ちっぽけな愛のうた

 これは僕のひとりごと
 君には届かなくていいんだ。

 君と過ごした移ろう季節は
 瞳を閉じれば まるでほんの一瞬前のことのようで


 満開の桜 舞い散る花びらを
 捕まえようとする 無邪気な笑顔

 学校のプールサイドで 二人並んで座って
 「夏が始まるね」って
 足に感じる水の冷たさ 塩素の匂い

 僕の隣にいてくれるのが君で、どうしようもなく嬉しかった。


 風が少し冷たくなって
 世界から一つずつ、色が消えていった。

 世界が白に覆われる頃には、
 君の寒さでかじかんだ小さな手を握る
 僕じゃない誰かがいた


 夕暮れの部屋 僕は一人
 久しぶりに古いギターを弾いてみた。


 これは僕のひとりごと
 誰にも聞こえない小さな歌


 かき鳴らしたギターの音に重ねて消えた
 最後の言葉も
 君には届かなくていいんだ。


 

ちっぽけな愛のうた

きっと誰にも気づかれない、「僕」の小さな歌です。

ちっぽけな愛のうた

  • 小説
  • 掌編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-20

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