出会い系シンドローム

出会い系シンドローム

今から約23年ほど前。
世の中にはNTTが運営する「伝言ダイヤル」なるものがあった。

携帯が普及していない頃、外出先で連絡を取りたいと思った時にメッセージのやり取りが出来るようにとNTTが始めたサービス。仲間内で共通の番号(6桁から10桁)と暗証番号を決め、自宅や公衆電話からこのセンターにアクセスし、決めた番号と暗証番号をボタンで押して入力するとメッセージを録音したり再生出来るというものだった。当然ながら、これらは待ち合わせ場所での連絡や親から子供への連絡などを想定して作られたもの。

当時はテレクラ(テレフォンクラブ)がまだ世に出てない時期で、男女が出会う方法が今ほどなかった時代。
このサービスは瞬く間に本来の目的とは異なる使われ方をしていた。

共通の番号を決めて使う本来の使われ方の代わりに「オープンダイヤル」と言われる番号が使われ、男女問わずにこの番号を押して自分の自宅の電話番号を吹き込んでは電話を待っていた。

オープンダイヤルとは?

誰とも申し合わせ出来る訳ではないので、みんなそれぞれに想像力を働かせ、6桁から10桁のボックス番号を共有していた。4桁の番号を2回繰り返したり、ゾロ目も人気だった。例えばボックス番号12345678、暗証番号1234
など、誰も教えたわけじゃないのに、無い頭をフル回転させてこれらの番号を想像し、共有していたのだ。

面白かったのは語呂合わせ系で、オナニートリプルと呼ばれる番号(ボックス番号07210721、暗証番号0721)や、イクイクトリプル(ボックス番号19191919、暗証番号1919)、いい女トリプル(ボックス番号11071107、暗証番号1107)など、本当にみんな想像力を働かせて良く考えたなと思う。

これらの伝言は吹き込んでから8時間で自動的に消去されるから、8時間はみんなメッセージを聞いてくれるのだ。
10件吹き込まれるとボックスがいっぱいになって吹き込めなくなるので、最も古いメッセージが消えるのを待ってから吹き込むのが争奪戦になっていた。いつもメッセージは10件めいっぱいだった。

今からお送りするお話は、そんな伝言ダイヤルに興味を持った1人の男子高校生の話である。

きっかけ

僕は普通の高校生だった。

ただちょっと他人よりは性に対する興味が旺盛で、でもそんなに身体を動かすのが好きではなかったので、部活に明け暮れるような事もなく学校が終わると電車に乗って早々と帰宅する日々を過ごしていた。

時々帰り道にある大きめの本屋に立寄り、「成人雑誌コーナー」をチラチラと見てはその表紙が気になり、読む気なんて全然ないTV番組雑誌を手に取っては人が立ち去るのを待ってからパラパラとめくり、その内容にちょっと興奮するような小さいドキドキ感を味わっていた。


今日も本屋で人目を盗んではA4サイズのエロ本をパラパラとめくっていると、目に飛び込んで来た大きな記事。


「悪用禁止!淋しい女と簡単に出会える・ヤレる!その方法を完全公開!」


そんな衝撃的な内容を見せられて誰が見過ごせというのか。


これまでは人の気配を感じるとどんなに読んでいても素早く棚に戻し、それこそ口笛を吹くような勢いだったが、今日の僕はどうしてもその本を棚に戻せないでいた。それだけ高校生の僕には興味をそそる内容だったのだろう。見出しだけ見て家に帰るなんて出来ない。


確か数人が背中を通り過ぎていた気がするが、制服姿の僕が読む内容なんてどうせ通りすがりに読める訳が無い。大きく拡げないで小さく拡げ、その記事を熟読していった。

最後に書いてあった電話番号。#から始まる番号なんて初めて見た。でも4桁なら覚えられる。

僕は呪文を唱えるように#8501とつぶやきながら、そそくさと本を棚に戻し、急いで出口に向かうと自転車に跨がり公衆電話を目指した。いつもなら道を訪ねる人がいたら絶対に無視しない位人の良い僕だが、今日だけはごめん、いても無視するよという気持ちで。


