アルジャーノンに花束を
3/9 『アルジャーノンに花束を』 大阪厚生年金会館
原作=ダニエル・キイス
脚本・作詞・演出=荻田浩一
キャスト
浦井健治=チャーリー・ゴードン
安寿ミラ=アリス・キニアン
戸井勝海=ニーマー教授/ギンピイ
宮川浩=ストラウス博士/ドナー(パン屋の店主)/マット(父)
森 新吾=アルジャーノン/アーニイ他
永山たかし=バート・セルドン(研究所助手)他
小野妃香里=フェイ他
朝澄けい=ヒルダ/ファニイ/ノーマ(妹)他
この作品はかなり有名らしいのだが私は原作を読んでいないし舞台を観るのも始めて、何の予備知識も無しでの始めての観劇なので、見当外れの感想を書くかもしれないけど、そこは大目に見てくとして・・・ (^^ゞ
舞台セットは飼育されているねずみが籠のなかでよく廻している滑車の大型のようなものが真ん中にデーンと置かれていて、後は金網で作られた折り畳みの屏風のような物が幾つかと、跳び箱の前に置かれている踏み台のような物だけとかなりシンプル。
舞台が始まると姿は見えないがアリス・キニアンに呼びかけるチャーリーの声が聞こえる。少し舌足らずの話し方で『賢くなりたいので勉強を教えて欲しい』と・・・。
32歳になるチャーリー・ゴードンは知的障害のある青年だが、賢くなりたいと何時も願っている。ここは病院ではなく科学者の研究室・・・らしい、ニーマー教授とストラウス博士、そしてアリス、彼らは全員医者が着ている白衣のような上着を着ているが、色は白ではなくてグレイの皺々になった上っ張りだ。
ニーマー教授とストラウス博士はねずみのアルジャーノンに知能改良の手術を施し成功したので、次に人間に試す為のモルモットを探していて、パン屋で働いていたチャーリーを人間の実験の第一号として手術を施す事を決めたのだがニーマー教授はチャーリーはIQが低すぎると反対する。彼を使えば失敗すると。 ここで余談だが・・・、私は常々戸井さんはとてもハンサムな方だと思っている(^^ゞ そのハンサムで何時も優しい歌声を聞かせくれる戸井さんが今回は憎まれ役らしいーーー! さてどうだろう? ところがだ、キリッとした端正な顔がなんと、ややエゴイストで冷酷なニーマー教授にピタリときた! そして何時もは優しく響く歌声さえも今日は尖って聞こえる! これって演技なのぉ??スゴイね! このニーマー教授は単なる憎まれ役ではなく、彼がチャーリーを実験用のモルモットとしか見ていない冷ややかさが強調されればされるほどチャーリーの孤独感が際立ち哀れみを増す、そんな存在なんだと思う。
チャーリーは助手のセルドンにアルジャーノンはとても賢くて迷路を早く解く事が出来る特別なねずみだと引き合わされる。
アルジャーノンの森新吾くん、ダンサーらしいが、ここでは踊るというより体をくねらせてねずみを表現しているのだが、これがとても上手なんだ!両脇にしっぽのような房の付いたねずみ色の毛糸の帽子をかぶり、顔にはひげに見立てたペイント、つなぎの服に素足・・・、その手先・足先までピーンと神経の行き届いた踊りが素晴らしかった!
手術は成功しパン屋へ戻ったチャーリーはアリス・キニアンの助けを借りて勉強しメキメキと知識を蓄えていく。壊れていた機械を見事に直しドナーから給料を上げてやろうと褒められ皆も驚くが、次第に仲間達の妬みのような感情にチャーリーは孤独感を抱き始め、そのはけ口をアリスに求めた。キニアン先生の呼び名がいつの間にかアリスに変り、好きだよと告白し、アリスもまたチャーリーの心の変化に気が付いていた。チャーリーは私に恋をしている・・・。
だがチャーリーは思春期を迎えた頃、妹の体の変化に興味を持った事を母に咎められ、施設に送られるところをドナーのパン屋へ勤める事になったのだが、母に叱られた事がチャーリーのトラウマになっていて、女性に対する恋の感情をどうしてよいかが判らない。
この舞台では役者さんが着る衣装に意味合いを持たせているようだ。
例えばニーマー教授とストラウス博士がギンピイとドナーに変る時、舞台上で科学者の上着を脱ぎ前掛けを付け帽子をかぶるとあっという間にパン屋の店員になる。チャーリーは最初はトレーナに綿パン、知識が上がる経過に合わせて黒のパンツ、それから黒の上着をビシッと着こなして、見るからに知性的! この辺りから浦井チャーリーの歌声は次第に力強くなり男性を感じさせるようになる。これってスゴイよねぇ! 唯チャーリーは32歳という設定だけど私にはどうしても27歳くらいにしか見えなかった(爆)でもこの物語では32歳であろうが27歳であろうが関係は無かった。『エリザ』のルドルフと全く違う素晴らしい浦井君が其処に居た!
