ドローン.ストライク
この作品は、唯一の連載予定となっています。内容も特異性があり、繰り返し読み込んで下さる方にとっては、味わい深いものとなる事でしょう。
歴史、文化、宗教、政治、様々な学問などを、考察し取り入れながらの執筆となっています。
作者も、試行錯誤しながらの、ストーリー展開ですので、改変が多々あり読みづらい点もありますが、ご了承ください。
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まだ、自我が確立されていない成長期の方は閲覧を控えたほうがよいでしょう。
あなたの精神の基軸を砕く恐れがあります。
真理の全てを知ることが幸せとは限りません。
知らずに一生を終えるのも、ひとつの選択肢とご理解ください。
それでも、パンドラの箱の(ふた)を開けると言われるのでしたら、私は これ以上、何も言うことはありません。
かくゆう、私も その1人なのですから………
神像の丘に立つ老人。
【 天、空、地 】
【 太陽神の、愛から、出でし 】
【 輝かしい、光を、享受せんことを】
【 万物の創造主、知性の源に、栄光が】
【永久に、あらんことを】
オリゾン河を見下ろす、神像に嵌め込まれた、十二星の装飾が成された、クリスタル.タブレット。
そこに、刻印された言葉を読む、ひとりの青年。
『この神像は、いつから此処にあるのだろう…』
『そして誰が、何のために、造ったのだろう…』
興味は尽きない。
玉座に座る救世主と傍らに立ち右手を高く翳す女神。
青年が、しばらく、神像に見入っていた。
すると、背中を杖のようもので、突っく白髪の老人が、後ろに立っていた。
『名はなんと言う……』
白髭を蓄えた老人が訊ねた。
『希望です。
『良い名じゃ、気に入った。』
そう言うと、老人は神像の足下にある、小さな扉を開いた。
そして、クリスタル.タブレットを神像から外し
開いた扉の中へ収め施錠した。
その鍵を、エスポアールに渡し、おもむろに語りだした。
『陰、極まれば陽となり、陽、極まれば陰となる。』
『すぺての物は、二者一対、闇は光を飲み込み、光は闇を祓う。 』
『地の神像に光を、空の月に闇を置く。』
『これを、天より見守る』
『エスポアールよ、 国民が苦しみに喘ぐ時、そなたが民を導く旗印となれ!』
『万民の希望となるのだ!!』
白髪の老人は、そう言い残すと、霧のように、何処となく、姿を消した。
アムール市街、炎上。
『戦闘ドローンだぁー!!』
空を見上げ、逃げ惑う人々。
【ドドーン!!】
街のシンボルである
高い時計台に、ドローン爆弾が炸裂した。
時計台守の老人が叫ぶ。
『おのれー! 悪魔め!神罰がくだるぞ!』
老人は、時計台の窓の一角からドローン目掛けてライフルの引き金を引いた。
∥カチッカチッ∥ トリガーを引いたが玉が出ない……
老人は、地団駄、踏んでライフル銃を窓の外へ投げ捨てた。
『じっちゃーん!!、早く逃げるよー!!』
『危ないから、降りてきてー!!』
老人の、二人の孫が、時計台の下で叫んでいる。
『お兄ちゃん、恐いよ…』
『エスポ! アミを連れて、峠を越えて、桃源郷へ逃げるんじゃ!!』
『わしは、この時計台を、離れる訳にはいかんのじゃー!!』
少年エスポは、妹のアミの手を握って、呟いた。
『アミ、兄さんの手を絶対、離しちゃだめだよ!』
『お兄ちゃん、恐いよ…』
幼い少女アミの手が、小刻みに震えている。
『大丈夫!!、兄さんが、付いてるから!!』
傾き掛けている時計台に、ドローン爆弾が、更に追い討ちをかけた。
【ドドーン……ドドーン】
ゆっくりと、時計台が傍らにある、
オリゾン河に倒れかかる…
『桃源郷へ行ったら、マスター(救いへ導く者)を探すのじゃー!!』
『決して、忘れるでないぞー!!、この街を必ず救ってくださる!!』
時計台は、老人、諸とも、オリゾン河、目掛けて
倒壊していった。
高い波しぶきが上がり、その後、時計台は見えなくなった。
流れる涙を拭く、兄妹。
『アミ、急ぐぞ!』
エスポは妹の手を引いて、桃源郷目指した。
帝王ロゴスは、造られた。
本来、人を助けるために開発されたはずのドローン。
電子コンピューターシステムに、取って変わった量子コンピューターにより
驚愕の思考能力を持ったドローンは、様々なタイプに進化を遂げていった。
政治、経済、学問、軍事、化学、枚挙に暇がないほどの進展を遂げた。
取り分け、軍事部門では、指揮型ドローン、戦闘型ドローン、後方支援型ドローンと開発が進み隣国への侵略へと舵を切っていった。
底辺で、働くボトムソルダドローン(前線兵士)の間から、いっからか帝王と呼ばれるドローンが仮想の存在感を現し、祭り上げられるようになった。
このドローンを恐れる余り、絶大帝王制が、ここに誕生したのである。
しかし、皮肉なことに、頂点に立つものは深い精神的パワーを持ち、且つ、人間でなければならないという、初期プログラミングであったために
この不条理を埋めるため捜索ドローンにより、一人の青年が検索された。
その青年の名は 『ロゴス』
その青年は誰よりも、深い信念を持つ精神的パワーその物だった。
『天まで、届くほどの摩天楼を築いてみせる!』
『全てを支配する帝国の王となる!』
『この、強い信念がドローンの量子思考回路に多大な影響力を及ぼした。
本末転倒、全く理想とは真反対の社会システムが確立されようとしていた。
陸戦型ドローンが都市を襲い、捕獲ドローンにより、人々は次々とエンパィヤタワーへ輸送されて行く。
厳しい労働を課せられる人々に監視ドローンの鞭が飛ぶ。
ビシッ! ビシッ!
誰が、この様な社会を望んだだろうか。
人々は救世主の救いを、心の底から願い天に祈る。
奴隷となった者たちの中から、誰がいつから、話始めたか……運命の予兆が動き始めた。
『桃源郷より救世主が現れ、我らの解放を必ず成し遂げてくださる!』
ロイヤル三世、戴冠式。
一年前……エマール王国。
鳩の群れが、青い空に羽ばたく。
厳かな、セント.ルミナス大聖堂の鐘が、王都の街に鳴り響く。
パレス大通りを進む、四頭立ての綺羅びやかな羽帽子の馬車。
シャベリア.ノィア皇太子が戴冠式へ向かう姿である。
通りの両側には、多くの民が手に手に、鳩の羽を持ち、祝いのエールを送っている。
その、群衆の中に、青年、希望と少女、妹の友の姿もあった。
『お兄ちゃん、今度、王様になるノィア王子、優しそうな顔してるね~』
『そうだね……ノィア王子は、とても人徳のある、お方で臣民から、愛されているんだよ。』
王子を乗せた馬車は、臣民さのへの御披露目を済まして王宮の門をくぐった。
大理石の階段を昇る、ノィア王子。
神殿の前に備えられた、王座の横には生母のソフィア太后が立っている。
枢機卿の月読みの巫女が、王冠をノィア王子の頭に載せる。
ソフィア太后が、右手を高く翳す。
『エマール王国、国王、ロイヤル三世の御世に栄光が永久にあらんことを!!』
エマール国主へ引き継がれる剣、サザンクロスが、太后より、新しき国王ロイヤル三世に渡された。
これを、一段、下の座から、うつむきかげんに、横目で見る人物。
ロイヤル三世の兄、ブロウ侯爵が、側にいる息子の通称、黒子爵に呟いた。
『 次の世は、お前が王となるのだ!』
『この父とお前の屈辱、決して忘れるでないぞ!』
『魔王、デモニス様へ、幼児をお捧げし、闇の力を享受せよ!』
『さすれば、この世の王となるは、自明の理!』
『お前の生母、月読みの巫女を頼り、現世の王となれ!』
『黒騎士の血統を存続させよ!』
『ブロミナティにより、この世は掌握されねばならぬのだ!』
華やかな戴冠式の最中、一人、黒馬を走らせ城門を出て行く
黒子爵は、ひたすらに、馬を走らせた。
目的の地は、 暗黒山、ゴルドバの頂上。
そこから眺める空は真実の海と呼ばれ、選ばれしブロミナティのみに開かれた道があった。
魔王と多次元の住人、そしてブロミナティ、三者の狂喜の宴は、ここから始まる。
月の姉弟《きょうだい》
真実の海に小舟を浮かべて語り合う姉弟
月読みの巫女とラビの月
『ラビ…お前は運命を信じるか?』
姉の巫女が釣糸を垂れて黙り込んでいるラビに語り掛けた。
『姉上、また、その話ですか……』
凪の海面に写り込んでいる星明かりが、一瞬、揺らいだ。
『来た!、これは、大きいかもせれません。姉上!』
『お前は、いっも人の話を聞かぬな…』
ひとつ、溜め息をついて夜空を見上げる巫女。
『今日は満月の夜か…』
『姉上!、大きな獲物が釣れそうです!』
『さっきの運命の話、信じますよ!』
『正直に申せ!、お前は真実を知るのが、怖いのであろう。』
『わたくしは、姉上ほどの賢者ではありませぬゆえ』
『お前は獲物が本当に釣れたと思っているのか?』
『姉上、勿論でございます!ご覧ください。』
ラビは釣糸の先の海底を指差した。
『もうよい!手を下ろせ……』巫女は釣糸の先の海底を覗き込んだ。
『ほう……黒馬の子爵が、やって来たか。』
『お前と我の論争の火種を、また釣りおったな!』
『申し訳なく思います。』
『姉上の、おっしゃることは、難解過ぎて、わたくしには、理解できませぬ。』
『あのテラという星は昔、地球 と呼ばれていたそうな…地表が丸いと本気で信じておる者が住んでおる。』
『 テラの住人からすれば、我らが住む、この月も、丸いという事になる。』
『真実は、いつも隠されているもの』
『ラビよ。そのこと、決して忘れるな。』
『姉上…もう耳にタコができるほど、そのお話しは聞きました。』
二人の姉弟を乗せた小舟は凪の海を滑るように水平線へ消えていった。
何もない空間に浮かぶ平面の海。
それは意識の境界線。
修道女が駆る荷馬車は梟の森へ。
(((地震だぁー!)))
アムール市街は、ドローンの空爆と折からの
天災とが重なり混乱の炉坪と化した。
『アミ!兄ちゃんの手を絶対、離してはいけないよ!』
エスポ少年は幼い妹を、混乱する街から護りながら
逃げ惑う人々の中を縫うように走った。
焼け落ちる民家の屋根が、二人の行く手を阻む。
泣き出し座り込む妹を抱き上げエスポは
オリゾン河に架かるプランタン橋を目指す。
『もう少しの辛抱だよ!アミ』
『ほら、見てごらん…プランタン橋が見えてきた』
『橋を渡ったら森を抜けて、その先の村まで行けるよ』
アミの顔にも僅ながら 安堵の笑みが戻った。
その時、荷馬車を走らせる修道女 が 二人の横に止まった。
『荷台にお乗りなさい…』 修道女は優しく兄妹に言葉を掛けた。
『ボクと妹は、これから桃源郷へ行くところです。』
『シスターは、どちらへ向かわれるのですか?』
,
『梟の森にある教会です。』
親を無くした子供たちの世話をしているのですよ…』
荷台には二人の少年と一人の少女が乗っていた。
エスポは妹のアミを抱き上げ荷台に乗せた。
荷台が、いっぱいになったのを見て修道女は自分の横に来るようエスポに促した。
『ありがとうございます…シスター』
エスポは胸に手を当ててて礼を述べた。
修道女は優しく微笑んで諭すように呟いた。
『これも太陽神のお導きです。』
エスポは修道女の胸に光るペンダントを見て遠慮がちに訊ねた。
『輝きの聖女様ではありませんか?』
修道女は、その問いには答えず人数分のパンを手渡した。
エスポは荷台に乗っている二人の少年と
一人の少女そして妹のアミにパンを配った。
パンを手渡す時に各々に挨拶を交わした。
柔らかな表情を浮かべる少年……月
頭からローブをかぶる無愛想で無口な少年……鳥
頭に花のカチューシャを着けた可愛らしい少女……風
荷馬車は一路、梟の森にある館をめざした。
永遠の契りを結ぶパン
輝きの聖女が、走らせる荷馬車がオリゾン河に架かるプランタン橋を駆け抜けた。
ああなたたち、パンはもう、口にしたかしら…』
聖女が、優しく孤児たちに語り掛ける。
エスポ少年は軽く頭を頷いて見せた。
『あなた方は、ひとつのパンで永遠の契りを結びました。』
『どれ程、互いに離れていようと、縁の糸で結ばれたのです。』
『太陽神の下に集いし選ばれし魂となりました。』
『サァ、共に祈りの言葉を捧げましょう。』
聖女に促されるままに、孤児たちは、聖女の祈りの言葉に和した。
『太陽神に永遠の栄光と力と讚美がありますように…パロール。』
荷馬車は聖女の首から下がるペンダントが光ると同時に、大きな輝きを発した。
荷馬車は一瞬の内に、その場から消え……再び現れた場所は梟の森の中にある教会の前だった。
※【クオンタムリープ、テレポーテーション.既に量子の実験では現実となっている。】
『サァ、あなた方の、新しい家に着きました。』
聖女は孤児たちを、荷馬車から下ろし、教会の中へ導いた。
正面の大きな扉を開くと広いロビーを挟むように両側に分かれた緩やかな昇り階段があつた。
二階の壁には大きな絵画が飾られている。
『バビロンの塔……』青年、鳥がポッリと呟いた。
聖女は鳥青年に訊ねた。
『確か、あなたのお父様は貴族の黒騎士様でしたね…』
『俺は、このバビロンの塔を越える世界一の塔を必ず造る!』
青年(鳥)の目は悲しみと怒りに満ちていた。
その様子を隣で伺う青年(月) と少女(風)
そこへ、白髭を蓄えた背の高い老師が現れた。
老師と聖女は軽く会釈を交わす。
『シスター、この純粋無垢な少女(アミ)を、わしに 預けてくれぬかのう~』
『この子の目は、透き通る宇宙のようじゃ…わしの下で 聖女として、育てたいと思っておる。』
海へと
『老師様さえ、宜しかったら、私は異存はございません。』
う エスポはアミの手を握り聖女に訊ねた。
『妹のアミを、何処かへ連れて行くのですか!』
『そうでは、ありません。この教会で老師様と聖女となるための修養に入るのです。』
『これは、大変、名誉なことですよ。老師様にお礼を申し上げなくては…』
不安そうに兄の手を握り返すアミの体が小刻みに震えていた。
『アミは僕の妹です!、もし、この子が嫌がるようなら、直ぐにこの教会を出ます!』
『わかりました。あなたの言う通りにしましょう。』
聖女は静かに、柔らかな声で答えた。
『ところで、あなたは、桃源郷へ行くと話していましたね。』
『ここから、馬で約半日で行き着けます。』
老師がそこで、話に割って入った。
『わしも、桃源郷へ行くところだったんじゃ……ついでに二人を桃源郷 まで連れて行くことにしょう』
『 今日はもう、日が暮れる時刻、出発は明日の朝にしょう。』
老師は、そう言い残すと階段を昇り奥の部屋に入った。
花の髪飾りで遊ぶ少女、(風)の頭を優しく撫でながら聖女が呟いた。
『あなたは風の妖精、誰からも束縛を受けないでしょう…』
『大祭司は男でなくてはなりません。この二人の青年の中から、やがて太陽神の神託を受ける者が選ばれるでしょう。』
青年(鳥と月)そして少女(風)
三人三様の思いが心の内に芽生えはじめていた。
