「記憶ノ守の──」 第三話

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第三話 「爆破テロ」

1 事件の顛末

 週明け月曜日の朝。殺風景な自室のベッドの上で、私は目を覚ます。時刻は、七時を回ったところだろうか……?
「朝……」
 ──起きなくちゃ。
 改ざん予告の対策で、ノートPCが数台投げ出されたように散らかっている床に目を落として、私は身を起こした。睡眠時間は、二時間……と言ったところだろうか。
 顔に手をあててから、シャワーを浴びる為に、家の中を二階から一階へと横切りシャワールームへと向かう。

 私は、とある組織に所属している。表立ってはIT関連の案件斡旋事業を営み、裏ではセキュリティからクラッキング、産業スパイまで何でも請け負うギルド組織だ。名をH.A.D.E.S.(Hackers And Dealers Entry System)と言う。
 私がこの組織に所属するに至った理由は、私の能力を省みて貰えれば想像に易いだろう。何時の時代も、法の一線を越えるかもしれないような存在は異能の人材というのものを欲するものだ。そして、保護や報酬、地位など見合う見返りというものもある。
 私の場合は、身を守る為に必要だったのだ。組織も、──MAXIも。
 組織は能力・実績主義だ。そして、請け負う案件の質も問われない。現に、主にセキュリティに関する案件を好んで請ける私は、裏の仕事を普段請け負わないのだが、その中で三位に位置していた。

 先日終わった商社の案件も、事件が起きなければそんな中の一案件に過ぎない筈だった。それ故に、Kから入った連絡は、私を混乱させるものだったのだ。
 ケースA。
 Kとのやり取りでは、この言葉が使われる事はほとんどない。というか、過去に一度あっただけだ。Cは通常案件、Bは緊急を要するものとなっていて、Aはそこに最優先の意味を持つ。つまり余程の事情がない限り、この依頼は受領して欲しい、という事だ。
 ──高々、普通の商社に過ぎない案件の対応に最優先……というのも変な話よねえ?
 少し熱い目の湯で寝汗を流しながら、今回のオファーの裏が気になり、色々と勘ぐってみる。だが、ピースの足りないパズルをいくら組み立てたところで、絵は完成する筈もなく、私は湯を止めてシャワールームを後にした。
 身体をバスタオルで拭いて、髪をドライヤーで軽く乾かす。それから、ある事実に気付き、
「あ……」
 と、小さく声を上げた。
 ──また、着替えを持って来るのを忘れたわ。
 私は忌々しく心に呟いてから、仕方なく、そのまま一階から二階を横切って自室へと戻ったのだった。

   ◆◆◆
 千夏に纏わり付いていたストーカー事件の犯人についても、触れておかねばなるまい。
 夜淵がマンション二階のベランダから飛び降りた犯人を追いかけた結果、侵入した犯人を捕まえる事には成功した。応援に駆けつけた警官と取り押さえ、事件は一応解決を見たのだが……。その犯人というのが離婚した千夏の父親だった、というのが事情を少々複雑にしてしまっていた。取り調べの結果はまだ聞いていないが、もう一波乱ありそうな予感である。
 ──まったく。世の中、何が脅威か分かりはしないものね……。
 親に煙たがられて育った私には、到底理解出来ないであろう理由で起きたこの事件の結末を、私はまだ聞いていない。

 ドレッサーの前で化粧とスーツの最終確認を済ませ、最後に髪留めの乱れをチェックする。
 そうして身支度が終わり、私は書斎へと向かった。だが、一階からリビングへと降りている途中でインターホンが鳴り、進行方向を玄関へと変える。
「なんて悪いタイミング。……いえ、ここは素直に狙ったようなタイミングと褒めてあげるわ」
 玄関を開けるなり、私は開口一言、憮然とした口調で、いつも通り暑さにグダった目線の夜淵にそう言った。
「どう解釈しても、褒められているようには聞こえないんだが?」
「そうね、褒めてはいないわ。感心していると言った方が正しいわね」
「もう好きに言ってくれ」
 朝からこのテンションにはついて来れないのか、慣れてしまったのか、夜淵は早々に白旗を揚げる。その殊勝さに少し違和感を感じて、私は茶化すのを辞め、声を掛け直す。
「……コーヒー飲む?」
「ああ」
 彼は短く答え、玄関からダイニングへと慣れた足取りで、私の後ろを歩いて来たのだった。
 ダイニングに着くと、私はポットに入った暖かいコーヒーを手近にあったマグカップに注ぐ。
「モバイル端末と鞄を持ってくるから、そこで適当に寛いでいて」
 マグカップを夜淵に渡しながら、私はそう断った。そうして奥の書斎へ向かおうとした時、
「出掛けるのか?」
 と、彼が問うた。
「……これが、家着に見える?」
 私はスーツの襟元を摘んで苦笑いを浮かべ、問い返した。その言葉に、彼はコーヒー片手に肩を竦めて「聞いてみただけだ」と、首を横に振る。
「少し待っていて」
 そう言って、私はテーブルに置いてある皿からサンドイッチを一つ摘んで、リビングとダイニングの間から続く廊下を奥の書斎へと向かって行った。
 途中、右手の窓から見える中庭に視線を向ける。今日も暑くなりそうな日差しの下で、日が昇る前に斉藤が水でも掛けたのか、剪定の行き届いた芝や植木がとても元気に茂っていた。
 ──ツナの量が、今日は少し少ない。後でまた言っておかなくては。でも、タマネギのさらし具合は丁度良い、かな。

 A4の書類が入ったドキュメントケースと愛用の赤く小さなモバイルPCを片手に、私がリビングへと戻ってくると、夜淵はソファーで寛いでいた。傍目に見ると、少し考え事があるような様子にも見える。そんな彼を横目に、私はダイニングへと足を運び、テーブルの上にドキュメントケースとモバイルPCを置く。
「何かあったの?」
 マグカップにコーヒーを注ぎながら、私はリビングに向かって声を掛けた。そして、返事が返ってくるまでの間、コーヒーの香りを味わう。
「何があった、という訳ではないんだがな」
 ──ふぅん。
 どこか締まりのない彼の返事に、私は赤渕の眼鏡を少しズラして、後ろ姿を直視した。それから少し間を置いて、私は問い掛ける。
「……ストーカーの一件は、娘がいる身としては複雑な心境?」
「親の身としては、心配する気持ちは痛いほど分かるんだが、な。」
 彼の取り調べをしている過去を見るに、どうやら千夏に付き纏っていた彼女の離婚した父親は、娘や母親に伝えぬまま、愛人名義で同じマンションにもう一部屋購入していたらしい。離婚しても合い鍵を黙って持ったままで、娘が家に二日も帰らなければ無事かどうか確かめずにいられなくなる程に、精神を病んでいたようだ。
 ──どうりでマンションの管理人では、分からない筈だわ。
「そっちは、どうなんだ?」
 夜淵はこちらを振り向いて、一人納得して頷いている私に問うた。
「私?」
「友人の事だろう?」
 千夏にはもちろん、後ほど警察から連絡があるだろう事は、事件が解決した直後に連絡を入れてある。
「私は──」
 私は言いかけて、答えるべきか少し悩み、言葉を詰まらせた。
「理解出来ない……から、良く分からないわ。もちろん、千夏に対しては誠実でありたい、とは思うのだけれど」
「理解出来ない?」
 鸚鵡(おうむ)返しに夜淵が問い直し、先を促す。
「前にも、言ったでしょう? 過去、私の親であった者たちは、例外なく私を気味悪がって、理解しようともせず、近寄りさえしなかったわ」
「? 何か引っかかる物言いだな」
「り、両親の事よ」
 私は、慌てて言い直して先を続ける。
「だから、二日も帰らないと娘が心配で気が気でなくなる、とかそういう話以前の問題ね。親が子供を心配するという事そのものが、私からすれば理解の範疇を超えているのよ」
「……そうか。しかし、親はどこまで行っても親だろう?」
「まあ、そうね。その事実については、否定しないわ。それに別段恨みがある訳でもないし、ね。ただ、興味がないだけ」
 私の答えに、彼は鼻の頭を掻き、言葉に困っていると言った様子であった。
 止め処ない話をしていても仕方がないと思い、私は確認を取るように話を事件の方へと戻す。
「でも、千夏への連絡はちゃんと入れてあったでしょう?」
「ああ、そっちの方は問題無かったよ」
 夜淵は私の問いに頷き、それから頭を捻って、話を戻すように聞き直す。
「ん? 俺、犯行動機の事とか話したか?」
「今、話していたじゃないの」
 下手に追求されても困るので、私はシレッとそう言い、マグカップに残っているコーヒーを飲み干した。そして、そそくさと携帯を取り出し、内線で斉藤を呼び出したのだった。
「車を一台、回して頂戴」
 ちなみに──夜淵には、客先で起きている改ざん予告事件について、まだ伝えていなかったりする。



