失着、正着
(※失着とは将棋などの用語で、状況を悪くするきっかけになってしまった自分の手、正着とはその状況での正解の手のことです)。
入口を間違えたがために、そのあと、ずっと間違った方向に行ってしまうことがある。
ある人がある時、あることに気が付いた。
何に気が付いたかというと、社会のあり方などについて偉そうなことを言っている人間は、実は知ったかぶりをしているだけの薄っぺらい人間だ、ということに気が付いたのだ。
そこで自らを振り返ればよかったのだが、それを出来なかったのが失着。
その人はそれ以降、社会に関してその手の見方をしている人たちを見下すようになった。
「こいつら、一皮むけば、ただの薄っぺらな知ったかぶりだ。こんな連中の言うことを、信じる必要は無い。耳を貸す必要も無い」
けれど実はその人自身、同じようなものだった。
先に書いた、見せかけだけの人間の薄っぺらさに気付いたきっかけは、その人が相手に対して質問をしてみたからだったのだが、その質問自体、どこかでたまたま耳にはさんだ、とりたてて確かめもしていない、薄っぺらな情報をただ受け売りして質問してみただけだったのである。
だから本当は、相手の薄っぺらさに気が付いた瞬間に、自分自身を省みていれば、<人はついつい時流などに乗って、よく分かりもしないのに偉そうなことを言ってしまうものだけど、それは忌むべきことなのだ><そういったことに注意しなくてはいけないのは、他人も自分も同じだ>と気付けたはずなのだ。そうすれば、ただ単に他人を見下すだけでなく、自分自身の向上にもつながったであろう。
それをしなかったがために、自分は他人を見下しながら、しかし、自分の中にも同じような未熟さがいまだに残っているということには気付かずに、ただただ、<俺は奴らより上だ>と勘ちがいをしているような人間になってしまった。けだし、残念なことではある。
<了>
(※<けだし>の用法が合っているかは微妙ですので、ご注意を)。
失着、正着