WE CAN GO!(目玉おじさんの冒険記)(9)

九 異なる文化

 右目の体調は戻った。何をするわけでもなく、ただ、温泉に浸かっているだけであった。それでも、日一日と気分はすっきりしてきた。多分、少年や左目の体調が戻って来ているんだろう。こういう時は、無理をせずに、じっとしているほうがいい。でも、あまり温泉に浸かり過ぎると、体がふやけてしまいそうだ。それに、気力がなくってしまう。右目はじっとしていられない性格だったからだ。

 左目は石の街にいた。道路も建物も全てが堅牢な石で造られた街だった。左目が住んでいた島は、木や花など、植物と共存していた。道路は舗装されていず、土のままで、両端には島の人が植えた花が咲いていた。家々は木でできていた。漁業をする船も木で出来ていた。木の文化で構成されていた。
 だけど、ここは違う、石の文化の街だ。石の上を転がる左目。通りには、カフェがあり、人々がゆったりと佇んでいる。大きな門があり、塔も見えた。ジャングルで見たのとは異なる巨大な宮殿があった。ダンスを踊っている人、絵を描いている人、歌を歌っている人、パントマイムをしている人など、様々な人々が街で遊び、街で親しみ、街に集っていた。
 左目は、カフェで椅子に座ったまま本を読んでいるおじいさんに尋ねた。
「何をしているんですか?」
おじいさんは答えた。
「人生を謳歌しているのさ」
 左はこの街に暫くの間、住んでみようと思った。

 右目は街を転がっていた。街を散策、探検するためだ。商店街の台座の上に仲間がいた。目玉だ。右目は嬉しくなって、台座に飛び乗った。
「やあ、元気かい」だけど、仲間は何も答えなかった。台の上の目玉は、よく見ると、銅像だった。右目は、仲間と話せなかったことは残念だったが、目玉が銅像になっていることに驚いた。
この目玉は一体、何をしたのだろうか。右目が知っている限りにおいては、銅像になる人は何かしらの功績を残した人だ。
 右目が台の上からこの街を見渡すと、あちらこちらに銅像があった。それも、人間じゃない。ねずみや猫、おじいさん、おばあさん、それに壁や反物などの形をした妖怪だった。
 右目はまさかと思い、街中を転がった。銅像全てが妖怪だった。大勢の観光客たちが、その妖怪と一緒に写真を撮影したり、銅像を撫でたりするなど、楽しんでいた。
人間と妖怪の和解?それとも、元々、妖怪は人間だったことへの理解?いや、今は人間が妖怪になっていること?への郷愁なのか。
 右目がこの街をうろついていると
「おい、お前、どこから来た?」と声が掛った。
 辺りを見回す。
「ここだ、ここだ」マンホールの蓋が少し開いていた。そこには、何か光る物が右目を見つめていた。右目はマンホールの中に入った。そこには、さっき、銅像で見た、おじいさんやおばあさん、ねずみや猫などの妖怪たちがいた。
 妖怪たちの話では、ボランティアで、銅像に取り憑いているそうだ。
「銅像があるのに、何故、わざわざ取り憑いているんですか」
 右目が尋ねると、
「心だよ、心。銅像だけだと、形だけだろ。やっぱり、心がないと、迫力がないんだよ。本物になれないんだ」
 右目と同じ目玉のおやじが解説してくれた。
「そんなものですか」
「そんなものだよ」
「でも、時代は変わったよな。わしたち妖怪が人間のために手伝ってやっているんだから」
 泣き顔のじいちゃんが呟く。
「あたしたちだって、ここに住んでいるんだ。たくさんの人間が来て、住んでいる場所が有名になればうれしいじゃないか」
 口をへの字にした強面のばあちゃんが断言する。
「そうよ、ばあちゃんの言うとおりよ。これからは、妖怪と人間が一緒になって、街づくり、街おこしに努めればいいのよ」
 猫顔の娘が後に続いた。
「それなら、おいらにだって分け前をくれよ。人間ばっかり儲けて、ずるいじゃないか」
 ねずみ顔の男が立ち上がる。
「ほら、お前はいつもそうだ。妖怪何だから、もう少し威厳を持てよ」
「威厳だけじゃ、腹が減る」
「銅像の前にお供えをしてくれているだろう」
「俺の銅像にはお供えが少ないんだ」
「人気の差ね」
「ほっといてくれ」
 ねずみ顔の男は怒って、仕事、仕事と呟くと、マンホールから出ていった。
「わしは、お供えはいらんから仕事はしとうない」
 泣き顔のおじいさんは柱に抱きつくとええん、えええんと、泣き顔をより一層泣き崩した。
「こらこら、泣いてばかりじゃいかんじゃろ」
 おばあさんが懐から砂を出すと、泣いているおじいさんの前で、お城を作ってやった。
 おじいさんは砂のお城の前に座ると、トンネルを掘るなど、砂遊びに夢中になった。右目は、しばらくの間、この妖怪たちに一緒に、銅像に取り憑くボランティアに参加することにした。

 左目は石の街で生活していた。ここにも、世界中から数多くの目玉が集まっていた。以前の摩天楼の大都市にも目玉たちが集まっていたが、ここの目玉たちは少し雰囲気が異なっていた。哲学の話をしたり、歌を歌ったり、絵を書いたり、小説を書いたりしていた。
 周囲の仲間に触発され、左目も詩を口にしたり、演劇活動に参加したりなど、芸術家の真似ごとに打ち込み、時間が過ぎるのを忘れるほどであった。

 少年は青年となっていた。目が不自由だけど、仕事は一生懸命に励んでいた。特に、夏になると、島の海水浴場には、多くのお客さんが訪れ、忙しい毎日を過ごした。また、右目や左目から送られてくる妖怪との交流や石の社会での芸術活動の情報に刺激を受けた。俺も負けていられないな。
 

WE CAN GO!(目玉おじさんの冒険記)(9)

WE CAN GO!(目玉おじさんの冒険記)(9)

九 異なる文化

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-27

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