2 表と裏

『お前たちが下した決断を、我々は赦す事が出来ない、容認する事が出来ない。従って、我々はお前たちの発信する情報、ネットワーク、システムに対して害意を以て対処する事とした。発信する情報は暴露となり、ネットワークは意図に沿わぬ接続を許すだろう。システムに至っては、その役割を果たさぬ事になる事態を目に焼き付けるが良い。
一週間の後、状況を開始する事をここに宣告する』

「何故、事前に教えてくれなかったんだ?」
 水色のカーペットが敷き詰められたOAフロアに案内されてから席に着くなり、夜淵は苛立ちを露わにして私に詰め寄り、問うた。その剣幕を受け流すように涼しげな顔で、私は答える。
「そりゃあ、顧客情報だし、ねえ?」
 その言葉に彼はそのまま黙り込み、私は更に、
「それに、警察に通報するしないは先方の権利でしょう? 私の義務、じゃあないわ」
 と、言葉を足した。
「まあ、そうだが……」
「理解出来たなら、守秘義務を遵守して、出過ぎた真似はしないでね」
「むう」
 理解はしたが納得は出来ない、といった表情の夜淵に、私はそう釘を刺し、彼は煮え切らない返事を返した。
 そんな重い空気を纏ったところに、扉を開けて窓口担当の田中さんともう一人見た事のない顔が入ってくる。彼の上司あたりだろうか?
 ──まあ、突然犯行予告というものをされてしまったのだから、慌てた上司辺りが一騒動とかはありそうね。
 少し薄くなった髪に、二重に弛んだ顎肉。横に広い辺りが、上司な印象を受けるのは先入観だろうか。もっとも、その割には格上の風格というものをあまり感じないのだが……。──これは、目上に対して失礼な表現だろう、とは思うのだが、少なくとも私はそう感じた。
「お待たせしました」
 田中さんの挨拶と共に、私と夜淵は席を立ち一礼をする。
「課長の──」
「山本だ」
 初見でも、明らかに余裕がないと分かる表情で、先方の山本課長が挨拶を交わす。それから、田中さんは私と夜淵を彼に紹介すると、
「会議室を一室抑えてあります。ここだと、憚られる内容もありますので、どうぞこちらへ」
 と、言ってから扉でカード認証を済ませ、私たちを先導して社内へと迎え入れた。

 私が、この事件を知ってから気になっている事が二点ほどある。不審に思っている、と言った方が良いかもしれない。
 まず第一に、予告文に書かれたこの商社が下したとする“決断”について、だ。文面的には、怨恨・逆恨みを想起させるが、果たして法を犯してまで報復させるような“決断”とは如何なるものなのか?
 もう一点は、確かに私は、この商社のシステムやネットワークのセキュリティに関する案件を過去請け負っていて、その規模もそれなりだと認識している。だが、どういう訳か、社内のセキュリティポリシーの案件に関してだけは頑なに断られているのだ。……にも関わらず、今回予告された攻撃を完全に防御しろ、との依頼である。
 当然、社内のセキュリティポリシーについては今回も完全開示は行われず、必要な部分に限られている。
 この事自体は、不自然と言うには些か小さな事なのかも知れない。だが、セキュリティポリシーは社内システムのセキュアな運用には欠かせない要素だ。その細部は窓口担当から経営層にまで及ぶ。
 システムは触って良いが、人の深く絡む運用に触れられたくない部分でもあるのだろうか?
 ……まあ、だからと言って必要以上に詮索するつもりはないし、深入りして後戻り出来なくなる、等という事にもなりたくはない。
 それ以前に、聞いたところで今更教えてくれる訳もないだろう事くらい自明だ。ただ、請けた仕事の足を引っ張らないでいてくれれば、それでいい。しかし──
 ──裏に何かがある事だけは、間違いない。

   ◆◆◆
 会議室は、十人くらいが打ち合わせなどを出来るほどの広さで、長机をロの字に組んで外側に椅子を配置してあった。奥の壁には、プレゼンテーションが出来るように、投写型のプロジェクターが据え付けてある。
 今日はまだ使われていない事が分かる程に籠もった空気を感じながら、私は会議室の中へと入った。先に入った田中さんが部屋の電気を点け、私の耳に空気を換気する為のファンが回り始めた音が届く。
「大丈夫かね?」
 私たちが席に着くなり、山本課長が開口した。その言葉を受けて、私は現在のシステム状況について把握している事を説明する事にする。
「田中様から、伝わっているかも知れませんが……」
 と、前置きをしながら、持ってきた赤いモバイルPCの電源を入れ、近くにあるプロジェクターのスイッチをONにする。
 ここの接続設定は過去の案件で済ませてある為、画面が投影されると、すぐに手元の画面がスクリーンに映し出された。
「昨日依頼を受けてから、そのままお伺いして社内ネットワーク、およびシステムのセキュリティについて最新のアップデート、セキュリティパッチが適用されている事を確認しています」
 社内のセキュリティに関するアップデート状況が表示された画面を指し示しながら、私は説明を続ける。
「併せて現状、これらで対処出来ないセキュリティホールや不具合は確認されていませんので、不正にアクセスを行って外部からクラッキングされる危険性は極めて低い、と私の方では判断しています」
 私の説明を受けて少し安堵したのか、山本課長は威圧を持った口調で、
「確実に守ってくれたまえよ」
 と、私の方へ言い放った。
 ──その為に、私を呼んだのでしょうに。
 彼の態度に私は少々気分を害して、チラッと視線を向ける。隣では、田中さんが余裕を持った様子で、でも私の方を向いて申し訳なさそうな表情で会釈を一つ返してくれた。
 とは言え、気分で仕事をする訳にも行かず、私は話を次のステップへと移す。
「不正アクセスに対しては、監視さえしていれば問題はない筈です。……が、私が懸念するのは、内部からの正規アクセスによる場合、でしょうか」

