義兄弟
義兄弟
最近、弟が三国志にはまっている。
理由は簡単、最近買ったゲームが三国志を題材にしたものだったからだ。
オレと弟は二人でそのゲームを遊んだ。敵をとにかく切り倒すという、なんだかストレス発散型ゲームって感じだった。
正直、三国志なんてオレはよく知りもしないが、劉備がかっこいい英雄だとか、曹操とか孫権とかは知っている。ゲームに出てきたから。
お母さんなんかは
「なんで諸葛亮孔明が戦ってるの?」
なんてよくわからない事を言う。
オレはゲームはゲームで、敵をばたばた倒してストレス発散したら、割と綺麗に忘れて次のことをするタイプだ。
だが弟は違った。
三国志の小説を読み始めたのだ。
三国志という小説は小学生が読むには割と難しいと思う。
それに長い。
まだ一巻までしか読んでないので、弟の根性がどれだけ持つか、見ものだ。
オレは弟と並んで置いてある片方の机で宿題をしつつ、隣で三国志一巻を読んでいる弟をうかがった。
「それ、面白い?」
「うん!」
小学五年生の弟に、中学二年のオレの方が負けた気がした。
なぜならオレはゲームがどんなに面白くても小説まで手を出す気にはなれなかったからだ。
正直、そんな難しい本なんて読みたくない。
それを弟は面白いと言って読んでいるのだ。
こいつは将来天才になるんじゃないか、と一瞬思った。
「どんなところが面白いんだ?」
その質問に弟はニヤっと笑った。
「まだ物語の最初だけど、劉備は関羽と張飛ってゆうもうな武人と義兄弟のちぎりを結ぶんだ。それが固いきずなで、関羽と張飛は劉備のためなら命もかけられるっていうんだ」
「それで」
「それでって、感想それだけ? かっこいいじゃないか。僕にも関羽と張飛みたいな弟がほしいなあ、それで劉備みたいにかっこよくリーダーシップのとれる人間になるんだ」
今すぐにでも読書感想文が原稿用紙で十枚くらいかけそうな勢いだった。顔もいくらか赤い。
なんだかちょっと物語の世界に入り込みすぎている気がしたが、それが面白くて少しからかってみた。
「じゃあさ、兄ちゃんが劉備みたいになるから、お前が関羽とか張飛になれよ」
「えー」
弟は不満そうな声をあげた。
それからぶつぶつ「やっぱり劉備がかっこいい」とか聞こえたが、三十秒くらいで弟は顔をあげた。
「分かった! 僕、兄ちゃんと義兄弟のちぎりを結ぶ!」
オレは目を丸くした。
その時のオレの心境を分かってもらえるだろうか?
弟がどれくらい三国志を理解しているか、はなはだ疑問だ。
さっき感じた敗北感が綺麗さっぱり吹き飛ばされ、オレは腹の底から笑った。
義兄弟