どうしてこういう時には公衆電話が何処にあるのか分からないんだろう。


毎日毎日通う通学路なのに景色の一部になってしまっているのか。

赤色。
いや、黄色だ。

いや違う、テレホンカードが使える緑の奴だ。

しかも誰にも会話を聞かれないようにしっかりとした電話ボックスがいい。
そんな事を考えていたらさっきの番号を忘れてしまいそうだ。

ほどなくして目の前に目的に合致した公衆電話が現れた。
望み通りガラスで4面囲まれていて、会話だって外からは聞かれはしない。


とても悪い事をしているような気持ちと興味が交錯する。


そんな思いを胸に公衆電話に入ると、素早くカードを入れ、ダイヤルした。

初めての会話

「こちらは、NTT伝言ダイヤルです。6桁から10桁の番号を押し、最後にシャープを押してください。」

こうして始まるガイダンスに、高校生だった僕は胸の高鳴りを抑えられず、手が震えた。

手始めにまずは12345678と入れてみた。

「暗証番号を入力して下さい」

ここは1234だったよな。その位は覚えてる。

「新しいメッセージからお伝えします。14時20分のメッセージ。」

ちらりと時計を見た。

メッセージ再生開始まで2秒程度の時間なのにカップラーメンでも作れるんじゃないかと思う位長かった。


「こんにちわ。一人暮らしの19歳の大学生です。今日は彼に振られてしまって家で寂しいです。誰か慰めてください。番号は、04**・・」

まさかの自宅番号。学校のカバンから急いで筆箱を取り出し、全く役に立ってない歴史だったかのノートの最後を引きちぎり、走り書きした。

当時は女性も比較的気軽に自宅の電話番号を吹き込んでいた。今のように携帯など無いし、他に連絡手段が無かったというのもあるが、今ほどすさんでいない時代だったからというのもある。

その後のメッセージなんてどうでも良かった。初めての経験で女子大生の番号を聞いちゃったんだ。掛けない奴はいないだろう。急いで左手で公衆電話のフックを叩き、出て来たテレホンカードを挿入口に乱暴に突っ込む。

市外局番が同じだから同じ市内だ。近かったら逢えるかもしれない。番号を叩き、一回目の電話をする。

 「プーッ、プーッ、プーッ」

くそっ、話中だ。キャッチが無い時代だったのでそんなの普通だった。先を越されたか。話し始めたらきっと相当長いだろう。ここは間違って切っちゃう奴がいたらいいな、等と考えながらめげずに何度も黙々と番号を叩いた。

急にそのペースを崩すかのように、一瞬の無音の後呼び出し音が聞こえた。

 「プルル・・」

朝の朝礼で倒れる女子ってこういう状態なんだろうか。自分の目の前が一瞬白くなり、なぜ呼び出し音が鳴っているのか理解出来ない。その位自分は興奮していた。

「ガチャ」

 「・・。もしもし?」

僕から見たら大学生は年上のお姉さん。話す機会など無い相手と今こうして電話で話をしている。声は可愛いが、どこと無く声に張りが無い。

「あっ、も、もしもし・・」
「はい」
「はじめまして・・あの、伝言聞いたんですけど・・」
「あ、はい・・」
「初めてなんで何話していいか分らなくて、興味本位で掛けてみたんですが、本当に話せるんですね・・」

僕は本当に何を言ってるんだろう、そんな事言ったら切られるだろうと思うようなどうでも良い事をブツブツと言っていた。

その電話口で、彼女は泣いていた。

そんな状況にも気づかず、自分の事を話してしまった。バカすぎる。

「・・泣いてるんですか?」
「・・うん。ちょっとね。でも大丈夫だよ。もういっぱい泣いたから」
「そんな・・やっぱり彼が忘れられないんですか?」
「・・忘れたいよ。でも、一人で部屋にいると寂しくて涙出てくるんだ。」

普通に考えて、彼が忘れられないんですか?なんて正直に聞く奴は大バカだと思うが、切られないように話題を繋げようと無い頭を使って精一杯切り出した言葉がこれだった。

鼻をすする音が段々大きくなってきた。

「一人でいると、きっと気持ち変わらないでしょ?」
「まぁそうだけど・・」
「あの、もし僕で良かったら愚痴でも何でも聞きますよ!公園とかで。」
「公園・・?どこにいるの。今」
「**公園です。そこの公衆電話から電話してます」
「あ、わかるよ。あたしの家、そこから近いから」
「そうなんですか。それじゃ公園出てきませんか?」
「え・・その前に声若いけどいくつなの?」
「僕、いま高1です」
「そっか。あたしは19。大学生だよ」
「年下のガキじゃ、話聞いても意味ないですか・・・」
「・・そんな事ないけど、泣いた顔で公園は嫌だな・・」
「そうですよね・・」

