神を殺してしまった人

神を殺してしまった人

お題サイト「サディスティックアップル」 http://loose.in/sadistichoney/ より
shortお題 「たくさんの人がいたこの星で」

「倦怠……ねむー」
「ミスドの新作やるから起きろ」
「はい」

 甘いものに弱いのは知ってる。どんだけ幼馴染やってると思ってるんだ。

「だから、寝ずに俺に勉強を教えろよ」
「それが物を頼む態度かよ」
「いいから、ここ。ほら」

 俺の同居人は同い年の秋夜(あきや)。幼稚園からずっと同じプロセスを辿ってきて、

「ここは、あ、解答貸して」
「できないのかよ!」
「教えてもらうやつが偉そうな口を叩くな」

 腐れ縁というか、竹馬の友みたいな。あいつと一緒にいる時間はかなり長かったと思う。

「……こうすれば、いいのか?」
「やり方はあってるけど、答え間違ってる」
「うえー」

 川で遊んだり、公園で遊んだり、アイツん家で遊んだり。

「ここ違うじゃん」
「あ、マジだ」
「九九からやりなおせ、九九から」

 秋夜ん家のお母さんは凄く優しくて、行けば必ずおやつを用意して待っていてくれた。
 俺ん家の母ちゃんとは大違いだった。清楚だったし。

「これで、どうだ」
「うん、そう。合ってる」
「っしゃー。次々」

 でも、

「まだやんの? 俺、疲れた」
「お前は天才ちゃんだからいいかもしんねぇけど、俺は馬鹿だから勉強しなきゃ駄目なんだよ!」
「違う違う」

 秋夜のお母さんは、三ヶ月前に殺された。

「大馬鹿、だろ」
「うっせぇ馬鹿!」
「馬鹿はお前だっつーの」

 秋夜のお父さんの手で。



「そろそろご飯ー」
 勉強に手をつけず、結局二人でゲームをやっていた。ゲームは秋夜が馬鹿強くって、全敗だった。
「飯食い終わったらもう一回やろう!」
「勉強はどうした、勉強は」
「知らねー」
 細い階段を降りる秋夜の頭を叩いてやった。勉強しなきゃとか言ってたやつ、誰だよ!


「いただきまっす」
早々に自分の席につき、自分の箸を持ち、
自分の茶碗で飯を食う、あいつ。
「おいしいかい?」
「この豚の生姜焼き最高っす!」
 もはや家族の一員だ。
「食べ終わったら、もう一戦」
「その前に風呂入っちまえ。いっつも俺のベッドで寝るな」
「風呂入ったら眠くなるじゃねぇか」
 俺の兄貴が使っていた部屋を秋夜は使っている。あいつのお父さんは刑務所の中だから、家に誰もいないのだ。
「どっちにしろ眠くなるなら同じだろ」
「そーだけどー」
「ほら、早く、着替え持って入れ」
 身寄りのないあいつは半ば転がり込むように俺の家に来た。今まで見たこともないような、死にそうな顔して。俺はその時のことを鮮明に覚えている。
 でも、思い出したくなかった。
 あいつが俺に、殺してくれと頼んだ日なんか。


「はー気持ち良かった!」
「俺も入るかな。その間にこの問題やっとけ」
「はいはいせんせー」
 下着と寝間着を持って階段を駆け下り、風呂場へ到着。とっ散らかってる椅子や桶、シャンプーとか整頓して湯船につかった。
 俺は排水溝に吸い込まれたりはしない。
 体を十分暖め、ほどよくさっぱりしたところで出て着替え、戻った。
 いつもとおんなじ、楽しい毎日。


「解けたかよー」
 頭をわしゃわしゃとタオルで拭きながら、扉を開けた。何故かあいつはいなかった。代わりにはためく、白色のカーテン。
「おーい?」
 隣の部屋に帰ったのか? だったら窓くらい閉めて行けよ。バタバタとなびくカーテンをうっとうしく思い、カーテンをまとめあげた。
「――秋夜、なんでそんな所にいんだよ」
「ん」
 屋根の上から垂れている両足はあいつのものだと思う。屋根の上にはよく上がってたし、別に不思議じゃないんだけど、今日は、雨なのに。
「風呂入ったのに、風邪ひくぞ」
「ん」
 生返事をするだけで、降りてこない。雨はしとしとと音もなく屋根を濡らし、月光を反射した。そろり、そろりと滑らないように屋根を這い、もう一段上の屋根に上った。ひんやりとした風が、濡れた肌を撫でる。もう、秋なんだ。
「秋夜」
「なぁ」
 俺は秋夜の手を引っ張ったが、あいつは無視して話を進める。それに、手は雨ではない何かで滑って、うまく掴めなかった。
「俺を殺してくれないか?」


 霧雨が、周りの世界を包んで、まるで白い世界に二人だけのような気がした。はっきりと見える秋夜の顔は、あの時とはまた違う、死にそうな顔で。
 死んだような顔で。
 俺の右手に、白い世界の赤色。秋夜の血だ。
「秋夜!」
「なあ、殺してくれよ」
 俺の肩を揺さぶる手は真っ赤に染まっていた。一心不乱に殺してくれ、と叫ぶ秋夜は恐怖でしかない。
 お前がお前のお母さんを誰よりも好きだったのは知ってる。
 お前がお前のお父さんを何よりも尊敬していたのは知ってる。
 だったら、だからこそ。
「お前は生きなきゃ駄目だろ」
「え?」
「お前は、お前のお母さんと、お父さんのためにも生きなきゃ駄目なんだろ」


「そうだったなぁ」
 秋夜が大泣きを始めた頃、ちょうど雨も強くなった。


「また風呂入って、包帯したら寝んぞ」
「ごめん」
 一言笑って謝って、階段をそっと下りた。

(五度目の懇願)


(神を殺したのは神)

神を殺してしまった人

彼らの会話は楽しく書けました。
いまいち幼稚な文章になってしまいました。

神を殺してしまった人

お題サイト「サディスティックアップル」 http://loose.in/sadistichoney/ より shortお題 「たくさんの人がいたこの星で」

  • 小説
  • 掌編
  • SF
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-22

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