孵化

今日もたくさんの人が生まれそして死んでいくのを、柔らかいベッドのなかで、ただ、ただ、ながめている。
くだらない。私が子宮から生まれ落ちた瞬間から、いつか私が土に包まれるその瞬間まで、私はずっと求め続けている、かつて私が居たはずの胎内を、水中を、殻を。
うまれてから私は傷物になった。こうしてまた一文字、一文字、文字を生み出すたびに傷は増えていく。
誰も読まない。誰も私を呼ばない。誰も私を知らない。
あの頃の私は、どんなに、どんなに美しかっただろう。
人知れず生まれ、人知れず死んでいく人、人、人。私はその人を知らない。誰も私を知らない。
ふとんにより深くもぐり、暗闇をみつめる。
お母さんの顔が、もう、思い出せなかった。

孵化

孵化

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-26

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