こんな会話が続いた。

今の今まで泣いてた人を公園に呼び出すってどういう神経してたのか今では思い出せない。でも必死に電話の前で泣くこの女性をどうにかしなくちゃと思っていたのは確かだった。

「ねぇ、うちに来てくれないかな・・」

一瞬耳を疑った。まだ話して10分も経過してない高校生を家に呼ぶのか。

「でも、いいんですか?僕なんかが家に行っても」
「うん・・・年上だったら怖いけど、4歳も年下だからいいよ」
「わかりました」
「・・公園からすぐだから。公園の先にあるコンビニの横。」
「あ、わかります!」
「そこに着いたら自転車のベル鳴らして。聞こえるはずだから・・」
「はい!」
「外には出て行けないから、窓から顔出すね」
「わかりました」
「じゃ、後でね」
「急いで行きます!」
「・・急がなくていいよ。気をつけてね」

というなり、電話は切れた。


はやる気持ちを抑えながら、目印のコンビニを目指した。

秘密の花園

コンビニに到着し、隣にあると言われたアパートを見回したが、コンビニの両方ともアパートになっている。

さて一体、どっちの前に行ってから自転車のベルを鳴らせばいいのか。片方はあまり綺麗ではない感じで、もう片方はワンルームっぽい感じだ。大学生ならきっとこっちに住むだろう。

そう判断し、ワンルームの方へ行く。
目の前に到着し、自転車のベルを鳴らした。

「ジリリーン」

・・・。

反応が無い。聞こえないのか。また鳴らしてみた。

「ジリリーン」

すると、手前から3軒目のドアがスッと開いた。顔が出てくると思ったが、出てきたのは手先だけ。手首をくいくい振ってここだよと合図をしてまたドアを閉めてしまった。なぜ閉めたのだろう。後ろめたいのか?

自転車をコンビニに停めさせてもらい、お姉さんの部屋へと足を向けた。ドアの前に立ちって軽くノックをする。

「コンコン」
「・・どうぞ」
「あ、はい、お邪魔します・・」

そしてドアを開け、まず用心深く入り口から様子を伺う。一応、お姉さん以外に人影は無いみたいだ。少し安心した。

「入ってきて・・」
「あ、はい!!」

自分の妹の部屋以外に、女性の住む部屋なんて見た事が無かった。ましてや自分より年上で、一人暮らしの女性の部屋なんて。高校生だった僕には全く縁の無い所で、見るもの全てが新鮮だった。ヘアスプレー?香水?のいい香りがした。

ここで初対面。どんな女性なのか・・口から心臓が出そうな感じだった。

「はじめまして・・・」

部屋の中で待っていたのは、とても可愛い顔をしたセミロングの女性だった。軽くソバージュが掛かっていたのは、当時の女子大生の流行りだったからか。

顔を見た瞬間好みじゃなかったらどうしよう、なんて贅沢な事を考えていた。でも、そんな事は目的じゃないんだ。この女性を慰めなくちゃ。

「どうも・・・初めまして」
「アパート、すぐに分かった?」
「えっと、最初どっちか迷ったんですけどきっとこっちの方が綺麗だから」
「そう、すごいね、正解。」

お姉さんはさっきよりは少し元気が出ているようだった。少なくとも涙はもう出ていなかった。

「何か飲む?」
「あっ、はい何でも・・」

お姉さんは台所にある小さい冷蔵庫に向かった。
興味が尽きない僕は、キョロキョロと部屋を見ていた。

「何か珍しいものでもあるの?」
「いや、あの・・女性の一人暮らしなんて見慣れないので・・」
「そっか。まだ高校生だもんね」
「それより、もう少しは落ち着きましたか?」
「うん、結構泣いたけど今はだいぶすっきりしてる。」