竪琴の少女、アミ、老師と共に天へ昇る。
輝きの聖女が部屋から出て、身支度をしている老師に伺いを立てた。
『老師様、月が出ております。』
『明け方までは、まだ少し時間があります。』
『もう旅立たれますか。』
少女アミは、輝きの聖女に、付き添われ老師の馬車へ、乗り込んだ。
馬車の後部座席に、兄の姿が、ないことに気付いたアミは、輝きの聖女に訊ねた。
『聖女様…お兄ちゃんが、乗っていません。』
輝きの聖女がアミに答えた。
『後から、来ますので、心配しないで、待っていてくれますか。』
老師はアミが、いっも肌身離さず持っている竪琴に目を止め、優しく笑顔で呟いた。
『少年が、来るまで、わしに、その竪琴の音色を聞かせてもらえぬかのう~』
アミは、竪琴の糸に指を掛け演奏を始めた。
少女とは思えぬ軽やか指使いで美しい旋律を奏でる。
やがて、老師とアミが乗る馬車の周りに四人の天使が現れた。
天使は、アミの竪琴の音に合わせて讚美の歌を唄いだした。
『美しき、乙女よ。天より竪琴の音を奏で救いの道を開く。星々と女神を伴い、主は来ませり。』
老師とアミの乗る馬車は、四人の天使により満月の中へと昇ってゆく。
アミの竪琴の音色に、目を覚ました、エスポは慌てて、中庭に出るが、馬車は月明かりの中へと消えていった。
茫然と、それを見送る、エスポ。
成す術もなく、月を見上げる。
エスポが、涙ながらに叫んだ。
《《《アミー!!、帰ってこーい!!》》》
太陽神からの賜物、花の出生。
((( カーン カーン)))
梟|《ふくろうの森に、斧を振るう音が響く。
『あなた、少しお休みになったら…』
翔は、七歳の誕生日を迎えていたが、いまだに立って歩くことができずにいた。
『今日は、この子(翔)の誕生日なので、車椅子を作ってあげようと思っているよ…』
翔の父、天人は額の汗を拭きながら妻の美空に、優しく呟いた。
『梟の森には聖なる木があると、聞いていたが、この青白く光る木が多分、そうだ!』
天人は聖なる木を切り出し、木材の一部を、焚き火の炎の中へ入れた。
『あなた!この木、燃えずに光を出しているわ…』
美空は、目を円くして、その光景を不思議そうに見ていた。
『ルミエール(聖木の光)、間違いない…』
『 この木で、翔の車椅子を、作ることにしょう!』
『この聖木で車椅子を作ると、太陽神からの祝福を授かるのね♪♪』
美空は天人の答えを待った。
『この聖木で、作った椅子を持っていると、復活の儀式が行えるようになるんだよ…』
『自らを、死から復活させ、また、あらゆる病から開放するだけではなく、周りにいる人々も癒す力があると言われているよ。』
『 ただし、死からの復活の儀式は、神の恩恵を受けた大祭司により行われる…』
『大祭司は、神の導きにより、然るべき時に、現れると言われているよ。』
『そうなのね…聖木で造られた、車椅子は太陽神からの祝福の賜物と言うことね…』
天人が車椅子を作っている間、 美空は近くの川へ水筒の水を汲みに出掛けた。
小川で水筒の水を入れていると、上流から、麻で編んだ《かご》が流れてきた。
美空は、不思議に思い、編み籠を、手前に手繰り寄せた。
おそるおそる、中身を見る美空の表情が和やかに変化していった。
青く透き通った目をしている、可愛い女の子の赤ちゃんが、たくさんの花に囲まれて微笑んでいた。
『あなたー! 来てくださるー!』
美空の大きな声に、天人は車椅子を作る手を休め、駆けつけた。
二人は、麻籠で色あざやかな花に包まれて笑っている 女の子の赤ちゃんを見てそっと呟いた。
『翔の妹ができたね…』
『あなた、名前は……花しましょう。』
梟の森の空高く、太陽を円で囲むように虹が現れた。
『太陽神様、祝福に、感謝いたします…』
天人と美空は、その場に、膝まずき祈った。
聖なる歌姫、ゴスペリーナ
『きれいな、お星さま~☆』
花は5才の誕生日を迎えていた。
光の教会の屋根裏部屋が、幼い花にとって宝箱だった。
三角窓から、夜空を見上げる花の視線の先にある、ひときわ、輝く星。
『何て言う名前の、お星さまなんだろう~?』
花は、枕を抱えて、ベットにチヨコンと座り眠れぬ夜を過ごしていた。
部屋のドアから、漏れる明かりに気付いた母の美空が、絵本を片手に入ってきた。
『花……もう、夜も更けました。 おやすみしましょうね~』
『お母さん……あのお星さまは、何て言う名前なの~?』
美空は、花の横に腰掛けて、頭を優しく撫で、三角窓に視線を移した。
『テラよ。』
美空は絵本を花に見せながら 答えた。
『むかし、むかし、地球という星がありました。』
『光の神様は、始めに、ご自分の息子と娘をお造りになりました』
『その後に、子供たちの世話をする、十二聖を、お付きとして、お造りになりました。』
その中に、リベルという、ひときわ賢く、力も強い聖が神に言いました。』
『あなたは、愛の神というが、ご自分の息子や娘しか、愛しておられない』
『聖たちが、あなたに使えているのは、あなたを愛しているからではなく、あなたの力を畏れ、怯えているからです。』
『 光の神様は、ご自分が愛の光であることを、息子や娘、そして他の聖に答えを与えなくてはなりませんでした。』
『それで、神様はリベルに自分の言い分が正しいか証明するチャンスを与えることにしました。』
『リベルをテラ星を周る月に置き、名前を神に反抗する聖、デニモスとしました。』
『光の神様は、パンドラの箱を開いて、中にある希望だけをテラ星に置きました。』
『箱の中には、あらゆる災厄だけが残されました。』
『 光の神様は、 パンドラの箱をオリゾン河、深く沈めました。』
『光の神様が、取り出した希望はやがて、煌めくクリスタルタブレットとなりました。』
『光の神様は、デモニスに言いました。お前の言い分が、正しいのであれば』
『希望の象徴、クリスタルタブレットをパンドラの箱の中に、納めて見せよ、と』
『美空が、絵本を、そこまで読み終え花の方を見ると…スヤスヤと眠りに落ちていた。』
美空は、優しく花に布団を掛け、花の額にキスをして、部屋をでた。
光の教会の、裏庭に広がる湖の畔で、夜空を見上げるひとりの聖女。
青く清んだ小波に美しい歌声が重なる。
花が微かな笑顔で、寝返りをうちながら、寝言を呟いた。
『ウフフ……歌姫、ゴスペリーナ』
桃源郷の誓い。
車椅子を押す幼い女の子
彼女の名前は花。
兄の翔は生まれつき、足が不自由で、移動には必ず妹の花が付き添っていた。
『花、いっも、ありがとう。疲れてないかい?』
翔は花を気遣うように、声を掛けた。
『だいじょーぶだよ!…おにーちゃん♪』
花は笑顔で明るく答えた。
山間の民家から、細い一本道が小高い丘の上まで続いている。
道の途中で、翔がポッリと呟いた。
『電動式の車椅子なら花に、こんな苦労を掛けずに、すんだのに……』
花は、しばらく車椅子を止めて兄の顔をのぞきこんだ。
『花は、これが好きなの! だって、おにーちゃんと一緒に遊びに行けるから♪』
屈託のない笑顔が眩しい。
妹の表情に翔は兄妹の枠を越えた感情を持つ自分に気付きつつあった。
花は道なりに咲いている桃の花の並木道を指差して呟いた。
『きれいだね~♪ おにーちゃん』
再び、車椅子を押す花。
しばらく押して行くと桃源郷の名を持つ満開の桃の花が咲く丘の上に出た。
丘の真ん中には、ひときわ異彩を放つ、大きな桃の木があった。
花は、そこまで、車椅子を押して行くと
その手を休め、額の汗をハンカチで拭き
弾んだ息が静まるまで、その場にペタンと座り込んだ。
翔は手持ちの水筒を花に手渡す。
『のどが、乾いただろう』優しく妹を気遣う兄。
花はゴクゴクと水を飲み干し…何を思ったのか、空の水筒を両手で振りだした。
その様子を見ていた翔は
『もう水は、ないみたいだね』と花に笑顔で話す。
空の水筒を、頻(しき)りに振る花。
どこからともなく、水筒の中に水が沸きだしてくる。
さらに、翔が様子を見ていると花はクルリと水筒を二度、回した。
すると、驚いたことに、1本の水筒が2本になった。
翔はその場で、しばらく、我が目を疑い茫然とした。
花は目を丸くして、無邪気に翔に話しかけた。
『おにーちゃん、わたし、すごーいでしょう♪』
『これあげる♪』
花は何事もなかったように、笑って水筒を翔に手渡した。
翔は花に、優しく語りかけた。
『花は神様から祝福されているんだね』
『誰かに、この不思議な力を見せたかい?』
花はそれに笑顔で答えた。
『 おにーちゃんに、見せたのが初めてだよ♪】
翔は妹の身を案じて、彼女の頭を撫(な)でながら言った。
『この不思議な力を他の人が見たら驚くから、ここだけの秘密にしておくんだよ。』
花は明るく『わかった!』と笑顔で答えた。
翔は妹の花のオデコに優しくキスをして
その後、両手で彼女の顔の頬の辺りを丁寧に包み込み
誓いの言葉を呟いた。
《《ボクの永遠の女神様が、ここにいる》》
『わたし、おにーちゃんのこと、だぁーい好き♪』
見つめ会う2人の瞳に時は永遠に止まったかのように思えた。
桃源郷での兄妹の誓い。
忍び寄る戦火
花は丘の見通しのよい場所へ兄の車椅子を移動した。
『おにーちゃん、ここなら遠くの方まで見えるね♪』
その時、ドドーンという爆音らしきものが辺り一面に響き渡った。
『花火かな~☆』
花は辺りを見回している。
翔の視線は、遠くの街に向けられている。
モクモクと、立ち昇る黒煙…あちらこちらと火の手が上がる。
空を行き交う戦闘ドローンの爆撃音だった。
『花、家に帰ろう…母さんが心配するといけない』
花は、『わかったよ、おにーちゃん』と言って車椅子の踵(きびす)を返した。
帰宅を急ぐ二人は、小休止がとれる池のほとりまで来た。
傍らを見ると、一人の少年が横たわっている。
服は、至るところ擦り切れており、遠い道程を歩いてきたのか…かなり疲れた様子だった。
『すみません…もう、二日間、何も食べていません、食べ物があったら分けて頂けないでしょうか……』
少年は、弱々しい声で二人に声を掛けた。
花は迷わず少年に駆け寄り、バックの中からサンドイッチを取り出して少年に与えた。
サンドイッチを貪るように食べる少年。
花は水筒を少年に渡しながら言った。
『あなたのお名前は?どこから来たの?』
少年はサンドイッチを食べ終わると…水筒の水を飲み干し、一息ついてから、花に答えた。
『ボクの名前は希望(のぞみ)みんなからはエスポと呼ばれているよ…』
【※エスポワール、フランス語で希望という意味がある】
『桃源郷の村に、マスター(救いへ導く者)がいると聞いてきましたた。
『ボクの住む都市は、戦闘ドローンの襲撃を受けて人々は恐怖に震えています。』
たくさんの小さな子供たちが、親を失って、食べるものもなく、路上で泣いています。』
エスポは黒煙の上がる街の方を指差した。
花は事態の重大さを、理解できる歳ではないため
無邪気な笑顔でエスポに答えた。
『花も、マスターさん、さがしてあげるー!』
翔がエスポに話しかけた。
『ボクの父さんも戦闘ドローンとの戦いで、随分、連絡がないんだ。』
『よかったら、家へ来てください。』
『都市の様子を母に話してもらえないだろうか』
『花からもお願いします!』
ペコリと頭を下げる花。
空 腹を満たしたエスポは元気を取り戻した。
彼は車椅子の取っ手を手早く握り軽くうなずいた…
車椅子を力強く押すエスポの顔にも笑顔が覗いた。
花は車椅子の前を軽やかに小走りしてスキップしている。
花のペンダントが夕暮れの光に照らされて煌めいている。
太陽と月、十二の星、中央に女神、その意味を悟るには、まだ多くの時が流れねばならなかった。
時の糸車は今、まさに三人の運命を乗せて回り始める……
翔の受難と、花の奇跡
花は家の方向を指差して嬉しそうに呟いた。
『見えてきた~あそこが、わたしと、お兄ちゃんのお家♪』
エスポは怪訝(けげん)そうな顔で答えた。
『あれは、たしか光の教会だよね…』
『そうだよ♪ 』
『わたしと、お母さんと、お兄ちゃんのお家~☆』
花は手を後ろに組み、前屈み気味な姿勢でエスポに話した。
その時、交差する路地から3人の少年が躍り出てきた。
『翔!、見っけたぞ!』
『お前の父親のせいで、俺たちの父ちゃんは戦うはめになったんだ!』
『噂では誰一人、生きて帰れないて言ってたぞ!!』
『少年達は手に持っていた、石を車椅子の翔、目掛けて投げ付けた』
その中のひとつが翔の額に当たり血が滲(にじ)み出てきた。
エスポは自分のバンダナを頭から外して止血のために、素早く翔の額に巻いた。
その光景に花が怒り叫んだ。
『あんたたち!何するのよー!』
『おにーちゃんをいじめると、この、わたしが許さないから!!』
少年達は、花を指差して笑いだした。
『こんな、チビに何が出きる?』
『少年達は、再び石を取り車椅子目掛けて投げ付けた。
花は首のペンダントを握り、片手を高く翳(かざ)して叫んだ。
『悪魔のこども!いなくなれー!』
すると、投げた石が途中から方向を変え少年達、目掛けて飛んで行った。
『うぁーつ!石が俺たちの方に向かってくる!』
少年達は慌てて蜘蛛の子を散らすよう逃げ出した。
『あのチビ、化け物だ!』
翔は花の方を見て呟いた。
『ありがとう。花は優しくて、とても可愛く、強い女の子だね。』
『でも、あまり、不思議な力をみんなの前では使わないようにしょうね。』
『うん、わかった! もう、みんなの前では使わない~』
花は心配そうに兄の額に手を充てる。
すると、たちまち滲み出ていた血が止まり、
額の傷も次第に薄れて、やがて消えて無くなった。
『おにーちゃんは、花が守るよ!』
翔はエスポに話し掛けた。
『今、見たことは、誰にも話さないでほしい…』
『妹の身に危険が及ばないようにするために』
エスポは縦に深く首を振り答えた。
花はエスポを連れてきたことを、母親に知らせるため、先に駆け出し光の教会へ入って行った。
エスポは翔の立てない足を、不敏に思い遠慮がちに話した。
『君のその足、歩けるように、なるかもしれないよ。』
『ここから、そう遠くない、梟(ふくろう)の森に病を癒(いや)す聖女がいるんだ』
みんなからは、シスターと呼ばれている優しいお方だよ。』
『君に、その気があるのなら、連れていってあげられるよ。』
翔は笑みを浮かべて『ありがとう』と答えた。
とりあえず、教会へ入って街の様子を母に話してもらえるかな』
『少しでも不安を取り除いてやりたいと思っているんだ…』
エスポは、ユックリと車椅子を押して教会の中へ入って行った。
特異点に集う覚醒者と花の父の行方。
梟の森、修道女の館、祭壇の間に、集う四人。
聖所とは思えぬ 、妖しげな炎が 釜戸に立ち昇っていた。
祭壇の前に立つ修道女の透き通ってはいるが、どことなく、冷たい声が祭壇の間に響く。
『魔王と、その配下の者たちは天から落とされた。』
