世界中の友達
「こんにちは。ぼくは、ひろきといいます。
日本の小学校にかよう二年生です。
ぼくは、せかいの人たちと友だちになりたくて、てがみをかきました。
日本の小学校はとてもたのしいです。
じゅぎょうは大へんだけど、たいいくはたのしいです。
きゅうしょくはときどきにが手なものもあるけど、おいしいです。
友だちといっしょにあそんだりするのがすきです。
このまえは、ひみつきちをいっしょにつくりました。
あなたのことも、きかせてください。」
広樹はこう書いた手紙を、丸めて空き瓶の中へしまった。
この瓶は、クリスマスの時に父が買ってきたシャンパンだった。中は水で洗った後、乾かしてある。
広樹は友達を増やしたかった。
現状、友達には困ってはいないが、もっともっと増やしかった。
友達と一緒に何か――非行でなければ本当になんでもいい――をするのが、大好きだった。
もっと増やす方法はないかを考え、広樹は世界に目を向けた。
世界には、言葉も文化も違う人たちが暮らしている。
クラスの中の同級生たちでも結構違うのだから、もっと大きな違いがあるのだろう。
そして、そんなまるっきり違う友達ができたら、もっと楽しく過ごせるだろう。
広樹はわくわくしながら、瓶を海に流した。
瓶は、波にさらわれながらどんどん遠くへ行って、そして消えていった。
広樹は、もっと友達を増やしたいと思った。
風船を用意し、ヘリウムを入れ、もう一枚分書いた手紙を紐にくくりつけた。
海のない国の人とも友達になりたいと思ったのだ。
わくわくしながら放った風船はどんどん上がっていき、そして消えていった。
広樹は、もっと友達を増やしたいと思った。
買ったお小遣いで、廉価版小型宇宙用ロケットを買って、その中に手紙を入れた。
違う星の人とも友達になりたいと思ったのだ。
わくわくしながらスイッチを押したロケットはものすごい速度で上がっていき、そして消えていった。
広樹は、もっと友達を増やしたいと思った。
少し前に秘密基地付近でたまたま見つけた次元の狭間の前で、次元ポッドに入れた手紙を用意した。
違う次元の人とも友達になりたいと思ったのだ。
わくわくしながら異次元に入れた次元移動ポッドは燃えるように消えていった。
広樹は、手紙をわくわくしながら待った。
広樹は手紙を見ながら、昔のことを思い出していた。
「ねえ、何見てるの?」
結婚したばかりの愛する妻に話しかけられ、広樹は我に返る。
「ああ、これは僕が子供の頃に、あちこちに出した手紙の返事なんだ。
世界中の人と友達になりたくて、海外だけじゃなく、異星、異次元にも手紙を出した。
今思うと、よくやったと思うよ。異次元同士との交流なんてほとんどなかった上に、
異星間での交流もまだまだだったし、海外との問題も沢山残っていた時代にさ」
「もしかしたら、あなたが言語学者になったのもこれが関わってるのかしら?」
「はは、そうかもしれないね」
広樹はそう言って、目線を宛名に送る。
アメリカ人のビリー、スイス人のエマ、天王星人のエドルネベプレ、第七次元人の▽♯←。
今でもまだ、かけがえのない友達だ。
ふと、広樹は時計のほうを見る。出発する時刻だ。
「もうこんな時間だ。大学の生徒たちが、僕の講義を待っている。行かなきゃね」
「いってらっしゃい」
「いってきます」
広樹は微笑みながら、いつもの朝と同じように、妻の七つある口を左から順にキスしてから大学へ向かった。
世界中の友達