winter cherry ~鬼灯~
ファンタジー長編小説です。
初投稿です。
いろんな登場人物の視点から書いて行きます。
グダグダですがどうぞよろしくお願いします。
序章
太古昔、ある国で、大きな神殿が造られた。
ある国の名をバルシェ、
神殿の名をギューラ神殿という。
ギューラ神殿には年に一度、世界中の神が集まると言い伝えられ、その言い伝えは、今でも続いている。
ギューラ神殿に神々が集まる日、人々は鬼灯を3つ川に流すという決まりに従っていた。
その国では、鬼灯は<神の生命>と言われるほどのものだが、触れることもでき、握ればすぐに潰れてしまう。
要するに、神はいつでも手の届くような場所に存在するが、それに触れれば、神の命は消え去ってしまうという、神の命の尊さを表している。
また、赤い皮が網目状に透けて、赤い実が見えるということから、
神の心をいつでも民にみていてほしいと言う神の願いを秘めたものということも表されている。
なぜ、3つなのかというと、それにも理由があった。
1つは、神をこれからも守り続けて行くという民の思い。
2つは、これからも一家を守り続けてほしいという民の思い。
3つは、神の命をこれから先も伝えて行くという神の思い。
この3つの思いが重なることで、この国は成り立っているようなものだった。
神は民に忠実である。だがそれ以上に、民は神に忠実だった。
お互いをよく思い、お互いに生きる場所をつくる。
民と神とが共存した国、バルシェ。
3つの鬼灯は、ある日夕闇に消える。
第一章 「鬼灯が光る夜」1-1
初夏の風が吹き、あぁ、夏がくるんだな、と皆が実感していた。
嬉しいと思うものは誰もいないだろう。また今年も、夏がくるのか…という、絶望に近い感情を持っていた。
毎年この国は、夏になると死者が急増した。
一つは暑さ。
雨が降れば蒸したような暑さが襲ってくるし、晴れれば焼かれるような暑さが襲ってくる。
大人は大抵我慢できるのだが、子供や年寄りには大変な時期だった。
水が豊富なのがせめてもの救いだが、暑さでそれもぬるくなってしまう。
秋に入ると、それなりに風が吹いてくるし、暑さも涼しさにかわっていく時期なので、生活がだいぶ楽になる。
冬もどちらかといえば、寒いというより涼しいに近いし、
春も程よい暖かさで、過ごしやすい環境にあった。
そして、二つは食料の激減。
食物はほぼ枯れ、腐る。
家畜も暑さで脱水症状や熱中症を起こし、死んでしまう。
そしてその家畜の肉も、すぐ腐ってしまう。
この繰り返しで、食べるものはほとんどなかった。
暑さに強いテノ(麦)は、お湯につけて食べるとふやけて、噛めば噛むほどおいしい。
そのため、夏は基本テノを食べて過ごしていた。
*
ギューラ神殿の前に正座をし、目を瞑っていた1人の女性ナギは、小さな足音が耳に入り、ゆっくりと目を開いた。
「今年も、夏がきますなぁ」
白髭の大柄の老人が、ナギの隣に座り、言った。
「あんたもそろそろ、どうですかな。この国から出て行きたいと思っておるのではないか?」
笑いごとのように老人は話す。
だが、ナギには、それは笑いごとではない出来事だということくらい、分かっていた。
「…いいえ。私はこの国から離れる気持ちは、まだ。幼さが消えない証拠です」
「はっはっは。そうか、そうか。まぁ、それもそうじゃのう。あんたはまだ若い。他の国にさっさと慣れるより、この国を全部知っていた方が、この先も苦労はそうなかろう」
老人はナギのその幼さの少し残る横顔を見て、言った。
「この国の事は、他の国の者等にはあまり知られておらぬ。若いうちから行ったとて、頭の悪い餓鬼が軽蔑するだろう。
逆に、年老いて行った他の国というものは、頭のきれる大人ばかりでの…快く受け入れてくれるのじゃよ」
ナギはその言葉を聞くなり、再び目を閉じた。
「…私は、この国にいなければならない気がしてならないのです。夏が来れば、この国は暑さと食料の急減による苦しみがくる。
仕方のないことですが、逃げるようなまねはしたくありませんし、逃げてるんだと、思われたくもありません。
逃げるような者に…なにかを動かすことは、できません」
いずれこの神殿を私が壊すのですから…と、ナギは呟くと、立ち上がり、神殿を見上げた。
「神なんてこの世にはいないものですよ。いたとしても、その神はいつか私の手で消え去る」
座ったままの老人は、立ち上がったナギを見上げて豪快に笑った。
ナギは不快そうな顔をして老人を見下ろした。
「はっはっはっは!そりゃあ面白い。若い者なのに大したもんじゃ。野望は生きる上では必要じゃぞ」
「…本気ですよ、私は」
「そんなことは、分かっておる。おぬしが嘘でそんなバカげたことを言うような奴ではないとな。
バカげたことほど楽しい。しっかりしたことほどつまらんもんじゃ。
わしは、好きじゃぞ。そういうばかげているようで、しっかりした気持ち」
ナギはなにも言わず、神殿に背を向けて、どこかへ行ってしまった。
「…あんたならできるさ。この世をくつがえすことだってな」
老人はナギの背中に小さくつぶやいた。
第一章 「鬼灯が光る夜」1-2
ナギは、ギューラ神殿から一番近いところにあるファマルという城下町にやってきた。
そこは人でにぎわい、沢山の店が並び、家があった。
「おばさん、こんにちは」
ナギは、城下町の入口のすぐそこにある家に入った。
「ナギ!どこ行ってたの?しばらく顔を見ないから…心配したわ」
奥から驚いた顔をして出てきた大柄な女性、フィナが、ナギを見つめるなり、安堵の息を吐いた。
「すみません、ご心配をおかけしました」
「いいのよ、長い間お疲れ様。疲れたでしょう?ナギのことだから、またすぐにお城に行かなければならないんだろうし…。少し休んで行きなさいな」
フィナは「そこに座っていて」と一つの椅子を目線で示すと、台所へ消えて行った。
フィナは気前のよい女性で、他人であるナギにもこんなに優しく接してくれた。
他の人がするように軽蔑の目ではみなかった。
それが嬉しくて、ついつい甘えてしまっている。ナギは、だめだ、と言い聞かせるが、甘えに負けてしまっていた。
お皿にニャーダ(疲れがとれる薬草を混ぜたサラダ)をよそってやってきたフィナは、「どうぞ」と言って、お皿をナギの前に置いた。
フィナのつくるニャーダはとても美味しい。本当に、疲れが取れる。
「ありがとうございます。…いただきます」
ナギはフィナに頭を下げると、ニャーダを一口、頬張った。
「おいしいです。いつも…フィナさんにニャーダを御馳走になるたび、申し訳なくなります」
苦笑すると、フィナは優しく笑い、ナギの向かいの椅子に座った。
「ナギは優しい人だから。そういうことを思うのも仕方がないわね。
けれど、申し訳ないだなんて思わないでね。これは、私の自己満足でしていることだから」
「でも…」
「苦情は受け付けないわ。」
winter cherry ~鬼灯~
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