アリスはグレイの上着を脱ぐと下には真紅の袖なしのブラウス・・・、安寿さんは美人だしスタイルはとても良いが少し痩せすぎだなぁ?、赤のブラウスは良く似合っていたが腕がスゴク細くてごつごつした感じがして女っぽさに欠ける。チャーリーがあれほど慕う女性なんだからむしろ長袖を着て腕を隠した方が柔らかな女性らしさが出たのではないか?
賢くなれば皆と仲良くなれる、そう信じていたが昔は見えなかったものが見えてくることに戸惑うチャリーは上司のギンピイが釣り銭を誤魔化している事を指摘した事から亀裂が起き始め、ドナーからここは君のような賢い者がいる職場ではないと言われ、研究所へ戻るがそこでニーマー教授が自分とアルジャーノンの奇蹟を次の学会で発表する事を知る。自分はあくまでも研究材料のモルモットだった!そして助手のセルドンから衝撃的な事を聞かされる。アルジャーノンに変化が起きている!それはやがて自分の身にも起きる事!
2幕
研究室を出たチャーリーはアルジャーノンと一緒にニューヨークのアパートにいた。鍵を無くしたことがきっかけで隣の部屋に住むフェイと知り合うが一緒にお酒を飲んで眠った時、過去の自分が現れた!あのチャリーはいつも自分の側にいる! フェイとの関係が上手く行かないチャーリーはアルジャーノンと一緒に研究室に戻るがニーマー教授がアルジャーノンの行く末は冷凍庫か焼却室、という言葉に激怒し、アルジャーノンが死んだら裏庭に埋葬して花を手向けるという。そして自分に残された時間はあとどのくらい・・・?
アリスは今チャ?リーに必要な事は家族に会うことだと理髪店を営んでいる父に逢いに行かせる。普通の客を装って散髪をしてもらうが父はチャーリーに気付かなかった。
だが妹はチャーリーだとすぐ判り何処にも行かないで、ここに居て!と頼むが、もう時間が無い事を知っているチャーリーはそれは出来ないと振り切る。
やがて知識の退化が始まりだし、そんなチャーリーにアリスは私に出来る事はない?と尋ねる。君に拒否されるのが怖かったが今はもう怖くない、二人はようやく結ばれるのだが・・・、安寿アリスがなんとも素っ気無いんだなぁ?、 それに引きかえこの場面で歌われる宮川さんの感情のこもったソロが素晴らしい?!!
その後チャーリーの知識は急速に衰え以前のチャーリーになってしまう。働かなくてはいけないとドナーの店に行くが其処では皆がとても歓待してくれた!昔のチャーリーが戻ってきた!ギンピイは誰かが虐めたら俺がやっつけてやる! この時の戸井ギンピイさんの笑顔は優しいんだ?(^^ゞ
つなぎの服を着たチャーリーがあの滑車の中に現れ、『アルジャーノンのお墓に花を上げてください』という言葉で舞台は終わった。
観終った直後の感想はチャーリーには知能が低い時も、高くなっても結局何処にも居場所が無かったのだなぁ?という事、安らげるはずの家庭からも職場からも弾かれる、知的障害者の置かれている立場の辛さが胸を突いた。
勿論このような手術が可能な事かどうかは判らないが、賢くなりたい!その叫びは切なる願いに違いない。チャーリーの障害はフェニルケトン尿症と呼ばれる病気らしいが、今では妊婦の尿検査でその有無は早い段階で判り、そのまま妊娠を望むなら低蛋白質の食事療法で障害を防ぐことが出来ると聞いた事がある。だが障害を持つ人はこの病気だけでは無い。
そしてもう一つ気になった事、それは知的障害を持つ少年が思春期に達した時の性衝動はどうなるのか? 舞台ではこの事に関して多くは触れていないが、原作ではこの問題も大きなテーマになっているのではないだろうか? そんな気がした。
大阪会場はほぼ満員で盛大な拍手が起きた!
3回目辺りからはスタオベ状態!だが浦井君はまだセンターの位置が恥ずかしいのは少々右寄りで何度も何度も御礼を繰り返していた(^o^)/
この大阪厚生年金会館は素晴らしいホールなのに此処も売却されるらしい・・・。
新幹線の止まる新大阪駅からのアクセスは少々悪いのだが、それでなくても数の少ないホールが消えてなくなる事はとても淋しい!なんとか生き残れる道はないものか?
アルジャーノンに花束を