3、亜季・・・大人になれなくて
目の前にトラブル
3、目の前にトラブル
亜季にはどうにも理解できない自信。おそらく智香子には恋のカケヒキなどというものは存在しないのだろう。
自分に投げられた心地いい言葉はその殆どが真実と受け止める。これを純粋と呼べるかどうかはわからないが今時珍しい人ではある。
ただ、この思い込みの強さがここまでのところ相手の男にとっては重くのしかかる荷物にしかならないようだ。智香子がどれほど熱くなっていてもいつのまにか相手は静かに消えていく。
「かわいい」という言葉が自分に向けて発っせられたと同時にそれが愛の告白だととられるとしたら消えていきたくなる男の気持も無理はない。
それでもめげず同じパターンで次の恋愛を求める智香子は稀に見る強い女なのだろうかと亜季は密かに思っていた。
もともと対象的で人を信じる事が苦手な亜季にはどんな心配があったにせよ走り出した智香子に入り込む隙間などないのだ。
(そうよね、よく言うもの。信じる者は救われるって。おめでたく見えようが、自信過剰と言われようが疑いより信じる力の方がまさるという事?・・・私はいつも信じ切れなくて恋を壊してきたかな・・・今回も。)
亜季のそんな瞑想をよそに智香子は春を楽しむかのように軽やかに話し続けていた。
「それでね、今度の春休みに彼と旅行に行こうと思ってるの。」
「いいんじゃない。どこに?」
悪いがこの種の話しなら亜季にはどうでもいい事だった。自然と返事がぼんやりとかすんでいく。
「北海道か京都なんていいかなぁ?彼はね仕事が忙しいとか言ってまるで相談に乗ってくれないのよね。」
(それ、本当に仕事のせい?)と思いながらも亜季は言葉を飲み込んだ。
「どっちでもいいんじゃない。でも北海道はまだ寒いかも・・・で、話ってそれ?」
亜季の質問に智香子が突然にんまりと微笑んだ。
「まさか!違うわよ」
亜季はふと(今自分は面倒なトラブルの中に入りこんでいるのかもしれない)という予感を覚えていた。
3、亜季・・・大人になれなくて