《神霊捜査》第七部 神木の祟り

《神霊捜査》第七部 神木の祟り

《目次》
第一章 樹木を伐るな!
(1)神木
(2)神霊研究会
第二章 自然霊界
(1)現場情報
(2)神木対面
(3)自然霊界の仕組み
第三章 自然霊之宮
(1)自然霊界の答え
(2)自然霊の実態
(3)危機一髪

第一章 樹木を伐るな!

(1)神木

五島が買い物から、帰ってくると、野菜を少し育てている坪庭の前で、山崎課長補佐が、知らない中年の男性と話ながら、五島を待っていた。

「やあ、山さんどうしました?」

「あっ! 五島先輩! 買い物でしたか?」

「ああ、今日は偶数月の15日、年金が支給されたから、美味しいものでも、食べようかと、そこまで買い物に出かけていたんだよ。」

「ちょっとご紹介しておきます。国土交通省道路行政課長の犬飼君です、私の高校の同窓生でして・・・」

「あのうー、私は、・・・」

「まあまあ、こんな庭先で、 今、玄関を開けますから、狭い所ですが、中にお入りになって下さい。」

と、五島は二人を居間に招き入れた。

「改めまして、私は。山崎君と北九州の八幡東高校の同窓で、国土交通省の道路行政課長をしております犬飼省吾と言います。突然お邪魔致しまして失礼いたしました。」

「まあ、お座り下さい。今、コーヒーでも、入れますから。」

と、犬飼省吾から受け取った名刺を見ながら、コーヒーを入れに台所に戻った。

国土交通省では、新しい第二高速道路の計画で名古屋から阪神を経由して下関市まで日本海側を通る新しい高速道路の計画を遂行しているとのことだった。
ところが、その一部の地区で、建設計画を大幅に変更しなければならないような事件が起きているとのことである。
その事件に国土交通省道路行政課は勿論、警察もお手上げで、困っているとのことであった。
この話をゴルフ場で国土交通省事務次官から聞いた只野警視総監が博多南西署の神霊捜査課を紹介したとのことであった。
この神霊捜査課長補佐が山崎敬一と知って、事務次官から聞いた犬飼課長が単身福岡まで乗り込んできたのであった。

「事件とはどんな事件ですか? この間の京都の土石流被害ですか?」

「はい、京都府亀岡市の城南村という人口五百人程の村を高速道路が通過する計画となっています、村の殆どの面積を道路に使用することとなっていて、この両側は深い谷と高い山に挟まれていて、迂回すると高架橋や、トンネル工事で大変な予算が必要となることで、村ごと移転させて、工事を進めることに決めて、村人達とも、交渉済みで安堵して工事に着工したところ、途端に大雨で工事現場に山から、土石流が流れ込み、作業場に創られていた飯場を押し流し、5人が流されて犠牲になったのです。
それだけでは無くて、調査してみると、村の中心に植わっている1,000年とも1,200年とも云われる楠(くす)の大木が、問題があって、昔から、この木を伐ろうとしたり、登ろうとすると祟りがあるとの言い伝えがあることが判ったのです。
昔、この木を伐るためお祓いを村の神社の神主に施光してもらったところ、神主が突然死をして、揚げ句の果てに、木を伐ると計画していた村長も、交通事故死をするしまつで、皆んな怖がって、この木を神木として、触らぬ神に祟り無しで、誰も触れることをしなくなったとのことで、村を通る市道もこの木を避けて迂回して創られているとのことでした。
そして、工事が決まった後から、谷川では、河童の出没目撃が数件出て、山の森林では、今度は天狗の目撃情報まで出てきだして、村人にはパニック現象が起こり、工事関係者にも、恐怖心が起こりはじめて、工事が中断する状態になっているのです。」