「彼とは長かったんですか?」
「1年位かな。3日前までこの部屋に一緒に住んでたんだ」

だとすれば彼の生活感があっても良さそうだが、全く感じられない。きっと全てを整理したんだろう。


決して大きくない部屋にベッドがあるので殆どをベッドに占領されていて、その横に小さなテーブル。
僕はそのテーブルの前に座り、お姉さんはベッドの上にクッションを抱えながら座りこちらを向いて話をしていた。

他愛も無い話をし、互いに緊張の中で笑った。さっき初めて会ったばかりの相手とは思えない位、次から次に矢継ぎ早に色々な話をした。

沈黙が怖かったのだ。

もし沈黙がきっかけでお姉さんにため息をつかせちゃいけない。何の為に自分はここへ来たのか分らなくなる。
もし黙ってしまったらどうやってその場を取り繕っていいのか分からない。

ただひたすら無我夢中だった。

1時間ほどおしゃべりをした時、とうとう自分の頭から話題が失せた。出身の話、芸能ネタ、ニュース、全て出尽くした。

ついに恐れていた沈黙の時間が出来てしまった。
マズイ・・どうするか・・

今度はお姉さんが口を開いた。

「ねぇ、高校生の男の子って、やっぱり自分でエッチな事するの?」

「え??」

誘惑と不意打ち

なぜいきなりそんなストレートな事を聞くのか。
こっちはまだ童貞で、経験など無い。

エッチな事する=自分でする、って事以外に答えようが無いのだ。つまり僕はそのまま一人エッチをするのかという意味で聞かれたのかと思い、素直に答えた。


「そりゃ・・まぁ時々しますよ」

「えー!どんな風にするの?」
「どんなって、エロ本みたりとか・・」
「ちがうわよー、彼女とって事。」
「えっ!あー!・・彼女いないんで」
「そうなんだ・・何かちょっと意外だね」
「どういう意味ですか?」

「彼女いそうなのに」

「クラスに女子5人しかいないんですよ。理系なんで」
「そりゃ競争率高いよね」

それからクラスの女子の話題になって、体育のときに着替える時は女子が外に出るのか等、そんな事は覚えているがそれ以外にこの話題から発展した事は覚えていない。

再度話題が尽きた。
そしてまたお姉さんが唐突な質問をした。


「あのさ・・・一つ聞いてもいい?」


「何ですか?」
「さっき一人でエッチな事するっていったじゃん」
「・・はい」


「どういう体勢でするの?」

「・・は?」

「男の子ってどうやってするのかずっと気になってたからこの際聞きたくて」
「そんなの・・言えないですよ」
「えーなんで!いいじゃない。簡単にでいいから説明して」
「・・体勢なんて口で説明できないでしょ」 


「じゃ、そこでやってみてよ」
「えぇ?」

この人さっきまで落ち込んでたんじゃないのか。
どうしてこんなにエロネタばかり振って来るんだろう。

でも、元気になってくれたならそれでいい。むしろ泣いてるよりは綺麗なお姉さんとエロ話出来る方が楽しい。


でも、自分の一人エッチの体勢を聞くなんて・・・・正直困った。


「いつも床に寝転んでやるんじゃないんで・・・無理です」
「じゃぁどこでしてるの?」
「ベッドを背もたれにして、床にすわってします」


あぁ・・・恥ずかしい。
赤裸々に自分の一人エッチの事を話さなくてはいけないなんて。


お姉さんはまるで自分が興味を持った物をいじる子供のように、僕を質問責めにして色々な要求をしてくる。とても恥ずかしかった。


「そこに座ってないでこっち来てここに腰かけなよ」
「いや、ここでいいですよ」
「別に座って私に一人エッチして見せてって言ってるわけじゃないじゃん?」
「ここに座って話続けるだけだから」


