世界をのぞむ兵士


「状況は?」ヤスの無線が提示報告を要求してくる。
「何も変わらないよ、いつも通り、段々悪くなるだけ」
「ハハッ、違いないな、まあ残った二人、気を引き締めていこうぜ」
戦いが始まってどれくらい経つのだろうか?何の為に始まった戦いで、なぜ俺は戦っているのだろうか?思い出せないほどの月日がもう流れてしまっている。
まあ、始まった理由なんてどうでもいいし、俺には関係のない話だ。
 目前に広がる戦場、敵、殺し合い。それが今の俺の世界のすべてだし、それでいい。
けれど――
「おい、敵襲だ」思考が絡まる寸前、ヤスから無線が飛んでくる。緊張が走る。
「数は?」「たぶん5、大した装備じゃ無いが、ある程度の場数は踏んでそうだ」
 楽な相手だ。さっきまでの思考はどこかへ消え去り、俺はいつもの感覚を取り戻す。
「ここ周辺の地形は熟知している、例え2対5でもよほどの相手でなければ負けはしない。何なら俺が全部片づけてやろうか?」
「おいおい、俺にも楽しませろよ」ヤスが笑う。
「行くか、俺は左から行く、反対側から頼む」
アサルトライフルを構え、俺は走り出す。
*
「やっぱり大したことなかったな。」
「おい、まだ終わってない、気を抜くんじゃねえ」
 「わかってるよ、全部わかってるって」
――またこの感覚だ。最近、戦闘が終わる直前、急激な喪失感に俺は襲われる。
「なあ、この戦いが終わっていったい何がある?」
 俺はヤスにポツリと問いかける。
「俺たちの勝ちだろ?そしていつも通りの日常が戻ってくる」
「そういうことじゃないんだ、違う、違うんだよ」
 そういうことじゃない、そういうことじゃないんだよ。
「急に何言ってんだ?お前、今日は様子がおかしいぞ?大丈夫か?」
「違うんだよ、なあ、何がある?何が戻ってくる?何もない、何も戻ってこないんだよ」
「おい、お前いい加減に――……」
背後から爆発音がし、それと同時に無線が途切れる。瓦礫が俺の耳のすぐそばを掠めて飛んで行くけれど俺は振り返らない。
 俺はそのまま戦場をフラフラとさまよい歩く。
ここには俺の全てがある、けれど同時に何もない。
廃墟、死体、目に映るすべての物が空虚に見える。目の前が暗転し、静寂が俺を包む。
*
パソコンの電源を落とすと俺は、タバコに火を付ける、そして心の中で呟く。
「状況は?」

世界をのぞむ兵士

世界をのぞむ兵士

臨界点

  • 小説
  • 掌編
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-07-01

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