『魔王はデニモス(反逆者)と呼ばれ、その使いたちも、また、フラムと(炎の魔物)と呼ばれた。 』
『創造主に対する冒涜は、すなわち、滅びをもたらす。』
『魔王と呼ばれる者は、かって創造主と共におり、多くの聖の中でも、ひときわ、大きな力を与えられた。』
『しかし、その者は、創造主の愛に浴することはなく反逆者となった。』
『その強大な力のゆえに、高慢な思いを自らの内に宿し、創造主に敵対する者となった。』
『聖典には、この様に記されている。』
修道女は、そう言うと、パタンと聖典を閉じた。
三人の信徒は一同に『パロール』と唱え 祭壇に礼拝した。
身分を隠す忍従の黒子爵。後の帝王ロゴス(鳥)
知恵と美しさを兼ね備える少女。後のフランソワ王妃。(,風)
他次元よりの使者 、時を操りし者。後の白馬の騎士。(月)
それぞれの運命、今はまだ、知るよしもない年若い青年と少女でしかなかった。
この館の主人もまた、輝きの聖女シスターブライトと妖しげな修道女アルデウスという二つの顔を持つ、光と影の間に立つ特異点だつた。
…………………………………………………………☆
大陸で 唯一の非戦闘地域。聖域とされる場所。
ここ桃源郷は、桃の花が今は盛りとばかりに咲いている。
癒しの湖に写り込む、目映い太陽の光が反射して教会を明るく照していた。
礼拝堂にいる母親の元へ小走りに駆け寄る花。
花は朗報とばかりに美空に話し出した。
『お母さん、あそこにいる男の子が、街の様子を教えてくれるそうよ!』
『お父さんのことも、わかるかもしれないねー!』
笑顔満面の花に美空の顔も綻(ほころ)んだ。
エスポはペコリと頭を下げ、美空に挨拶をした。
『初めまして。エスポと言います。』
『実は、この村にマスター(救いへ導く者)がいると聞いて訪ねてきました。』
『長い道程、さぞ苦労したのでは、ありませんか』
美空は笑顔で椅子をエスポにすすめた。
『よく、来てくださったわ♪ 』
『美味しい、お菓子とティーを、お出しますので、ゆっくりとお話しを聞かせてくたさいね。』
エスポは椅子に腰かけて、おもむろに、街の様子を三人に語りだした。』
『街は今、ドローンという恐ろしい破壊兵器で攻撃されています。』
『王国支配に反対する人々を、しらみつぶしに、
探しだしては、住んでいる家ごと容赦なく破壊しているのです。』
『なんの罪もない、家族も巻き添えになり怪我をしたり、
酷(ひど)いことに命を落とす人々もいます。』
『ボクの家も破壊され家族も行方知れずです。』
『それで、マスター(救いへ導く者)さんを探しに来たのね…』
花がポッリと呟いた。
エスポの瞳から一筋の涙がこぼれた。
美空はハンカチをエスポに手渡し涙を拭くように促した。
しばらく、沈黙の後 エスポは気を取り直し、再び話を切り出した。
『こちらのご主人様のお名前をお聞かせください。』
『何か情報をお伝え、できるかも知れません。』
美空はお菓子とティーをエスポに、すすめた。
『私の主人は天人(そらひと)という名前です。』
『エスポさんは、ご存知かしら?』
『この桃源郷の里や、周りのお付きの人からはミストラル(北風の天使)と呼ばれています。』
エスポは驚きの表情を見せた。
十二聖のお一人ですね。
『詳しいことは、わかりませんが……ロゴスエンパイヤの兵士たちが.噂をしているところを、耳にしました。』
『高い塔の上から落ちてきた、預言者ヨブを救い上げた天使がいると』
美空は花を抱き寄せて、顔を優しく撫でながら言った。
『あなたの、お父様は、神様の、お使いなのよ。』
『おとーさん!元気でよかった♪』
花の無邪気な声が礼拝堂に響いた。
救いへ導く者は聖女の元へ赴(おもむ)く。
エスポは、この地に赴(おも)いた目的である
マスター(救いへ導く者)の存在が
確かな情報か否かを美空に問い訊ねた。
『この村にマスター(救いへ導く者)はいるのですか?』
美空は翔の方を、しばらく見ると、
神に祈りを捧げてから 間を置いて話し出した。
『この子(翔)が生まれる三日前、この教会から
さほど遠くない梟の森の空に
光の玉が現れました。』
まだ、乙女だった私は、好奇心から
梟の森へ行き泉で沐浴(水遊び》をしておりました。』
『すると、そこへ空から光の玉が降りてきて
私を包み込みました。』
『私は、そこで、この子(翔)の父親と夫婦の契りを結びました。
『私は神から祝福された子を授かると彼から聞かされました。』
『その子は、生まれながらにして、足枷(あしかせ》をしているが
それには、深い意味があること、そして、それこそが
マスター(救いへ導く者)である証だと彼は言いました。
彼とは三日間、共に過ごし私は
彼の子を産むために教会へと戻りました。
『これは神からの、お導きだと悟った私は
礼拝堂へ入り祈りました。』
『しばらくすると、天の高きところから神の、
お使いが現れました。』
その神の、お使いは長い杖を持ち、その先端には
月の形をした大きな飾りが付いていました。
『 我は時を操りし者、三日を十年の時とせん。』
『乙女よ、恐れるな、汝は 神に祝福されし者』
そう言い残すと、お使いは天高く
舞い昇り姿を消しました。』
『その後、この子を産みました。』
『私が、この子(翔)の父親と梟の森で過ごしたのは三日間』
『教会に帰った時には 、この桃源郷では十年の歳月が流れていました。』
美空は、そう言い残すと飲み干されたティーカップを下げた。
エスポは、梟の森の聖女が不思議な力で、病を癒すこと美空に告げた。
『美空のおば様、翔君の足を、その聖女に癒してもらえるかもしれません。』
美空は翔に語り掛けた。
『 エスポ君に、その聖女様の元へ連れて行ってもらいましょう…』
『この子の足が治せるものなら、是非お願いします。』
エスポは『わかりました』と美空の願いを快諾した。
美空は、お礼に、その聖女様に何を差し上げたらよいか、エスポに訊ねた。
『お気づかいなく、とても親切な方なので礼など受けとられません。』とエスポ答えた。
美空は、奥の部屋に行き銀貨30枚が入った袋をエスポに手渡した。
『これは、この子の足の治療ためにと貯めておいたものです。
その聖女様に、お渡しください…』
エスポは、袋を受け取り、車椅子を押して光の教会を出た。
手を振り笑顔で見送る母親。
心配そうに、母親の袖口を掴んで離さない妹の花。
『おにーちゃん!花がついて行かなくていいの!』
翔は、軽く手を振り、笑顔で答えた。
『花は家で、お母さんとお留守番してくれるかな。
心配ないから…直ぐに帰ってくるよ。』
翔と花、これが二人の兄妹とっての長い別れの時とは
知るよしもなかった。
車椅子を押すエスポの姿が桃源郷の一本道から見えなくなるまで
美空と花は手を振り見送った………
輝きの聖女の館
『梟(ふくろう)の森に入るのは始めてだよ……』
『魔物が住んでいるから、入ってはいけないと、
大人たちが昔、言っていた……』
翔は不安な胸中を言葉にして、エスポに伝えた。
エスポは、そんな翔の気持ちを察してか
明るく笑いながら受け答えた。
『アハハ……そんなの迷信だよ!』
『ボクは森の中を何度も、行き来してる』『
『輝きの聖女の館以外は、何もない静かな森だよ♪』
『その、輝きの聖女という、とても美しい女の人
その方が全ての病を癒してくださる天使なんだ。』
『ボク、やっと歩けるようになるんだね…♪』
翔の瞳は輝きに満ちていた。
希望と喜び、そして自由 明るい未来への予感を感じた。
森の畦道を幾重にも超え、大きな池の畔(ほとり)に出た。
『ほら!翔君。池の真ん中に辺りに浮き島のように見える。』
『あそこに見える、古いゴシック調の格式のある館』
『あれが、輝きの聖女の住まいだよ。』
霧に霞む池の方から、(ギーギー)と楷を漕ぐ音が徐々に大きくなってきた。
翔とエスポが目を凝らして見ていると
手漕ぎの小舟が近づいてきた。
『どうぞ、この小舟へ…』と
輝きの聖女の使いの一人が向かえに来ていた。
『鳥さん! ありがとうございます!』
エスポは渡し場から車椅子の翔を小舟へ乗せた。
『鳥さん、ボクたちが、ここに、いること、どうして、わかったのですか?
エスポは不思議そうに鳥に訊ねた…。
『空間を操る術の恩恵とだけ伝えておく……』
鳥は、ローブの下から低い声で呟いた。
ブラザー鳥は、館の船着き場のブイにロープを掛けた。
『 ここからは、この少女、風が案内する…』
船着き場の石の階段に、白いローブを着た
表情の柔らかな女の子が立っていた。
エスポは車椅子を舟から下ろした。
『ようこそ……ここからは私、風が案内しますね。』
少女( 風)が手に持っていた杖を一振りした。
すると、エスポと翔の体が宙に浮いた…
驚く間もなく、二人の体は疾風のように館の内部を進んだ。
幾つもの、扉が自然に開かれ、館の最上階に案内された。
『翔君……ビックリしたかな。』
エスポは翔を気遣うように呟いた。
黒薔薇の扉の前に立つ、少女(風)
ハイテノールの声が響く。
『シスターブライト(輝きの聖女) 様!』
『新しき信徒が、礼拝に参りました。』
落星、虐(しいた)げられし苦難の始まり。
少女( 風)は翔と車椅子を押すエスポを黒薔薇の扉へ案内した。
すると、天井まで、届くほどの細長い扉が自然に開かれた。
風は、二人をエスコートして、
祭壇の前で祈る輝きの聖女の前まで案内した。
祭壇の屋根は高くステンドグラス越しに光が差していた。
中央には十字架に円を重ね合わせた
ネストリアクロスが掲げられて いる。
傍らには、不思議な青白い炎を放つ釜戸が不自然に備わっていた。
輝きの聖女は祈りを終えると、エスポと翔の方を振り向き口を開いた。
『長い道程、ご苦労されたことでしょう…』
『あなた方が、ここへ来られたの太陽神の導きに違いありません。』
シスターは優しい笑みを浮かべている。
その全身からオーラのような光が溢れていた。
輝きの聖女の首に下がっている
ペンダントが太陽の光を受け煌めを放っていた。
『輝きの聖女様。』
『この少年は生まれつき足が不自由です。』
『あなた様のお力で治して頂けないでしょうか』
エスポは翔の母親から預かっている
銀貨30枚の入った袋を輝きの聖女の目の前にあるテーブルに置いた。
袋の面には光の教会の紋章が印されている。
輝きの聖女は、それを確かめ
おもむろに右手の甲を翔の顔の前に差し出した。
『あなたの足を治して差し上げましょう…』
『太陽神への信仰の証として私の手の甲に口付けなさい……』
祭壇の間に輝きの聖女の柔らかな声が響き渡った。
エスポは膝間付き翔に目配せをして、
輝きの聖女の手を取り、その甲にキスをするよう促した。
『輝きの聖女様』
『ボクは光の教会の信徒です。』
翔は輝きの聖女の青い目を直視して話した。
『わかっています。』
『だから、あなたは、ここへ呼ばれたのです。』
輝きの聖女が、そう言うと
彼女の青い目が光を増し輝きだした。
傍らで、少女(風)が精霊術を唱えた。
『ブルーアイビリーブ!』
少女(風)の、ひときわ高い声が祭壇の間に響いた。
吸い込まれるように、翔は聖女の手の甲にキスをした。
『太陽神の子どもよ!立ちなさい!』
翔は促されるまま、その場に立った。
生まれて初めて知る、大地を踏み締める感覚。
翔の瞳から一筋の涙が流れた。
『 あなたは太陽神の恩恵を受けた選ばれし者となったのです。』
これにより、闇の力があなたを覆うため、動き出すでしょう』
輝きの聖女は、そう言うと背を向け祭壇へ歩いて言った。
『 すぺての事柄は極まると、反転するのです。』
『満月が新月へと変わるように、金貨には表があり裏があるように』
『悲しき運命、陽、極まれば、蔭となり、蔭、極まれば、陽となる。』
『この世の理なのです。』
そう言い残し、 懺悔の間に入る輝きの聖女。
………………………………………………☆
しばらくして、再び現れた彼女は全くの別人となっていた。
翔に向き直り語りだす。
『お前はフラム(炎)。』
『洗礼名はドロップスター 『落星』と名乗るのだ。』
エスポは、その場に茫然と立ち竦んだ。
『輝きの聖女……あなたは、いったい何者なのですか!』
館の水没、翔は連れ去られらる。
聖女の館、祭壇の間に、エスボの声が響く。
『輝きの聖女!あなたは、いったい何者なのですか!』
エスポの問いに笑い顔を浮かべる妖艶な修道女アルデウス。
『われは、光と影の間に立つ者。』
『すぺての境に存在する特異点。』
その時、突然、グラグラと館全体が、大きな揺れに襲われた。
青年(鳥)が祭壇の間に入ってきた。
『アルデウス! 何者かにより、主水塔が壊された!』
『この館もやがて、水没する!』
『 池の底に沈むのも、時間の問題!』
アルデウスは、しばらく考えを巡らし、 おもむろに命を下した。
『( 風)よ! 何者の仕業か確かめてくるのだ!』
『(鳥)よ!このドロップスター(落星)を連れて
コンドリア(3足鴉)に、早々に乗り込むのだ!』
『このような時、、(月)がおらぬとは……』
少女(風)が舞い戻りアルデウスの前に畏まった。
『アルデウス!、報告いたします。館の何処にも、それらしき者は見当たりません…』
少女(風)が呟いた。『もしや…』
アルデウスは、少女(風)が言葉を濁らせているのに気付いた。
『どうした! 何か言いたいのであろう…』
少女(風)は、顔を曇らせながら話し出した。
『わたしの思い違いなら良いのですが…主水塔を壊したのは月ではないかしら…』
口許に手を充て、声高に笑うアルデウス。
『私の忠実な僕、そのような、事があるはずがない!』
少女(風)は遠慮がちに語った。
『(月)は気になることも言ってました…
『あの少年はマスター(救いへ導く者)ではあるが、
今は何の力も持たぬ少年だと……』
『月の加護の下、星々に囲まれ、傍らに女神が寄り添う時にこそ力を発揮すると申しておりました。』
『確かに、その時、破邪顕聖の剣解き放たれると、光の聖典にもあります。』
暫くの沈黙の後、アルデウスが口を開いた。
『師の私を論破するまでに成長したか………(風)よ!』
『この話は、ここまでだ!』
『水が迫っておる……コンドリア(三足鴉)に乗り込むぞ!!』
少女(風)が辺りを見回して呟いた。
『いっしよにいた、少年が見当りません……』
『よい! 』
『あの者の役目は終わった。』
『帝都、ドローンCITY、お前たちの新たな旅立ちの出発点となる。』
アルデウスと少女(風)、青年(鳥)、そして落星(翔)を乗せたコンドリア(三足鴉)は中庭を飛び立ち、帝都ドローンCITYへ向かった。
やがて、アルデウスの館は湖の中へと水没していった…
その様子を湖の畔の木陰から伺う青年(月)と希望。
『(月)さん、ありがとうございます! 』
『危ないところを助けてくださり……』
オリゾン河大戦、勃発。
((( ドドーン!!)))