「ああ、、先週の新聞に 載っていた記事のことですね。」

「このままでは、工事計画をやりなをさねばならなくなります。」

「人間の勝手な都合で、自然破壊をすることを自然界が怒っているのですね!」

「先生。先生のお話は聞いております。
先生のお力で何とか治めることは出来ないでしょうか?」

「さて、どうしたものか? 私の判断で出来ることではありません。
神様の御意志もあるのですから!」

「どうすれば良いか教えて下さいませんか!」

「何れにしても一度現場を見て見ないと、判断が着きにくいですね!」

「判りました。先生の御都合の良いときを御知らせください。
ご案内致しますので。よろしくお願い致します。」

「判りました。この山さんを通じてご連絡させて頂きます。
ところでくれぐれも気をつけてお帰り下さい。」

「ええーっ! 先生、脅かさないで下さいよ。」

「ハハハ、心配要りません。これを身に着けて帰って下さい。そうすれば大丈夫ですよ!」

と、五島はお守りですと言って、不二神塩をラップに包んで犬飼課長に渡した。

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(2) 神霊研究会

何時ものように研究会という名目で玉の井で飲み会が催された。
女将が挨拶にきて、今日の特別料理の説明をした。

「今夜は、板長が、近海ものの大鯒(こち)を仕入れて来まして、皆様の為に洗いとあら炊きを用意しておりますが、その他に何かご注文がありましたら、申し付け下さい。」

と、言って今日の魚のメニューを出した。
五島がメニューを見ながら女将に言った。

「あら炊きの添え物は、新牛蒡(しんごぼう)がいいな、付きだしはヌタの味噌和え、アイナメの刺身もおくれ、酒は私は今夜は暑いので、生ビールの後は、冷酒で頼むよ。」

料理が運ばれてきた。大鉢に鯒のあら焚きが山盛りにされた上にテニスボール位に丸められて山椒の葉が色よく載せられていた。

「この山椒の葉は五島先生からのお土産ですよ。」

と、女将が付け加えた。

「ああ、庭の畑に山椒の木が二本あった、あれですね!」

と、山さんが言った。

「ところで、五島先輩、今回の事件は少しややこしいようですね、今日も報告がありました。
あの城南村で、美しい大きな鳥の目撃情報が何件もありまして、村人や、野鳥愛好家が、あの村の存続運動を始めたらしいのです。」

「ほう、美しい鳥ね? 尻尾が長くないかな?」

「はい、尾が長く頭にも冠毛があると言われています。」

「それって、手塚治虫の火の鳥じゃあありませんか?」

と、真ちゃんが聞き返した。

「あれは、マンガだろう! 」

「うーむ、鳳凰(ほうおう)が出たか!」

と、五島が小声で言った。

「エッ!鳳凰って、本当にいるのですか?」

「ああ、河童、天狗等と同じ仲間でね。」

「 えーっ、すると、河童も天狗も本当にいるんですか?」

「これは現地に行って見ないと解らないが、多分ね。」

「今回は、山さんの案件だから、京都行きは、五島先輩と、雫ちゃんと山さんの三人で、御足労でも、出張してもらうことにするか?」

と、本郷課長が決めて言ったら。

「ぼくは?雫ちゃんの記録係ですけど!」

「今回は経費削減で、山さんが記録係をしてくれよね!」

「ワーッ、残念だな! 山さんしっかり記録して下さいよ、後で記録書を作らなければならないのですから。」

「分かっているよ。真ちゃん、今回は残念だったね!」

「山さん、鳳凰や、天狗や、河童を見たら、写真を撮るのを忘れないで下さいよ。」

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第二章 自然霊界

(1) 現場情報

梅雨入りが間近に迫っているようで、蒸し暑い6月初めのある日、五島達3人は新幹線で京都に向かっていた。
京都駅には国土交通省道路行政課長の犬飼省吾が出迎えにきていた。
京都駅から道路行政課の公用車レクサスで亀岡市の城南村に向かった。

「今日は現地を見て頂いて、その後、村長や、村人の何人か、天狗や、河童等を見たという人達を集めていますので、事情聴取がてら、様子を見て頂こうと思っております。」

「いいでしょう。皆さんにお会いしてみましょう。」

車はかなり山奥の渓谷沿いの工事中の道路を入った行き止まりで、止まった。
そこのすぐ奥に、古い小学校の廃校を再利用した、村役場が建っていた。そのまた奥に、数軒の古家が集まっていてその中央に大きな楠の木が見えた。あれが例の問題の楠の神木であろうと五島は思った。
雫に通信が入った。

