Einsatz

Einsatz

冬木 奏

こんにちは。ふゆたそです。
吹奏楽部を小説で書くとどうなるんだろうなー、と思い書き始めました。
沙月とチューバのコンビネーションとか、部内の雰囲気の変化とかそういうのを感じながら読んでくれると有難いです!

序章「プロローグ」

夏、千葉県吹奏楽コンクールは行われた。
それぞれの学校が、それぞれの曲を引っさげて参加した。出演者全員が全力を尽くし、演奏した。その千葉県吹奏楽コンクールの結果発表。何百人もの出演者達が祈る。
その中に中野沙月(なかのさつき)もいた。
沙月のいる中学校はプログラム順で12番目だった。 遂にその時が来る。
「12番……千葉市立末広(すえひろ)中学校……銀賞」
無機質のように冷たいアナウンスが流れる。沙月は愕然とした。沙月だけではなく、末広中吹奏楽部員全員が。ふと、横を見ると少しほっとした様な顧問がいた。
「先生は悔しくないんですか」
沙月は自分の呟きに気付き口を塞ぐ。しかし、それは純粋な質問であった。
「中野さん、金賞など取れなくても楽しかったっていうのが大事ですよ」
顧問はニコッと笑った。
沙月は苛ついた。
目標は金賞だったじゃないか。
金賞とって全国行こうって。
「私は!悔しいです!あんなに立派な目標掲げて一生懸命練習したのになんでこんな結果なんですか!」
沙月の苛立ちが爆発した。
もう全部出し尽くしてしまえ、そう思うほど。
「全国行くとか言って!一生懸命練習したのに!なのに……」
沙月の頬に滴がつーっと流れる。
「銀賞って……先生は悔しくないんですか!」
沙月は出し切った。
怒りを全て、顧問に。
こうして、中学校生活最後の吹奏楽コンクールは終了した。

一章「高校生と吹奏楽」

沙月は中学を卒業した。
そして千葉市立千葉東高等学校に入学した。
中学の頃の成績はあまり褒められたものではなかったので、正直入試が心配だったが、なんとかクリアした。
千葉東高等学校は「東高」と略され、親しまれている。吹奏楽がとても有名で周りからは一目置かれている。と、思っていたのだが……

入学式、沙月は眠たそうにしていた。
昨日、緊張し過ぎて眠れていなかったのだ。
友達できるかなーとか、吹部どうなんだろなーとか、要らない想像をしてしまい寝不足なのだ。
そんな時
「それでは、校歌斉唱。演奏は吹奏楽部です。」
そのアナウンスに沙月は目を覚ました。
東高の吹奏楽部の演奏が聴けるっ!
顧問と思われる指揮者がタクトを振り上げる。
そして、奏者達は一斉に楽器を構える。
……かっこいい。
沙月はそう思った。
しんと静まり返り空気が少しぴりついた。
タクトが振り下ろされる。ブレスの音が聞こえた。しかし、結果は散々。パーカッションはテンポキープできておらず、メロディはバラバラで、もはや原型をとどめていなかった。

入学式が終わり、沙月は絶望していた。
何故東高の演奏はあんなにも下手なのか……
そう思い悩んでいる時だった。後ろの方から声が聞こえた
「ねぇねぇ!末広の子だよね!」
声を掛けてきた女子は、ショートカットで前髪に赤いトメを付けている。
……可愛い子。
沙月はずっと眺めていたくなった。
しかしそうはいかないようで彼女は質問してきた。
「どしたの」
「え、あ、うん大丈夫」
ぼーっとしていた沙月はその質問に驚き単純な答えしか返せなかった。
「よかった、私は安藤香澄(あんどうかすみ)
「なんか、貫禄のある名前だね」
「うぅ……良く言われる……」
安藤香澄と名乗った彼女は少し顔を歪めた。
なんとも整った顔。目はぱっちりしていて眉毛も整っていて……
「……可愛い」
沙月は声に出してしまった。
慌てて口を塞ぐ。
「か、可愛くないよっ」
香澄が頬を赤らめ否定する。
「ねぇ、名前は」
香澄が恥じらいながらも質問してくる。
そういえば名前は告げていなかった。
「えっと、中野沙月だよ」
「可愛い名前ね」
「そ、そんなことないよ」
香澄は沙月の反応に満足したのか少し微笑んだ。
そして、香澄が口の端をにぃっと上げて聞いてきた。
「ねぇ沙月、吹部、興味ない?」
沙月はどきっとした。
香澄は吹部に入るのか、あんな散々な演奏の吹部に。
実は、沙月は吹部に入るのを半ば諦めている頃だった。憧れていた時の東高の演奏なら迷わず入ったが、あんなに散々な演奏の部にわざわざ入ろうとは思っていなかったのだ。そのことについてあまり考えていなかったが、急に答えを出さざるを得ない状況になってしまった。
「んー……吹部かぁ……」
「あれ?興味ないの?」
「あ、あんまりねぇ……」
「あっれぇ……おかしいな、あっちにいる子が『沙月は吹部だと思うよ』って言ってたのに」
香澄がそう言ってどこかに指を指した。沙月はその指の指された場所を見る。
そこには、末広でともに吹部だった水原瑠奈(みずはらるな)がこちらを向いて笑っていた。
あいつ、後で覚えとけよ……
「で?沙月!吹部入るの?」
ここまで言われたら、もうNoとは言えない。
「わかった、入るよ……」
「ほんと!?やったっ!」
香澄はとても喜んでいた。
沙月は少し気になった事をぶつけてみた。
「香澄はなんの楽器やってるの?」
「私?私はねぇ……」
香澄は華奢な体型だからトランペットとかかな....クラリネットとか……
沙月はそんなことを想像しながら答えを待った。
「私は、吹部未経験だよ」
沙月は崩れ落ちた。
「えぇ、未経験なの?」
「うん」
香澄は自慢げに答える。
いや、自慢じゃねぇよ、と言うと、香澄はにぃっと微笑んだ。