空船、コンドリア 通称、三足鴉が編隊を組んでアムール王国軍の頭上からドローン爆撃を開始した。
物量では、圧倒的に勝るロゴス帝国軍。
アムール王国のボトムソルダ(底辺の民兵組織)の陳腐な武装集団では、勝敗は見えていた。
第一次オリゾン大戦で活躍した、多くの正規軍の姿は、もはやなく炎の矢とまで謳われた王国艦隊も、今はオリゾン河、深く沈み沈黙している。
王国臣民の心を支えるのは、オリゾン河沿いの小高い丘、ガリヤスに立つ信仰のシンボル
玉座に座る救世主と、傍らには立つ女神サラからの伝説的救済が残るのみであった。
空爆を終えて、ロゴスタワーへ引き返す三足鴉の編隊に、届かぬ銃砲を放つ、ひとりの民兵指揮官が叫ぶ。
『必ず、救世主が、我らに勝利をもたらしてくださる!』
ロゴスエンパィヤを取り巻くランチェスター民兵軍は補給を断たれ陸戦用ドローンの前に撤退を余儀なくされた。
王都アムールへ 向けて掃討作戦を開始するドローン陸戦部隊。
もはや、これを阻む者はなかった。
ロゴスエンパィヤの頂上から、この様子を伺う、帝王ロゴス。
傍らに立つ腹心のシスター.トリィタァーに視線を移さずに語る。
『あの者たち(王国軍)の精神の基軸を砕くのだ。 もはや、救いはないと知らしめよ。』
『畏まりました。』
『わたくしに、一計が、ございます。』
『 帝王の、御心に添えるよう、首尾よく事を成して参ります。』
『心安らかにお待ちください…』
シスター.トリィタァーは、そう言い残すと、その場を立ち去った。
やがて、一隻の空船、三足鴉がエマール王都を目指し飛び立った。
蒼き水龍、最後の勇姿。
王都エマールの上空を侵犯する三足鴉の群。
三足空母から、次々と飛び立つ爆撃ドローン。
空襲警報のサイレンが街に鳴り響く。
厳しい表情で、その様子を伺う王国艦隊の若き指揮官、プリンス.アランドール子爵。
エマール王国の王子である。
『空の帝国、水の王国とは、詩人ヘンリーも、よく言ったものだ…』
『今こそ、日頃の鍛練の成果を見せる時ぞ!』
王子は各艦に激を飛ばした。
オリゾン河沿岸に横一列に並ぶ王国艦隊。
その船体が連なる様は、まさに水に浮かぶ蒼き龍。
『一斉砲撃、撃てー!』王子の命、一下、嵐の如くに艦砲射撃が開始された。
弾幕の中、次々と落ちる三足鴉。
神像の丘に非難していた、臣民たちの間から歓喜の声が上がる。
『我らが無敵の艦隊!蒼き水龍、万歳ー!』
押され気味の帝国軍は、空母に三足鴉を収容した。
空母は、街を灰塵に帰す、ドローンストライク(核弾頭) の発射準備に掛かった。
『国際条約も無視するか!』王子は、そう叫ぶと、やむ終えず対抗手段に出た。
『3列陣形!目標、三足空母!』
号令一下、長く伸びた船体の列、前方、中心、後方の3列へと変化した。
王国艦隊のお家芸、三段砲火、通称、炎の矢の態勢に入った。
『撃てー!!』怒濤の如く、炎の矢が三足空母へ、放たれた。
炎の矢の、波状攻撃の前に、三足空母は、堪らず(クオンタムリープ)撤退した。
神像の丘に集う臣民の顔に、安堵の表情が浮かぶ。
『アランドール王子、万歳ー!』
『蒼き水龍に栄光あれー!』
副官のガロンが、王子に戦勝の祝杯を勧めた。
祝いのワインを、一気に飲み干す王子を、横目で伺う副官のガロン。
その場を、足早に立ち去る。
しばらくして、ワイングラスを看板に落とし、倒れ込む王子。
王子を、取り囲む人だかりの中、軍医が王子の脈を取る。
目を見開き瞳孔を確認し、首を横に振った。
『王子は、天に召された…』
バロンとガリバーの反目、ロレンソの津波。
『今日の海風が気持ちがいいなぁ~♪』
岸壁に腰を下ろして、遠くの水平線へ視線を送るガリバー。
『ガリバー!』
土手の上から元気に、手を振る恋人のクレマチスが走り寄って来た。
『牧師様が、今度の日曜日に私たちの式をあげてくださるそうよ♪』
『そうか!、これで晴れて俺たちは、夫婦だな!』
ガリバーは立ち上がり、クレマチスの肩を優しく引き寄せた。
そこへ、ガリバーの戦友、バロンが近付いてきた。
『ガリバー、カナリア号を降りるそうだな!』
『この街は、まだ平和になった訳ではないぞ!』
『いっまた、帝国の侵略が始まるか分からない。』
『空を離れて漁師にでもなるつもりか!』
ガリバーはバロンの方を向き直った。
『俺は、もう戦いは、たくさんだ』
『これからは、このクレマチスと幸せな家庭を作るつもりなんだ。』
バロンはクレマチスの方を見て語り出した。
『クレマチス、お前を怒らせたのは、謝る。もう一度、俺とやり直せないのか……』
バロンは懷から、たくさんの金の入った袋を取り出した。
『こんな、漁師に付いていっても一生涯、貧乏暮らしだぞ…』
クレマチスは首を横に振って答えた。
『バロン!あなたは、いっもお金、お金の事ばかり口にするのね!』
『わたしは、お金より、私を愛してくれた、このガリバーに、付いていくことに、決めたの!』
『それに、あなたの悪い噂も聞いたわ!帝国のスパイだって!それで、たくさんのお金を稼いでいるって、皆言ってるわ!』
………………
しばらくの、沈黙のあと バロンが口を開いた。
『わかった、……お二人さん、せいぜい、お幸せに』
バロンは、そう言うと、クルリと背を向けその場を去った。
クレマチスはガリバーの方を向き直り、呟いた。
『二人で、幸せな家庭を作りましょうね♪、子供もたくさん欲しいしー!』
クレマチスの、眩しい笑顔にガリバーも笑顔で答えた。
『おぅ!!もちろんだぜ!!』
その時、平和な街ロレンソの空に白線を引いて飛ぶ弾頭。
『戦時でも、ないのに何だ?』
弾頭はロレンソ湾に、大きな波しぶきを上げ落ちた。
『不発か!誤射したのかもせれんな~』
多くの市民が岸壁に集まり、その様子を見ていた。
しばらくして、グラッとした大きな揺れが、街全体を襲った。
ガリバーにしがみつくクレマチス。
『大丈夫だ、もう揺れは収まった。』
クレマチスが海の方を指さし叫ぶ。
『ガリバー!見て!』
市民が、ざわめき立つ、
『津波だぁー!!』
密談の露見、カナリヤ飛躍の時。
金の装飾が施された鞍に月の紋章。
毛並みのよい黒い馬に乗る美女が宮殿前に止まった。
二人の門番兵が、歩み寄り、美女に訊ねた。
『アランドール子爵の葬儀に、来られたのですか?』
『失礼ですが、お名前をお聞かせください。』
沈黙している、美女に戸惑う門番兵の後ろから、ガロン少将が歩み寄って来た。
門番兵はガロンの気配に気付き、直立して敬礼した。
『ガロン大佐!』
ガロンは門番兵を、睨み付け怒鳴った。
『ワシは、大佐ではない!先の戦いの戦功で、今は少将である!』
門番兵はガロンの恫喝に萎縮して、道を開けた。
『トリィタァー殿、定刻通りのお越しとは、恐縮いたします。』
ガロンは右の掌を上に向け、大木の下のテラスへトリィタァーを案内した。
テラスに着いた、トリィタァーは手に持っていた金塊の袋をテーブルへ放り投げた。
『お前の望みの物だ…今回は、よく、やってくれた。』
『目障りな、アランドールが、おらぬ王国艦隊など、赤子同然!』
……
『艦隊の指揮権を得た気分どうだ……ガロン少将殿』
トリィタァーの高笑いが、辺りに響く。
『三日の内に、王都へ再びドローン爆撃を開始する。』
『今回のお前の役目は、艦隊をオリゾン河へ沈めることだ!』
『成就した暁には、山ほどの金塊を渡すと約束しょう…悪い取引ではなかろう!』
そう言い残すと、トリィタァーは黒馬を走らせ、何処ともなく姿を消した。
ガロンとトリィタァーの、この話しを、大木の影で聞いていた、ひとりの男が呟いた。
『カナリア(光子力戦闘空船)が鳴きたがっているぜ…』
『国王、ロイヤル三世に貸しを作るとするか。』
傭兵の身ながら、正規軍以上の働きを見せる勇者。
敵は彼を隻眼の火の鳥、ガリバーと呼び恐れた。
砲術のパピヨン、王都エマールへ
『
オヤジ!この商売から、そろそろ手を引いたらどう?』
女砲術師見習い の パピヨンが、大型漁船の上で呟いた。
『お前を、一人前の砲術師にするために、ワシは頑張っとるんじゃ。』
『亡くなった母さんの口癖、忘れたわけではなかろう…』
パピヨンの父、バルトロイがパピヨンを宥めるように言った。
『海賊まで、やって砲術学校へ行きたいとは思わない!』
『母さんだつて、こんなこと、望んでなかった思うよ!』
バルトロイは憤慨して、強い調子で返事を返した。
『何度言わせるんだ!、俺たちは、海賊じゃない、海を守る義賊じゃ!』
パピヨンは、肩をすくめた。
『豚や、牛を盗んでおいて、義賊と名乗れるのかなぁ~?』
『パピヨン!あれは、盗んだんじやない、戦災で死んだ家畜を処分してあげたんだ!』
『それは、オヤジの詭弁だよ!』
『その証拠に、ほら、王国艦隊に追尾されてるしー!』
バルトロイは、パピヨンが指差す方向に双眼鏡を向けた。
『あの旗印は、悪徳役人ガロンじゃねーか!』
『俺たちより、あいっの方が、よっぽど悪どいこと、やっとるんじゃ!』
『噂によると、帝国と通じてるらしいし…』
『あの、偉そうな、ちょび髭が、いかにも悪人面じゃ!』
その時、大きな号砲が鳴り響いた。
バルトロイ船の両側に水しぶきが上がる。
『オヤジ!あいっら打ってきたよー!』
バルトロイは、パピヨンを砲台に着かせた。
『パピヨン!正当防衛じゃ!打ち返したれー!』
『パピヨンは、額にドクロ印のバンダナを巻き王国艦隊に砲口の標準を合わせた。』
『海賊船に、生まれた運命、何とも、やりきれないなぁ~』
パピヨンは、ためらいながら、バルトロイの砲撃合図を待った。
…………
『パピヨン!なぜ、打たんのじゃ!』
苛立ちながら、バルトロイが叫んだ。
冷めた調子でパピヨンが答える。
『オヤジ、砲撃指示、待ってるんだけど~』
『あ?、そっか……打て!!』
パピヨンはガロン艦への砲撃を開始した。
((( ドドーン ドドーン ドドーン)))
『オヤジ!もう、玉切れだよー!』
バルトロイは、冷静な顔でパピヨンな答えた。
『砲術学校のある、王都エマールへ、全速前進!!』
パピヨンは左眉を上げて、タメ息を一つ吐いて言った。
『逃げるのか?』
王国無敵艦隊、撃沈す!
『親方~、鴉の群が巣から出てきましたよ~』
エマール王都の上空に浮かぶ、帝国軍空母から、コンドリア(通称、三足鴉)の編隊が飛び立った。
『親方ではない! ガロン指揮官殿と呼べ!』
口髭を上に反らしながら不機嫌そうガロンが叫んだ。
『ここは、先制攻撃したもん勝ちです。早いとこ大砲、ぶっぱなしましょうよ~』
砲術学校を主席で卒業したばかりの女砲術士官、パピヨンの論談が始まった。
王子の葬儀で王妃フランソワに見出だされ、参謀としてガロンの旗艦に同乗していた。
『いや! まだだ……もう少し引き付けてからの方がよい!』
『パピヨンとか言ったな!?、砲術学校を主席で卒業したそうだが実戦は、まだ経験がないのであろう!』
『ワシの指揮ぶりを見て後学の基礎とせよ!』
パピヨンは三足鴉の戦略を見抜きガロンに助言した。
『頭領~、鴉は横展開してます。艦隊の横長陣形では各個撃退されますよ~』
『ここは、セオリー通り、方円陣形が、よいのでは~?』
『頭領ではない! 指揮官殿と呼べと言っておる !』
『何度、同じことを言わせるのだ!』ガロンは顔を真っ赤にして怒鳴った。
戦況を見守るように一隻の大型漁船が神像の丘を見上げる岬に停泊している。
漁船の広い甲板には、カナリア号の姿があった。
気品のある紳士と、その横には、不釣り合いな傭兵、隻眼の男がいた。
『国王陛下、おっぱじまりますよ!』
『約束の礼金の方は、頼みましたよ! 』
『 なにせ、婚礼を控えているもので、何かと物要りでしてね…』
『航空戦力のない、我が国にとつては、貴公は貴重な存在だ。隻眼の火の鳥、ガリバーよ、期待しておるぞ!』
『金さえ、貰えたら、何でもやりますよ…』
『早速、一鳴き、してきましょうか?』
『いや、しばらく、様子を見ることにしょう……』
傭兵バロンは、国王、ロイヤル三世の出撃命令を 待った。
(((ドドーン ドドーン ドドーン)))
三足鴉のドローン爆撃が、艦船に次々とヒットする。
『指揮官殿!、これでは、一発も砲撃しない内に撃沈されてしまいますよー!』
困惑の表情を見せるパピヨンを、他所にガロンが砲撃命令を下した。
『目標! 三足空母! 全艦 砲撃開始準備!』
パピヨンは、ガロン呆れ顔でを見つめた。
『指揮官殿! この距離では砲弾は、鴉の巣に、届きませぬ~』
『青二才!黙って見ておれ!』
パピヨンの言葉に耳を貸さないガロンは、命を下した。
『砲撃開始!撃てー!』
空砲にも、似た白煙が空に虚しく線を引いた。
横一列に並ぶ艦船は、一隻、また、一隻と炎を吹きながら沈んで逝く。
この戦は、負けるな……パピヨンは心で呟いた。
『、わ.た.し、は、もう、これ以上、親父殿に付き合えませぬ~、ボートを一隻、お借りします~、では、お達者で』
『おぬし!どこへ行く!、まだ戦は、終わっておらぬぞ!』
ガロンの叫び声を背にパピヨンはボートで、神像の岬を目指した。
艦隊は旗艦を残し、全て撃沈されていた。
含み笑いを浮かべるガロン少将の表情が、みるみる青ざめてゆく。
帝国空母からの遠距離ドローン爆弾がガロンの旗艦上空に迫っていた。
『約束の報酬だ!受けとれ!ガロンよー!』
帝国空母の艦橋で、高笑いをする月読みの巫女。
『うわー!! 巫女よ! 約束が違うぞ!!』
大型ドローン爆弾がガロン旗艦に炸裂した。
(((((ドドドドドーーーン)))))
大きな水飛沫と黒煙が、ガロン旗艦を包み込むと、やがて、船体は水の中へ消えていった。
有名を馳せた、王国無敵艦隊の、呆気ない最後となった。
大型漁船の、横をボートで横切るパピヨンと、隻眼のガリバーの目が合った。
パピヨンは、軽く敬礼して、行き過ぎた。
『隻眼の火の鳥よ! あの鴉の巣を、かたずけてくれるか。』
ロイヤル三世の一声に、ガリバーは親指を立てて答えた。
『いくぜー!! 隻眼の火の鳥、咆哮の時来たり!!』
飛翔!火の鳥。初めに光ありき。
『王都を守る高き城壁、蒼き水龍は屍と化した!』
『もはや、神像を守る者も皆無なり!』
『あの、救世主と女神の偶像を破壊し、隠されし、クリスタル.タブレットを我が主、デモニス様にに捧げるのだ!』
月読みの巫女は、そう叫ぶと、三足鴉(コンドリア戦闘機)を出撃させた。
三足鴉の群が、神像を目掛けて、飛び立った。
(((ドドーン ドドーン)))
三足鴉が、一機、また一機とオリゾン河へ墜落してゆく。
月読みの巫女は、三足空母の艦橋から、紅く光る見慣れぬ機体に目を止めた。
『何者だ!、王国側は航空戦力、皆無のはずであろう…』
『何をしておる!、あんな赤い小鳥 、一羽、落とさぬのか!』
業を煮やした、月読みの巫女は、やむを得ず空母から、遠距離大型ドローン爆弾を、神像目掛けて、発射した。
『クリスタル.タブレットは諦めるしかあるまい…』
三足鴉の120機を打ち落とした隻眼の火の鳥は、悠々と、三足空母へ、その矛先を向けた。
『小賢しい、赤いハエめ!』
大型ドローン爆弾が、マスターとサラ神像に炸裂した。
(((((ドドーーーーーーーン)))))
大理石の神像は、粉々に砕け散った。
その時、光る12の破片が四方へ空高く飛び散って行った。
空一面に虹の波紋が、現れた。
『クリスタル.タブレットの神話……光の聖典、冒頭の
一節』
『初めに虹の如き光あり』
『 聖戦の、狼煙は上がった…』
大型漁船の看板から、空一面に広がる虹の如き幾つもの光を見て国王、ロイヤル三世は呟いた。
花売り少女、ラパン
エマールの都、パレス広場、その前にある噴水の近くで花を売る少女。
彼女の名前はラパン。
『お花を買ってくださ~い』
『お母さんが、病気で寝ています。』
『お薬を買うお金がありません!』
『お願いしま~す。』
汚れた、みすぼらしい格好をしているラパンの声に立ち止まる人もなかった。
やがて、雨が降りだし人影もまばらとなった。
傘もなく、一人、噴水の前で花束を持ち、冷たい雨に震える少女。
そこへ、雨の中、一人の老人が歩み寄って来てラパンに傘を差し掛けた。
『その、花束、ぜんぶ、もらおうかのぅ~』
老人の柔らかな笑顔に、ラパンの表情もほぐれた。
『お爺ちゃん!ありがとう!』
老人は、金貨の入った袋をラパンに渡し花束を受け取った。
『これで、早くお母さんの、お薬を買って来なさい。』
『帰りに、肉とパンと葡萄酒も買っていくといい。』
『たくさん、お母さんに、食べさせておやり…』
老人は、そう言うと、雨の中、花束を抱えて街角を曲がり姿を消した。
ラパンが袋の中身を見ると三枚の金貨と七色に光る石が入っていた。
ラパンは石を取りだして、雲間から見えてきた太陽に翳して見た。
七色の光は、ラパンの体を包み込んだ。
『お母さんが、お話ししてた、石、お爺ちゃん…もしかして、あなたは…』
ラパンは、嬉しさのあまり、スキップをしてパレス通りを小走りした。
『ラパパン、ラパパン、ラパパンパーン、オレ!』
お得意のタンゴのステップ。
近くで足に、まとわりついていた、一匹の黒猫が、みるみる十匹に増えラパンの後を付いていく。
これを、見ていた肉屋の親父メタボロックが、驚いて腰を抜かした。
『牛肉も、増やして欲しい~☆』
アスピラスィオン(竪琴の聖女)
美しいハープの音色
流れるような旋律が
人々の心を癒し慰める。
頭には星が散りばめられたティアラ。
七色の虹を思わせる柔らかな衣が
オリゾン河から吹いてくる風に靡く。
透き通るような、白い肌に
エメラルドのような瞳
ブロンドの長い髪が、月明かりに煌めく。
噴水に腰掛け美しい旋律を奏でる彼女のもとへ
何処からともなく、ひとり、また、ひとりと、
心の癒しを求める人々が足を止め美しい音色に聞き入る。
その雑踏の中にいる一人の少女、ラパンが呟いた。
『きれいな女の人……まるで女神様…』
『アスピラスィオン《竪琴の聖女》だよ。お嬢ちゃん……』
その声に後ろを振り向くラパン。
『世の中が、争いに乱れ、人々の心が荒んだ時
天から使わされる聖女』
一人の紳士が、ラパンの肩に優しく手を置いて語った。
徳望の国王、ロイヤル三世。
『陛下、今夜も、お出掛けになりますか……』
静かで穏やかな声の執事、マジョロダムがドアをノックして主人に訊ねた。