「何しにきた?いらぬことをせずに怪我をする前に、すぐ帰えれ!」

村役場には、村長の他に助役や、老若男女10人程が集まっていた。勿論、村の駐在員も顔を見せていた。

「私は、この工場現場の責任者の中村監督官ともうしますが、本日は、東京の本庁や、警察関係の方々がおみえになり、この村に今起こっている状態の調査にあたられることとなりました。
皆さんにお集まり頂いて、皆さんが見られた本当のことをお聞きしたいと思っております、よろしくお願い致します。」

「始めに、あの村の真ん中に植わっている楠の神木について、判る範囲で、何方か説明をしてくれませんか?村長さんいかがでしょう?」

「私よりもそのことは、源爺の方がよく知っているから、源爺、皆さんにお話してあげてくれませんか?」

「わしゃ、もう98才になるだあ、昔からあの楠の木は、登るな、切るな、触るな、との言い伝えがあるだぁ。まだわしの若い頃だった、道を作るのに邪魔だから伐ることになり、村の神社の神主さんが、お祓いをして、帰り、その晩にお風呂の中で倒れて死んだだ。
そのすぐ後で、今の村長のお爺さんが、当時やはり村長をしていてその道路を造る計画を立てたのだが、亀岡の町で打ち合わせをして帰りがけに、山の崖道を外れて谷に車ごと落ちて、運転士と共に死んだだ。
それ以来、言い伝えは、本当だ、あの木は神木に違い無いということになって、誰も祟りを怖れて、扱わなくなったんだわさ。」

「ありがとうございました。
次は、河童を見たという方、どんな様子でしたか?
あぁ、たしか作三さんだったかね? それに絹枝さんもだね。」

「はい!作三と申します。河でヤマタロウ、つまりツガニをいつも捕っている者だが、河の一番深い三番澤の岩の上に座っていただ。
確かにあれは河童だった、わしや、怖くなって、見ないふりをしてすぐ帰ってきただあ。」

「私は、あっ、絹枝と言います。
うちの畑で野良仕事をしていたら、一番河に近い胡瓜(きゅうり)畑で胡瓜を食べているのを見て驚いて、大声を出したら、河童も驚いて走って河に飛び込んで行きました。
頭に皿が確かにありましただ。」

「まだまだ、河童の目撃情報は沢山ありますが、今度は天狗 の目撃情報を教えてもらいましょう。
えーっと、孝治さんとユリちゃん頼みます。」

「はい、孝治と言います。家の杉山の杉の木をどんどん跳び跳ねて、遊んでいました。
30匹位いましたが、色んな格好をしていて、鼻の高いのは1、2匹で、後はカラス天狗みたいなやつとか、始めてみるヤツもいました。
最初は、街からきた登山者達の 群かとも思ってよく見たんだが、あんなすばっしこいやつは人間じゃあないな。
やはり、天狗達だと思うよ。」

「ユリです。私は母さんに芝を取ってきて、と言われて、裏山の杉林に行ったら、行者さんが居て、声をかけたら、こちらを向いて、見たら顔が赤く、鼻が高いのが分かって、声が出なくなり、突っ立っていたら、ニヤと笑って何処かに行ってしまいました。」

「はい、ありがとうございました。他に話したい方はおられますか?」

「ハイハイ!あります!。私、美しい見たこともない鳥を見ました。」

「ああ、京子さん、どうぞ。」

「私、3日前の朝早く、家の犬を散歩に連れて行き北の小根山のところをこちらに、私の方に向かって飛んでくる大きな鳥を見つけて驚きました。
色は茶色が主体で、5色から7色の虹色の長い尾羽をもち、頭に飾りみたいに虹色の羽根が立っていて金色に輝いていて、とても綺麗で、始めは、孔雀かと思いましたが、長いきれいな尾っぽがあり、孔雀とは違う格好をしていて、優雅に飛んで何処かに行ってしまいました。
あれは何という鳥でしょうか?」

「私も見ました。南の大根山の上に高く飛んでいくのを見ました。
とても綺麗でした。
確か1万円札に描かれている鳥、平等院鳳凰堂のそう、鳳凰に似ていました。」

「ううーん、鳳凰か・・・やはりなあ。」

と、五島は独り言を言った。
その後、妖精を花畑で見た等という話が三人程から出されたりした。
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(2)神木対面