 セキュリティとは、定められたルールに則って運用されるものだ。その想定から外れるアクセスは不正と見なされる。例えばオペレーティングシステムの不具合、例えばアプリケーションのセキュリティの観点から見た落とし穴、許可されない権限によるアクセスだってそうだ。
 私が指摘するのはその反面で、定められたルールに則っていれば正規なものとされる中にも、逆手に取れば不正を働く事が可能となるものがある。人間が介在する以上、全てのセキュリティがシステム化出来る訳ではない。故にこれらは普段、運用によって相互監視や管理帳、各自がルールを遵守する事で回避しているものなのだ。

「失礼な! そんな社員、我が社には居らんよ!」
 山本課長が席を立って、顔を紅潮させ、声を荒げて強く否定する。が、彼の言葉には、根拠がない。相手が人間である以上、その言葉を証明する事は不可能だからである。
 私はその言葉を口にする代わりに眼鏡を外し、静かに落ち着いた声で、彼に聞き返す。
「本当に、そう言い切れますか?」
 見据えた視線に彼は怯み、私は犯行予告文を印字した写しをドキュメントケースから取り出した。それを机の上に置いて、更に言葉を続ける。
 原文は、田中さんの話では広報担当に届いたメールだそうだ。悪戯の可能性については否定出来ないが、ここまで手が込んでいれば十分犯罪と言えるし、そもそもHADESが私に仕事を斡旋をする筈もない。
 ちなみに、そのメールについても解析はしてみたが、幾つものサーバーを経由していて、仮に全てのサーバの通信履歴を洗えたとしても、当然の如く発信元は判明しそうにはなかった。
「お言葉ですが、これは如何にも内部を精通している人間にしか書く事が出来ない、と思わせる文章です。しかも怨恨じみている」
 そこまで触れてから、私は少し掘り下げた質問をしてみる。
「御社は、遠隔アクセスでも管理者権限でアクセス可能な設定にしておられませんか?」
「そうなのかね、田中君!?」
 ──上司の癖に、その発言は不味いと思うのよねえ。
 少し不審に思って、私は山本課長をジッと見つめ、肩書きを確認した。
「あれ?」
 私は少し素っ頓狂な声を上げてから、ハッとしてすぐに「何でもありません」と姿勢を正した。
 田中さんと夜淵が不思議そうな顔をして私を見たが、すぐに元の姿勢に戻って、話は本題へと戻る。
「えっと、制限はしていますが、許可しています。部門長や一部の担当課長、あとは私など業務上必要とする社員に限られますが……」
「つまり、予告犯は基本、社内の端末を経由してアクセスを試みると想定出来ます」
 田中さんの説明を受けて、私は予想される状況を想像する。そこに隣で大人しく聞いていた夜淵が口を挟む。
「それだと、流石に分かるんじゃないのか?」
「勿論、そこにも不正な手段で侵入して、……いえ、言葉が少しヘンね。正規の手続きを不正に利用して、と言った方が正確かしら? という意味よ」
 詰まらない事は聞かないで欲しい、と言わんばかりの口調で、私は即答した。二の句に詰まった夜淵を余所に、田中さんが具体的な動きについて、考えを巡らし発言する。
「では それらの端末を回収すれば良いのでしょうか?」
「いいえ、もう手遅れと思います。犯行予告文を送付した時点で、現在起動中のシステムや端末の何処かにバックドア、もしくは仕掛けが施されたと見て間違いありません。でないと──」
 ──こんな文章を送りつける訳がない。私が犯人なら……少なくともそうする。
 最後の言葉は飲み込んで、私は代わりにこう答える。
「一応、チェックする必要はありますが、それらの端末からは、今段階では恐らく何の痕跡も見つからないでしょう」
「つまり?」
「当日にならないと対処のしようがない案件、という事ですよ」
 田中さんの相づちに、私は誰かに軽く挨拶をするかのような口調で、結論を述べたのだった。が、その事が気に入らないのか、山本課長は結論を求めるかのように、私に通達然とした言葉を投げつける。
「どうするかなど、どうでも良いから、我が社のシステムを守りきってくれたまえ」
「システムについての不正アクセス対策は、問題ないと申し上げた筈です」
 流石に何度も威圧的に物を言われ、私も些か感情を乗せた声色で、反論をした。
「そんな事は──」
 更に何かを言おうとする彼の言葉を遮って、私は更に続ける。
「正規アクセスによる犯行となれば、御社が普段行っている運用が問われる事になると思うのですが?」
 言い切った私の台詞に、完全に言葉を詰まらせる彼の表情を見て、私は溜飲を下げた。
 ここに至って少々子供じみているとは思うが、このくらいは許して貰おう。
 ──そろそろ良いかしら、ね。
 そう心に呟き、眼鏡を掛け直して、私は話の方向を切り替える。
「まあ、そんな状況確認と建前はこのくらいにして……。私を呼んだ以上、単にシステムを守りたい、という訳ではないのですよね?」
 どうしたいのか? とはわざわざ問わず、無言の彼らに口調を軽く変えて言葉を続けた。ここから先の立場は、私が仕事に失敗しない限り──逆だ。
「私に出来る事と言えば、先程の攻撃に対する防御。不正・正規問わず全てを含めて、システムの改ざんに関するアクセスを指定期間死守する事かしら?」
 私は、彼らが先程から危惧している事柄を、まるで手慣れた事務処理をこなすかのように、事無げに言ってのけた。
「後、あらゆる手段を許可頂けるのであれば、攻撃元くらいまでは特定出来ますけれど。犯人の居所を突き止められるかどうかまでは、何とも言えないですね」
 そこまで捲し立ててから、私は口を開けてただ聞くだけの人形となった山本課長と呆気にとられている田中さんの表情を観察する。
 取りあえずは私の言った内容について、理解はしてくれているようだ。
「でももし、その確実性を上げるおつもりなら、警察に被害届を出すのも方法ですが……?」
 今度は質問を投げ掛け、言葉を句切る。──これは少し意地の悪い質問だ。恐らく二人には判断する事さえ出来ないだろう。
 彼らに困惑の顔色が浮かぶのを確認すると、私はそれ以上答えを待つ事なく、ニッコリと笑ってこう続ける。
「でも、それなら初めからそうしていますよね? 変な事を聞きました」
「……可能な限り危惧の根元を絶ってくれ」
 私の話が一段落終えたところで、山本課長がやっと口を開いて、弱々しく呟く。
「それは、“あらゆる手段の許可”と理解してもよろしいですか?」
 私の確認に、彼は「我が社の信用失墜がないよう、法に触れない範囲で」と、気弱に頷いたのだった。