『マジョロダム、入りなさい…』
国王のロイヤル三世は 穏やかな声で応えた。
ステッキを付きながら、窓際まで体を寄せて、大きな格子窓から、一際、明るい月を指差した。
『今夜は一年に一度、テラが大きな姿を見せる夜、満月の日。』
『君は、今夜、何が起きる夜か知っているかね…』
国王は執事のマジョロダムの方を向き直り訊ねた。
『勿論で、ございます。今宵は竪琴の聖女が降臨する日でございます。』
『流石、永年、私に使えておるだけはある…』
侯爵は、苦笑いをして、出掛ける準備をした。
シルクハットに外套、手にはステッキという出で立ちである。
『 馬車で、行かれますか?』
『いゃ、蹄の音で竪琴の音色を消してはならぬ。』
『オリゾン河沿いのパレス広場までは、そう遠くない。歩いて行こう。』
国王は執事のマジョロダムを伴いパレス広場へ向かった。
『月明かりで、宮殿からパレス広場までのメインストリートが、明るく照らされていた。
やがて、噴水の近くまで来ると、穏やかな竪琴の音色が聞こえてきた。
月明かりを受けて煌めく噴水に座り竪琴を弾く聖女の周りに人々が、ひとり、また、ひとりと集まってきた。
その人々の中に聖女と同じ青白いオーラを放つ少女の姿があった。
国王は、その少女の後ろに立って、しばらく竪琴の音色に耳を澄ましていた。
オーラを放つ少女がポッリと呟いた。
『きれいな女の人…まるで天使様……』
その言葉に侯爵は答えて少女の肩に優しく手を置いて話した。
『アスピラスィオン《竪琴の聖女》だよ。お嬢ちゃん……』
『世の中が、争いに乱れ、人々の心が荒んだ時、天から使わされる聖女』
振り向いた少女に国王は訊ねた。
『ご両親と、一緒に来たのかね…』
『お父さんは、帝国との戦いで行方不明。お母さんは病気で寝たきりなの……』
『そうかね……可哀想に…』
国王は執事のマジョロダムに、少女の世話を頼める人物がいないか訊ねた。
『陛下、それならば、よい御人がおられます。』
『戦災で、スッカリ家畜が、いなくなり肉屋を廃業したメタボロックという親父さんがおります。』
『おかみさんも亡くなり、子供もなくて、淋しい思いをしていると日頃から申しておりました。』
国王は、しばらく考え込み懷から、金の袋を取り出した。
『その御人に、この金貨を渡してくれるかね…それと肉屋を廃業したのなら、漁船を一隻やると、伝えてくれ。』
『この、オリゾン河は、魚が豊富に捕れる。』
『これで、生活には困らないであろう。』
『だれか、付き添いの者を着けた方が良いであろう…』
辺りを見回すと傍らで、話を聞いていた女民兵と国王の目が合った。
背中に銃を下げてはいるが、服装は学士である。
『お嬢さん、ひとつ、頼みがあるのだが…』国王は金貨を数枚、彼女に手渡すようマジョロダムに指示した。
『ありがとうございます!何でも御用をどうぞ♪』
『わたしは、パピヨンと言います。これでも砲術学校を首席で卒業しました!』
国王は、少女の頭を撫でながら、この子を肉屋の親父のところまで、連れて行って欲しいと頼んだ。
『お安い御用です。 』
パピヨンは少女の手を取り、笑顔で挨拶をした。
少女はドレスの裾を両手で持ち上げて恭しく国王に挨拶をした。
『わたくしラパンが、国王陛下様に、ご挨拶いたします~☆』
堕ち行く、三本足の鴉
中天高く、空を飛ぶ、三本足の鴉
鬱蒼とした梟の森の上空を抜け東の方を目指す。
大河 オリゾン(水平線)に浮かぶ一隻の大型船から大砲が放たれた。
(((ドドーン)))
『親方、なんで鴉目掛けて大砲なんぞを打つんです?』
『玉の無駄遣いは、やめましょう…』
『ドローンに出会した時のために、取って置いた方がよいかと…』
若い女の砲術士が、不機嫌そうに呟いた。
『親方ではなく、船長と呼べ! もう肉屋の親父じゃないぞ!』
太った初老の顎髭を蓄えた男が答えた。
『船長! 今日は珍しく、大当りです!』
『見てください、三本足の鴉の左足から黒煙が出てます!』
『いや!あれは、右足だな…』
『パピヨン、眼鏡がそろそろ必要になったようだな』
∥その言葉……あなたに言いたい…∥パピヨンは心で叫んだ。
船長と砲術士の間に割り込んだ 少女、ラパンが
コンドリア飛行挺を指差して言った。
『真ん中の足だから、どちらでもないよ!』
通称、三本足の鴉、コンドリア飛行挺は
オリゾン河の向こう岸へ黒煙を吹きながら
降りていった。
岸に横たわっている老人が
堕ちていく三本足の鴉を見て呟いた。
『わしは、まだ生きとったわい……』
聖なる踊り子、ラパン
オリゾン河に浮かぶ、大型漁船メタボ.ロック号目掛けて、数十発の ドローン爆弾が三足鴉から放たれた。
『大将! ドローン爆弾が、こちらに向かって来ますよー!』
『下手な、チョッカイ出すものだから、やっらも、マジ切れです!』
女砲術士のパピヨンが震える声で叫んだ。
『大将じゃない! 船長と呼べ!……何度言わせるんだ!』
メタボロック船長はドローン爆弾の方角を確認し、少女ラパンに愛想笑いをして、手を合わせた。
『ラパンちゃん……例のアレ、頼めるかな~♪』
『メタボのオジチャン、今夜の夕食のメニューはなぁに~』
『今日の夕食は、大奮発牛肉の特上ステーキだよ♪
『やったー! メタボのオジチャンのお願い、聞いて上げます♪
迫るドローン爆弾の轟音にパピヨンは逃げ出す姿勢を取った。
『悠長に、夕食の話をしてる場合じゃない!』
『メタボの親方、私は先に河に飛び込みます!』
パピヨンの服の袖口を掴んで離さないメタボロック船長。
『まぁ、待て。パピヨンよ、ラパンちゃんが、なぜ、この船に乗っておるのか、今、見せてやるから…』
少女ラパンは看板の上でタンゴ風のダンスを踊り出した♪♪♪
『わたしは、能天気な、お二人様と天国行きはゴメンですー!』
泣き声で叫ぶパピヨンの表情が次第に驚きへと変化していった。
少女ラパンが手を叩きながら踊り歌う。
『ラパパン、ラパパン、ラパパンパーン、オレー!!』
すると、一隻のメタボロック号が前後左右、至るところ現れた。
※【量子理論上、電子の場所を確認しょうとすると至るところに出現する。】
目標を失ったドローン爆弾は迷走して互いに接触、自爆した。
メタボロック号は、 その後、再び、一隻に復元された。
ダンスを踊り終えた、少女ラパンがメタボ船長に笑いながら呟いた。
『特上ステーキ!早く食べたあぃ~☆』
腰を抜かして、その場にペタンと座り込むパピヨン。
三足鴉コンドリアの窓 から、下を見下ろす、シスター.トリィタァー。
『新たな加護星、現れたか! 』
新世界秩序、トリィタァーの野望。
第三次 オリゾン大戦と、経済崩壊により、世界を自らの手に掌握しょうと野望に燃える影の組織、ロイヤルⅥ。
そのメンバーの中でも中心的存在のシスター
彼女の名前はトリィタァ
ロゴスエンパイヤーの帝王の間に集まった三人の近隣の国王はシスターの言葉を待った。
『この、血の契約を、破りし者には死あるのみ!』
『帝王、ロゴス様の庇護のもとに入るか……それとも、偽りの妄想を信じ救世主の救いを待つのか、……答えを聞きたい。』
唯一の女王、西の端に位置する国、マジョリアから来たカサブランカが口を開いた。
『世の中、金、次第でございます。紙幣発行権を譲ってくれるのなら、喜んでお味方しますよー!』
トリィタァーが、いぶかるように、首を傾げてカサブランカに答えた。
『女!、金が軍隊より、恐いことを、よく心得ておるようだな!』
『その出で立ち、マジョリカ(魔術師)であろう。』
『錬金術を使われては、こちらとて、都合が悪い』
『それは、聞けぬ相談だ。』
カサブランカは、微かに笑いを浮かべて語り出した。
『交渉決裂ということですね…それでは、わたくしは、救世主に、おすがりいたします。』
背を向け、帝王の間を出ていくカサブランカにトリィタァーが声を掛けた。
『後顧の憂いを絶つために、先ずは、そなたの国、マジョリアを血祭りにしてくれる! 首を洗って、覚悟を決めて置け!』
カサブランカは、後ろ向きのまま、右手を頭上に上げ二本の指で答えた。
『泣きを見るのは、どちらになるやら、楽しみだわ~☆』
『いつでも、お相手いたします。マジョリアが、どらほどのものか、お分かり頂けると思います。』
カサブランカ、ガリバーとの契約を結ぶ。
『えらい、短歌を切ったもんだね!』
宮殿の柱に もたれていた、傭兵のガリバーが通りがかったカサブランカに声を掛けた。
『お前は誰だ?……』 カサブランカは足を止めて訊ねた。
ガリバーが長い髪をかき分けて、顔を見せた。
『お前が、噂の隻眼の火の鳥、ガリバーか!』
『戦が始まるんなら、俺を雇わねぇか~、損はさせないよ。』
『相当、自信があるようだな~1000.000オルガだ。』
カサブランカが金の入った袋をガリバーに投げた。
『前金だ!後の半分は、仕事が終わった後だ…』
『さすが、錬金術を使う、王女様、この、仕事引き受けたぜ!』
ガリバーは、カサブランカをカナリア号に乗せて、マジョリアシティを目指す。
『へへ、久し振りの大仕事!……腕が鳴るぜ!!』
おや……ご丁寧にお見送りが、いらしゃいましたか!』
カナリア号の背後から十数機の三足鴉がミサイルを発射しながら追尾してきた。
カナリア号は切りもみ回転しながら、ミサイルわ回避し急上昇した。
それを、追う三足鴉戦闘機の群れ。
カナリア号は雲の中に隠れて見えなくなったと思いきや、あっという間に、三足鴉の後部に付いた。
『いゃーほぅ!!、くらえー!!、火の鳥乱舞!!』
隻眼の火の鳥と、言わしめた、炎の槍が三足鴉の群れに乱れ飛ぶ。
爆炎を吹き上げて、次々に墜落する鴉の群れ。
『流石だな…良い買いものしたかもしれぬ。』
『一騎当千の強者、頼りにしているぞ!』
カナリア号は 白煙を靡かせ、魔法都市マジョリアの上空まで来た。
窓から、都市の城壁を見下ろす。
両肩にロケットランチャーを抱えた、太った男が城壁に立っている。
ガリバーが叫ぶ。
『あいつ!打ってきゃがった!!』
隻眼の火の鳥、王都エマールへ
城壁の上から、太った男が放った、ロケット弾は、カナリア号をかすめて、後ろの三足鴉に命中した。
『フゥ~何だ…俺たちを狙ってたんじゃないのか』
隻眼のガリバーが安堵の溜め息を付いた。
カナリア号は、城壁の広い踊り場に降りた。
機内から、カサブランカが降りて、太った男の方へ歩み寄った。
男は彼女の抜群のプロポーションと美形に圧倒され、おもわず、怯む。
『この辺では、見掛けぬ顔だが、どこから来たのだ?』
カサブランカの問いに男が頭を掻きながらえた。
『東の方から、来たかなぁ~』
重ねてカサブランカが訊ねた。
『目的は何だ?』
『やることないしー暇だから、とりあえず来てみた~』
『 名前はなんと言う?』
『ポルカかなぁ~』
困惑の表情を見せるカサブランカ。
『何とも、煮えきれないやっだ!』
ポルカが地平線の方を指差し、呟いた。
『お客さん!たくさん、きたよー!』
陸戦ドローン戦車部隊の列が、砂煙を上げて近づいてくる。
カサブランカとガリバーが驚きの表情で呟いた。
『どこに、隠れていたんだ!』
ガリバーは、素早くカナリア号に乗り込み、戦車部隊の迎撃に向かった。
しかし、戦車部隊は、マジョリアシティを横目に次第に遠ざかった。
カサブランカと、ポルカは東の方に視線を移した。
『王都エマールが、狙いか!』
カナリア号は、マジョリアの危機が去ったことを、確認して帰還した。
『王都に、救世主が本当にいるのか、確かめたい。』ガリバーとカサブランカの願いが重なった。
カサブランカを乗せた隻眼の火の鳥、カナリア号は、一路、王都、エマールを目指し飛び立った。
しばらくした後、ドローン戦車部隊の最後尾から、核弾頭を積んだ車両が姿を現した。
『帝王ロゴス様に、逆らった者の結末を見よ!!』
シスター.トリィタァーの指示が飛ぶ。
『目標!マジョリアシティ!打てー!!』
核弾頭が、マジョリアシティに落とされた。
キノコ雲が、黙々と舞い上がる。
初めて、落とされた核爆弾に、世界が震撼した。
カナリア号の窓からキノコ雲を見るカサブランカ。
『この、借りは必ず返す!!』
こぼれる涙を、拭くこともせず、戦車部隊を睨む。
ガリバーがマジョリアシティに手を合わせて、祈る。
『ポルト……お前も乗せてやりゃよかったなぁ…すまねぇ…』
月よりの使者、ロゴスを訪ねる。
((ビシッ! ビシッ!))
強制労働の鞭が、容赦なく放たれる。
監視ドローンが捕われ人を使うという
究極に進歩した管理社会。
螺旋状の石段が天を突かんとばかりに伸びて行く。
悪名高き、ロゴスエンパイヤ。
その頂上には、空中庭園が、備わっていた。
中庭に立ち、遠くに視線を送る帝王ロゴス。
腹心のシスターが、彼の前に畏まる。
『ロゴス様、間もなく月よりの使者が、こちらへ到着いたします。』
低く荘厳な帝王の声が中庭に響く。
『王座で待っておる…』
そう言い残すと、霧の中に霞むように姿が見えなくなった。
シスターは庭園の縁からしたを見下ろした。
『ミストラルとモンテニューウ、二つの星が現れたか……』
黒煙吹きながら一隻の空船が塔のゲートをくぐり入ってきた。
一人の兵士が、慌ただしくシスターの元へ駆け寄る。
『報告いたします! 捕えた救世主を帝王の間に
引き出しました。』
シスターの顔に含み笑いが浮かぶ。
『これで、月よりの使者と、よい取引ができそうだ………』
ロイヤル三世、ロゴスの元へ赴く。
王宮から、ロゴスエンパィヤへ続く石畳の大通り。
御者付きの二頭立ての馬車が、ゆっくりと走る。
後部の座席に座る、初老の紳士の傍らには、王家に継承されている魔剣、サザンクロスが置かれていた。
馬車の窓から空を見上げる紳士。
その、視線の先には、赤い空船カナリア号の姿があった。
紳士がポッリと、呟いた。
『生きておったか……隻眼の火の鳥、ガリバーけよ。』
カナリア号はゲートをくぐり、エンパィヤタワーの中継基地へ入って行った。
御者が主人に声を掛けた。
『旦那様、エンパィヤの正門は、攻め手のソルダ(民兵)たちで囲まれております。』
『やっかいはことに、全身から、青い光を放つ巨人が、何やら、塔に向かって、叫んでおります。』
紳士は馬車の小窓から前方の様子を伺った。
『その力、山の如し……聖人、モンテニューウ、来ておったか。』
『クオンタムリープせよ!』
主人の、声に御者が答える。
『旦那様、畏まりました。』
二頭立て馬車は、眩い光を発して、その場から姿を消した。
その様子を、見ていた一人の民兵が呟いた。
『国王、ロイヤル三世、お出でになりましたか……』
一迅の北風が吹き民兵の姿は輝きを放っ白き天使となった。
、
翼持つ白き天使がエンパィヤタワー目掛けて舞い上がる。
民兵たちが、口々に叫ぶ。
『北風の天使! ミストラル様だー!』
、
聖なる石《ホーリーロック》ヨブの覚醒。
黒煙を吹きながら、エマール市街の上空を抜けるコンドリア飛行挺
それを、オリゾン河の堤防から目で追う三人の男女。
リーダー格の隻眼男、ガリバーが呟いた。
『三足鴉も焼が入ったもんだ……』
『歴戦の無敵空船が、あんなポンコツ漁船にやられちまうとはなぁ。』
細身の眼鏡を掛けた女魔術師が、それに答えた。
『そうとも、言えないようだわ…あの大砲は光子砲よ。』
『しかも、二重スリットで、打ち出されている。』
『光が粒でもあり、波でもある、この原理を知るものが、あの船に乗っているのね……』
『下手に、侮ると痛い目に会うわ。』
腹の出た頭の薄い、大柄の男ポルカが女魔術師の横で笑った。
『俺は、カサブランカ《女魔術師》のスカート二重スリットの方が気になるぅ~☆』
『どこ、みてるのよー!!』
カサブランカの平手打ちがポルカの顔面に炸裂した。
その勢いで、堤防の下まで、よろけて倒れ込むポルカが一言。
『下手に侮ると痛い目に会うなぁ~☆』
ポルカが、ふと、堤防沿いの岸辺に目をやると一人の老人が、倒れていた。
ポルカは老人に駆け寄り、話し掛けた。
『どうした…じぃさん。大丈夫なのか?』
『女にチョッカイ出して河に落とされたとか……』
ガリバーとカサブランカが声を合わせて叫んだ。
『それは、お前だぁー!』
老人は、その声に意識を取り戻し、話し出した。
『わしは、時計台守りの、ヨブ』
『あの、やたらめったら、ライフル銃を射つ、名物じぃさんだわ!』
『怖い~』 カサブランカはガリバーの後ろに隠れた。
ポルカが、ポッリと呟いた。
『あんたの方が、よっぽど怖い~』
ガリバーは、ヨブを担ぎ上げ、近くに止めてあった赤空船、(通称カナリア)へ運んだ。
そんなガリバーの、片腕に手を掛けるカサブランカの頬が赤く染まる。
『わたしは、こんな優しい、あなたが大好きよ♪』
ふて腐れぎみのポルカが、小石を蹴り上げながら叫ぶ。
『彼女、ほしいーよぉー!!』
ポルカが蹴った小石がカナリア号の開いたドアから船内に転がり込んだ。
四人を乗せたカナリア号は、白煙を吹きながらロゴスエンパイヤの中継基地を目指す。
船内の中央にある量子スクリーンにロゴスエンパイヤの周辺映像が映し出された。
『山の聖人、モンテニーュウがエンパイヤの城門近くにいる…』
『それで、総動員体制で、お呼びだしが掛かったと言う訳か。』
『これは、本腰を入れる戦になるな…』
カナリア号がアムール市街からドローンCITYへ向かう中間地点で突然、計器が狂い出した。
『ポルカ!あなた、腹いせに計器を壊したんじゃないのー!』
カサブランカが目をつり上げて怒る。
『俺……なんもしてないしー』
肩を竦めて手のひらを上げるポルカ。
医療用ベットに寝かされている、ヨブの近くで、小石が輝き出した。
『何?これ…… 』ポルカが小石の方を指差した。
『聖なる石!』カサブランカが叫ぶ。
すると、たちまち、ヨブの体が七色の光に包まれた。
衰弱しきっていたヨブが、ムクリと起き出し目を見開いた。
手には、柏ノ木が与えられ、薄かった頭には白く長い髪が生え揃い光を受けて煌めいている。
『光石、現れし時、聖なる杖を持つ預言者、地に立つ。是、諸人に来る神の裁きを伝えん。』
カサブランカが光の聖典を開いた。
『電気系統の故障かなぁ~』
ポルカは、頻りに配線を探っている。
ガリバーは操縦菅を強く引き高度を保とうするが、反応がない。
『俺たちは、ここで天国へ召されるのか……』
救世主、覚醒の時来《きた》る!