その後、集まった村人からは、この村を残したいという意見が多く出されて、村長は頭を抱えていた。
五島は村長にそっと、耳打ちした。

「大丈夫ですよ! 神木のところに案内して下さい。」

「判りました。行きましょう。」

この後全員で、楠の神木のところに行った。

「雫ちゃん、木龍さんおみえになるかな?」

楠の神木を釘付けになって見ていた雫は、

「先生、白髪の木龍さんを取り囲むように沢山の木龍さん達がこの木に神座されています。驚きました。」

「雫ちゃん、木龍さんと話せるかな?」

「はい、やってみます。 」

雫は二礼三拍手一礼して木龍に話しかけてみた。

「今日は。私は雫と言います。
木龍さんとお話がしたいのですが、話して下さいますか?」

「・・・・・・・」

「先生、聞こえているとは思うのですが、返事がありません。」

「はあ、判った。では私が話すから、聴きとっておくれ。」

「う・し・み・ら・ま・ん 。私は五島という神業人ですが、この挨拶でよろしいですか?」

「あっ、『気に入った。何かようか?』と言っています。
一番大きな白髪の木龍さんです。」

「貴方様は何年ここにおられますか? 青森白木上之大神様からこの楠の木に派遣を命じられてから?」

「『もう忘れた、かなり長い間、ここにいるから、その間に、生宮達に切り倒されて行き場を失った仲間達がこんなにも集まってきて、大変だ。』と言っています。」

「実は我々の都合で、とても迷惑をお掛けすることになるのですが、ここに道路を建設したいので、皆さんには、他の場所に移って頂きたいのですが?」

「『お前らはまだ懲りないのか? 昔一度その事で我々が怒って、何人か死んだはずだ。
今度は我々木龍だけでなく自然霊界の皆を相手にするつもりか?』と言っていますよ。
先生!」

「それでは、前の村長や、神主さんを殺したのはあなた方の仕業ですか?」

「『そうだ!気付けをしただけだ。』と言っています。」

「今度の飯場の土石流もですか?」

「『今度のは我々ではないが、同じ自然霊界の仲間の仕業だ。』そうです。」

「私達は、あるところで、自然霊之宮をお祀りしております。
私達が、この近くに別の若い樹木を植えますので、若い木龍さん方はそちらに移って頂き、その他の方々は、私が自然霊之宮に案内するということで、この楠の木を伐ることをお赦し願いたいのですが?
いかがでしょうか?」

「『判った。他の自然霊界のもの達とも話してみるから時間をくれ』だそうです。」

「他の自然霊界の方々とは、天狗、河童、鳳凰様や、蠱(こ)神さん達のことですか?」

「『そうだ。』そうです。」

「いつまで待てばよろしいですか?」

「『明日の昼まで。』とのことです。」

「判りました。明日の午後またまいります。よろしくお願い致します。」

このやり取りを聞いていた村人は驚いて誰も声を出せなかった。

「村長。もう大丈夫ですよ。明日には解決します。」

と、驚きで、目を白黒させている村長に五島が声をかけた。

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(3)自然霊界の仕組み

亀岡のるり渓温泉の「理々無」という温泉宿にこの夜は犬飼省吾国土交通省道路行政課長から招待を受けて、投宿した。
温泉はつるつるして美肌にいいということで、雫ちゃんは大喜びして何度も入浴してた。
夕食の膳は、美山地鶏会席に丹波牛の石焼や、自家農園で無農薬で育てた今が旬の野菜が、盛り沢山に添えてあった。五島の大好物のヤマタロウ、つまりツガニの炊き込みご飯まで添えてあった。

