レトロゲームの世界に生まれて
転生物です。
ちょっとだけメールの内容に顔文字が出てきますので注意!
ゆうしゃ ほのかは まおうを たおしました!
エンディング。
流れるチープで感動的な音楽。
「ふー...終わっちゃったなー」
私は、そのテレビ画面を見つめていました。
どこにでも溢れているお話。
魔王という悪い奴に拐われたお姫様を、勇者という正義の味方が助ける話。
所謂、これはレトロゲーというものらしいです。
ゲームが好きだった父が昔やっていた物で、押し入れの中に仕舞いきりだったそれを、整理をしていた私がたまたま見つけたのです。
もうそのゲームは二、三十年も昔のものらしく、最近の何チャラとかいう最新のゲーム機よりもボテっとしていて、カセット?も古ぼけていたそれを、丁度少し暇をしていた私は何となくそれをはじめたのです。
古すぎて説明書もない状態のそれを、早速四苦八苦しながら主人公の名前を入れて始まった冒険は、妹に“ゲーム音痴”と呼ばれた私には不安の多いものでしたが、適当にボタンを押す内に、どれが攻撃だとか、魔法が強いだとか、そんなことを少しづつ覚えていきながらの旅でした。
途中、この喋ることのない勇者が女性ではなく、男性であったことに気がついたりするハプニングはありましたが、私と同じ名前の勇者は今日、三ヶ月という大冒険を経て、とうとう悪の根源、魔王を打ち破ったのです!
昔のゲームというのもあって一部の限られた人しか話さないのもあって、お話の内容はさっぱりでしたが、頑張った物が完結するというのは何にしろ嬉しいものです。
私は達成感一杯の胸で、私は誰かにこの感動を伝えたいと思いました。
そこで私は、画家を目指して都会に出て行ってしまった妹に、『お姉ちゃんはゲーム音痴じゃなくなったよ!立派なゲーマーになったよ!』とスマホで報告をします。
なんと帰ってくるか楽しみにしながらテレビをもう一度見てみると、細かい文字が沢山流れていた画面には、お姫様と、勇者が沢山の村人達に囲まれて、並んでお城の前に立っていました。
表示されている文字はさっきまでのローマ字ではなく、ちゃんとした日本語になっていて、私はそれに慌てて目を通しました。
“こうして ビオレア おうこく に へいわ はもどり ”
“ビオラ ひめ と ゆうしゃ ほのか は しあわせに くらしました ”
その文字が三角とともに消えると、周りの人達はぴょんぴょんと跳ねて喜んでいます。
画面の上から降ってくる紙吹雪が、どこから降ってくるのか少し気になりながら、私は暫くその画面を感動の内に見ていました。
と、レベルアップの音が鳴ります。
もうゲームは動かして居ないので、妹からのメールだ、とスマホを覗き込みます。
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件名:re:クリアしたよ!
本文:RPG一つクリアしただけでゲーマーとは言えねーよks(´・×・`)
今度オススメ教えるからやってみてよ。きっと面白いよヽ(*´∀`)ノ
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カスとはなんですか。相変わらず口の悪い子です。
ですが、オススメを教えてくれる辺り、優しい子です。
早速返信をしましょう。
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件名:re:re:クリアしたよ!
本文:あいかわらずのお口で、お姉ちゃんはあやがけっこん
出来るかがとても心配です。
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オススメ、是非教えてね。楽しみにしています。
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最近のスマホは、面白い絵文字が簡単に付けられて良いですね。
私は、いつまでも紙吹雪の降り注ぐそれをもう一度眺めてから、ゲームの電源を落としました。
このゲーム機はきっともう付けることは無いとは思いますが、今日はせめて、このままにしておきましょう。
私は、自分の部屋を後にします。
妹が送ってくるでしょう、うっせー、ほっとけというメールに、なんと返そうか考えながら。
レトロゲームの世界に生まれて