代弁者 月読みの巫女が王座に座る、帝王ロゴスに叫ぶ。
『幼き、純粋無垢な、魂を月毎に私
に捧げよ』
『地上の王よ! 空間を操りし力 授けしは誰ぞ!』
『よもや、忘れたとは、言わせぬぞ…』
ロゴスが、重々しく口を開いた。
『わかっておる ……今、しばらく待て。』
『貴殿の、欲しい物は、これであろう…』
ロゴスは右手を上げ、パンドラの箱を巫女に見せた。
『時を操りし大祭司が、おらぬでは、これも、無用の長物。』
巫女は、囚われの身となった落星、曾て救世主と
呼ばれた翔を、王座の前に膝ま付かさた。
『王よ!見よ……これが、お前の畏れ戦いていた
救世主の成れの果た姿だ』
『 護る星を持たず、月の加護もなく、傍らに立つ女神テラも、未
だ姿を見せぬ』
ロゴスは少年、翔を指差し、その後、その指を聖木の燃える釜戸
へ移した。
『この小さき魂が、救世主である証拠を見せてもらう!』
『それが、真実ならば、聖なる業火に小さき魂をくべよ!』
玉座に座りし、救世主の姿、確と見届けん!』
月読みの巫女は、侍従二人に翔を聖木の業火へ連れてゆくよう促した。
『王よ! よいのか……自らの手で救世主を覚醒させる事になるぞ!』
ロゴスは薄笑いを浮かべて呟いた。
『パンドラの箱だけを、持って行かれたのでは我の命も危ない…』
月読みの巫女は右手を翳して叫んだ。
落星となりし、救世主を業火の中へくべよ!』
三者の願い叶う。
『この、幼き魂を、業火の中へくべよ!』
月読みの巫女の声が、帝王の間に響く。
それを、固唾を呑んで見据える、帝王ロゴス。
巫女の侍従が、翔を両脇から抱えて、釜戸に前に立った
(((待てー!)))
まさに、翔が釜戸へ放り込まれようとした瞬間、その手を制する声王座の間に響く。
帝王ロゴスと、月読みの巫女の視線の先には、執事マジロダムを従え、左手に魔剣、サザンクロスを携えた、ロイヤル三世の姿があった。
『これは、これは……叔父上、お久し振りに御座います。 ご壮健でいらしたかな。』
『ロゴスよ! お前に叔父などと、呼ばれる筋合いない!』
『国民を苦しめ、従兄弟を死に追いやり、悪魔デモニスに魂を売ってまで、この国の玉座を求めるか!』
『それは、叔父上が長子である、我の父を差し置き、王座に着かれた故にございます…』
ロイヤル三世は、手に持っていた魔剣、サザンクロスを、侍従のマジロダムに手渡し、ロゴスの王座の前にある円卓に置いた。
『ロゴスよ!、御主が喉から手が出る程、欲しがっておった、魔剣サザンクロスだ。受けとれ!』
ロゴスは、サザンクロスを鞘から抜いて一振りして、また、鞘に収めた。
『叔父上が、あれほど、手放すのを、拒んでおられた魔剣を我に、自ら届けて下さるとは、どのような、思惑をお持ちかな…』
『白々しい事を申すな! その魔剣を手に入れたら、もうこの少年には、用はなかろう!』
『その、魔剣と引き換えに、この小さき魂を連れて帰るが異存はないな!』
ロイヤル三世はマジロダムに命じ、翔を釜戸の前から離し、自らの横へ立たせた。
『ロゴスよ! この災いをもたらす女、巫女を早く月へ戻すのだ』
ロゴスは、含み笑いを浮かべてパンドラの箱を円卓の上に置い呟いた。
『救世主など、始めから存在しないのだ…弱者どもが、作り上げた苦し紛れの作り寓話に過ぎぬ……』
『叔父上の、お心のままに……』
ロゴスは、視線を月読みの巫女へ移し、側近に命じて、円卓の上にある、パンドラの箱を巫女の元へ運ばせた。
月読みの巫女は、ロイヤル三世に一礼して言葉を述べた。
『流石は名君の呼び声高し、ロイヤル三世様』
わたくしは、これさえ手に入れば、もう、この地上に用は、御座いませんゆえ、月へ戻ることにいたします。』
『ホホホホホ……』
月読みの巫女はパンドラの箱を手に抱えて、帝王の間を出てゆく。
扉を潜る前に、振り向き様、一言ロゴスへ呟いた。
『帝王ロゴスよ…… お前の御世も、そう永くは続くまい…』
ロイヤル三世は、翔の背中を、優しく押して、出口の扉へ促した。
帝王の間を出てゆく国王の背中にロゴスが最後の言葉を掛けた。
『叔父上! このサザンクロスを抜き放ち、魔物達を召喚せし時こそ、我の願いが成就する時なり。』
『 しかと、ご覧あれ!!』
ロイヤル三世は馬車に翔を乗せ、侍従のマジロダムに神像の丘を目指し急ぎ走るよう命じた。
『陛下、何故、お急ぎになるので御座いますか?』
マジロダムは、馬に鞭を入れながら国王に訊ねた。
『ロゴスエンパイヤの上空に、黒雲が渦を巻いておる。大きな嵐の前触れなのだ…』
国王は、空を見上げながら呟いた。
ロゴスタワーの頂上にある空中庭園で空を睨む帝王。
そこへ、腹心のシスターが足早に近付き、畏まり呟いた。
『帝王に、ご報告いたします。』
『捕えた奴隷の中に、ヨブと名乗る預言者おりました。』
『頻りに、ドローンストライク《最後の審判》は近いと叫んでおります。』
『この者が、帝王が、探しておられたマスター《救世主》ではないかと皆が申しております』
ロゴスはシスターに視線を移し、訊ねた。
『その者は、どこにおる……』
預言者ヨブ
幾つもの高い塔が連立する独裁政府の中枢都市、ドローンCITY
その中央に一際、異様を放つ建造物、古代バベルの塔を思わせる巨大な力の象徴 悪名高き、ロゴス エンパイヤが聳(そび)え立つ。
天を目指せとばかりに、未だに奴隷となった人々が強制的に労働を強いられている。
鬼のような監視役人が、弱り果て思うように働かなくなった老人奴隷の背中に容赦のない鞭を入れる。
ビシッ!! ビシッ!!
老人奴隷は、空を見上げて祈る
『救世主よ!我らをお助けくだされー!』
『御手の業で、この忌まわしき悪魔に 裁きを!』
再び鞭を入れようとする監視役人。
『まて!』その時、若い女の声が、その手制する。
『ロゴス様が、そこの老人に問い訊ねたき儀がおありだ!』
すると傍らから、黄金の冠を頭に戴く、この塔の主が現れた。
『シスターよ……その者が預言者、ヨブか』
威厳のある声が辺りに響く。
老人に歩み寄るロゴスと腹心のシスター
『太陽と月、十二の星、そして女神、その意味を、ロゴス様がお訊ねだ。』
すると、老人ヨブはロゴスを睨(にら)み付けて言った。
『話すことなど何もない!悪魔よ……神の裁きを受けよ!!』
『ほぅ…ドローンストライク(最後の審判)を未だ信じる者がおったとはのう……』
ロゴスは表情ひとつ変えずに言った。
『この者の魂をハーデスへ』
シスターの目配せにより、側近の兵士たちが、ヨブを高い塔の縁に立たせた。
ロゴスは右手を上げて、クルリと背を向け、その場から姿を消した。
兵士の1人がヨブを塔の縁から突き落とす。
『悪魔よー!滅びよー!』ヨブの声が、辺り一面に響き渡る。
塔から真っ逆さまに落ちるヨブ。
その時、一迅の風が吹き、ヨブの体が力強い手の中へと吸い込まれていく。
光輝く瞳、背中に大きな翼
ヨブは震える声で訊ねた。
『あなた様は……』
モンテニューウ参戦、ポルトとランチェスター民兵軍。
マジョリアシティは、核弾頭の投下により壊滅した。
多くの人々が、大切な家族、友人、恋人、住み慣れた我が家を失い悲嘆に暮れている。
残された住民も、日々の食料にも困窮し、餓死する者も現れた。
戦意喪失した、マジョリアシティへ更なる帝国の陸戦ドローン戦車部隊が掃討作戦にでた。
『我らの恐ろしさを、骨の髄まで、教えてやるのだ!』
逃げ惑う無抵抗な市民に銃弾が乱れ飛ぶ。
ダダダダダ……倒れ込み、息絶える。
建物の影で震える、少年少女が両手を合わせて太陽神に祈る。
『神様……この、悪魔たちを私たちから遠ざけてください。救いの手を差し伸べてください。』
少年たちが、見上げる太陽の輝きの中から次第に光の玉が大きさを増して降りてきた。
光の玉は、目も眩む、閃光を発した。
陸戦ドローン戦車部隊の、激しい砲撃が一点に集中した。
硝煙が、辺りを包み込み、やがて、強い北風が煙を掃らつた。
そこには、青いオーラを全身に帯びた、巨人の姿をがあった。
少年の一人が、叫ぶ。
『マジョリアの守り神、モンテニューウ!!』
モンテニューウは右手に持つ鉄槌で、ドローン戦車部隊を、まるで積み木を崩すように粉砕した。
遠くの指揮車両で、この様子を見ていたトリィタァーが呟いた。
『撤退せよ!』
『その力、山の如し……モンテニューウ、現れたか。』
『起て!!、自由と愛を、取り戻すのだ!!』
モンテニューウの、咆哮の声が四方に響く。
近隣の村々や都市から集まった人々の群れがモンテニューウを囲む。
彼らの手には、玉切れした、ライフル銃、鉄パイプ、ブロックの破片しかなかった。
しかし、それで充分である。
彼らの思いはひとつ。
モンテニューウを旗頭として、帝国支配からの自由を勝ち取る、その一点で心が繋がってた。
太った大柄の男が叫ぶ。
『ここに、ランチェスター民兵軍、有り!!』
『オーーーー!!』
それに、呼応して、兵士たちが雄叫びを揚げた。
大柄の男の名前は……ポルト、人は彼をハンマーのポルトと呼んで慕った。
若き獅子、モンテニューウとヨブの預言。
ドドーン ドドーン……ドドーン
立て続けにドローン爆弾の炸裂音が響く。
王都、 ロゴスエンパイヤの足元に仁王立ちする大男。
城門の衛兵がバタバタと薙ぎ倒されていく。
彼の名はモンテニューウ(その力、山の如し)
ヘラクレスを思わせる筋肉質、肩まで伸びた髪が
風に靡(なび)く様は、まさに荒ぶる若き獅子。
雷の如く、大きな声がロゴスエンパイヤに響く。
『悪魔の化身!ロゴスよ!』
『 堅牢な城壁の中で、身を潜めておらず、我の前に姿を現せ!』
塔の中程にある、中継基地から再び
ドローン爆弾がモンテニューウ目掛けて発射された。
微動だにせず、ドローン爆弾を全身に受けるモンテニューウ。
白い爆煙が、辺り一面に広がる。
やがて、爆煙が風に運ばれ、モンテニューウの姿が見えてきた。
かすり傷ひとつない、その姿が明け方の陽に眩しい。
付き従う、ランチェスター義勇軍が雄叫びを揚げる。
『エマールの守り神! 山の聖人!モンテニューウに栄光あれ!』
その時、ロゴスエンパイヤの上部から人が投げ落とされた。
義勇軍の中に北風が吹いたと、思うと
たちまち、白い光が塔の上まで昇って行き
落ちた人を両手で、抱えた。
『北風の天使! ミストラル様だー!』
義勇軍の民兵が口々に叫んだ。
落ちてきたのは、預言者ヨブという老人だった 。
ヨブを地上に、ゆっくりと、下ろしたミストラルは
義勇軍の中へ姿 を消した。
預言者ヨブはランチェスター義勇軍を前に話始めた。
『 聞け! 賢き者よ!
我が言葉は真実なり!
アスピラスィオンの竪琴の音
天より響き渡りし時、神の審判下らん!
悪魔とその軍勢が、空を覆い尽し、
太陽の光も遮る時
月よりの使者現れ、時を乱す。
聞け! 賢き者よ!
11の星を戴く、聖人現れ
救世主の玉座を守る。
傍らに立つ女神は
救世主の導きに従い
右手を高く翳し
悪魔と、その使いを滅ぼす
最後の審判の言葉を告げる!』
我、最後の裁きを、汝に与えん!
塵より取られし者よ! 塵に帰れ!
《《《ドローンストライク》》》
預言者ヨブはロゴスエンパイヤを、しばらく見上げ、その後
何処ともなく、姿を消した。
時を操る大祭司、月の出現。
ザワザワと木立を涼風が通り抜ける。
木漏れ日が揺れる、小さなテラス。
カーンカーンと、白い壁の教会の鐘が鳴る。
円いテーブルに、立て肘(ひじ)を付き冷めた紅茶を片手に遠くを見つめる夫人の姿。
気苦労のせいか、髪に白いものが目立ち始めている。
『お母さん、また、翔兄さんのことを考えてるのね……』
あれから、もう十年、エスポさんに連れられて行ったきり帰って来ない…』
『村の人たちと総出で梟の森を探したけど見っからなかった…』
『なかには、魔物にでも食われたのだろう、なんて言う人もいるくらいよ』
『ひどい話よね…他人事だと思って…思い出すと涙が今でも出てくるわ…』
十八歳の誕生日、花は美しい乙女になっていた。
『今日は花の誕生日だから村の人たちが、たくさん、お祝いに来てくださるそうよ♪』
『花の誕生日と翔がいなくなった日が同じなんて、皮肉な話ね…』
花の母、美空はそう呟くと桃源郷へ続く一本道に方に視線を移した。
その時、何処からともなく、馬の蹄の音が聞こえてきた…
品格のある乗馬服に身を包んだ凛々しく目元の涼しげな若者の姿
腰の辺りに、男の子が掴まっている。
『あそこが、翔の光の教会です。』
男の子の言葉に若者は光の教会の庭先で手綱を強く引くて馬を止めた。
(((ヒヒーン!!)))
