で生まれて、北朝鮮に戻った在日朝鮮人でして、5年前に脱国して日本に戻って来たということが判っています。」
「そうでしたか、それで、五黄天帝様が、知らないことが解りました。
漢人や朝鮮人は黄人ではないのですよ。」
「先生。金糸猴とは何ですか?教えて下さい。」
と、山ちゃんが尋ねた。
「金糸猴とは、ホレ、あの孫悟空のモデルと言われている金色の猿のことだよ。
彼等は、五黄天帝黄人の創成神様の眷族で、五黄道を使い、あの世とこの世を往き来していて、情報を届けているんだそうだ。」
「ウワー、孫悟空ですか? 嘘みたいだけど、神様が言うことだから・・・。」
この時、王秘書室長の携帯に、中国政府の関係者から電話がかかって来た。
「先生。延吉の朝鮮族軍隊に捕まっていた男一が逃げ出していたとの情報が入りました。今ごろになっての情報に北京の担当者は怒っていましたが。
奴もここに来たのでしょうかね!
高速鉄道を使えば、我々を追い越してこれるはずですから。
ここで男三と落ち合った可能性が出てきましたよ。」
「それで、先程、上義姫様があんなことを言われたんだね。」
黄河は名の通り、黄土色した水がとうとうと流れていた。
風と流れに逆らって帰りは、かなり苦労して、小舟は進んだ。
この夜の宿は、少し古い建屋ではあったが、名前は、烏海政府招待所という名の通り、
館内には、若い女性の案内係りや、接待専用の女性達がいて、賑やかな歌や踊りの入った宴会となった。
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(2) 東洋と西洋の接点
翌28日朝、烏海駅を8時丁度発の43列車に、また乗車して、蘭州に向かった。
外の景色は少しづつ緑が多くなり、綺麗な川や畑が目につき始めた。
夕食は列車食堂で中華料理ではなく、フランス料理でもなく、変な洋食をワインで戴いた。赤ワインはまあまあ美味かった。
夜の9時18分に蘭州駅に到着。
ここでも特別待合室を通り、待機していた小型バスで、金城賓館に到着して、そのまま投宿した。
車中泊でよく眠れていなかった五島はシャワーを浴びると一気に眠けにおそわれって、ベットに入った。
一夜、爆睡して、街の物音に目が覚めた。
この蘭州は中国のほぼ中央にあり、甘粛省の省都で、バスや汽車の中継基地となっていて、石油工業が盛んな人口 210万人の都市であった。
午前中は王秘書室長の計らいで、市内観光をして、蘭州市内が一望出きる白塔山に登った。
「雫ちゃん、神様は何か言っているかい?」
「いいえ、何もおっしゃっていません。が、ここは何か関所と言うか、国境の検問所みたいな感じがします。」
「さすが、雫ちゃん、18年前にここで神様に聴いたことは、
『太陽の道 中継地点 重要地
西の神と東の神の接点
西の神と東の神の資質は 大きく異なる。
義理天上之大神が 一時期 この仕事についたこともある。
西と東の交わるところ 太陽 日はのぼり また沈む。
日乃本とは その意も 含む。
今の統括神は瀬織津姫』
と、言われたんだよ。」
「雫ちゃん、瀬織津姫様に男達のことを訊いて見てごらん。」
「『男三と男一がここで落ち合った。
西に行くか、東に行くか相談していた、結局男二の古里の青い海に行くことにした。』と言われています。」
「ありがとうございました。
それで判った。王さん、外山さん、西寧(せいねい)に行きましょう。」
「エッ!青島(ちんたお)では無くて、西寧ですか?こんな中国のど真ん中に海があるんですか?」
と、柘植誠一が尋ねた。
「いえ、五島先生が言われているのは、青海湖(せいかいこ)のことですね。」
と、王秘書室長が答えた。
「そうです。前の神業行程通りです。」
「彼等は青海湖に行ったんですよ。
資料によると、中国人で男二の生まれ故郷が青海湖の近くの村と書かれていました。」
と、上川史子が答えた。
「よし、それで決まりだ。西寧に行くぞ!」
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第五章 中国中心部の海
(1) 日月峠
早速、蘭州駅から91列車14時45分発「源寧号」に乗車して西寧に向かった。
列車の中で、王秘書室長から、中国警察の調査記録が報告された。
「男二の中国人は実は漢民族では無くて、ウイグル族とチベット族の混血であったこと、三人の男の結びつきは、宗教上のことであった。
中国では宗教は禁止されているが、イスラム教が、ウイグル族、チベット族の一部に広がり、漢民族と争いが起きて、未だに自爆テロが横行しているとのこと。
民族が違う男三人が、このイスラム教で、しかも過激派の宗派で結ぶついていたことが判明した。