「先輩!先程の楠の神木に言われていた呪文みたいな、う・し・み・・・・何とかていうのは何ですか?」

「ああ、あれね、あれは呪文では無くて、「うしみらまん」という自然霊界の挨拶みたいなものだよ。」

「挨拶ですか?」

「あれは効きましたね、とたんにあの白髪の木龍さん、真剣な対応に変わりましたから。」

と、雫が言った。

「自然霊界というのは、25段階位あって、細かく分けると、天狗だけでも、300種類位に分けられると言われているんだよ。」

「天狗、河童、鳳凰等は始めからいたのですか?」

「いや、あの天狗、河童、鳳凰に妖精、つまりフェアリー等は、神界戦争や、スターウオーズの最中に神界と神界の間の隙間から現界に落ちてきて、自然霊界に拾われたものなんだ。神様は人間を創る時に、根元様の指示で、視界限定を与えられたんだ。
物と魂の占める比率が、魂より物が少しでも多く無いと、人間には見えないように限定されたので、魂の比率が多い神様や、霊等が見えないのが、不通なんだ。
ところが中には、この雫ちゃんみたいに、神様が見ていることが見えるように神様が特定の人間だけに波長を合わせてくれて、見せることがあるんだな。
彼等自然霊界の住人は物より魂の比率が多いので、普通は見えないのだけど、今回のように彼等の怒りが凝まり、魂物比率が半々に近くなると、普通の人間にも光線の具合で見えることもあるんだな。」

「では、どうすれば良いんですか?」

「うん、明日の午後、今一度、あの楠の木の前に行き、彼等の決定を聞いてみたいね。。」

「先輩、今度も、いつものように、神塩を、これでもか?と撒いて済ます訳にはいかないのですか? 一体木龍とは何なのですか?」

と、山さんが聞いた。

「うん、木龍というのは、青森白木上之大神様の眷族さんでね、日津地姫之大神様の眷族が、水龍さん、道城義則之大神様の眷族が火龍、大地乃将軍之大神様の眷族が土龍等と同じなんだな。
地球上に木が芽生えて双葉がとれる頃に木の創成神青森白木上之大神様から命令を受けて、その一本の木の護りとして、木龍さんが一柱懸かられるんだな。
その木を人間の都合で伐ろうとすると、その人間に被害をもたらすんだな。
周りの失われた樹木の木龍達は、大きな木を頼って集まり、神力が強くなる。
古い木程、その木の木龍さんは強い神力をもっていることになる。
それに、自然霊界というのは、神界の中でも地外封建で、自然霊之神は地球管理神と同じ、もしくは、その活動範囲において地球管理神より広く、自由であることが多い。
しかし彼等の活動、存在出きる場所は、この地球に限られているという点では、地球管理神と異なる、自然霊界の神規は自治制を旨とし、それで独特の神界を形成し、他の領域に立ち入ることは一切赦されないとスサナル之大神様から聴いたことがあったな。」

「それでは、明日の午後にならなければ解らないのですね!」

「話は代わるが、犬飼課長。国土交通省では、いざという時には、植樹用の若木の調達に時間がかからずに集めることが出来ますか?」

「はい、数にもよりますが、問題は無いと思います。植樹をするのですか?」

「場合によっては、新しい木を植えて、そちらに今あの楠の神木に懸かっている木龍を全部そちらに移ってもらうんです。
そうすれば、あの楠の木を伐採することができるはずです。」

「成る程、後で手配しておきます。」

「まだ明日の午後にならないと判らないですよ。」

「判りました。明日に期待することにします。
天狗や、河童、鳳凰等は大丈夫でしょうか?」

「彼等は仲間として協力しているだけでしょうから、心配は入りません。
木龍達が上位神ですから。自然霊界の神規に従うはずです。」

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第三章 自然霊之宮


(1)自然霊界の答え

翌日の午後、五島達を始め、工事関係者や、村人が楠の神木の前に集まった。

「うしみらまん。私は宮下雫と申します。
昨日お願い致しました件のお答えをお聴きに参りました。
皆さんの会議の結果は、いかがなりましたか?」

『会議の結果。条件付きで、この神木から離れることを決めた。』

「その条件というのは?」

『まず、この近くに10,000本の若木を植樹して、我々木龍の若い者達をその木に移すこと。高齢の木龍や、他の自然霊界の者達を自然霊之宮に連れて行くこと。この事が出きるならば、なんの差し障りもおこさずに立ち退くことを決めた。』