辺り一面に白馬の嘶(いななき)が響き渡った。
母親は持っていたティーカップを倒し、駆け寄る…
『翔なの!あなた翔なのね!』
若者は男の子を馬から下ろし、被っていた帽子を取り美空と花の方へ歩み寄った。
傍らには帽子を深く被った男の子が寄り添っている。
『初めまして…わたくしは、ラビ(祭司)の月と申します。』
『こちらのご子息、翔君の御母様と妹君がこちらにおられると、このエスポ君から聞いて参りました。』
『この子がエスポ君なわけないよ!』
『あの時、私と余り歳の差がなかったし、もう十年も経って今は大人になっているはずよ!』
いぶかしそうに、花が横から口を挟んだ。
エスポは帽子を取り、顔を上げた。
銀貨30枚の袋をポケットから取り出しテーブルに、そつと置いた。
驚く美空と花 『あなた、エスポ君なのね!』
『ぼくは三日間で、この光の教会へ帰ってきました。』
『美空さんと、花ちゃんの様子を見て驚いたところです。』
美空は声を詰まらせながら、瞳に涙を浮かべて翔の事をエスポに訊ねた。
『翔は今、どこで何をしているのかしら…どうして家に帰って来ないの、エスポ君、わたしに分かるように話してくださる………』
エスポは、唇を噛み締めながらその場に泣き崩れた。
『美空おばさん、ごめんなさい、ボクは取り返しの付かないことを、してしまいました………』
みかねた、ラビの月が、そこで口を開いた。
『その事について、お話しするために私はここへ来ました。』
『どうぞ、気をしっかりと持って、落ち着いてお聞きください。』
『わたくしの時計では三日前、こちらの世界では十年前の事となります…
女神テラ降臨の予兆。
『花、今日は、あなたの誕生日なのよ』
『サァ、笑顔で村の皆さんをお迎えしましょう♪』
母の美空は不機嫌そうな花の表情を見て呟いた。
『村のみんなは、どうせ、私じゃなくてパン目当てなのよ!』
『お母さんも、人が良すぎるのよ! あんな人たちに愛想笑いなんかして!』
『花、声が大きいですよ。皆さんに聞こえます…』
『お母さん、私、みんなに聞こえるように言ってるのー!』
花はテラスのテーブルの前に立ち、お祝いに来た人々に手作りのパンを分けた。
『皆さんに、失礼のないようにね…』母の美空は、そう言うと紅茶を取りに部屋に入って行った。
『十八歳のお誕生日、おめでとうございます~♪』
老夫婦がパンを受けとりながら、花に祝いの言葉を掛けた。
ペコリと頭を下げる花。
『花ちゃんは、この村の女神様じゃ♪』
花は機嫌を良くし、おばぁちゃんに、余分にパンを渡した。
『花ちゃん……ありがとう』老婆は花の手を取り感謝の言葉を述べた。
『おばぁちゃん、この布にパンを繰るんで持っていってね…』
花の細かな気遣いに涙する老婆。
その後ろから小走りで走り寄る三人の少年少女。
『花お姉ちゃん!お誕生日おめでとうございます~☆』
『僕たちにも、パン、たくさん、もらえるのかなぁ~♪』
『あなたたち、今の見てたのね!』
鼻を啜りながら屈託のない笑顔で花を見つめる少年たち。
『もう、あと2本しかないわ…』
『仕方ないわね…チョツト待っててくれる。』
花は、そう言うと、2本のパンをクルリと二度回して軽く叩いた。
すると、2本のパンが4本になった。
花は、三人の子供たちにパンを渡して残りのパンをクルリと回して
更に本数を増やしていった。
バスケットの中は、出来立てのパンでいっぱいになった。
『花お姉ちゃんは、手品師ダァ!すごい!』
『みんな、みんな!聞いて、聞いて!』
少女が近くにいる村人に、花の奇跡を話して回った。
花の周りは村人で、人だかりとなった。
騒ぎに気付いた母の美空は、紅茶を運び終えると花の所へ駆け寄った。
花のバスケットに溢れるパンを見る美空。
『もう、隠してはおけないわね、全てを話す時だわ。』
ロッキングチェアに腰掛け紅茶を飲みながら
その様子を伺う祭司の月がポッリと呟く。
『女神の降臨も近し…』
桃源郷の一本道を光の教会の方へ長い柏ノ木の杖を付き
歩く老人の姿に目を止める月。
『預言者……ヨブ』
魂の声、響け!愛の讃歌。
ロゴスエンパイヤを、取り巻いていた、王国民兵は、魔物の出現に、我先にと敗走してゆく。
頭に二本の鋭い角を持ち、瞳は赤く光るルビーのようである。
全身が漆黒の闇のようで、長いカギ爪が鷲を思わせる様相。
背中の大きな翼が、羽ばたく度に、火炎を地上の民兵たちに、浴びせかける。
『うゎーーー!!』
『お!神よー!!、お助けください!!』
地上を走ドローン戦車が王国民兵に追い討ちを掛ける、
空を黒く染めていた、炎の魔物は王国民兵を尻目に神像の丘を目指した。
ドローン戦車にライフル銃で応戦する、王国民兵。
ドローンミサイルの、正確な軌道攻撃により、次第に王国民兵の数は減り、銃声も、まばらとなった。
『ここまでかー!!、無念…』民兵指揮官となっていた、エスポアールが叫ぶ。
その時、空を駆け抜ける三機の聖鳥の姿が、エスポアールの目に飛び込んできた。
赤く光る、機体の窓から挨拶を投げ掛けるガリバー
それを、見上げるエスポアールの目にも希望の光が差した。
三機の戦闘機(聖鳥)は大空で高く舞い上がり、ドローン戦車の死角である真上から、急降下爆撃を、行った。
みるみる、炎上、爆破されるドローン戦車群に、残り少なくなった、王国民兵の間から歓喜の声が上がる。
隻眼の火の鳥、がエスポアールの元へ降り立った。
エスポアールを収容した三機の聖鳥は、オリゾン河の戦線へと、戻って行った。
それを、追うように、魔王デモニスの化身、龍の背に乗る帝王ロゴスと、月読みの巫女の姿があった。
、
三つの頭を持ち、四枚の大きな翼を広げ六本の尾を靡かせる様に、エマールの民は、恐れおののき、声をあげる。
『魔王!デモニスー!! 滅びよーー!!』
『神の鉄槌、必ず、下らん!!』'
両手を合わせ、神に祈る老婆が叫ぶ。
一羽の魔物が、老婆の上空から火炎を浴びせかけた。
やがて、炎の中に老婆の、姿は見えなくなった。
隻眼の火の鳥の窓から、怒りに満ちた表情で、これを見っめるエスポアール。
首から下がる、クリスタル.タブレットの鍵を握り締めて涙ながらに呟いた。
『おばあさん……天国で、安らかに、お休みください。』
『魂の声!、このエスポアールが、必ず、愛の讃歌に変えてみせます!』
水上を歩く女神テラ、聖戦へ。
『花おねーちゃん!、来てー!』
少女の、カン高い声が、教会の裏庭から聞こえた。
花は、囲む人だかりを、掻き分けて、裏庭に駆け付ける。
湖で手漕ぎボートに乗って遊んでいた男の子の姿が見えなくなったと少女が話した。
『湖に落ちたのかも、知れない!』
花は、履いていた靴を放り投げ、湖に飛び込んだ。
春風の季節、凍ってはいないはずの水面を走る花。
足下に水飛沫は上がるが、体は沈んでいかない。
花はボートに飛び乗ると、今にも、溺れそうな少年を両手で引き上げた。
『花おねーちゃん!、ありがとうー!』
顔をクシャクシャにして泣く少年がずぶ濡れの体で花に礼を言った。
花は、ボートを教会の裏庭にある岸辺まで漕ぎ、少年を降ろした。
岸辺で、ざわめきたつ人々。 驚きの表情で花を見ている。
母の美空が、花に駆け寄る。
『あなた、泳げなかったんじゃないかしら?…どうやって、この子(少年)を助けてあげたの…』
『お母さん!私、湖を走って、この子を助けたのよ。』
何事も、なかったかのように、花は母に言った。
村人たちは、花の周りを囲み、膝ま付き両手を合わせて祈っていた。
『女神様じゃ!この桃源郷の村に女神様が、降りてこられたのじゃ…』
花がパンを余分に布で繰るんで渡した老婆が叫んだ。
『えー!、わ.た.し.が……女神様?』花は困惑の表情を見せた。
人々は、口々に、女神様!女神様!と呟いた。
『おかぁーさん!、みんなに、なんとか言ってー!』
『わたし、女神様なんかじゃないしー!』
花は美空の腕を掴んで頻りに振った。
その時、村人の中から、ひとりの、柏ノ木の杖を付いた老人が花の前に立った。
『この村では、見ない顔の、おじぃさんね…パンが欲しいのなら列に並んで、下さいね…』
花の母、美空が老人に話しかけた。
老人は、それには、答えず、手に持っていた七色に光る石を花の前に高く掲げた。
『水礼の儀式を終えし、乙女よ! 汝は、これにより、神託により、天に上げられん! 救世主の傍らに立ちし女神テラの覚醒の時、来たり!』
《《《ヒヒヒーン!!》》》
白馬の嘶の声が辺り一面に響き渡る。
聖なる石が輝きを増し花を包み込む。
白馬に股がる、白い衣で身を装った大祭司、(月)が駆け寄り花の手を取る。
『女神テラよ! いざ! 聖戦へ赴かん!』
大祭司(月)は白馬に花を乗せ、天高く舞い上がった』
『我、時を操りし月よりの使者なり! 救世主と女神テラに栄光あれ!』
エスポアール、アミを探しにエマールへ旅立つ。
『何の、騒ぎだろう?』
光の教会の、裏庭にある癒しの湖で、顔を洗っていたエスポアールの耳に村人たちの、ざわめきが聞こえてきた。
ひとりの老婆が、叫んでいる。
『女神様じゃー!、 わしらの村に女神様が降りてこられたのじゃー!』
困った表情の花が、母の美空の袖口を掴んで揺さぶっている。
老婆の、後ろから、忍び寄る少年が布に包んである、パンを一本かすめ取り、走り出した。
老婆は、少年を追いかけるが、到底、追い付けないと思い引き返した。
エスポアールの、元へ駆け寄る少年。
『 お兄ちゃん?、誰。ここらで、見かけない人だね。』
不思議そうに、エスポアールを見っめる少年。
エスポアールは、湖の水面に映る自分の姿に驚いた。
少年だったはずの、顔がスッカリ青年の顔に変わっていた。
背格好も、大人と変わらない程に成長していた。
ロッキングチェアに座る、白馬の騎士が、遠目でエスポアールを見て微かに笑っているようにも見えた。
村人を押し分けて花の前に現れた、ひとりの老人が杖を空に高く翳して何やら叫んでいる。
やがて、白馬の騎士が花を後ろに、乗せて天高く舞い上がった。
目映い光を放ち、白馬の姿は見えなくなった。
花の突然の旅立ちに、動揺冷めやらぬ美空。
その横、歩み寄り、美空の横に立つエスポアール。
青年の姿になった、エスポアールに視線を移し美空が呟いた。
『あなたも、桃源郷を旅立つのね……』
エスポアールは、妹のアミを、探さなければならない事を、美空に打ち明けた。
『エマール王都のパレス広場の噴水で竪琴を弾く女性がいると、噂で、聞いたことがあるわ。』
『妹さんかも……しれないわね…』
エスポアールは美空に礼を述べて、旅立ちの挨拶をし、馬を借り、桃源郷を後にした。
聖戦、救世主の顕現。
『お母さん……お空が真っ暗だよ。』
『嵐が来るかも、しれないわね…』
エマール市街から、空を見上げる、母と娘。
その視線の先には、エマール王都の上空を埋めるコンドリア戦闘機(三足鴉)の大軍の姿があった。
指揮を執るのは、帝王ロゴスの腹心、シスター.トリィタァー。
三足空母の艦橋から、トリィタァーが叫ぶ。
『最終決戦だ! 全機、神像の丘を目指せ!』
『月読みの巫女にも、劣らぬ働き、ロゴス様に、お見せしょうぞ!』
この大戦のためにシスター.トリィタァーは、秘かに大型航空戦艦、(双頭の鷹、ファルコ.ドルドバロン)を建造していた。
王国側も、メタボリック提督とパピヨン大佐率いる、光子大砲戦艦で応戦の構えを見せた。
三羽の鳥が空を舞う。
隻眼の火の鳥 、勇翔の荒鷲、華麗なる白鳥。
王国の強き味方。ガリバー、ポルト、カサブランカの三人の勇姿。
神像の丘の上に立つ、翔、ロイヤル三世、執事のマジロダムが、この様子を見上げている。
上空に、白馬に股がる騎士と女神が眩い光と、嘶きの声と共に現れた。。
白馬の騎士は、翔の近くに降り立ち、女神、花を翔の傍らへと促した。
女神花は、思わず翔に叫ぶ。
『お兄ちゃん! 、会いたかったよ!』
久方ぶりに、会う兄と妹。
『花は、やはり、ボクの永遠の女神様だよ!』
兄妹の瞳に、偽りのない真実の涙が流れる。
漁船の看板から、預言者ヨブが歓喜の声をあげる。
『ここに、救世主と女神、そして、月、十二の星が集っ寄った!』
すると、アスピラスイォンの竪琴の音色が、天より響き渡り
そのメロディーに重なるように、招礼の歌姫、ゴスペリーナの凱歌が聞こえてきた。
すると、翔の後ろに目映く光る玉座が現れ、 四人の天使が翔を囲み虹色の光が空を染めた。
玉座に座る、救世主(マスター)の顕現を目の当たりにする、臣民の間から祈りの声が上がる。
『我らが救世主と女神そして、十二の星に栄光あれ!!』
オリゾン河を挟んで、対峙する三足鴉の大群に三羽の聖鳥が先制攻撃を仕掛けた。
漁船の上から、踊り子ラバンが時空を乱す。
『ラパパン、ラパパン、ラパパンパーン!』
たちまち、三足鴉は、攻撃目標のターゲットを狂わせ、互いに同士討ちを始めた。
三羽の聖鳥が、巻き起こすトライアングル竜巻戦法により、三足鴉の多くが河へ落ちて行く。
指揮官、トリィタァーは、この状況を見かねて、 遠距離大型ドローンミサイルを双頭の鷹から神像の丘へ向け発射した。
大きな電磁場双頭の鷹を取り囲んでいるため、流石のラパンもお手上げである。
救世主の傍らに立つ女神が右手を高く翳す。
すると、ミサイルは軌道を変え、双頭の鷹へ向かった。
救世主の持つ聖剣、オリオンから七色の光が双頭の鷹へ放たれた。
電磁場は、失われ逆行したドローンミサイルが双頭の鷹を直撃した。
指揮官、トリィタァーが業火の中で叫ぶ。
『救世主は実在されたのか!!! ご慈悲をーー!!!』
《《《《《ドドドドドーーーーン》》》》》
帝国の切り札、双頭の鷹は空中で木っ端微塵砕け散った。
帝国空軍の呆気ない最後である。
この、様子を帝都エンパイヤからスクリーンで見ていた、
帝王ロゴスは、魔剣、サザンクロスを抜き放った。
空中庭園で黒雲が渦巻く空へ向け魔剣を真っ直ぐ突き上げる。
『今こそ! 陰の軍団、出でよーーーー!』
『我、願い叶いし時、来たり!、光を覆いほふるのだ!』
その声に呼応するように、ロゴスエンパイヤの上空に渦巻く黒雲から、黒い翼を持ち炎を吐く魔物が、次から次へと出てきた。
ロゴスエンパイヤを、取り巻く王国民兵たちは、恐れおののきながら、背走した。
『うぁー! 火を吹く魔物が現れたー!!』
ひとり、魔物を睨み付け、蒼白き光を魔物に浴びせかける山の聖人、モンテニユー
エンパイヤタワーに、飛翔する、北風の天使、ミストラルは、自らの体を回転軸とし、竜巻を起こした。
モンテニューウとミストラルの連携攻撃で、フラムが一羽、また、一羽と力尽き、三分の一が落ちて行った。
残りの魔物たちは、エマール市街を越えてオリオン河、対岸の神像の丘を目指した。
ミストラルとモンテニューウも、これを追う。
しばらく、、した後、、大きな翼を持つ龍がロゴスエンパイヤの上空に現れた。
魔王、デニモスの化身が雷の如く声を発した。
『現世の王、ロゴスよ! お前の願いを叶えよ!』
魔王、デニモスの化身、龍傍らにいる、月読みの巫女が、パンドラの箱を手に主の命を待つ。
『天と地の間にありしもの、真の理を現さん!!』
破壊の序曲。ロゴスエンパイヤ。
『ロ……ロゴスエンパイヤーが、動いたぞ!!』
エマール市街を、敗走する王国民兵が口々に叫ぶ。
市民の間に、どよめきが起きる。
ひとりの少女がドローンシティの方に視線を移した。
大きな山が立ち並ぶ街並みを、まるで積み木を壊すように、進む
え
『お母さん!、山が動いてるよ!』
逃げ惑うエマール市に、陸戦ドローンの別動隊が追い討ちを掛ける。
町を逃れて、オリゾン河、 沿岸に泊まる、大型戦艦メタボリック号に乗り込む市民の群れ。
沿岸に、横一列に並ぶ艦隊のメタボロック提督は、副官で参謀のパピヨン大佐の市民収容完了の連絡を待っていた。
そこへ、パピヨン大佐が駆け寄ってきた。
『親方ー!、注文の品、高級牛肉、確保しましたよ♪』
『親方ではなーーいっ!!、メタボリック提督と、呼べと何度いったらわかるんだぁー!!』
顔を真っ赤にして怒る、メタボリック。