男二は、以前ウルムチで起こった銃撃事件の関係者と判明して、死刑判決を受けて、近々死刑執行が予定されていることが知らされた。
男二の出身地がこの西寧から青海湖に至る途中にある日月峠(にちげつとうげ)を越えた青海湖側の村とのことです。」
と、報告された。
「男一と男三は、では、なんの為に青海湖に行ったんでしょうか?」
「おそらく、男二の親達か、仲間達に逢いに行ったんだろうね! そのことも青海湖の湖上レストランに行けば判るかも知れないよ。」
西寧では青海賓館に投宿した。
翌日、30日は朝から貸し切りバスで日帰りの青海湖までの車旅となった。
日月峠で、トイレ休憩となり、日月峠の駐車場に止まった。
車から降りて、峠の左右対称に月亭、日亭と二つのお堂が綺麗な色に塗られて建っていた。
多くの中国人観光客が坂を登って記念写真を撮っていた。
真ちゃんが写真を撮ろうと走り出した。
「おーい、真ちゃん!気をつけろよ。走るな!」
と、五島が声をかけたが、そのまま走って行った。
誠ちゃんが土産物売り場の子供に冬虫夏草(とうちゅうかそう)を売り付けられていた。
史子ちゃんが、真ちゃんがうずくまってハアハア言って苦しがっているのを発見し、背中をさすって沈めてやっていた。
「真ちゃん、だから走るなと言ったんだよ、ここは3,200mの高地だから、下手をすると、高山病にかかるかもしれないんだぞ! 誠ちゃんその冬虫夏草を飲ませてやっておくれ。」
「エッ! これをですか? せっかく課長達のお土産に買ったのに。」
「ハハハ。嘘だよ。その漢方薬は強精強壮、不老長寿の効き目しか無いから、空気が薄いここでの呼吸困難には効かないよ。」
「ああ、よかった。せっかく買ったのにもう使うのかと、心配しましたよ。先生脅かさないで下さいよ。」
やっと、呼吸が普通に戻った真ちゃんが言った。
「息が出来ないことがこんなに苦しいこととは知りませんでした。」
五島が真ちゃんに教えた。
「そうだよ、皆、人間が呼吸出来ているのは、体の臍下(たんでん)に居られるミタマ親神様が呼吸が出きるように一呼吸一呼吸毎に護って下さっているからだよ。感謝しなければバチが当たるぞ!ハハハ。」
「『これから助けてもらう神様にどうぞよろしくと頼みなさい』と言われていますよ」
と、バスが出発するときに雫ちゃんに通信が入った。
「これからの神様とはどんな神様ですか?」
と、史子ちゃんが五島に尋ねた。
「おそらく、ヒマラヤ、チョモランマの神様のことだろう。ここ日月峠が国境だったんだ、昔は。」
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(2) 青海湖
日月峠を下ると、見渡す限りの大草原がなだらかな丘陵を織り成して、地平線の彼方にまでつづいている、途中、五島達は昼食休憩を「青海湖帳房賓館」でとった。
そこで五島達を現地の警察署長が待ち受けていたのです。
「お待ちしておりました。北京からの連絡で、皆様を青海湖上の「海上喫茶」に案内しなくてはと思い、ここまで出向いて参りました。」
「これはどうも、ご苦労様です。」
「実はこの「青海帳房飯店」には、男二の妹達が働いていまして、前にはこの店を彼女達の両親が経営していたのですが、兄の男二が事件を起こしてから後、財産の没収を受けて、今のここの社長に経営が引き継がれたのですが、妹達は食べる為にここで働いております。
お会いになりますか? あそこに立っている二人が妹達です。」
「いや、別に会わなくても結構です。海上の喫茶店とは何ですか?」
「はい、あの娘達の両親、つまり前のここの経営者がやはり経営していた喫茶店です。
今はもう、持ち主が変わりましたが、そのことを知らずに、男一と男三が訪ねて来たそうです。
二日前のことです。後でご案内致します。」
食事は民族衣装を着た娘達の接待で、燦々と陽の光が降り注ぐ、庭のテーブルで出された中華料理だった。
食後、警察署長の案内で、青海湖に向かった。
いたるところに色彩々(いろとりどり)の綺麗な草花が無数に湖畔に咲き乱れている。羊や、馬や、やく達がどんなに食べても、無駄に多い花々達は痛みを感じないだろうと思える、おそろしいほどの広さだった。
ふるえるような美しさだ。
この湖は広大な内陸海塩湖で、タングラ山脈とこの4,186k㎡ に及ぶ湖で、チベット自治区とウイグル自治区の間を別けていた。
この青海湖は、米国ユタ州グレートソルト湖に次ぐ、世界二位の広さの塩湖だった。
この湖の沖に船で行くと、湖上に忽然と鉄骨造りの建家が建てられていて、四階建ての大きな遊戯場を備えた喫茶店というより海上食堂みたいな所であった。