「良かった。感謝致します。植樹は何本必要ですか? エッ!10,000本ですか?」

「犬飼課長。植樹10,000本は可能ですか?」

「今すぐ、本省と連絡してみますので、お待ちください。」

と、犬飼課長は携帯電話をかけだした。

「先生。自然霊界の住人を自然霊之宮に連れて行くというのですが、どうすればいいのでしょうか?」

「それは簡単なことだよ。
何度も既に神業で経験しているから、心配はいらないよ。」

「村長、南側の国有林野に植樹したいと、考えているのですが、こちらで用意出きる人員では、10,000本の植樹をするのに、かなりの時間がかかりそうですので、この村の皆さんに加勢して頂けないかと、本省の担当者が言っていますがいかがでしょうか?」

「我が村のことですから、加勢することは当然でしょう。いいですよ。」

「それに新しい村の広場に、この楠の神木の若木を一本、挿し木して育ててあげてくれませんか?」

と、五島が付け加えた。

「うしみらまん。五島です。
この楠の神木の主であらせられます木龍さんにお願い致します。
今お聞きの通り、10,000本の植樹をするのに少し時間がかかるようですので、その間、周りの工事を進めることとして、皆様が新しい木にお移りになられてから、この楠の木を伐採させて頂きますので、御了承下さい。
なお、他の自然霊界の皆様、残りの木龍さん、河童、天狗、鳳凰様から蠱神様に至る迄、私が今からここの御前に一時間お供えします、不二の御神塩にお入りになられて下さい。
そのまま私が必ず、自然霊之宮にお連れ致します。
よろしくお願い致します。」

と、いいながら五島が不二の神塩を入れたフイルムケースの蓋を開けて置いた。

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(2)自然霊の実態

翌日の昼、五島達は、国土交通省道路行政課の手配で植樹が始まったことを確認して、自然霊之宮に向かった。
汽車で行くというのを、犬飼課長が自分も行きたいと言い出して、道路行政課の公用車で一緒に行くことになった。
車のナビを見ると、目的地迄、3時間半前後で行けそうだったが、空は雨模様の様相を呈している。
何時、雨が降りだしてもおかしくない天気だった。
車の中では、自然霊界のことについて、五島が皆に説明していた。

「自然霊界の出来た時期は、むかしむかしのその昔、その又昔との事で自然霊の長の記憶でもおぼろ気になる程の古さで、具体的には海陸分離時代にも限られた仕事をしたとの事だった。
即ち凡そ200万年前より、と思料された。
神々様から「主命」が途絶えた時期は、「神界戦争」の始まる以前。
「神業が始まる準備」 の段階で細々と御下命を頂いたが、「プツ」と糸が切られた、がその後も必要に応じて御用があった。
彼等は「神界戦争には一切係わっていない、"我らは知らぬ"との事。
人間に関与した時期は、「人祖源流」時代は赦されなかった。
人間の魂・物構成比率が「魂3:物7」時代は不許、「魂2+魄1:物7」になってから、つまり人間に魄、慾心が与えられてからで、その上位神は"思凝霊団"の配下の眷族の配下と決められて言うことを聞いて動かざるを得なかった。
即ち、「天狗」その他の自然霊が独立独自で活動したり、またひつき神団の隷下で作動したり、又は山武直系であったりしても、大筋では思凝神霊の操作に預かっていたとのこと。
今は、地球管理神200神の麾下に入り、浄まったものから、地乃親神様の系統に属することとなっているとのこと。
「蠱神」とは"自然霊の一部"をさす、チーズのカビのような存在で、蠱神という神格が存在しているのではなく、木霊さんのチーズのカビもあれば、水龍さんのチーズのカビもある。。
人間に一方的に作用し、自在に人間の「運」、「ツキ」を操作し、又は「易」に介入し、人間界を混迷させることもした。
ひつき神が司政した方位方災等の運用の実働部隊の一部が蠱神であった。
既に、親神様の傘下に入っていて、人間に一方的に作用することは、絶対に赦されなくなっているから、「易学」の教義、原則は、根底から変わってきている、いよいよ「当たらぬも八卦」となっている。
自然霊は、「自然の法」「天の運則の原則」を熟知している。
蠱神は勝って気ままに人間を悪導したことはなく、人間の因縁の深さが、蠱神はそれを払う為に方位の悪い方へ動かしたりする、止むを得ず行ったと答えていた。
この事が人間界を混迷させた。
自然霊団は「25」の系統がある。
・天狗が多数勢力、日本国内に最大勢力は無い、中央アジアにあり。
・「トリ」が第二勢力、カラス天狗は天狗の出来損ないとのこと。
・鳳凰は高貴、「オカラス」さんは「トリ」ではない、位の上の存在。
・河童もいる。
・蛇のカタワもいる。
・ダキニ天も自然霊の仲間。
・八百八だぬきも自然霊の内。キツネ・タヌキ等が「動物」として現界に現れる以前の「霊成(ヒナガタ)」となったと思っていい。このことから、自然霊を霊成型として多数の動物が出現したことが判る。
種々雑多な動物霊団の策動は、その源祖として、彼等への霊波動が自然霊界より作動していた事を意味している。
・青森白木上之大神様の眷族の端に位置する「木龍」は、位が上の自然霊との事。
・西洋の「フエアリス」(妖精)は人間が想像して創造したものが多いが、自然霊の仲間。
・花依姫之大神の眷族の端の「花の精」も又自然霊。
・龍宮お乙姫様、日津地姫様から派遣された「水龍」「井戸神」等は、非常に位が高い自然霊。
・「土地神」「金神」等も同様。
・25系統を詳細に尋ねると、第1流~第25流迄あり、、「木龍」「水龍」等は別格、第5流に①鳳凰、②オカラス、③天狗、④ワシ、タカと順次続くとの事。タキニ天、たぬきは、中位の流位、魑魅魍魎(ちみもうりょう)は最下位、との事。
・自然霊司殿の正体は、"自由自在に変化する"との事。親神様直系第一眷族神の指揮下に入っているとのこと。
・修験道、新興宗教へ係わったグループもあり、人間の霊力を増幅させることが得意なグループもある。」