そう言って、お姉さんは普段家でやっている体勢通りに再現させようと、ベッドを背もたれにして座るように命令してきた。


仕方なく言う通りに立ち上がり、ベッドにもたれるようにして床に座る。
必然的に自分はベッドとは反対のテーブル側を向く事になった。


「お姉さんの顔、見えなくなっちゃいますよ・・・」
「じゃあ振り向けばいいじゃん」
「首が痛いから、体ごとひねっていいですか?」


「ダメ。」


なぜ体ごとではダメなんだ。その方が楽に決まってる。しかしここは従おうと思い、体勢を整えて首だけお姉さんの方を向いた。


座っていたはずが何故か横たわってる。

横向きでこっちを見ているのだが、異常に顔の位置が近い。そんな近くなくていいはずなのに。

しかしそれ以上に洋服の胸元が大きく開いてもう少しで見えそうだ。

もうそっちが気になって仕方ない。
身体ごと横向いて、もっとその胸元を拝みたい。


「やっぱり首痛いですよ」
「だーめ。そのままで」


前を向いてまた振り返ると、何故か胸元のチャックが振り向く度に徐々に下がっている事に気が付いてしまった。


もしかして、このお姉さんは誘ってるんだろうか。


僕は女性経験がこの頃はなかったけど、エロ本でこんな状況は見た事がある。まさかその状態に僕がなっているとは。

しかし襲うったってどうしていいか分からない。お姉さんの上に乗っかって、チャック下げちゃえばいいのか?

いや、そしたら実は勘違いで、強姦扱いされても困る。

大体、この人はさっきまで泣いてたんだ。悲しい気持ちだったんだ。
それなのに上に乗って襲い掛かるなんて絶対拒否されるに決まってる。



そんな事を考えながら話していたらまた首が痛くなったので、少し長めにテーブル側を眺めながら話していた。

お姉さんがベッドの上でガサガサ動いている。

僕は前を向いているので、背後で何をしてるのか分からなかった。
あんまり目を合わせないで話してるのも感じが悪い。


やはりベッド側を向こう。


その瞬間、背後からお姉さんの手が私のおでこに指を乗せた。
そっと優しく、でも少し強引に頭をグイッと後ろに反らした。


僕の目には天井が映り
後頭部がベッドに押し付けられ
眉毛の方から気配を感じ
接近したお姉さんの顔が近づく。


一瞬の事なのにまるでスローモーションのように感じた。


直後に、僕の口はそのお姉さんの温かい唇で塞がれた。

キスと温もり

情けない話だが・・。
それまでキスを経験した事がなかった僕は、逆さまに見えるお姉さんの顔が近付いて来て首しか見えなくなるその状況が全く飲み込めずにいた。

お姉さんはそんな戸惑う僕の事をあざ笑うかのように、次々と僕が経験した事の無い事を仕掛けてくる。

明らかに楽しんでいるようだった。

お姉さんの温かくて柔らかい舌が僕の唇を掻き分けるように差し込まれ、まるでパートナーを探すかのごとくゆっくりと口の中を動き回った。

狭い中で逃げられる訳もなく、僕の舌を捜し当てると、さっきまで柔らかかったはずの舌が急に硬くなり、執拗に掻き混ぜるように絡めて来たのだ。

それは例えるならばミルクを注いだコーヒーを混ぜるスプーンのように、縦に動かし円を描くように表裏を変えて入念に、何度も。


キスってこういう風にするものなのか。


暫く状況が飲み込めなかった僕だったが、この執拗な「舌の絡み付く動き」を感じている間に段々と我を取り戻し、自らの感覚を理解するようになっていた。

視覚はほとんど奪われている。見えるのは顎首のラインのみ。触覚は舌が全て。嗅覚はシャンプーと思われる女性特有のいい香りが支配してる。

五感のうち三つをこの目の前の人に奪われているのだ。

残された聴覚は、うっすら聞こえたテレビの無意味な(少なくともその時の僕には)トークを拾っていた。


そのとき、ふとお姉さんの舌の動きが止まった。


唇を離したお姉さんは、残った聴覚をテレビの雑音に占領させてなるものかとでも言いたげに、新たなターゲットに僕の耳を選んだのだ。

軽く耳たぶをペロッと舐めた後、さっきより更に硬く一段と細くした舌先を僕の耳へ差し入れてきたのだ。

一瞬で全身の毛が逆立つようなゾクゾクとした感覚に襲われ、急激に体温が下がった僕の耳を、今度は少し高めの温度で柔らかい舌が耳穴を構わず攻めてくる。

感覚を研ぎ澄ます為には温度差があるほうが人は敏感になるという事を身をもって教わった。これが後の僕の性経験の成長に大きく貢献する事になるとはこの時思いもしなかったが。

