三途の川-後編
威風堂々とした若武者の計らいにより大きな船に乗せてもらえた平太郎と名乗る一人の老人は、船の上で、それはそれは美しい娘たちの持てなしを受け、満腹で酔いも回ったのか赤ら顔でとても上機嫌でした。
晩秋の暖かい日差しの中、平太郎は、酔いも回り、ついついうたた寝をしてしまいました。
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何時ほど経ったことでしょう。肌を突き刺す冷たい雨が降る中、平太郎は、目が覚めました。周りを見渡すとそこは先ほどの「三途の川」の畔で、自分は、そこに横たわっているではありませんか。
いったいどうしたことでしょう。
すると傍らにいる浪人が話しかけてきました。
浪 人:「先ほどから楽しい夢を見ていたようじゃが、どうかなされましたか?」
平太郎:「大きな船の上で、先ほどまで、美しい娘たちの持てなしを受けていたはずなのじゃが?」
浪 人:「ほう~、それは、奪衣婆に拐かされたのじゃな。ご自身のお姿をよく見てみなされ。」
平太郎は、浪人に促されて初めて、自分が裸で素足であり、さらにのども渇き、ひどく空腹であることに気がつきました。
平太郎は、この川を渡ることを諦め、ここまで来た道を裸に素足で、その上、空きっ腹を抱え戻っていきました。
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こうして、平太郎は「三途の川」を渡ることができず、現世に戻り、病院のベッドの上で、目が覚めたのでありました。
三途の川-後編