五島が話している内に、 車の外はいつの間にか土砂降りの雨になっていた。

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(3)危機一髪

皆は誰一人も眠ることなく、五島の話に聞き入っていた。
雨風は前よりもひどくなっていた。
その時であった。走行車線を走っている五島達の乗っている大型のレクサスの横の追い越し車線を一台のダンボルギイニイが物凄い速さで追い越して行こうとした。
異様な風圧を右側の車外に感じた。窓側を見やった。
バシンと、高速道路に無いはずの小石が弾けて、五島達のレクサスに当たった。
同時に右前方に真っ赤な物体が宙に浮いた。
その一瞬、そのダンボルギイニイはスピンをして一回転し、運良くレクサスの前から消えていた。
レクサスを運転していた係りの運転手は、ハーと一息吐いて、それでも車を止めることなくそのまま走らせていた。
後ろを振り返って様子を見ていた山さんが、

「危なかったですね。あの高級車前がへしゃげていますよ。縁石にでも触れたのでしょうね!でも、他の車との接触はしなかったみたいですね。良かったなー。」

五島は咄嗟に車のスピードメーターを見たが、この車は100キロで走っていた。
あと10キロでも速くスピードを出していたら、あのダンボルギイニイがスピンして横を向いたところに追突していたかもしれなかった。

「『自然霊の神様が助けてくれたのよ。お礼を言いなさい。』と上義姫様が言われました。」

と、雫が言った。
皆んなで、揃って二礼三拍手一礼して、「うしみらまん。ありがとうございました。」

と、お礼をした。
その40分位後、田原の自然霊之宮に全員無事に位並んで、挨拶をしていた。
五島は不二の神塩の入ったフイルムケースの蓋を開けて自然霊之宮前にお供えした。

「あっ。自然霊さん達が、とても沢山ケースから出てきて、私達に一礼して、宮の中へ入って行かれています。
こんなに沢山の自然霊さんがこの小さなケースに入っていたなんて、驚きです。」

と、霊視した様子を雫が皆んなに説明した。

『ありがとうございました。
皆もとても喜んでおります。もうあそこは大丈夫ですから安心して御仕事を進められて下さい。自然霊長。』

と、雫が自然霊之宮からの取り継ぎを伝えた。

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《神霊捜査》第七部 神木の祟り

この作品に登場人する人物、会社等の名称は全て架空ですからあらかじめ御断りしておきます。

《神霊捜査》第七部 神木の祟り

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

Copyrighted
  1. 第一章 樹木を伐るな!
  2. 第二章 自然霊界
  3. 第三章 自然霊之宮