2、亜季・・・大人になれなくて

2、自信と素直さ

                                 2、自信と素直さ


 私は美咲 亜季。都内の大学で経済学部に在籍。三年ともなるとあちらこちらで就活の話題が駆け抜ける。なんだか日々ざわついている。
亜季も就職を考えないわけではないがこれと言う目標が定まらない。そもそも経済学部を選んだことさえあの時の自分は何を思っていたのかと自分を疑いの目で見てしまう近頃なのだから。


 そして、智香子は同い年の従姉妹。お互いの母親が姉妹で亜季の母はよく姉は子供に甘いと苛立ちをこめた独り言を言う。何をもってそう言うのかはよくわからないが亜季の母ができる限り自分の意に添う家庭をつくる為に自論を曲げず子育てに励んできたのとは対象的で智香子の母は叔父や娘の言う事に殆ど反論しない人だった。亜季から見れば智香子が羨ましく思える事も度々あったがふりまわされてる感はあった。
ただ、どちらにしても叔母と母が仲のいい姉妹だったとは思えない。それでも人は大人になると本心を胸の奥にしっかり刻みながらも笑顔を見せることができるのだ。
そのおかげで両家は家の近さも手伝いなんとか親戚付き合いという枠からはみださずにいる。亜季と智香子もなんとなく従姉妹という関係を保っている。
ただ、正直言えば従姉妹という繋がりがなければ友達になる事はなかったろうと最近亜季は感じていた。


 どう見ても二人の性格は違い過ぎた。亜季が感じる智香子は常に自信にあふれていた。よく言えば前向きに人生も恋愛も捉える。でもその根拠がわからない。こうあるべきという思いが強すぎるのだろうか。そこに迷いがない。亜季にはそんな智香子が結構うっとうしい。
一方智香子から見れば本音がどこにあるのか、何を考えているのかさっぱりわからない。ただ亜季のように二人の関係が面倒なものと思う事はなかった。
だから二人が会う時はいつも智香子から呼び出された時。そして二回に一度は断る。でも・・・今日は来てしまった。嫌な予感があったのに。

 約束の時間を二十分遅れて智香子が顔を見せた。そして亜季の前にドサッと腰かけるといつもと同じ言い訳を始めた。
「ごめん。なんかね・・洋服がなんかピンとこなくて。時間かかちゃった。」
「まあ、暇だからいいけど。でも、その言い訳なんどきいたかなぁ?・・前の夜に決めてから寝たら。」
「それもありだけど・・・」
そう言うと智香子は肩をすぼめた。


 休日の遅い昼食がテーブルに並び、二人の間に少し落ち着きが戻った頃亜季がつまらない話を聞くような関心の薄い表情で聞いた。
「で、聞いて欲しい事って?」
亜季の質問に智香子の口元がもう緩んでいる。亜季はひとり心の中で呟いた。(うわぁ!やっぱり来なければよかったぁ)


 亜季は去年の夏も終わる頃をふと思いだした。智香子が突然「運命の人に出会った」と夜中に電話してきた日のことを。
それから興奮に満ちた夜中の電話にどれだけ悩まされた事か。智香子の話は何もかもが素晴らしかった。
大手の商社マンになって二年。神奈川で知名度を持つ大地主の長男。しかも見た目もとびっきりだという。
もちろん恋の始まりはそんなものだ。ただ智香子の話はいつも大きい。意識的にそうしてるわけではない事はわかるが思いがつよければ強い程相手のの気持も自分と同じだろうとなってしまう。このあたりが亜季には理解できない。ただ、目の前の智香子の笑顔は子供の様にあまりに素直で今、この瞬間彼女の思いに疑いを投げたくはなかった。
ただ、これまで何度とんでもない思い違いをしてきたか、それを思うと亜季は少し心配になっていた。

2、亜季・・・大人になれなくて

2、亜季・・・大人になれなくて

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-30

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