姫サマと王子サマ

姫サマと王子サマ

水の流れと共にあれ。

ーーこれは、父の教えだった。

      /姫サマと王子サマ

(これは、一国の姫と敵国の王子の昔話。

プロローグ#冷酷な姫と水の国

ーーー私は、水の国『テゥルースト』の姫、アルト=シルビア。
私の治めるこの国は、この世界の全ての水を統べると言われる水の神シャラスミィ様の創った国。
そして水資源が豊富。天然水はとても大事にされている。それから、勿論料理も絶品。そして国のあらゆる所に水路が巡り、どこの水を飲んでも平気な程、滑らかで美しく濁りが無い。
…そして、私はその清らかな水を見るとどうしても思い出してしまうのだ、あの人の事を。

*

ーーー私の父が三年前に死んでから、私は城の関係者達と共に暮らしている。
しかし、やはり父の死は私の中でかなり大きかったのだろう、私はその日から人を信用する事を捨てた。
誰にでも浅く適当に接し、笑顔を作って取り繕う。
それが、私。

*

「姫」
しかしそんな私にも、一人だけ心を許した相手がいる。
「…あぁ、シアか」
紅い扉の向こうから聞こえる優しい声。声のは扉を開けると、ニコリともせず真顔でお辞儀をする。
冷徹な表情とは裏腹に優しい声を持つ彼の名は、シアン=クルシオ。
いつも私のピンチに駆けつける、ナイトである。
…まぁ、人の手を借りない様に出来るだけ自分の事は自分でするのが私なのだが。

「…姫」
彼は溜息を漏らすと、珍しく困った様な表情を見せた。
「…見知らぬ奴らが、こちらの城へ接近中の様です。どうされますか?」

ーーーこの一言がきっかけに始まるこの物語の事は、まだ誰も知らない。

1#世界事情

「…なっ…
そ、その人達って、誰なの!?まさか、違法国侵入者じゃないでしょうね?」

*

この世界では、他国の者が勝手に他の国に立ち入ってはいけないと言うルールがある。それは、各国が自然にとって大事な『何か』を司っているから。
もしこのルールを破った者は『違法国侵入者』として牢に捕らえる事が出来る。
…まぁ、捕らえるかどうかはその国の主に決定権があるので、その辺は結構国によって差があるのだが。

しかし私は、そんな中でも違法国侵入者にはキツく罰を与えている。
それも、過去に一度お隣の緑の国で世界の緑を司る『深緑のオーブ』が奪われ、世界の草木が枯れてしまった事があるからだ。
まあ、その時は私達水の国が対処し、オーブを取り返す事ができたのだが…

『オーブ』と言うのは各国に伝わる自然を操る為の宝玉。それが悪用されると世界が滅ぶ危険だってあるので、オーブは世界中で厳重に守られている。

…しかし、時折オーブを狙うしょうもない奴らが現れる事があるのだ。
『世界征服』。この世界では普通に成す事だって出来てしまうのだから、大変なものである。

*

突然、勢い良く部屋の紅い扉が開いた。
「ア、アル様ーっ!大変なのよぅ!」
アルトと言う私の名前をアル、と呼ぶ彼女は、大きな猫目と尻尾、猫耳の生えた猫人間だ。
彼女は元々大きい猫目を更に広げて、恐怖に震えた顔をしながら手で口元を押さえたのだった。

2#緑の国の双子姫

「ミル…どうしたの?」
ミルフィー=メイフェ。彼女は猫族の女の子で、ある時から行動を共にしている。
「あ、あの子達よぅ、緑の国の!」
あの子達、と言うのは恐らく先程シアの言っていた者達だろう。それに、緑の国と水の国は協力国なので、敵では無い。しかし、このミルのビビりようをみると、訪ねてきた人物が一目で分かる。
「あー、ルリとマリーね」
私は笑うと、迎え入れるようシアに言いつけ、応接間へと続く廊下へと足を踏み出した。
*
「うおおおおモフモフーーー!!!」
訪ねてきたのは、幼馴染のルリア=ラズスペル(ルリ)とマリア=ラズスペル(マリー)だ。
この双子はお隣緑の国の姫で、私も仲良くさせてもらっている。
マリーは大人しくてほわほわしてて、どちらかと言うと可愛い感じだ。それに対して、ルリは元気っ子。そして…
「ひぎゃぁぁ、耳を触るなぁぁぁ」
ミルいじりが大好きである。
「ふふふ、ミルフィーちゃん待ってえええ」
二人は追いかけっこをしながら廊下へと出て行ってしまった。
赤を基調としたアンティーク調の応接間には、マリーと私の呆れた様な静寂が残る。
「…ごめんね、アルちゃん…ルリちゃんってば、いつもああで…」
「いやいや、良いのよ。ミルも猫族として、たまには運動しなきゃね」
お互いにため息をついて、私が自身の金髪の髪をいじり始めると、マリーが口を開いた。
「…あのね、アルちゃん。私達が今日ここに来たのは…」
「…分かってるわよ、闇の国の事でしょう?」
私は苦虫を噛み潰した様な顔をして、ソファーのクッションを抱いた。
「…うん。あの人達、また緑の国を狙ってるって、噂が…」
それだけ話して、マリーはクズクズと泣き始める。
ーー当たり前だ。オーブを取られた国への批判は、どんな罰よりも醜く酷いものなのだから。
私は向かいの席に座るマリーを慰める。

「…大丈夫。私がまた、守ってあげる」

姫サマと王子サマ

姫サマと王子サマ

軽めアクション&コメディ入りの恋愛ファンタジーです。 ここでの初作品なので、うまく書けたらなと思っております(^_^;) * 水の国の姫、アルト=シルビア。 国を治める身として、『人を信用する』という事を無くし自分に厳しくするアルトだが、ある日から敵国の王子であるテオ=キリテンがアルトに急接近。 国の命運と姫の運命やいかに…?

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 恋愛
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-26

Copyrighted
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  1. プロローグ#冷酷な姫と水の国
  2. 1#世界事情
  3. 2#緑の国の双子姫