次の瞬間、恐らく生音で聞いたのは初めてと思われるいやらしい擬音と声が耳の中全体に響いた。

「ンンッ…」
「ピチャピチャ…ヌチャヌチャ…」
「ハァーッ…ハァーッ…」
「ジュルッ」

擬音の間に時々差し込まれる熱い息と切ない喘ぎ声。
僕は何もしていないのだから、意図的に発してる声だろう。


片側の耳はベッドに押えつけられるように塞がれている。

モノラルでしか聞こえないその音が、僕の性的興奮を高めるには十分すぎるほどいやらしく、制服のズボンの中身がメリメリと音を立てて膨らんで行くのをされるがままに許すしかなかった。


「ねぇ、可愛い…いじめたくなっちゃう…」

「いじめるって・・どういう意味ですか」
「いいから」


そう言うとお姉さんはベットから降りて僕の横に座った。

散々左の耳を弄られていたが、今度は右側に座ったので右の耳を頂こうという事らしい。

既に僕の耳は唾液まみれにされており、プール後の耳水抜きを失敗したような感覚になっていた。

お姉さんは僕の右耳を舌で優しく攻撃しながら僕の下半身に手を伸ばし、ズボンのジッパーを徐々に徐々に下げていった。


このまま、お姉さんにされるがままなのか・・・・とそう思った。
未だに女性を知らない僕にとってその光景はあまりにも刺激が強過ぎだった。


「ジッ、ジジッ・・ジッ・・」

どうして一回ですぐに下げないのだろう?

この時は女性に焦らされたり虐められるような感覚というのが全く分からなかった。最後までジッパーが下げられてボタンを外された僕は、体育座りのような情けない姿で、されるがままに応じるしか無かった。

足首の所まで脱がされ、パンツのみとなった姿。情けない。
そんな僕の耳元でお姉さんは一言つぶやいた。


「ねぇ、いい事してあげる・・・」
「えっ?」


そう言うと、お姉さんは耳から素早く唇を離して僕の股間に顔をうずめていった。

パンツの窓から突き破りそうな程固くなった僕の下半身は次の瞬間急に空気に触れ、間髪入れずに体温より少しだけ湿った温かさを感じた。

これまで味わった事の無いような感触が、下半身を駆け巡っていった。


ぽってりとした柔らかい唇。
それが生温かく、ヌルヌルとしていて絡みつく。


舌の動き、全体を包むようにしっぽりと咥えこみ、
早く動くわけではなくじっくりねっとりと僕を攻撃する。


「ジュポッ、ジュポッ・・」


いやらしい音が決して広くない部屋中に響き渡った。

もちろんフェラを知らなかった訳ではない。
それまで何度もビデオや本で見てきた。本物以外は。

でも、今目の前で繰り広げられているこのリアルな光景。
しかも見えるだけでなく、肌で感じている。

優しく扱われているような感じでとても気持ちがよかった。

想定外

お姉さんは下から僕を見上げるように、何故か目線を逸らさずじーっと僕を見ながらフェラに夢中になっていた。


「高校生にしてはオチンチン大きいね・・・」

「大きくなったとき比較したことないんで・・・」
「ううん、大きいよぉ・・すごい・・」
「あぁ・・そこ気持ちいいです」
「フフフ・・」


気持ちよさが徐々に高まり、もう少しでイッてしまいそうな感じになった。

初めてフェラをしてもらったが、毎日猿のようにオナニーにふけっていたせいで天然の遅漏になっていたようだ。お陰でお姉さんの舌の動きをたっぷり堪能する事が出来た。

黙々と舐めていたお姉さんは、フェラをやめて体勢を変え始めた。


そろそろ上に乗ってくるのかな・・


すると何故か僕の横に再度座り、また右耳を舐めてきたのだ。

「ねぇ・・・」
「はい・・(来るぞ・・ドキドキ)」
「自分で握ってみて」

「はい?」

「いいから、自分で握りなさい」
「・・はい」

仕方が無く言われた通りに自分のを握り締めた。

「最後は自分で出すのよ」
「えぇぇぇぇ!!!」
「私は射精する瞬間が見たいの」
「でも・・・」
「私がお手伝いしてあげるから」

と言うと僕に激しい手の動きを強要してきた。これじゃ普段のオナニーと何も変わらない。何が悲しくてお姉さんの家にまで来て一人でシコシコしなくちゃいけないのだ?