   ◆◆◆
 特に今すぐ私がやるべき事もなかったので、状況の確認と方向性が一段落したところで、私は早々に切り上げる事にする。
 客先を後にし、首都高を自宅へ走らせる車の中で、客先ではほぼ大人しくしていてくれた夜淵が、助手席から声を掛けてきた。
「嬢ちゃん、途中から笑っていなかったか?」
 彼は振り向いて後部座席に座る私にそう言った。私は窓の外を何となく眺めていたが、彼の方を向き直ってから、やんわりと否定の言葉を口にする。
「そんな事はないと思うのだけれど? ちょっとカチンと来た言葉もあったし……」
 でも後半、少々口元が緩んでいた点は否定出来ない、かな。──それに、あの山本という課長は情報システム部ではなく、経営企画部の担当課長だったし……。
 でも確かに、田中さんは“上司”とは言わなかったわね。
 この事は口に出さず、代わりに黙り込んでしまった私のせいで、話題が途切れた。
 話が続かないと感じたのか、夜淵は一端前を向き戻り、今度は振り向かずに別の話題を提供する。
「しかし、嬢ちゃんは絶対的にSな性格だな……」
 思考に耽っていた私は、その言葉で引き戻されて、助手席の方に再度視線を向けた。それから、腕を組んで先程のやり取りを思い出しながら、
「そうねえ。SかMかと聞かれたら、強いて言えば……S、かしら?」
 と、同意を求めるかのように答えてみた。が、今度は間を置かずに彼の強い口調でのツッコミが入る。
「そんな問いをするヤツは絶対居ない。そこで悩む理由も分からん」
「酷い言われようだわ」
 そこに至って、褒められた話題ではないと気付き、私は最大限抗議の声というものを上げてみる。が、それ以上この話題も続きそうにはなく、彼の一言で会話が途切れる事となった。
「言ってろ」
 呆れるような彼の口調に、どうやら“私”という個人に対する彼の認識が、私自身のそれとはかなり違いがあるという事を、私は唐突に理解した。
 ──まったく。本当に、酷い話だわ。
 横に首を振ってからため息を一つ吐き、家に着くまでの短い時間を、私は再度窓の外を眺めて過ごす事にする。



3 嵐の前の事件

「ふふ。フフフ……うふふふふ」
 薄暗い空間。ここは、家の書斎と同じくらい広く、でも本棚の代わりに壁面にはラックが打ち立てられ、その一面はサーバーと通信機器で埋め尽くされた場所。
 外は既に昼時を過ぎた感じで炎天下なのだろうが、ここの気温は二十四度を維持している。空気は空調のお陰で籠もっている訳ではないが、窓もなく外気を取り入れている訳でもないので、健康に良い環境とは言い難い。
 そんな部屋の床は、中央にある大きめの机に向かってLANケーブルが無数に這っている。そこにある椅子の一つに座り、私はノートPCから発せられるディスプレイの光に当てられながら、作業をしていた。ショートとは言え、目にかかるのが邪魔だったので、髪はカチューシャで適当に留め、自宅という事もあって服装も丈の短いTシャツにデニムと至ってラフな格好である。

 商社で山本課長を下した翌日の昼下がり。私は、書斎地下のラボで別件の仕事を片付けていた。
 ラボ……と言っても何か研究をする為、という訳ではなく、仕事で検証や開発を行う為の場所である。外のネットワークからは隔離されていて、仕事に合わせてシステム環境を構築する事が出来るようになっている。
「コード喚び出し。“アセンブル1975(ワン・ナイン・セブン・ファイブ)”」
 私の声に反応して、ディスプレイ上にプログラムが呼び出される。最後に実行確定を促す確認メッセージが表示され、私はキーボードのエンターキーを押した。
 ──これで、あとは待つだけ……と。
 プログラムの処理が正常に開始されるのを確認して、私は一息吐く。その矢先──
「一段落、したか?」
「きゃあっ」
 椅子にもたれ掛かって背伸びをする私の背後から突然声が掛かり、驚いてバランスを崩す私。あまりの驚きに、椅子ごと後ろへと倒れかけてしまった。
 もちろん、こんなタイミングで声を掛ける人間なんて、一人しか居ない。
 私は、なんとか体勢を持ち直して席を立つと、取りあえず後ろの入り口に向き直り、抗議の声を上げた。
「もうちょっとタイミングというものを考えてくれないかしら!? 流石に驚いたじゃない!」
「考えたつもり……だったんだが、不味かったか?」
 ……こういう男である。
 予想通りの答えと言うか、流石に慣れてきた彼の反応ぶりに、私は素直に呆れた。そして、机に置いてある皿の上に被せてあった布を捲って、サンドイッチを一つ摘んで口に入れる。──半日近く経っていると、流石に少し乾いていた。

「……何時からそこに居たのよ? 上に、誰か居た?」
 口の中の物を飲み込んでから、私は夜淵にそう問うた。
「あ……と、そうだな。危なく独り笑って、何やら独り言をブツブツ言っている辺りからなんだ……が?」
 そこまで答えて、彼の表情が凍り付く。私の表情が怒りと羞(しゆう)恥(ち)に紅潮していた事が原因である事は言うまでもない。そして、それが如何に理不尽な怒りなのか、という事も重々承知しているつもりではある。
 だが否応なく乗る感情に、それでも私は可能な限り静かに言い放つ。
「忘れなさい」
「無茶、言うなよ」
「じゃあ、忘れさせてあげるわ♪」
「表情が恐いんだが……」
 何処か遠慮するような畏れを抱いた表情の彼に躙り寄りながら、私は口の端を歪めるように吊り上げて笑った。近付きながら、蹴りを何処に入れるべきか考え悩むが、出来るだけ楽に済むよう後頭部を選択する。しかし、その一撃が届く間合いに入ったところで、
「いや、大丈夫だ。ホラ、モウ忘レタ」
 と、彼が両手を振って白旗を揚げた為に、私は低くした姿勢を仕方なく解いた。そして、代わりに“お願いの言葉”を贈る。
「そのまま思い出さなければ、痛い思いをしなくて済むと思うわ♪」
 ──決して、「少し残念」などと思ってなんかいない。

   ◆◆◆
「……ふう。たまに、嬢ちゃんを底知れなくコワイと思う時があるよ」
 ラボ中央の空いている椅子に腰を掛けて、外を歩いて来て流した汗だか、冷や汗だかを拭いながら、夜淵はそう呟いてみせた。
 私はその言葉を聞き流し、サンドイッチと一緒に置かれた小型のポットを手に取った。それから、問うた答えの続きを聞く。
「で……?」
「ああ、家政婦さんが出迎えてくれたんだよ」
 ポットを傾けて紙コップにコーヒーを注ぎながら彼の言葉を聞き、今日は家政婦が来る日だと思い出す。
「香奈子さんか」
 ──普段任せっきりだから、すっかり忘れていたわ。
 香奈子さんは、私の家に二日に一度来てくれている家政婦さんである。お願いしてから、今年で二年になるだろうか。少しオットリとしたところはあるが基本的にシッカリしているので、最近は家の鍵を預けて任せっきりにしていたりする。確か、私より五つほどお姉さんな人だったと思う。
「そういえば、嬢ちゃんは、サンドイッチが好きなのか?」
 コーヒーを一口で半分ほど飲んで、夜淵がそんな事を聞いた。その質問の出た理由が気になって、問い返す。
「どうして?」
「いや、何時も手元にあるから、何となく……なんだが?」
「別に……」
 ──そう言えば、何でだろう?
 特に理由など考えた事もなく、普段から朝かお昼に斉藤が準備してくれているから……なのだが。しかし、何も考えていない等と思われるのも癪なので、私は理由を少し探してみる。
「強いて言えば、そうね──」
 私は考えてから、こう答える事にする。
「ピクルスは、好きよ」
「ピクルス?」
 夜淵は紙コップを机に置きながら、私の言葉を鸚鵡返しに問い返した。
「日本に於いては、欧米風の漬け物の事ね。野菜を酢、砂糖等で漬けた物で、代表的なものとしてはハンバーガーやサンドイッチに入っているキュウリのピクルスとか、かしら?」
「そんな、ピクルスがどういう物なのかを聞いている訳でも、保存食品の加工方法を聞いている訳でもないんだが……?」
「あら、そう」
 私の相づちに、彼は呆れた様子で再度紙コップを手に取り、残りのコーヒーを一気に煽ったのだった。

