百本のろうそく 第八本
彼氏の趣味
が
何なのか分かりません・・・
これが、現在20歳 大学生の私の悩み。
今の彼とは付き合いだしてもう2年たつ。私は彼が大好きだし、ほとんどなんでも知ってるけど、趣味だけはまだ知らない。
誕生日のプレゼントも何がいいのか分からないし、興味あるから知りたい・・・。
そんなことを思っていたら、同居を思いついた。
彼は相当渋ってたけど、説得してなんとかOK!
あっという間に家も決まり、いよいよ明日は引越し!!
私はチャンスだと思った。
趣味くらいなら、彼の段ボールの中を見るか、部屋に入れてもらえば分かるだろうし。
「あ そうだ俺、荷物お前のが入れ終わってから持ってくるから。」
予想外の発言!!!
「えーなんでよっ!!」
「なんでって・・・狭いのに段ボールがいっぱいあったら邪魔だろ??」
「そうだけどさー」
。。。折角どんなの好きかわかるかもしれなかったのに・・・まぁまだ部屋見れるし?!そう思っていたんですが・・・
「あと あらかじめ言っておくけど、俺の部屋には絶対入るなよ?」
「えぇ!??」
「いやほら、俺変な趣味だから・・・見られんのヤだし。」
「どんな趣味でも引いたりしないから!あ!もしかして萌え系??」
「んん!?ちがうって・・・」
「じゃあみせてよ~!!」
「いやまあでもさ。。。」
そのあとはうやむやにされてしまった。
でもこれから一緒に住むんだし、いそがなくてもいっか―――――。
でも。
異変が起こったのは2日目。
私の荷物がほとんど片付いて、彼が荷物を入れ終わった頃。
・・・におい がする。
くさい、獣みたいな臭い・・・。
それもどうも、彼の部屋から。
気になった私は、彼がいないときに彼の部屋に入ってみた。
ドアに鍵はかかっていたけど。(・・・女の勘って怖いわぁ!)
私はすぐに部屋の合鍵を見つけ、ドアを開けた。
そこには
「・・っっっ!!!!!!」
血まみれになった鳥 鳥 鳥。
たくさんの鳩が、あちこちに散らばって、フローリングを赤く染めていた。
しかも、よく見ると―――それは、胴体の部分だけ・・・
首は―――――、壁沿いに目がドアの方を向くようにして並べられていた。
たくさんの鳩の首が、見開かれた鳩の首が、私を見てる。
バサバサバサッ
音がして横を見ると、壁にかけられた籠に、まだ生きている鳩がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。
玄関の方で音がした。
彼が帰ってきたんだ。
私はとっさに部屋を出て、鍵をかけ、元の場所に戻した。
「ただいまー ・・なんかやってたの?」
「・・・へ?なんにもやってないよ?」
「ふーん?そう」
いそいそと部屋に戻っていく彼。
私はまだ少し残っている段ボールの間に座りこんだ。
「な・・・にあれ・・・??」
あんなにたくさんの、鳩。
「・・・そういえば最近、近所の公園で鳩を見かけなくなった・・・。」
もしかして、彼が・・・!?
全身に何かゾクッとしたものがはしった。
いいや、違う。アレはたぶん、私が疲れて、幻覚を見てたの。
きっと、そう・・・。
それから私は、彼の趣味については何も触れようとは思わなくなった。
彼が時々大きな袋いっぱいに何かを詰め込んで帰って来ても。
彼の部屋からひどい臭いがしている時も。
彼の服に赤黒いものがこびりついてるのを発見したときも。
彼は、動物を殺したりしない。
彼が狂ってるんじゃない。
きっと、私がおかしいの。
そんなコト思ってるって知られたら、嫌われちゃう。
そう自分に言い聞かせた。
あの部屋の事も、早く忘れなきゃ。幻覚かもだけど、彼の部屋には入っちゃたんだから。
もしばれたら、別れられちゃうかもだし。忘れなきゃ・・・
ある日。
彼が言った。
「もうすぐさー、俺のコレクションが10000コ超えるんだー!」
!!
一瞬固まる。また何かが、体中を駆け巡る。
「へぇー!おめでとう!」
コレクションって・・・あの鳩の首・・?
いや違う違う違う違う!!
嫌われないようにしなくちゃ嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないよう
「じゃあ今日はご馳走にする?材料買ってこなくちゃ」
嫌われないように 気付かれないように、明るい声で言った。
嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないように嫌われないように
「行ってくるね・・・ごはん何がいい?」
震える声で言いながらコートを羽織る。
「うーん・・・肉!鶏肉がいいな!」
「!!!・・・・わかった!・・・買ってくるね!」
笑顔を作ったけど、引きつっているのがわかって転がるようにして家をでる。
私がおかしいの。
少し外の空気を吸ったら、この寒気みたいなのも消えるから・・・・!
スーパーの中へ入る。
鶏肉をかごにいれながら、メニューを考えた。
チキンカレーがいいかな?冷えてきたし鍋でもいいな
ほら、いつもどうりだから。
大丈夫。大丈夫だから。
会計を済ませて、家へ帰っていく。
「ただいまー!」
彼の返事がない。
「あれ?いるよねー??」
・・・・・・・・・・。
怖いほどの無音が、私を不安にさせた。
なにか分からないけど、いやな予感がする・・・。
「おーい?」
わざと明るい声を出しながら、そう広くない家の中を探す。
でも彼は何処にもいない。
最後に残ったのが、彼の部屋。
入りたくない・・・でもっ!!
ドアを開けた。
コッコッコッ
何かの音が聞こえる。
いつの間にか暗くなっていて、部屋は真っ暗だった。
コッコッコッコッコッコッコッコッコッ
電気のスイッチに手を伸ばす。
ぱちっ
簡単な音がして、一気に明るくなった部屋の中。
「ひぃっっっ!!」
そこ で、胴体のない それ や血だらけの それ が、こぞって横たわった彼をつっついていた。
手に持っていたビニール袋を床に落とす。その音で、部屋中の それ が私の方を向いた。
「いっ・・・いやっ・・・!!!」
恐怖。
最近彼を見ていた私を、何度も襲った感情。
コッコッコッコッコッコッコッコッコッ
一羽が、私に向かって歩いてくる。
クルックー
その周りにいた それ が鳴きはじめた。そして、集団で迫ってくる。
「いやっ!いやっ!!いやぁぁぁぁ!!!」
叫びながら部屋を出ようとしたけど、ドアは反対から釘で打ち付けられたように開かない。
「・・・や!!いやぁぁぁ!!ひっ・・・!」
持っていたコートで それ を追い払おうとするけど、全くきかなかった。
涙が溢れてくる。
一羽が、羽をばたつかせた。
バサバサバサッ
私に向かって飛んでくるのが見える。
「いやああああああぁぁぁあぁ」
ワタシハ、オカシクナカッタンダ
百本のろうそく 第八本