お姉さんは構わずに僕の腕を握り、上下に動かし続ける。

同時に僕にキスをして、僕はお姉さんの柔らかくて温かい唇と舌の感触を皮肉にもまた上半身で感じるはめになった。


まずい、我慢するのも限界だ・・・


その後、唇を離したお姉さんは僕の口を手で塞いできた。
隣りの部屋に聞こえるからか?

「ウグッ、ウグッ・・」
「なぁに?何を言ってるの?」
「アフッ、アググ・・・」
「聞こえないわ」

当然だ。僕の口はお姉さんの手で完全に塞がれているのだから。

「ア゛グッ!ン゛フッ・・・!!!」

もう限界だった。


お姉さんは急に手を離すと、僕のそそり立ったものを凝視した。
僕は握り締めた手を緩めることなく、最後まで動かし続けた。

勢い良く精子が発射され、目の前のテーブルはおろか、先にあるTV画面まで飛び散り、ドクドクと果てた。我を忘れて無我夢中に快感の中に僕はいた。


だが次の瞬間、一気に現実に引き戻された。


「ハッハッハッ!!!」


お姉さんが爆笑しだした。一瞬何が起こったのかと思った。


「ねぇ、何射精してんの?ばっかじゃないの?」
「これだからさぁ、男って嫌だよね。ほんと気持ち悪い!!」
「もう二度と遊びにこないでよ、クソガキ。」


僕は全く状況が読み込めていなかった。


何となく理解したのは、さっきまでエロモードだったこの目の前のお姉さんは今は別人のようであること。そして情けない姿で射精したままの僕は馬鹿にされる対象で、指までさされて笑われていた。


逃げたかった。とにかくその場から逃げたかった。


辱めを受けた仕打ちとしては心に負った傷があまりにも痛く、アソコを拭くことも忘れて無我夢中でパンツを上げ、急いで制服を穿いてカバンを持って飛び出すように、お姉さんの部屋を出た。

コンビニに停めてあった自転車を急いで出し、最初に電話した公園までダッシュした。

公園に着いてベンチに座り、ようやく自分が今まで何をしてたのか振り返りながら、なぜあのお姉さんは豹変したのかをずっと考えた。

・・全く分からない。

きっとそういう性癖というか精神の持ち主で、男が騙されて言いなりになる姿を楽しむのが興奮するのだろうか。


人間なんて十人十色、そういう人がいても不思議ではない。


大人の女性って、優しかったりエロかったりするだけじゃないんだ、こういう人も中にはいるんだ、と初めて感じた日だった。もうこのお姉さんの事は忘れよう。嫌なトラウマを一生引きずるのも怖い。そう思った。


ベンチに座ってると老人男性がこっちに向かって歩いてきた。
じっとこっちを見ている。なんだ、今度はジイサンに何かされるのか?


「おい、いい年して何かこぼしとるぞ」
「・・・あっ!」


股間にさっき僕が射精した精子が大量に付いていたのだ。
慌てていて拭く事もせずに着替えたからだろう。

カバンからタオルを出して水飲み場で濡らし、一生懸命そのシミを擦った。
何だか悔しくてもう半分泣いていた。

伝言ダイヤルってこんな変な人の集まりなのか。
もう二度とこんなので遊ぶのはやめよう。そう誓って家に帰った。


悔しい事にそのシミはずっと完全に取れることはなかった。成長して新しい制服のズボンを買ってもらうまで、ずっとその股間のあたりに残っていた。

暫くは思い出したくないその記憶を抹消する事に専念し、完全にこんな遊びから遠ざかっていた。


まさか半年もしないうちにまた新しい出会いが起こるとは、この時夢にも思わなかったが。

END

出会い系シンドローム

出会い系シンドローム

今から約20年ほど前。当時はインターネットも出会い系もなく、見知らぬ男女が出会う方法がなかった時代。そんな時代に突如として現れたNTT伝言ダイヤルを舞台に繰り広げられた男子高校生と女子大生の出会いと性のストーリー。 少年を弄ぶ女子大生の意外な結末は・・?(1章約2000文字、全6章)

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 青春
  • 時代・歴史
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-24

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. きっかけ
  2. 初めての会話
  3. 秘密の花園
  4. 誘惑と不意打ち
  5. キスと温もり
  6. 想定外