楽園

 馨しい光のなかに
 かがやかしい蒼い眼の
  溶けるようなブロンド色の髪
   透き通っているような白い肌

 あなた、あなたの指先は美しく
 さながらプラスチックのようである
  広漠とした園内には
   一輪だけ、あなたの眼と同じ色の花

 その花の名前はわからない
 ただ、とても小さく小指ほど
  私はそれをじっと見つめはせず
   先のあなたに視線を戻している

 ああ どういうことか、
 雨上がりの滴る水たち
  霊妙な鮮やかさを放ち
   より一層美しくあなたを描く

 私は少しだけあなたに近づく
 あなたは微笑りしてみせて
  なぜか下に目を遣る
   そこに何かいるのだろうか

 私には見えてはいない
 否、何もない
  髪を耳にかけ直し
   あなたはそこだけを見つめている

 陽はあたたかく、風が心地よい
 時折靡くあなたの髪はやはり
  今にも消えてしまいそうに
   柔らかく、絹のように艶やかである

 私は彼女の隣に腰掛けて
 何を見ているのかを尋ねると
  何も見ていないと囁き
   また少しだけ微笑む

 その表情はどこか曇っていた
 ああ、彼女を曇らすものは何なのか
  私は次第に憂鬱になる
   たった今出会ったばかりのあなた

 たった今出会ったばかりのあなたは
 何を考えているのだろうか
  何を思い、どこからきて
   そして、ああ、あなたは誰なのか

 私の記憶が一瞬閃光のように
 何かを引き出そうとする
  何かを忘れている
   金木犀などないのに馨る

 回路が繋がったように
 脳にひとつの答えが出てくる
  あなたはかつて
   私の母親であり、恋人であった

 かつて、だ
 彼女はとてもその人に似ていた
  しかし、もうその人は
   とうの昔に溶けて消えてしまった

 私はどこにいるのだろう
 ふと帰路のことを考えた
  私はどこから来たのだろう
   私は誰なのだろう

 甘い、優しい、金木犀が馨る
 いつの間にかテーブルと、
  そこにはコーヒーがあり
   私は手を伸ばしそれに口を付ける

 ああ 神様
 私は、ああ、存在していないのですね
  記憶は全て引き出され
   シャボン玉のように浮かぶ

 そのひとつひとつに
 反映された記憶は映し出され
  私はその時
   あなたの表情が曇っていた理由を知った

楽園

楽園

  • 韻文詩
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-21

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