五島には、18年ぶりの懐かしい記憶が戻って来ていた。
船から、鉄骨の階段を上ると遊戯機類が所狭しと並べて置いてあり、何人かの観光客達が遊んでいた。
五島達はその上の階の喫茶兼食堂の奥のテーブルに通された。
トイレに行っていた女性達が、「キャッキャ」言いながら駆けて来た。
「先生ー。驚きました。便所の穴から海が見えるのですが、その高さに驚きました。
あれじゃ、海に届く迄に霧になるのではないでしょうか。ああ!驚きました。」
既に注文されていたかのように、コーヒーとかジュースが運ばれ来た。
署長の手招きで、店長が駆けつけて来て、五島達に挨拶した。
「彼が男達のことを見ていました。」
と、王さんが署長の言葉を通訳した。
「その様子を説明して下さい。」
「はい、見たこともない男達二人でした。普通の観光客とは少し違って、二人で話し込んでいて、前のここの経営者のことを色々と訪ねていました。
前の経営者と男達の関係を尋ねたら、ちょっとした知り合いだと言っていました。
それから、この上の階、屋上ですが、二人で上がって、ビールや、ワインを持ってこいと注文して、飲んでいました。
羽振りはとても良さそうでしたよ。
帰りには、皆にチップを渡していましたから。
イスラム教徒の異端児達ですよ。酒を飲むんですから。」
と、証言した。
「屋上に上がって見ましょう。」
と、五島が皆んなを促した。
18年前に、この屋上で、五島と数名の神人が、インディアンの暁の踊りを真似た踊りを踊って、この湖に封鎖されていた明月大樹之大神様が湖上に出られることを応援して「ハッ、ハッ、ハ」と言いながら舞いをしたことを皆んなに話した。
「雫ちゃん、神様、なにか言っていないかね?」
「『久しいのう。五島殿』と言われています。」
「どなた様ですか?イザナギ、イザナミ元神様ですか?」
「とても白くて光っておられます。」
「分かりました。元神様お久しぶりで、御拝謁させて戴きます。」
と、五島は二礼三拍手一礼して、ご挨拶をした。
「明月大樹之大神なの眷族神様がおられましたら。
男一と男三達のことを教えて戴きたいと思います。」
と、五島が訊ねてみた。
「『ここで、二人でパキスタンに行くかカザフスタンを越えるかと相談していた。』と言われています。」
「で、カザフスタン越えを選んだのでしょう?」
「『その通りだ。その前に後三つ海を渡る。』と眷族長さんが言われています。」
「なるほど、よく理解出来ました。ありがとうございました。」
「王さん、外山さん、やはりカザフスタンに国境を越えるつもりらしいです。国境監視を厳重にするように手配されて下さい。やはり、この後は敦煌(とんこう)に行きましょう。」
「分かりました。カザフスタン国境と、念の為にパキスタン国境監視を厳しくするように注意を伝えておきましょう。」
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第六章 シルクロード
(1) 孫悟空
青海湖から西寧に戻った五島達は、翌朝8時15分発の92列車で蘭州まで戻った。
この日7月1日は飛行機便が取れず、翌日2日の午後2時発のBE146便で敦煌に飛ぶ計画となり、午後は蘭州の市内観光と、自由時間となった。
観光で、五泉山に来ると、隣に動物園があり、パンダ見学が出来るというので、女性達は喜んで、早足で、入園した途端、目の前を散歩中のパンダに遭遇、手の届く程の近くで憧れのパンダを見れて、有頂天になっていた。
男性の真ちゃんが、一つの看板に気付いて、西遊記のメンバー全員が看板に描かれた、孫悟空の絵の方に誘った。
行き着いたところは、大きな西遊記の一行が描かれた看板の横に金糸猴の檻があり、一段と大きな老金糸猴を取り囲むように10匹位が群になって塊り、五島達を見ていた。
雫に通信が入った。
『五泉山に三日月がのぼったら 帝(みかど)のおつかいがくる。
ここは むかし 五泉山ではばく
五黄山と呼ばれていた時期がある。
おおまえたち へんなところへ来たなぁ。
われわれは五黄天帝眷族。
五黄の道を自由に行き来し おつかいをする。
それは 太陽の忠心を貫き その向こうの世界へ通じる。
焼けるような あつい道。
桃は ありがたい水。 暮色の空・月』
『我らは他に えらいかたたちを知らないから』
と、金糸猴のボスが檻の向こうから話しかけてきた。
「皆さんと孫悟空との関係は?」
『我々の祖先にそんな名のボスがいたと聴いている。』
「西遊記は本当の物語ですか?」
と、真ちゃんが訊いた。
『西の旅について行ったと、聴いている。
おまえたちも明日、行くのであろう?