「で……?」
 今度は夜淵が話を振り直した。私は何の話題かが分からず、聞き返す。
「何?」
「商社の件について、だよ。どうなんだ?」
 事件の状況に興味があるのだろう。彼は身を乗り出して問い、私の顔をジッと見つめた。しかし、特に進展がある訳でもなく、私は視線を外して素っ気なく答える。
「どう、って言われても、今のところ何が出来るって訳でもないし、こうして別の仕事をしているのだけれど?」
「そうか……」
 その答えに、彼は大好きなオモチャを取り上げられた子供のような表情になって、椅子の背にもたれ掛かった。
「取りあえずは、有事があればすぐに対応出来るように、回線は繋がっているけれど……」
 何処となく詰まらなさそうな表情の夜淵に、私は状況の説明を付け足す事にする。
「ああ。後、先方には社内の端末に私の渡したプログラムを配布して、自動実行するようにお願いはしてあるかな」
「そうか」
 彼は相づちを打つが、手元のLANケーブルを弄っているのが私の視界に入り、どうやら興味を惹く内容ではなかったようだった。
「進展という訳でもないけれど、状況としてはそんなところ」
 そう言って、私はこの話題を打ち切った。それから、手元の端末がエラーを表示していた為、そちらへ意識を集中する事にする。
 訪れた静けさに、ラボに据え付けられた機器の出すファンの音が、一際大きく聞こえた。
「なあ、嬢ちゃん。この線は何処に挿すんだ?」
 夜淵がそんな事を聞いた気がするのだが、聞き流す。
「おーい」
「……」
 いくつかのプログラムコードをチェックした末、私はエラーと思しき箇所を修正し、中断した処理を再開させる。
 ──よし、っと。
 そうして表示された処理の実行確認を促すメッセージに、エンターキーを押下した瞬間、ラボの警報が赤く響き渡った。
「え!? 何!?」
 私は驚き声を上げた。同時に、手元にあるノートPCの画面に幾つものウィンドウが表示される。何れも警告メッセージのようだが、数が多くて捌き切れない。
 仕方なく手元の対処を諦めて顔を上げると、目の前にいる無精髭が視界に入った。それから彼の表情を見て、私は何となく事情を察する。
「えーっと……」
 彼のギョトッとした様子に、私は席を立ち、腰に手を当ててため息を一つ。
「なんだ……その」
「何を、やらかしたのかしら?」
 静かに問い詰め、返ってきた彼の返事は案の定、謝罪だった。
「スマン」
 彼は左手で頭を掻き、右手で机の上に敷かれた一本のLANケーブルを指差した。私は項垂れて再度大きなため息を吐くと、部屋の壁に向かって歩き、取り付けてある拳大の赤いボタンを握り拳で忌々しげに叩き押す。そうして部屋の警報が鳴り止み、私は席へと戻った。そして──私は、夜淵を見据えた。
 嵐の前の静けさ。否──核弾頭でも叩き落としてやりたい気分だ。
 私は大きく息を吸って、右手を部屋の出入り口へと向けて伸ばし、人差し指で指して……叫んだ。
「二度と、ここに入らないで!!」
 その叫びに、彼は尻尾を巻いてラボを後にし、書斎の方へと駆け上がって行ったのだった。

   ◆◆◆
 ラボでの一騒動の後、私は片付けを終えて書斎へと上がった。書斎に夜淵の姿がなかったので、そのままリビングまで探して戻る事になる。
 冷房が程良く効いたリビングでは、ソファーで腕を組んで俯く彼の姿があった。
 私は特に声を掛ける事もなく、ダイニングの戸棚から茶器を取り出して紅茶を煎れる。そして、ダージリンの香りを漂わせながら、その一杯を彼の座るリビングへと持って行く事にした。
「……すまなかったな」
 言葉遣いは別として、紅茶を受け取りながら彼は真摯に謝罪の言葉を述べた。私も「次からは気を付けてね」と付け足して、素っ気なく恩赦を与える。
「大丈夫なのか?」
 と、彼は顔を上げて余りに心配げに問うので、私は「心配ないわよ」と澄まし顔で答えた。
「まあ、一日手戻りしただけだから」
 だが、余程反省しているのか、彼の表情からは真剣さが消えない。必要以上に心配されても困るので、私は被害状況を少し細かく説明をしておく事にする。
「被害はラボの中だけだし、再起動すれば初期化されるので、汚染も問題ないわ。期日も余裕があるから、作り直せば大丈夫よ」
 その言葉に少し安心したのか、彼は私が先程までしていた仕事の内容について問う。
「どんな内容の仕事だったんだ?」
「少し特殊な、コンピューターウィルスの解析とワクチンプログラムの開発」
「特殊って……どういう風に?」
「興味があるの?」
「まあ……少し、だがな」
 私の問いに、夜淵は話を合わせるように答えた。
「んっと……自己進化するタイプで、コードを自分で書き換えて偽装するヤツかな。侵入出来た容量によって、その能力が変わるチョット変わった子。1KBくらいなら実害もないけれど、1MBを越えると厄介ね」
「まるで生き物だな……」
 私の説明を聞いて、彼は正直な感想を漏らした。それから、疑問を持った顔で私の方を向いて聞く。
「しかし、そんな複雑なウィルスのワクチンなんて作れるのか?」
「まあ、大抵のコンピューターウィルスは、自プログラムが逆に感染されるなんて想定していないから、個々の対処プログラムは案外作り易いのよ。解析自体は、既に作ってあるプログラムがしてくれるし、ね」
 私は彼の問いに軽い口調で答え、「もっとも、消えたり漏れたりしたデータや情報はどうしようもないけれど」と付け足した。
「今回作っているワクチンプログラムは、対象のウィルスに逆に感染して自己消滅する仕組みね。まあ、組み上がる前に誰かさんが環境にウィルスを放ってしまった訳だけれども」
 肩を竦めながら、少し意地悪く蛇足をする。
「……スマン」
「過ぎた事よ。それに──」
 そう言いかけて、私は紅茶のカップに口を付けた。
「それに?」
 途切れた言葉が気になって、夜淵が続きを催促する。私は黙り込んで悩んだが、
「──いいえ。何でもないわ」
 と答えて、続きは言わぬ事にした。
 ──たまの予期せぬ刺激は、人生に必要だもの、ね。
 それが、事件の進展せぬ日の、昼下がりに起きた、ちょっとした出来事であった。