学校探検を済ませた沙月と香澄は、音楽室に向かった。吹奏楽部はどんなものかと下見を兼ねて、体験入部するためだ。体験入部と言っても、楽器は吹かない。今日は部の雰囲気を見るためだけに来たからだ。
「失礼しまーす」
音楽室に入るとすぐさま先輩が飛んできた。
「ねぇねぇ!体験入部?体験入部?」
どうやらはしゃぎ過ぎているようだ。
「はい、そうですけど……」
苦笑い気味に頷く。
「やっぱり!よーし」
先輩はんんっと咳払いをすると腕を腰に当てた。
「やぁ!体験入部の諸君!ようこそ我らが東高吹奏楽部へ!」
先輩は大声で叫んだ。
音楽室の奥の方からくすくすっと笑い声が聞こえる。沙月はこの先輩とは関わりたくないなぁと思いながら苦笑いする。
「私の名は“大嶺朱晴(おおみねすばる)”!この部の部長だ――」
「違うでしょっ?」
「あてっ!」
朱晴は後ろにいた子に頭をぱこんっと叩かれ、不思議な悲鳴を上げた。
「ごめんね?うちの朱晴が迷惑掛けて」
「あ、いえ!」
突然の謝罪に驚き、簡単な返答しか出来なかった。
「私は“高保穂乃果(たかやすほのか)”この部の正真正銘の部長よ。よろしくね?」
穂乃果と名乗ったこの部の部長はにこっと微笑み、こちらに問いかけてくる。
「はい、宜しくお願いします」
沙月と香澄も今度はしっかりと返事をする。
「あれ、じゃあ朱晴先輩は副部長ですか」
香澄が穂乃果に問う。そして穂乃果が応える。
「あぁ、朱晴はね、チューバのパートリーダーなのよ」
「えええ!?」
香澄より先に沙月が叫んだ。
チューバのパートリーダーってことは……
実は沙月が担当していた楽器は小学生の頃からずっとチューバだった。チューバとは金管楽器の中で最大の大きさを誇る巨大な楽器だ。しかし、重い、目立たない、吹きづらい、この負の三拍子が揃っているので、チューバを所望する人はあまりいない。
それはさて置き、朱晴がパートリーダーならば、必然的に朱晴が沙月の先輩になる。
……あぁ、希望が見えぬ……
沙月はそう思うばかりだった。

「はぁ……」
沙月はため息をついた。
吹奏楽部には入りたくない。
とはいえ、理由はと訊かれて「下手くそだから」とは言えない。言える人は言えるのだろうが、沙月には到底無理だった。どうにか入らずに済むことでも起きないかなー、と思いつつ、学校までの道を歩く。
沙月の家の最寄り駅から東高の最寄り駅までは電車で約十五分ほどで着く。そこから十分ほど歩くのだが、途中に九十九里浜(くじゅうくりはま)があり、とても綺麗なので苦にはなっていない。
ぼーっと九十九里浜を横目で見ながら、部活の辞める言い訳を考えるのもなんだか嫌になってきて沙月はあともう少しの道のりを走った。