『なんか、どこかで、同じこといわれたよーな?』
鉄板の皿の上に、牛肉を置いて考え込むパピヨン。
メタボリック提督がパピヨンの後ろを指差し、叫ぶ。
『後ろー!、うし、うし、後ろー!』
『そんなに牛、牛て、よっぽど、牛肉ステーキが食べたかったですか~ロック提督。』
パピヨンを、手を引っ張りデッキの隅にた折れ込むロック提督。
舞い降りて来た、魔物の一羽が、火炎を浴びせかけ飛び去った。
間一髪のところで、難を逃れたメタボリックとパピヨン。
『わたし、求められても、ロック提督に、特別な感情とかないっすよ~』
上にのし掛かっていたロック提督を、押し退けてパピヨンが呟いた。
『ばかもーん!、今の情況を把握しておらんのかー!』
鉄板の皿に乗っていた牛肉から、美味しそうな臭いが漂ってきた。
船内から、走り出て来た、ラパンが嬉しそうにはしゃいでいる。
『牛肉ステーキ!できてるよー!(笑)』
光と影の開戦、火蓋は切られた。
エマールの街を真っ二つに分断しながら、進むロゴスエンパイヤ。
オリゾンに迫る。
白い飛行機雲を靡かせ、上空を行き過ぎる三聖鳥の姿。
しばらくすると、空を真っ黒に染める魔物の群れが、ロゴスエンパイヤを取り囲んでいた。
『よくも、まぁ、あんなに集められたもんだねぇ~』
カナリアの窓から魔物群れを見ながらガリバーが呟いた。
『ガリバーさん、僕を神像の丘で降ろしてもらえますか。』
エスポアールは首から下がるクリスタルタブレットの鍵を握りしめた。
『あいよ!民兵隊長さん』
ガリバーは、愛想よく答えを返し、神像の丘へエスポアールを降ろした。
エスポアールは、翔と花のもとへ駆け寄った。
救世主となった翔、女神となった花、希望の鍵の持ち主、エスポアール。
幼い日の思い出が重なる。
エスポアールは、神像の足下にある小さな扉を首から下がっていた、鍵で開き、中からクリスタルタブレットを取り出した。
そして、玉座に座る救世主(翔)と傍らに立つ女神(花)の前に立ちクリスタルタブレットを盾とした。
救世主の手には、全ての悪魔を祓うオリゾン聖剣、エスポアールの手には希望と堅守の盾クリスタルタブレット、女神テラの手には、太陽の象徴、紅玉があった。
救世主と女神、そしてクリスタルタブレットを囲むように聖たちが
集い寄った。
オリゾン河対岸にある瓦礫と化した対岸の街、エマールに視線を移すエスポアール。
オリゾン河に迫るエンパイヤタワーの頂上に降り立つ帝国ロゴスと月読みの巫女、そして上空を、うねるように、廻る魔王デニモスの化身、三つの頭を持つ魔龍の姿が映る。
白馬の騎士、ラビの月が空飛ぶ馬を駆け、オリゾン河の中程まで進み出た。
これを、見た月読みの巫女も炎の魔物の背に乗りラビの月に近付いた。
『時の限りが尽きましたぞ、姉上』
ラビの月が先に口を開いた。
『パンドラの箱は、我手にある。』
『弟よ!、時を乱せし罪 、万死に価する!』
『我ら、姉弟が思いを一つにすれば、このような事には成らずに済んだもの……愚かな!』
『姉上の心、完全に悪に染まっていること、お気づきになられないようですね…』
『エエィーー!!、黙れ!!』
『姉上は、お忘れようです…魂の成長は神に近付く者にアタエラレルものです。』
『その、パンドラの箱を、また、お開きになるのですか?』
『同じことが繰り返されるだけです。'』
『姉上!私と共に光の元へ、神の元へと帰す時です』
『サア、共に参りましょう!』
『弟よ!お前の話など、聞きあきた!、お前の言う神とかいう者の元へ戻るがよい!』
『我は、何度でも、このパンドラの箱を開き、お前が誤っていることを、分からせてみせようぞ!』
『天はなぜ、お前を大祭司とし、我を、その影としたのか……この宿命は永遠の時を隔てて続くのだ!』
大祭司、ラビの月は、月読みの巫女を、しばらく見た後、最後の言葉を掛けた。
『姉上の手には運命が、私の手には時を操る力が与えられました。また、来世でお会いしましょう……』
大祭司ラビは、空馬の踵を返し救世主の元へ帰った。
オリゾン河沿岸に並ぶメタボロック艦隊は王国市民と近隣の住民の収容を終え岸を離れ、神像の丘の岬を目指していた。
甲板の上でラバンが、その様子を見て呟いた。
『始まるー!』
メタボロック提督とパピヨン大佐がパーティーテープルでビールと焼き肉を手に、ラパンの方を振り向いた。
『こめんね~先に焼き肉パーティー始めちゃってたぁた。』
激戦。蒼き水龍の復活。
真昼の太陽を、黒雲が覆い尽くすが如く、空を漆黒に染める炎の魔物、フラムの群れ。
その中でも、ひときわ異様を放つ巨大な龍の姿。
魔王デニモスの化身である。
『遂に、この時が来た!』
『幾つもの世代を越えて、繰り返される、この全ての結末とも言える終焉の戦い』
『月読みの巫女よ!、あの忌まわしきクリスタルタブレットを、お前が持つパンドラの箱へ納めるのだ!』
『その時、お前の望みも叶うであろう!』
魔王デニモスの、雷の様な声が辺りに響き渡る。
帝王ロゴスが魔剣、サザンクロスを真っ直ぐに、希望が持つクリスタルタブレットの方へ向けた。
神像の丘に立つ女神(テラ》(花)が玉座に鎮座する救世主(翔)、兄に話しかけた。
『兄さん!来るわよー!!』
空を魔物の群れが炎を吐きながら神像の丘に迫る。
地上では、オリゾン河の沿岸に到達した、おびただしい、陸戦ドローン戦車部隊が、砲口を対岸の岸辺に横一列に並ぶメタボロック艦隊に向けた。
メタボロック提督が、叫ぶ。
『全艦!、三列陣形を組め!
副官のパピヨン大佐が これに応えた。
『了解!!』
『炎の矢、体制に入ります!』
迅速に陣形を変えるメタボロック艦隊。
『蒼き水龍、復活したか……』
丘の上から国王ロイヤル三世が笑みを浮かべ呟いた。
沿岸のドローン戦車部隊から、激しい砲撃が開始された。
((((( ドドーン ドドーン ドドーン))))
砲弾の1発がメタボロック提督が乗る旗艦の艦橋に炸裂した。
『ロックのオヤジーーー!!』
パピヨンが叫ぶ!
炎上し船首を次第に上に向け沈み始める旗艦。
救出用のポートが各艦から旗艦に集まる。
上空から、魔物の群れが炎を吐きながら迫る。
『助けてーーー!!』
ポートに乗り移る、避難民の声。
その時、炎の魔物が一羽、また、一羽と悲鳴を上げ水面へ落ちた。
空を舞う三聖鳥のトライアング攻撃、光の槍の前に魔物の数は次第に減っていった。
隻眼の火の鳥、ガリバーがメタボロックの旗艦に、最後の敬礼を捧げた。
『提督さんよ!勇敢だったぜ!』
『さすがの俺も、お前さんには脱帽だ……』
戦死した、メタボロック提督に代わり指揮を取るパピヨン大佐の指示が飛ぶ。
『全艦隊!炎の矢、発射準備!』
『目標!前方、ドローン戦車部隊!』
『ファイヤーーー!!』
嵐の如くに、パピヨン艦隊の艦砲射撃がドローン戦車部隊を襲った。
(((( ドドーン ドドーン ドドーン))))
次々に爆破炎上するドローン戦車部隊。
ドローン戦車部隊の後方に到達したミストラルとモンテニユーウが、これに、挟撃を仕掛けた。
ミストラルの巻き起こす 竜巻がドローン戦車部隊を巻き上げ地面に叩きつける。
モンテニユーウの怪力が戦車部隊を積み木を崩すように打ち払う。彼の前ではドローン戦車部隊も、ただの鉄屑と化してゆく。
地上の帝国戦力は完全に沈黙した。
しかし、王国側にも、メタボロック提督の犠牲という代償伴った。
パピヨンとラパンが甲板から花束を河へ投げ入れた。
『メタボロックのオヤジーーー!!、あんたのこと、決して忘れねーぞ!!』
戦いの舞台は空へと移る。
漆黒の魔女、アルデウス参戦。
エンパイヤータワーの頂上で仁王立ちする、ロゴスに近寄る影。
『妹の顔が見えぬようだが…』
修道女の裏の顔、漆黒の魔女、アルデウスがロゴスに語りかけた。
『これは…漆黒の魔女様のお出ましか』
『シスター.トリィタァーは黄泉の国へと旅立った。』
『最後まで忠実な部下であった。』
………………………………
しばらくの沈黙の後
アルデウスが重たい口を開いた。
『ロゴスよ!お前や、月読みの巫女が付いていながら、とんだ失態を犯したものだ。』
『妹を黄泉の国へ送った者は、どこにおる』
ロゴスは魔剣サザンクロスを、神像の丘へ向けた。
『ロゴスよ!、妹の弔いをしてくるゆえ、お主は手を出すな!』
漆黒の魔女、アルデウスは梟の森む向き直り、両手を広げて叫んだ。
『出でよーー!!、大鷹の軍団!!』
すると、大きな翼を広げた鷹の群れが現れた。
アルデウスは鷹の背に乗ると鷹の軍団は逆Vの字の体制を取った。
『空を滑空する、ガリバー、カサブランカ、ポルカの戦闘機を包囲した。
『これは、三足鴉のようにはいかなそうだな!』 ガリバーがカサブランカ、ポルカに急上昇を命じ、離脱を謀った。
三機の聖鳥は上空高く舞い上がり難を逃れた。
しかし、鷹の群れは、上昇するどころか、避難民たちの乗るパピヨン艦隊へ下降していった。
『しまった!やっらの狙いは、艦隊だ!!』
三聖鳥は、急ぎ急旋回して、艦隊を襲う鷹軍団の背後についた。
しかし、時遅く、鷹の軍団は、パピヨン艦隊の上空から火の玉を嵐の如く落下させた。
炎上し爆発する戦艦の列。
救出用ボートに乗りパピヨンやラパンも、避難民と共に神像の岬にたどり着いた。
エンパイヤータワーで、これを見ていた帝国ロゴスが、含み笑いを浮かべた。
『敵に背を向けるとは、隻眼の火の鳥、ガリバー、油断したな!!』
エンパイヤータワーから、ドローンミサイルが火の鳥目掛けて発射された。
((((ドドーン ドドーン ドドーン))))
トライアングル体制を取っていた、華麗な白鳥に乗る、カサブランカが火の鳥に迫り来るミサイル群に気付いた。
『うぁーつ!!、後ろを取られたか!』
ガリバーはカナリア号の中で覚悟を決めて祈った。
『カサブランカ!今度、生まれ変わったら一緒になろうぜー!』
((((ドドドドーーーン))))
空に大きな爆音が轟いた。
カナリア号は爆煙の中から無傷で飛び出した。
カナリア号の窓から外を見ると、カサブランカの機体が炎を噴き上げ落ちてゆく。
カサブランカは、機内の窓から笑顔で手を振り、投げKISSを贈った。
やがて白鳥は、丘の中腹に激突して砕け散った。
『カサブランカーー!!』
ガリバーは、喉が張り裂けんばかりに叫んだ。
『クレマチスは津波で死に、カサブランカも、この有り様だ!』
『俺の愛した女は、みんな先に逝っちまう……』
『許せねーー!!、あの鷹の野郎!!』
冷静さを失ったガリバーは、
諌めるポルカの言葉も聞かず単独、鷹の軍団へ向かった。
『それほど、死に急ぐか!、お前も黄泉の国へ送ってやろう!』
ドローンストライク(最後の審判)
単独、鷹の群れの中へ飛び込んで行った、カナリア号は乱れ飛ぶ炎の弾に包まれ姿を消した。
ポルカの乗る荒鷲号も、鷹の群れに、周りを囲まれ翼をもぎ取られらるように、オリゾン河へ落ちて行った。
これにより、王国の制空権と海の戦力は無力と化した。
大鷹の群れは、遮る防御網を無くした、神像の丘を目指した。
その時、オリゾン河から、一隻の大型漁船が現れた。ドクロにブタをあしらった旗印。
パピヨンの父である。
甲板に搭載された光子砲が鷹の群れを襲う。
《《《ヒューン ヒューン ヒューン》》》
凄まじい弾幕の前に、鷹の軍団は、脆くも粉砕された。
思わぬ伏兵、 海賊船を睨み付ける、漆黒の魔女アルデウス。
アルデウスは、光子砲をかいくぐり、漁船の上にたどり着いた。
『余計な邪魔をしてくれたな!!』
大声で叫ぶアルデウス。
その前を横切る、美しい王妃の姿。
アルデウスは、その顔に見覚えがあった。
行方知れずになっていた少女(風)の成長した姿だった。
パピヨンの父が王妃を庇うように呟いた。
『王妃様!あぶのうございます~お下がりください……』
王妃フランソワは、その声を制して、両手を空に上げ妖精術を唱えた。
『ブルーアイビリーブ!』
漆黒の魔女アルデウスは、光に包まれたかと思うと、その場に倒れた。
やがて、みるみる姿を変え、輝きの聖女へと転身していった。
パピヨンの父は、何が何やら分からず、右往左往していた。
王妃フランソワは、輝きの聖女を船内へと、付き人に運ばせ呟いた。
『あはたは、パンドラの箱へ、間もなく帰れます。心安らかに、お休みください。』
輝きの聖女の瞳に安堵の光が戻った。
エンパイヤータワーから、帝王ロゴスの合図と共に、幾つもの核を弾頭に搭載したミサイルが神像の丘目掛けて打ち出された。
((((ドドドドーーーン!)))!
帝王ロゴスは魔物の背に乗り、魔剣サザンクロスを真っ直ぐに突き立て、エスポアールの持つクリスタルタブレットへと迫った。
魔剣サザンクロスがクリスタルタブレットを突き刺す。
その時、クリスタルタブレットは、盾へと姿を変え、魔剣を跳ね返した。
パンドラの箱を抱えた、月読みの巫女が帝王ロゴスの前に出る。
クリスタルタブレットに手を伸ばすが、わずかに届かない。
『終焉は、我の手の中にある!』
空から魔王デニモスが巨大な炎の玉を救世主と女神テラへ吐きながら迫る。
神像の丘へ迫る核弾頭の群れと魔王デニモスが絶え間なく吐く火の玉の嵐。
『光の時代は終わる!これよりは、闇が支配するのだ!!』
『全ての光を闇で覆い尽くすのだ!!』
魔王デニモスの声が辺りに響き渡る。
『我!勝てりーー!!』
帝王ロゴスが叫ぶ。
玉座に座る救世主(翔)が女神テラ(花)に語りかけた。
『最後の審判を下す時が、来たようだね』
女神テラは、右手を高く翳して声高に叫んだ。
『光を覆いし、陰を今こそ打ち祓う!!』
『太陽神! ご加護を!!』
《《《《《ドローン ストライク》》》》》
女神テラは最後の審判の言葉を唱えた。
すると、核弾頭と魔王が吐き出す火の玉は方向を変え、魔王デニモスと帝王ロゴスの元へと向かった。
帝王ロゴスが叫ぶ。
『帝国は永遠に不滅なりーー!!』
凄まじい爆音をともない、巨大なキノコ雲が空を覆い尽した。
魔王デニモスも、自らの放った業火の中で、悶え苦しみ、やがて空の中へと消えて行った。
帝国と、その王ロゴス、魔王デニモスの最後となった。
神像の丘には仲の良い兄妹、青年、(翔)と乙女の(花)、そして救いへ導く者、エスポアールの姿があった。
傍らに立つロイヤル三世、フランソワ王妃、十二の聖たち。
空が茜色に染まり、聖戦の終わりを告げていた。
白馬の大祭司、ラビの月と、姉の月読みの巫女の視線が重なった。
『弟よ!来世で、また会おうぞ!』
月読みの巫女がパンドラの箱を開いた。
すると、一瞬にして、辺りが真っ白になり、世界は空へと戻された。
色、即、是、空
形有るものは皆
有るようで実態がなく
無いようで、存在している
全く無いとも言えず
全く有るとも言えない
全てのものは
空より出でて空へと帰る。
始まりが終わりであり
終わりが始まりとなる。
神像の丘に立つ青年。
一人の老人が神像の丘から下を流れるオリゾン河へ箱を投げ捨てた。
手には、何やら光る板のような物を抱えていた。
老人は神像の足下に有る台座に、光る板を嵌め込んだ。
老人が、しばらく、オリゾン河の水平線を眺めていると、一人の青年が救世主と女神の像の前に立っていた。
老人は、腰を上げて、持っていた、杖で青年の背中を突っきながら訊ねた。
『名は何と言う……』
『希望です。』
ここから、始まる物語。
ドローン.ストライク
長い間、私の作品に目を通して下さった方々に、まず、心より御礼、申し上げます。
皆様の、励まし無しでは、到底、この長い作品を完結させることは、できませんでした。
毎日、アクセスポイントが上がって行く度に、俄然、やる気が出てきました。
途中で投げ出しては、折角、私の作品に興味を示して下さった方々へ申し訳ないと完結を目標にしてきました。
初めての、中編作品となりました。
これからも、新たな作品作りに邁進して行きますので、皆様の応援、よろしく、お願い申し上げます!
また、作品を、お読み頂く日まで、しばしのお別れです。
毎日を、楽しく、明るく、元気に、お過ごしくださいませ。
平成二十七年、七月、二十日、(海の日)
オオシマリス。