4 電脳(サイバー)戦

 その週の金曜日、十五時。“戦闘”が開始された。
 商社の情報システム部にあるオペレーティングルームで朝から待機行動を取っていた私にとっては、窮屈な状況からやっと解放された感じだ。
 「待機」と言っても、何もしていなかったという訳でもない。先方に準備して貰ったディスプレイを四台ほどつなぎ合わせて、間に合わせの幅広なモニターを構成したり、先だってお願いしていたプログラムの配布状況をチェックしたり、それなりにやる事はやっていたのだ。が、何時始まるかも分からぬ電脳(サイバー)攻撃という事もあって、それらの段取りが終わって久しい時間が経過していた。

 オペレーティングルームは、結構広い。オフィスビル一フロアの半分ほどがサーバー等の機器に割り当てられているが、残りの半分がそれだ。ここからサーバールーム内は、ガラス窓を隔てて見渡せる感じになっている。
 改ざん予告がされた割には周囲は慌ただしくもなく、時折掛かってくる電話に担当の人間が応対している程度だ。──もしかしたら、混乱や漏洩を防ぐ目的で、全員には知らされていないのかもしれない。
 そんな部屋の一角に会議卓をロの字に組んで、私や夜淵、それに田中さんが機材を色々つなぎ合わせて何かをしている状況は、異質に見えるのだろう。時折、近くを通り過ぎる人の視線を、私は感じていた。
 ふと同じように隣で座っている夜淵の様子が気になり、視線を向ける。が、彼は腕を組んだまま、攻撃が始まっても目を瞑って静かに座っているだけ、である。
「でもまあ……律儀に犯行予告をしていただけあって、開戦の狼煙も律儀に表からとは、ね」
 画面の左端に表示された被弾箇所の一覧に視線をやり、私は独り言のように呟いた。それから、インターネットとの接続点に対する攻撃が始まった事を認識して、状況の確認を開始した。
 ──想定通り、特に破られている形跡はないわね。表の方は、牽制の通信を遮断し続けるだけで終わりそうだわ。
 コンソールを叩きながら、被弾している機器の負荷も差ほど高くない事を確認し、私は田中さんを呼ぶ。
「田中さん、少し良いですか?」
「何でしょう? 寺島さん」
 社内対応に備えて、電話前で待機をしている田中さんが、私の声に反応して座席を立つ。
「このビルのフロアマップはあったりしますか? 出来るだけ新しいのが良いんですが……」
「えっと、座席表とかなら先月更新されたものがありますが、そんなので良いですか?」
 彼の声に頷きながら、次に懐に持っていたカードケースの様な物を取り出す。
「ええ、基幹配線は概ね変わっていないでしょうから、十分です。あと……」
 そう言って、私はPCに差し込むタイプの小さな外部メモリーを田中さんに手渡しながら、
「これを十個ほど、同じ様なメモリーにコピーして貰って良いですか?」
 と、お願いした。
「お安い御用です。ちなみに中身は何です?」
「先日、配布をお願いしたプログラムと同じ物かな。直接インストールされるように少し弄っていますけれど」
「わかりました。少し待っていて下さい」
 そう言って、彼は少し離れた何人かに声を掛けながら歩いて行った。
「状況は、どんな感じなんだ?」
 不意に、隣から声が掛かる。私は特に振り向く事なく、ディスプレイに各フロアの配線図をオーバーレイさせながら、状況の説明を加える。
「今のところ、前哨戦かな。インターネット側からの攻撃は、防衛成功って感じね」
「中々、優秀じゃないか」
「何を言ってるの? 本番はこれからなのに」
 彼の称賛とも取れる言葉を、私は一蹴した。
「そうなのか?」
 案の定、よく分かっていないようだ。
 ──まったく。脳天気な事だわね。
 私は首を横に振って、次の状況予測を彼に短く伝える。
「次は、中から来るわよ」
「中から……って、大丈夫なのか?」
「まあ、たぶん」
「おいおい」
 先の事など分かる訳もなく、私は素っ気なく相づちだけを打ち、彼の呆れ声は聞き流した。それから、先程、田中さんに手渡した物と同じ外部メモリーを放り投げて渡す。
「はい、これ」
「何だ? これ」
 反射的に受け取りつつも、彼は疑問形で用件を問うた。
「後十個ほど、田中さんが同じような物を持ってきてくれるから」
 シレッとそう言い、ついでに私の計画に彼を巻き込む事にする。──予定していた、とも言う。
「どうせ、暇なんでしょう? いいから、手伝いなさい」
「……」
「……言いたい事があるなら、後で聞いてあげるわ」
 文字通り彼の言葉の行く手を先回りして、八方塞がりに言い放ち、丁度メモリーのコピーを終えて戻ってきた田中さんを視界に確認すると、私は宣言する。
「さて、本戦を始めるわよ」
 持ち込んだ赤いモバイルPCのコンソールを叩くと、拡張されたディスプレイに、社内ネットワークの情報が全て表示される。
「凄いもんだな……」
「逐次、状況と指示を伝えるから、内線携帯は常にオンラインにしておいてね」
 夜淵が感嘆の声を上げるがそれは聞き流して、借りてある内線携帯を彼に手渡しながら、説明を始める。
「物理的な話なら、私もお手伝いしますよ」
「助かります」
 横で見ていた田中さんがそう申し出てくれて、私は素直に感謝の言葉を述べた。

 本戦対応の内容は、こうだ。
 情報システム部で全ての社内端末に配布して貰ったツールによって、正規の端末は現在、全て私の配下にある。既に、各フロアの配線図と配下端末のリンクは終えているので、接続されているが配下にない端末は基本敵、という事だ。故に、それらの端末に対して逆にハッキングを掛けて、可能な限り犯人に近付く事が、この先の目的となる。
 つまり……夜淵と田中さんには、外部メモリーと座席表を持って社内を走り回って貰う、と言う訳だ。
 目の前にあるディスプレイには、既に改ざんの攻撃が開始されている旨が、逐次情報として表示されている。攻撃そのものは、システムが自動的に防御してくれているが、不審端末か犯人を抑えない限り、この攻撃が止む事はない。

