時が戻る時。

不思議な体験

「へーっ!ここが…」
「そ。ここが僕の父さんがやってる宇宙空間体験広場。通称宇宙体験」
「ふぅーん。いい父親持ってんのね。」

長い髪を揺らしながら、夢幻 愛楽麗(むげん あられ)は腰をかがめて僕に言った。
僕は愛楽麗を見ながら思う。
『愛楽麗は、宇宙が好きだったんだな』
四津葉幼稚園で知り合った僕たちは、親たちが仲良かったため、2人で仲良くなるには時間はかからなかった。
僕は愛楽麗の事を信頼しているし、愛楽麗もたぶん信頼してくれていると思うから、今では親友だ。
その代わり、愛楽麗の恋は応援しなければならない。
愛楽麗は今、二つ上の先輩、菅生 雅臣(すがき まさおみ)先輩に恋心を抱いている。
ただの幼なじみ、ただの親友である僕、蒼井 空は、そんな菅生先輩に叶うはずもない。

「?空?どうしたー?」
「え?あぁ、何でもないよ。」
「そ?ならいいけど。ねぇ、展望台行ってみない?景色いいわ、きっと。」
「あぁ、そうだね」

僕はできるだけ笑顔で言葉を返す。
父が設立した宇宙空間体験広場。
宇宙に興味を持つ子供たちに、楽しく分かりやすく宇宙を知ってもらいたいという考えから生まれたらしい。

愛楽麗は楽しそうに展望台へ繋がる階段を駆け上る。
エレベーターを使えばいいのだが、あいにく故障して使えないらしい。
ここは3F。
展望台があるのは屋上の8Fだから…
果てしなく遠いな…。

「なぁ愛楽麗、少し休まないか…はぁ、はぁ」
「なぁに言ってんのよ男のくせに!ほら早く行くよ!」

陸上部の練習で鍛えられた足を持つ愛楽麗にとってはこんな階段なんてことないのだろうけど、上る途中、何人か壁にもたれて休んでいる人たちもいた。
僕は絵を描くのが好きなので絵画部に入っている。
運動オンチの僕にこの階段を休みなく上らせるのは無理な話だ。

「んもぉ、男なんでしょ!なら女子を担いで上るくらいの勢いで行かなきゃ!」
(それはやりすぎだと思うけど…。)

その場で足踏みをしながら、少し上で待つ愛楽麗。
僕は必死に1段ずつ上るが、もうそろそろ足がもげそうなのが本音。
やっとのことで愛楽麗に辿り着き、僕はその場に座り込んだ。

「なーにしてんの?誰が休憩していいなんて言った〜?まだここ6Fよ?」
「はぁ、はぁっ、も、もう休憩させてくれよ…」
「ダーメーよ。展望台は夜9時までなのよ?間に合わなかったらどーすんのよ!」
「まだ夕方6時だぞ…十分間に合うだろ」
「ゆっくり見たいと思わないの?もう、ほんっと情けない。いいわ、休憩させてあげる。」
「ほんとか!ありが…「ただし。」

ありがとうと言いかけた僕の口の前に愛楽麗の人差し指がピンと突き立つ。

「私は一人でもう行くわ。あんたは好きなだけ休憩してればいい。」
「えぇぇぇ!?それはないよーー」
「なにがないのよ!あんたの休憩のせいで人がいっぱいになって見られなくなったらどうしてくれるの!?」
「そ、それは…」
「責任も取れないのに自分の意見ばかり押し付けないでよねっ!」

それだけ言うと、バタバタと階段を駆け上がっていき、少しすると姿が見えなくなった。

「ちぇーっ、なんだよ愛楽麗のヤツ。」
「キミも可哀想だね。」
「は?あんた誰?」
「ボク?ボクは、キミみたいな可哀想な子にスペシャルプレゼントをあげている、季節外れのサンタさんって言ったとこかな」
「ほぉ。アイスランドからやって来たのか?」

僕が呆れてからかうと、そいつは言った。

「アイスランドか!行ってみたいなぁ」
「なっ。バカにするなよ!僕は子供じゃない!」
「ふぅん。これくらいの階段も休憩なしで上れないのに?」
「うるさい!僕の個性だろ!」

こいつ…初対面の分際でなんやかんや言いやがって!

「あら?お兄様!」
「ん?あぁ、霊歌。」
「ちょっとあんたっ!お兄様に何したのよ!」
「あはは、霊歌、大丈夫だよ。兄さんは何もされてないさ、兄さんがしたんだよ。」
「飛んだ迷惑だ!もういいだろっ」
「あー、待って!これ、肌身離さず持っといて。」

渡されたのは、薄い緑色のガラスに覆われた小さな薄紫の石。
それはとても綺麗で…僕はそれを握りしめて階段を上り始めた。

「あ!それは……にあげたら……からね!キミの……が……るから!まぁ、出来ないようにしといたけど。」

とてつもないことを言っていたそいつの話なんて、僕にはもう聞こえなかった。
展望台に着くと、まだ望遠鏡から景色を眺めている愛楽麗がいた。

「愛楽…「愛楽麗ちゃん!」
「あ、菅生先輩っ♡」
「やぁ、君も来てたんだね。」
「はいっ♪幼なじみの父がここを設立したので、その招待で♡」
「そうかそうか。それで?その幼なじみは?」
「…………僕です」

馴れ馴れしく愛楽麗に絡む菅生先輩に苛立ちを覚えながら、苦笑いで声をかけた。

「あ、そうだ愛楽麗。これ、いる?」

ポケットから、さっきもらった石を出す。
愛楽麗は一瞬目を輝かせたが、すぐにそっぽを向いて

「いらないわ、私、あなたからは何ももらいたくないの。そ!れ!に!それ、そこらへんにあった石でしょ。ちょっと磨いたからって騙されると思わないで」
「え?違うよ、これは宝石だよ。ほら、綺麗だろ?」
「きゃあっ!やめてっ!」
「やめなよ空くん!嫌がってるだろ!」

愛楽麗をかばって僕の目の前に来る菅生先輩。
こういう態度が腹たつんだ…!

「いいんです菅生先輩。空も、私が喜ぶ都思ったんだと思うから。それより空!下覗いてみて。すっごい綺麗なの!」
「ん?どれどれ…」
「…邪魔しないでよ?」

下を覗くために身を乗り出した瞬間、愛楽麗が僕の方を軽く叩いた。…いや、押した。
僕はバランスを崩し、そのまま下へ落下。
みるみるうちに地面が近づく。
そして見えた。
愛楽麗が…菅生先輩と一緒に僕を見て口角を上げていた。
…あぁ、死ぬんだな。
このまま…僕は……。

菅生先輩…愛楽麗をよろしく…。
そしてせめて伝えたかった。

愛楽麗………僕は愛楽麗が好きでした。

時が戻る時。

時が戻る時。

読んでみてください! これは本気で本気で本気で自信があります!

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更新日
登録日
2015-06-26

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