時が戻る時。第2話
実体験
死ぬんだな…僕…。
まだまだ伝えきれないこととかやり残したこととかたくさんあったのに…。
僕は止まらない涙を抑えるように目をつむった。
そして、地面まであと数センチ…。
もう、終わりだ。
そう思った時、僕の手の中で例の石が光った。
そして…ゆっくりと目を開けると、目の前に愛楽麗のどアップが。
「う、うわぁ!?」
「なによー、階段から落っこちてズッテーンていったから心配してあげたのに。」
「え?」
階段から落っこちた…………???
確か僕は…展望台から愛楽麗に押されて落ちて…。
ゆっくりと記憶を辿る。
その後、何かが光って…そうだ!あの石!
あの時光ったあの石!
「ったくもー。ほら早く行くよ!」
そう言って愛楽麗は先に階段を上る…あれ?
この風景…さっきも見た…。
愛楽麗が行った後、変なヤツが来て僕にこの石を渡して…。
その後上がったら愛楽麗がいて。
声をかけようとしたら菅生先輩がいて––––––––。
考え込んでいると、さっきのヤツがまた来た。
「やぁ、さっきぶりだね。元気かい?って言いたいところだけど、どうしてこうなってるのか説明しろって思うよね?」
「当たり前だろ!」
「その石はね、主(石を持つ人)が時を戻したいって願った時に戻ることができる石なんだ。
何度でも使えるけど、時には危険なところに戻される時もある。
戻されるのは、戻りたいって願うより昔にキリのいい場面が必ずあって、そこだからね。
だから自分ではわからないんだ、どこに戻されるのか。
それに、セリフとかも違うから…余計混乱するんだよね。
キミは落ちる時後悔したろ?それが、石には戻りたいと願ったことになったんだ。」
なんだかよくわからないけど…時間が戻ってるってことは、未来も変えることができるってことか。
つまり、あの時僕が下を覗きさえしなければ、僕は死なない。
「なんか、ありがとう!これのおかげで助かった」
「いいんだよ、キミ、ボクと同じで可哀想だからね。あ、自己紹介してなかったね。ボクは三田優馬。さっきいた女の子は妹の凛花。よろしく」
手を差し出すそい…いや、三田を僕はじっと見つめた。
ふむ。信用できそうな少年だな。
「よろしく。でも急いでるからまた。」
僕は石を握りしめて階段を上った。
………あ、また同じ。
石を握りしめて早足で上る…。
ははっ、本当なんだな、この石。
「愛…いや、アイツが来てからにしよう」
僕は物陰に隠れてアイツが来るのを待った。
「愛楽麗ちゃん!」
来た来た。菅生先輩…。
「あ、菅生先輩っ♡」
多少セリフは違うんだな。
へぇ、面白い。
「君も来てたんだ♪」
「はいっ♪幼なじみの父親がここを設立したので、その招待で♡」
「へぇ、その幼なじみは?」
ここで出るとまたさっきみたいになるから…。
もう少し様子をみよう。
「えーと…階段でコケて、大丈夫そうだったので置いて来ちゃいましたっ」
「あーあ。可哀想だね。おぉ、綺麗な景色だなあ」
「えぇ。本当に。…………菅生先輩」
「ん?なんだい?」
「私、菅生先輩が好きです。…入学して、入部して、大変な時、いつもそばで助けてくれて…そんな菅生先輩が…好きなんです」
え、まじか…よ…ここで告白とかアリ…?
菅生先輩は笑顔でこう返した。
「僕もだよ。いつも笑ってて明るい愛楽麗ちゃんを見てると僕まで笑顔になれてね。…好きだよ、愛楽麗」
「菅生先輩…!」
笑い合い、抱きしめ合う2人。
ははっ、なんなんだよ僕…。
やっぱりただの幼なじみ…か。
後ずさりしようとして、思わず石を落とす。
慌てて拾うも、2人は既にこっちを見て驚いたような顔をしていた。
「…ごめん…聞くつもりはなかった。僕帰るから、2人で楽しみなよ…♪じゃあまた明日、愛楽麗…。」
愛楽麗と呼ぶことに、違和感があった。
彼氏でもないのに下の名前を呼び捨て。
それに、菅生先輩も…愛楽麗って呼んでる。
僕は…僕は夢幻と呼んだ方がいいのではないか。
「ま、また明日ね!空!」
その言葉には反応せず、僕は後ろを向いた。
そして、歩き出した。
…もう戻るのはやめよう。
卑怯なだけだ。
もう………………………
追いかけるのもやめよう。
惨めなだけだ。
どうせ僕だけ辛い思いをする。
そしたら愛楽麗は幸せになれる。
ならいいじゃないか、それで。
好きな人が幸せになるんだ…。
これ以上の喜びがあるか…。
「愛楽麗……くそっ…なんであんな奴…っ」
わかってる、ただの負け惜しみだ。
僕の場合、負け惜しみでカッコつけてるだけ。
…ハッ、情けない…。
「お兄ちゃん、それ取ってー!」
前から、小学生くらいの小さな男の子が話しかけてきた。
僕の足元に落ちている真っ白な紙飛行機。
僕はそれを拾うと、『どうぞ』と少年に渡した。
少年は笑顔で『ありがとう』と去っていった。
…今感謝されても…あまり嬉しくない…。
するとまた少年がやって来て、僕の目の前で紙飛行機を飛ばし出した。
何がしたかったのかわからなかったが、僕の足元にパタンと落ちた紙飛行機を、今度はそのままにして去っていった。
これは…僕にくれるという意味なのだろうか。
僕は小さく呟いた。
「ありがとう…」
そんな言葉、あまりに小さすぎて少年には聞こえなかったはずだ。
でも少年は、親の元でこちらを振り向き、グッドサインをしてニカッと笑って見せた。
僕はその紙飛行機を手のひらにおいて、また歩き出す。
カバンに入れた石と携帯が軽くあたりあう音がする。
「紙飛行機…か」
結局あの子は誰だったのか。
なぜこの紙飛行機を僕にくれたのか。
それは全くわからないが、結果オーライである。
意外にもよくできた紙飛行機で、形がしっかりしていてよく飛ぶ。
まるで、本物のミニ飛行機みたいだ。
ふわふわと空中を飛び、パタンと地面に落ちた。
僕はそれをまた拾い、また飛ばす。
真っ青な空に泳ぐ雲に重なり、一瞬見えなくなった。
「紙飛行機なんて久しぶりだな」
さっきまでの後悔やら憎しみやら悲しみやら苦しみはもうどこかへ消えていて。
僕は家までの帰り道、ひたすら紙飛行機を飛ばし続けた。
足元に落ちてはまた空を踊り、また落ちてはまた空を舞う。
紙飛行機は、僕の人生そのものなのかもしれない。
恋をして、失恋して、また恋を探す。
僕はまた…新しい恋に出会えるのだろうか。
時が戻る時。第2話