「いいかしら? 不審端末を見つけても、ディスプレイを開けたり、不用意に本体に触れたりしないでね」
 私は 内線携帯の内線通話を通して、既にオペレーティングルームを後にした二人に不審端末を見つけた際の留意点を伝え、不審端末の大まかな位置情報を教えた。
 しばらくして、夜淵の声が耳に入ってくる。
「嬢ちゃん、一台目だ。棚の影で起動しているノートPCを見つけた」
「どんな感じに置かれているかしら?」
「あーっと……無造作に置かれていて、接続端子に何か小さな通信機器のような物が付いているな」
「もう一、二個くらい接続端子があると思うから、探して外部メモリーを挿しちゃって良いわよ」
「了解……差し込んだぞ?」
 彼の声が聞こえるのとほぼ同時くらいに、ディスプレイ上にも新たな端末が追加された事を、私は確認する。
「こちらで確認したわ。次は、上のフロアをお願い。丁度、反対側に一台あるみたい」
「了解だ」
 彼の返答を確認してから、私は接続された不審端末の情報確認へと遷る。
 ──接続出来た以上、独自OSではないみたいね、助かったわ。
 全ての不正端末に対して個別にハッキングする必要がない事が分かり、私は内心ホッとする。複雑な事にならずに済んだ為、状況の収束まで差ほど時間は掛からなさそうだ。
「位置把握には、最低もう二、三台は不審端末が必要ね……」
 そう呟いたところで、今度は田中さんの声が入る。
「寺島さん、こちらも一台見つけました」
「では、同じように外部メモリーを挿して貰って良いですか?」
 そうして幾つかの不審な端末を把握したところで、私の出番がやってくる。
「夜淵警部補、聞こえているかしら?」
「聞こえているぞ」
「これから犯人を追い詰める訳なのだけれど、私の指示する場所に物理的に走って貰って良いかしら?」
「……断ったところで、どっちにしても走らせるんだろう?」
「貴男も分かって来てくれたようで、私も嬉しいわ」
「……」
 黙り込んでしまった夜淵の代わりに、「ハハハ」と田中さんの苦笑いする声が受話器越しに聞こえた。
「さて、始めましょうか」
 私は気を取り直し、背筋を伸ばす。そして、両手で赤いモバイルPCのコンソールを軽快に叩き、反撃の為にプログラムを呼び出した。
 四枚を横に並べたディスプレイが一斉に切り替わり、不審端末が辞書索引の一覧みたいに表示されて、その先にあるネットワークが暴かれる。そして、更に通信先との距離を算出すべく、私はその演算をプログラムに命令した。
 電波の強さは、遮蔽物がなければ距離に依存して減衰する。そして、このビルはオフィスビルであり、サーバールームを除いたオフィスフロアの端には、もちろん窓しかない。つまり──複数の端末が特定の無線機器と通信しているなら、それぞれの受信感度から通信元となる端末の割り出しも可能、という事である。
「見つけたわ。大通りを挟んで正面向かいのビルの、同じ高さだから……十三階あたり、かしら? こちらのビルが見渡せる場所に、少なくとも通信機器があるわ」
 ディスプレイの演算結果と今自分が居る場所を対比して、私はナビゲーションを夜淵へと伝える。受話器越しに「了解」と、短く答える背後の音が揺れている事から察するに、どうやら向かいのビルに向かって、既に走ってくれているのだろう。
 私は情報を再度確認しながら少し考え、通信ラグの数値に目を付ける。
「でも……コマンドのタイムラグから推測して、そう何台もPCや通信機器を経由している訳でもなさそう。恐らく、そこにターゲットが居るわね」
「……話している内容は良く分からんが、そこに犯人が居る訳だな? 分かった」
 ──まったく。少しは勉強しなさいよ、サイバー犯罪対策課勤務!
 返ってきた彼の返答に内心悪態を吐きつつも、取りあえずは犯人確保に集中する。
「いいこと? 犯人らしき人物を抑えたら、端末に外部メモリーを挿して頂戴。こちらで端末の確認が出来たら、その人間が犯人だと分かるから」
 受話器の向こうから、
「了解」
 と、再度応答があり、そこで内線携帯の通話は途切れた。私は、夜淵が内線の圏外へ出たと想定する。
 ──後は、待つだけ。
 ただ結果の報告を待つというのは何とも焦らされるものだ、と痛感しながら五分が経過し、ディスプレイの左にあった被弾表示が一斉に停止した。更に一間置いて、リストに新たな端末が追加される。それから、私の携帯が鳴った。

   ◆◆◆
「はあ、はあ……。そっちの、状況は、どうだ? 端末を確認、出来たか?」
 電話に出ると、受話器の向こうから息の荒い声が聞こえた。……階段でも使って、十三階まで駆け上がりでもしたのだろうか?
「……息が荒いわよ? 運動不足?」
「……五月蠅い」
 どうやら図星のようだ。
 コンソールに追加された端末情報と、その中にあるデータを遠隔で確認しながら、私は彼が捕まえた人間が犯人である事を伝える。
「渡してあるプログラムの侵入を確認したわ」
「了解だ。こっちもあからさまに怪しく廊下に居たから、確認するまでもない気はしたのだが……。端末は、どうしたらいいんだ?」
「ああ、そこでしばらく待っていて。こっちで今、その端末の中を確認しているから」
 彼の問いにそう答え、私は携帯を肩に挟んでコンソールを両手で操作し直した。そして、しばらくして表示されたファイルの内容に驚き、手を止める。
「……って、何これ!?」
「どうした?」
 私の上げた声に、夜淵が問う。
「えっと……改ざんする予定だったコンテンツに、テロ声明……? みたいなものがあるんだけれど……」
「何だって!?」
 その声と同じか少し遅れて、“ドゥン”と言う大きな音が外から聞こえ、私は顔を上げる。周囲も今の音に驚いて、窓の辺りに人が集まっていく。
「今のは何? まさか──!」
 音は一回だけであったが、窓の外に下から煙が上がってくるのを確認した。振動や揺れがなかった事から、このビルではないようだが……十中八九、爆発である事には違いない。
 私は夜淵が心配になり、彼に向けて声を掛けてみる。
「そっちは、大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。あっと、少し待ってくれ。……夜淵だ」
 特に何も無かった様子の返事が返ってきて、声が遠くなる。どうやら自分の携帯に掛かって来た電話に出ているようだ。
 待っている時間が勿体ないので、侵入に使われた端末を更に調べる事にする。
 ──仕掛けは大掛かりだった割に、犯人自身の行動が稚拙だったわねぇ。
 そんな事を考えながらコンソールを叩き、私は侵入に使っていたと思しきプログラムスクリプトを見つけた。
 ……どんなプログラムを使っていたのかしら?
 最優先すべきは、爆発音の事と犯人の目的を確認する事の筈であったのだが、好奇心を優先してしまったと言わざるを得ないだろう。
 手元のモバイルPCにその解析を指示して表示された結果に、私の顔から血の気が引き、先程の爆発音とは違う大きな衝撃が私の中を駆け抜ける。
 ──私が組んだ、コードだ……!