あそこは今は危ないから用心していかれよ。』
宿の青海賓館に帰ると、別行動をしていた王秘書室長が待っていた。
「お帰りなさい。実は敦煌の有名な莫高窟(ばっこうくつ)の一部で爆破事件が起こったという知らせが来ました。
今朝の話です。あの当たりはとても、今は危険ですので、どうしますか?行くのを取り止めてもいいんですが?
行くなら、中国軍隊が全面的に護衛する準備は出来ておりますけど。」
「莫高窟を爆破したのですか?イスラムの過激派のすることは、世界遺産でも、関係無く偶像を破壊するのですから、困ったものですね。 でも、大丈夫ですよ、行きましょう。」
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(2) 敦煌白馬塔
7月2日、14時に蘭州空港を離陸したBE146便は眼下の緑の景色が消えて、茶褐色の砂漠の上に出て間もなく、敦煌空港に15時48分の定時に着陸した。
空港は厳重な軍や、警察の警備が敷かれていて、同機に搭乗していた人々は、皆んな荷物検査や、身体検査をされていたが、五島達は、王秘書室長を先頭に特別待合室を通過して、空港前に待機していた軍のジープ二台に別れて乗車した。
それぞれの車には二人づつ自動小銃で武装した警官が同乗して来た。
飛行機の中で王秘書室長に指示しておいた通り、白馬塔(はくばとう)と月牙泉(げっかせん)に莫高窟というコースの内の、莫高窟は今は、我々でも入れないということで、やむをえず、省略することとした。仏像に興味のある柘植誠一はくやしがっていたが、立ち入り禁止では、どうにもならない。
白馬塔にはすぐ到着した。沿道至るところに軍隊や、警察車輌が駐車していて、警備は厳重だった。
白馬塔の前で車を降りて、五島は、白馬塔に、所持していたフイルムケースを開けて、不二根元の塩を一つまみ置いた。
雫に通信が来た。
『ありがとう。本物の根元の涙の味がする。 男達は莫高窟を爆破して、月牙泉のアジトに戻った。後は他の神に聞け。』
「よし、月牙泉に行こう。暗くなる前に砂漠の中の泉に着けるかな?急ごう。」
月牙泉の入口には、警察や軍隊だけでなく、ラクダが沢山待機していた。
このラクダに乗って、トコトコと砂漠の中にある月の形をした泉に向かった。
月牙泉であった。
砂漠の中に嘘のように三日月型のオアシスが出来ていて水が湧いていた。
軍団の兵隊が数名、砂上車に乗って、五島達のラクダの列の前後を警戒して巡走していた。
五島は18年前の祭事のことを思いだしながら、月牙泉の中心に向かって、二礼三拍手一礼して、ご挨拶をした。
取り継ぎが入った。
『御疲れ様です。私は月神側司長妻神です。男達は吐魯糞(トルフアン)に向かった。古い道を辿って、山と国を越えて中東に行くつもり。
これでよいですか?
五島殿、帰りに、空間の宮の塩を泉に入れて行って下さい。泉が枯れないようにするために。
お願いします。』
帰り時は、丁度三日月が天空に出て、月牙泉の湖面を明るく照して、並んで砂漠の道をラクダで行く五島達は、「月の砂漠を~」と誰ともなく歌い出していた。
(中編完)
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《神霊捜査》第八部 「男、一、二、三」(中巻)
フイクションですので、人名社名、店名、国名等全て実在のものではないことをお断りしておきます。