1、亜季・・・大人になれなくて
私がしぼんでいく
1、亜季・・私がしぼんでいく
空の青さがキリッとひきしまり冷たい風が亜季の頬を打つ。やり場のない心の棘も凍りつき痛みもどこかぼやけて感じる。
1月の日曜日、亜季は智香子との待ち合わせの場所へと急いでいた。
1月も半ばを過ぎればお正月はもうすっかり過去となり人々も、自由が丘という夢を見させてくれるような名前を持つこの街もいつもと何も変わらない。
小さな街なのに何にひかれるのかいつからか若い人で賑わう街になった。もちろん亜季も好きな場所のひとつには違いない。
おしゃれで可愛いお店もいっぱいだし何より電車にのれば三駅と近い。友達と数時間ゆっくり話しをするにはいい場所だった。
慣れ親しんだ街。今までならこの賑わいの風景の中に溶け込んでいたはず。
でも、いまは自分が場違いで浮いた存在に見える。裏切りという失恋の後では無理もない。おそらく今の亜季はどこにいても自分の存在を感じたくないのかもしれない。自分を取り巻く環境や空気さえからも取り残されたと思う方が人を求め、幸せを求めるよりずっと落ち着く気がしていた。
いさぎよい程の冬の冷たさに押される様に家を出て来たものの平穏で日常のこの街の中では真っ白なコートも亜季の気持ちをすがすがしくする役にはたたなかった。
駅から離れると静けさが訪れる。住宅街を間近に控え数件のお店が立ち並ぶ。その中の一つのドアを開けた。
白いテーブルに白い椅子。店の奥には様々な国の絵本が飾られていた。一回り見渡しても予想通り智香子はまだきていなかった。
彼女が時間通りに来るわけがないとわかっていてつい約束という言葉に縛られ5分も前に来てしまった。亜季は夕方までの残された光が射しこむ場所に座ると思わず苦笑いを浮かべた。
紅茶を頼み、外を眺めながらぼんやりと記憶をたどる。
(この前智香子と会ったのはいつだったかしら?・・ああ、確か半袖のワンピースだった。そうか、去年の夏か。)
わずか半年前が遠い。あの頃の自分が今とは比べものにならない程若かった気がする。
(いったい何の話だろう?予想はできるけど・・・ああ。)
昨日の夜、久し振りに智香子から電話があった。
「ちょっとね・・聞いて欲しい事があるの。」
そう言った智香子の声はやけに力強くそして隠しきれない嬉しさがこもっていた。
亜季の直感はこうささやいた。(きっと男の話だ)
その瞬間亜季は断ろうとした。今の自分には人の恋の話を聞ける余裕などないのだから。それでもこうしてきてしまったのは智香子の自信に満ちた強引さとひとりの時間をもてあますのが嫌だったから。
ただ、今日の自分に気の利いた言葉を求められても無理なのは明らかだと亜季は確信していた。
1、亜季・・・大人になれなくて