黄昏時の電車窓

黄昏時の電車窓

最近の世の中をヤンキーと委員長が切ります。

「空見る余裕もないのかな」


ガタンゴトンっ──ガタンゴトンっ──。

「あ。A君」
「お、委員長」
「奇遇ですね。同じ電車ですか」
「そうみたいだな。相変わらず読書してんのか」
「はい。読書は私にとって酸素のようなものなので」
「なんだそれ。よくわかんねぇな。でも不思議だな。俺みたいなやつと委員長みたいなやつがこんな風に喋り合う仲なんて」
「失礼な。私をどういう人だと思ってるんですか?」
「地味で根暗で静かで、THE,学級委員って感じのメガネっ娘」
「うーん。あながち外れてはないですね」
「だろ?」
「ですがそこに可愛いとか、清楚とか、その辺の言葉を入れてもいいんじゃないですか?」
「かっかっか!見てわかることは言わなくていいんだぜ」
「チャラっ」
「チャラくてなんぼだ!元気に生きないと面白くねぇだろ」
「元気すぎますよ。髪の色も耳も鼻も。ガチガチのヤンキーじゃないですか」
「これはもう中学からだから仕方ねぇ。俺のポリシーだからな」
「それがAくんのポリシーなら、さっきあげてもらった私の特徴が、私のポリシーです」
「へぇ…そうなのか。貫けよ」
「もちろんです。貫きます」
「それよりよ委員長。最近俺悩みがあってさ」
「悩み…。A君にも悩みがあるんですね」
「そうなんだよ」
「どんな悩みですか?」
「街を歩いてるとな、いろんな奴が俺に肩を当ててきやがるんだ。万人から喧嘩売られてんだぜ俺」
「ヤンキーといえば喧嘩でしょう。ガツンと言ってあげたらどうですか?」
「それがさぁ、女だったり、中年のサラリーマンだったり、地味…委員長みたいな高校生だったりで、あんまりガツガツいけねぇんだよ」
「地味のところの訂正いりますか?」
「痛い痛い痛い本の角はやめろって」
「ふぅ。うーん…そうですね。何が原因かというのは、わかります」
「俺が弱そうに見えるからか?」
「強い弱いとかではなくてですね。A君みたいな人たちの言葉を借りるなら『どこ見て歩いてんだコラ』です」
「…お、おう」
「はぁ。簡単な話、下を見て歩いてるんですよ。街の人は」
「なるほど。前を見てねぇってことか」
「そうです。いつの時代からか分かりませんが、街を歩いていると思うんです。『なんでみんな下を向いて歩いてるんだろう』って」
「そんなこという委員長も下ばっかり見てるんじゃねぇか?」
「私が下を向いていたら、街の人が下を向いていることに気付くわけないでしょう」
「あー…それもそうだな」
「私でさえ前を向いてるのに。歳をとると悩みが増えるんですかねぇ」
「悩んでるだけじゃねぇと思うな俺は」
「と言いますと?」
「たぶん、つまらねぇんだよ。毎日同じことの繰り返しで。毎朝同じ道を通って、決まった時間に昼飯食って、夜になったらまた同じ道を帰る。休日以外は俺らでさえもだいたい同じだろ?学校行って、遊んで、帰る。ほらどうだ?」
「…まともなことも言えるんですね。正直驚いてます。私もそんな感じのことを思ってました」
「だろ?意外と頭いいんだぜ?俺」
「そうですか。でも一つだけ違うところがあるとすれば、学校は学ぶところです。だから私は、学校に行く、読書する、帰るです」
「委員長も学んでないじゃん」
「私も真面目じゃないんで。ふ真面目なんで」
「そうだな。その辺のジミーズとはちょっと違う気はするぜ」
「ジミーズに変わりはないですけどね」

ガタンゴトンっ──ガタンゴトンっ──。

黄昏時の電車窓

とある物語から抜き出したような文章の一部を書くのが最近の僕の流行りになりつつあります。
会話文って書きやすい。非常に書きやすい。

黄昏時の電車窓

大人と子どもの境目の歳に思ったことを、ふ真面目と不真面目に語らせました。

  • 小説
  • 掌編
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-26

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