「分かった、車を一台回してくれないか? すぐにそちらへ戻る。場所は──」
 しばらくして携帯に夜淵の会話が少し聞こえ、携帯を切る電子音が聞こえた。それから、私が渡した内線携帯の方に彼の声が入る。
「すまんな。どうやら、ここから先は警察の管轄になりそうだ。都内の少なくとも五カ所で爆破事件があったらしい」
「その、少し……話をさせて貰いたい、のだけれ……ど」
 彼の話にも驚いたが、それ以上の動揺を抑えられぬままに、私は震えた声で彼に頼み事をした。
「企業の信頼云々ってヤツなら、その商社で起きた今回の件について、表立って聞く事はないと思うし、問題がない事くらいは保証するぞ?」
 どうやら気を遣ってくれているらしい発言が私の耳に届くが、話の食い違いを感じて、私は訂正の声を上げる。
「そうじゃなくて……!」
「じゃあ、何だ?」
「犯人に確認したい事が出来たのよ、今からそっちに行くわ」
 詳細には答えず、私は一方的に通知すると、携帯の通話をプチッと切った。そして、そのまま携帯以外に何も持たず席を立ち、大通り向かいのビルへと向かう。

 ピンポーン。
 エレベーターのチャイム音が鳴り、十三階の扉が開いた。
 エレベーターホールから延びる廊下は、年期を感じさせる汚れた壁に挟まれ無機質に左右へ続いている。エアコンが効いているのか、何処かから漏れてきているのか、空気は少しヒンヤリとしていた。
 私は、商社のビルがある右の方へと足を向ける。窓のある場所に、恐らく夜淵と犯人が居るだろう。
 時刻は十八時を過ぎていたが、制服やスーツに身を包んだ人々と時折すれ違いながら、私は小走りで廊下を抜ける。そして、踊り場のように少し開けた場所に、目的の人物を見つけた。
 背丈は小柄。太っている訳でもなく、かといって細いとまでは言えない感じか。髪もボサついていて、少し長い。
 そんな男が、壁の近くを縦に抜けている配管に手錠で繋がれて、しゃがみ込んでいた。──今回の犯人だろう。
 夜淵が私の姿を認めて、頷く。私はその場に着くなり、犯人の男に視線を向けた。
「一つ、教えて欲しいのだけれど、良いかしら?」
「ぼ、僕は何も知らないっ!!」
 驚き怯えた表情で、彼が喚いた。要領を得ないので、私は夜淵の方を向いて問う。
「何の話?」
「ああ、さっき都内で複数の爆破事件があったって話したろう? その事だよ」
「そう」
 私は軽く頷くとしゃがみ込み、眼鏡を外して再度犯人の男を見つめた。
「私が聞きたいのは、爆破の件じゃないわ。攻撃に使ったプログラムについて……」
 相手を見据えたまま、そこに普段は使わぬ程の殺気に近い威圧を帯びた低い声色と視線を加えて、
「どこで手に入れた?」
 と、問い直す。
「ひぃ……。俺じゃない、俺じゃないんだぁ」
「ふぅ。やれやれ」
 半分錯乱し怯えた彼の様子に、私は彼の口から情報を聞き出す事を諦め、ため息を一つ吐く。
 ──直視、するか……。
 仕方なく、手錠を掛けられていない側の、彼の腕を強く掴んだ。それから、より深く視る事が出来るように……ココにあるが、ココではない場所に意識を向けた。

   知覚している人間。
     聞こえるサイレン。
       周囲の……雑踏。
   やがて、それらの風景全てが、セピアに遠退く。

 そして、暗いトンネルのような、端のない闇に居る感覚に襲われる。
 次に私と彼が在ったのは、薄暗く群がる高層ビルに囲まれた路の真ん中だ。──薄暗いのに不思議と周囲が見えるのは、淡い光が空から絶え間なく降り注ぎ、足下でも泉のように光が沸いているからだろう。
 この唐突な周囲の変化に、犯人の声色が錯乱から困惑のものへと変わる。
「な、なんなんだ、ここは? 何処なんだ!?」
「落ち着きなさい。別に、とって食べたりしやしないわよ」
 掴んだ彼の腕を放し、私は面倒臭く言い放った。それから立ち上がり、懐かしげに周囲へ視線をやる。
「なあ、ここは何処なんだ? さっきまでビルの中だったじゃないか」
「今もそこに居るわよ」
「え?」
 私は短く答えてから、邪魔をされてもかなわないので、更に軽く説明を加える。
「……ここは記憶溜まり。この地に根を下ろす人たちの記憶が降り積もる場所」
 そこまで言ってから、私はふと思い出し、肩を竦めた。
「まあ、何を言ったところで、時間の概念さえないこの世界。戻ったら、お前は思い出す事さえ困難な訳なのだけれども」
「お、俺に何をするつもりなんだ!?」
「好きにしてて良いわよ。お前の記憶を視るのに、お前という存在が必要なだけだから」
 私は彼の記憶を読み出す為に、色のない空を見上げ、雪のように降り注ぐ光たちを見つめる。それから、彼と同じ気配がする光を見つけ、そっと手に取った。


   元商社の社員。情報システム部勤務。それが彼の以前の肩書きのようだ。
   真面目で、それなりに人付き合いもあり、頭の回転も悪くない。
   だが、努力が空振りして、自分の提案が通らない日々。
   近い記憶に、私も提案したセキュリティ強化の競合案件が視える。
   彼の記憶によると、どうやら私と組んだ別担当の提案が、コストパフォーマンスの面で勝っていたようだ。
   感情までは分からないけれど、こういう時に感じるのはやはり無力感、かしら?
   この頃から、ネットの呟きで愚痴や批判を書くようになったのね。
   そんな中で、誘われるままにアクセスしたURL……。
   怪しいメールのやり取り。
   不満を増長するようなフォロー……。
   ? 行動の変化。会社の退職。
   受け取ったワームプログラム……これだわ。
   送付元のメアドは、覚えてるみたいだけれど……。

   暗い倉庫のような場所。今回の計画についての会合……。
   会話はなく、ただ無言で渡されたメモリカード。
   ……相手の顔は、暗くて見えない。
   ──けれど、これは香りの記憶? ……香水、かしら?

   他に手掛かりはない……みたいね。


 過去視を終え、私は意識を元の世界へと戻す。
 霧が晴れるかのように、周囲の景色はビルの踊り場へと戻り、犯人の男は気を失った。
「何かしたのか!?」
 唐突な出来事に、横にいた夜淵が驚いて私に問うた。当然、今の出来事を彼は知らない。
「別に……。錯乱していたから、興奮しすぎて気を失っただけじゃないかしら?」
 シレッとそう言って、一言付け足す。
「でも……。案外、アタリを引いたのかもしれないわね」
「? 何の事だ?」
 要領を得ない顔で、夜淵は私に聞いたが、私はそれを聞き流す。代わりに、
「これからどうするの?」
 と問うが、
「言っただろう? この先は警察の管轄。この前のストーカー退治みたいには、いかない」
 と、彼も譲る気はないようだ。その答えに、私は少しイラッとするが、流石に反論したところで、どうとなるものでもない。
 仕方なく商社の後片付けに戻る事にして、私は両手を後ろに組みながら、エレベーターホールに向かって歩き出した。
 ──まったく。少しくらいは、アテにして欲しいものだわ。
 ふと遠くから、近付いてくるパトカーのサイレンが聞こえた。

   To:Agent K
   件名:ケースA、指名オファーの件について
   本文:依頼の件については、つつがなく終了。
     関連事項も含め、添付資料を確認後、検収をお願いします。


 第三話・終

 「記憶ノ守の──」 第三話

引き続き、手に取って読んで下さり、ありがとうございます。
これにて、序盤の話は終わりです。

お手数とは思いますが、もし良ければ感想などを呟いて貰えると、幸いです。

 「記憶ノ守の──」 第三話

第三話。序盤の話が終わります。 舞台は現代・日本。 記憶を保ちながら転生を続ける過去見の少女・寺島茉希。 MAXIなる存在を探し求める中、彼女は事件に巻き込まれ、あるいは首を突っ込みながら、付き纏う刑事に信頼を寄せていく……。

  • 小説
  • 短編
  • ファンタジー
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-23

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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