三途の川-前編
仏教には、この世とあの世を分ける境目に「三途の川」と言われる大きな川が流れており、人は死ぬとこの川を渡り、あの世へ行くとされています。そして、この川は広く深く、流れも速いため船でしか渡ることができないそうです。
ある時、一人の老人が、この「三途の川」の畔に一人たたずんでいました。この老人は、生前、人を騙したり、人のものを盗んだりと悪事を重ねたため、この川を渡る船に乗せてもらえないのです。
そこへ、威風堂々とした凛々しい若武者が数人の家来を従え、やってきました。その若武者は、うらぶれた老人に話しかけました。
若武者:「そこにおる老人。名はなんと申す。」
平太郎:「へい、平太郎と申します。」
若武者:「先ほどからそこにたたずんでいるようじゃが、どうしたのじゃ。」
平太郎:「へい、この川を渡る船に乗せてもらえず、困っているのでございます。」
若武者:「ほう。それは難儀なことじゃのう。よかろう、一人くらいならわしの船に乗せてしんぜよう。」
平太郎:「それはそれはありがとうございます。」
こうして、平太郎と名乗る一人の老人は、大きな船に乗せてもらい、無事に「あの世」へ行くことができたのでありました。
三途の川-前編