時が戻る時。第３話

芽生えし力

僕は、夢を見た。

「空〜♪待って待って〜！」
「愛楽麗〜早く〜」

笑いながらアスファルトの道路を駆け抜ける僕と愛楽麗。
昔みたいに仲良く友達として笑っていた日々が蘇る。
…僕は、どうしていつも愛楽麗のそばにいながら愛楽麗の気持ちに応えてあげられないんだろう。
きっと愛楽麗の幸せの中に僕は必要ない。
邪魔でしかない。離れてて欲しいんだ。
僕のせいで、愛楽麗は…愛楽麗は僕を殺しかけた。
小さな丘の目の前に草むらが見える。
僕らはそこめがけて一直線に走り出す。
周りには何もない。
花と木と草…そして愛楽麗がいるだけ。
しずかな田舎町の様な懐かしい雰囲気。
僕はその丘を眺めながら愛楽麗に聞いていた。

「愛楽麗、今幸せ？」
「うん…！幸せだよ？」
「そっか。よかった。」
「うん…。空は幸せ？」
「僕？僕は…幸せだよ」

嘘をついた。
愛楽麗がいない今、僕は幸せなんかじゃない。
愛楽麗…ごめん。

「そっかー！よかったぁ…♪心配…してたんだ。……だから…ごめんね………ばいばい」

何か言っていたが、よく聞き取れなかった。
僕は目覚め、夕方になっていたことに気づく。

「…何言ってたんだよ…愛楽麗…」
「そーらー！」

玄関の方で、聞き覚えのある声がした。
愛楽麗…？

「ん…なに」
「ん…なにじゃないでしょっ！勝手に帰って、心配したじゃん。どうしたのよ？」
「何でもないよ…眠くて寝てた…」
「あっそ！眠たかったから帰ったのね？ふーん。」

寝起きの目をゴシゴシとこする僕を、怪しそうにマジマジと見る愛楽麗。
眠たかったのは嘘だけど…でも帰ってきてベッドにダイブした途端すぐに寝てしまったのなら、疲れていたんだろう。
だから僕は、デタラメを言っているわけではない。

「そーだよ…で、なに？」
「…別にっ。………ここで話したくないの、中入れてくれない？」
「あ、ごめん。散らかっててもいいならど「慣れてる」

僕がどうぞと言い終わらないうちに愛楽麗が口を挟む。

「…悪かったわね」
「え？なにが？」
「だ、だからっ！…っ、あんたの前であんなとこ見せちゃって…」
「あー、そっか。ごめんね。勘違いしたんだね」
「は？」
「僕がおめでとうって言えなかったのはそういう意味じゃなくて、ただ単に愛楽麗…の幸せを壊したくなかったからだよ。ごめんね、おめでとう愛楽麗♪」
「……あり…がと…」

驚いた様に目を見開きながら、僕にそう言った。
…２度目だ。今日感謝されるのは。
だから、今感謝されても嬉しくないんだって…。
でもそんなこと言えるはずもなく、僕は笑って愛楽麗の頭をポンポンとするしか誤魔化せなかった。

「…あのね、空。」
「ん？」
「私、好きな人がいるの」
「うん」
「それはもちろん…」

それ以上言わないで欲しい…。
でも愛楽麗は下を向いて続けた。

「私の一番近くにいる人。」

きっと付き合い始めたから…一番近くにいる人は僕ではなくなったんだ。
…って、元々一番近くにいたわけでもないけど。

「名前、聞く？」
「……」

断れない僕は、コクリとしずかに頷いた。
そして出された名前…それは菅生先輩…ではなかった。

「蒼井空」
「え…？」

僕の名前…！？
でも、なんで、僕…？
…あそっか。
幼なじみとして気を遣ってくれたんだ。

「ありがとう。話はそれだけ？」
「え？」
「気を遣ってくれるのは嬉しいけど…本音じゃないことくらい僕にも分かるよ」
「………違うよ」
「ん？」
「ごっめん！迷惑だった？アハハ、バレてたかぁ〜。騙せると思ったんだけどな。空、騙されやすいでしょ？アハハっ！ゴメンよー、許してっ」

手を合わして僕を見た愛楽麗は、顔は笑ってるけど目には光るものが浮かんでいた。

「何で泣いてんの？」
「はっ？な、泣いてないよー？」
「無理に明るく振る舞うなよ！」

僕は思わず叫んでいた。
悔しかった、愛楽麗に気を遣わせることが。
僕は………………愛楽麗が好きだから…。