東高は入学式の後、新入生はすぐに帰ることができる。つまり、学級開きなどは次の日なのだ。
「私何組かな。おお、三組か」
沙月は自分のクラスを確認すると、校舎に入り自分のクラスの場所を探した。
「あっれ、ここどこだ?」
校舎内を走ってクラスを探していた沙月は案の定、迷ってしまった。
「えっと……あの、一年三組のクラスってどこで……ふぁっ!」
すぐ近くにいた先輩に道案内を頼もうとしたのだが、その声をかけてしまった先輩は運悪くも……
「やぁ!沙月ちゃん!この朱晴が場所をお教えいたそう!」
――朱晴だった。
「えぇっと、何処ですか?」
「一年はね、あのトイレを曲がった先にあるよ!」
「えっ……ありがとうございます」
案外普通に案内してくれた事に、驚きつつも感謝を告げて、沙月が去ろうとしたとき
「ねぇ、沙月ちゃん?」
「はい?」
朱晴に声を掛けられ、その場に止まる。
なんだろう、何されるんだろ、沙月はなんだか怖くてその場を去りたくなった。が、朱晴の手前そんなことできない。
「沙月ちゃん東高の吹部、嫌いでしょ?」
沙月は驚いた。驚くと言うよりも、軽く引くくらいだった。そんな素振りしてたのかな、顔に出てたのかな、思考回路がぷすぷすとショートするかと思うくらいに頭が回転する。
「えっ……それは」
「下手くそだから?」
「……え?」
沙月がそう答えるのも聞こえないのか、朱晴は続ける。
「昔と比べて、下手くそだから?」
沙月は何も言えない。
「......じゃあさ、今日音楽室来てよ。」
約束して、そう言って朱晴は去っていった。

初めてのHR。まず担任の自己紹介から始まる。
「初めまして、私は“佐藤 律子”と言います。担当は国語ですが、吹奏楽部の副顧問をしています。」
沙月は顔を上げた。律子の顔を見ると、思い出した。
あの時の指揮者だ。入学式で指揮をしていた人だ。
「それでは皆さん一人ずつ自己紹介をお願いします。では、相浦さんから」
続々と自己紹介が終わっていく。
そんな中
「初めまして!私は安藤香澄です!よろしくです!」
どこかで聞き覚えのある声、名前。
香澄は同じクラスなのか。
沙月はどこか安心した様子だった。
HRが終わり、授業が終わり放課後となった。
沙月は朱晴のあの言葉のせいで、ただでさえ重い足取りは、余計に重くなっていた。


「こんにちはー」
沙月は音楽室に恐る恐る顔を覗かせた。
朱晴がいないのを確認するとほっ、と胸をなで下ろした。
「ん?どしたの沙月」
香澄は沙月の行動を不思議に思い質問する。
沙月は少しぎくっとする。
「な、なんでもないよ、あはは」
適当に返すのがやっとだった。
その時だ。
「やぁ!沙月ちゃん、香澄ちゃん!よく来たねぇ!まぁまぁ入って」
朱晴だ。
沙月は逃げ出そうとしたがそんな雰囲気ではないのでやめる。そんな沙月を気にも止めず朱晴は続けた。
「まず、沙月ちゃんにはコレ見て欲しいなぁ」
朱晴は外を指さした。
「あ」
朱晴の指の先にある光景に沙月は声が漏れた。
その光景は、トランペットパートの人たちが練習をしている姿だった。私語もせず黙々とトランペットを鳴らしている。まるで耳を(つんざ)くかの様なトランペットの音が校舎内を谺響する。
初めは上手くいっていなかったリズムが徐々に出来るようになっていく。
「ねぇ、沙月ちゃん。これを見ても吹部が嫌い?」
「え」
突然の質問に言葉を沙月は返せなかった。
「下手くそだよ、確かに下手くそだよ。でも、練習はしているの。努力はしてるんだよ。報われないだけ」
朱晴の目が潤う。
沙月はそれを見逃さなかった。
「それでも、この吹部が嫌い?」
朱晴の頬に滴が流れる。
……あの頃の私と一緒。
中学最後のコンクール。金賞すら取れなかった頃の私と一緒。あの頃の私も涙を流した。一緒なんだ、朱晴先輩も私もみんな。私が悔しがらせない。
朱晴先輩を悔しがらせない。
沙月はそう決意し朱晴の問に答えた。
「いいえ、嫌いじゃありません。」
沙月の睨みつけるような鋭い真剣な瞳に迷いはひとつもなかった。

第二章「部活と顧問」

朱晴の言葉に応えるように、沙月は吹奏楽部に入部した。悔しい思いを朱晴にはさせたくないという一心だった。
今日は楽器決め。沙月はチューバとトロンボーンとで迷っていた。今までやってきたチューバをするのか、敢えて新しいトロンボーンにするか、
んー、と唸っているとそこに香澄が来た。
「どしたの?沙月」
「あのね、私チューバやってたの」
香澄が驚いた顔をした。
「沙月が?チューバやってたの?」
「う、うん」
香澄は目をぱちくりさせる。
あんな重い楽器を沙月みたいな細い人が吹けるのか、と言いたげだった。
沙月は話を変える。
「香澄は楽器何にするの?」
「私はトランペットかなー」
「どうして?」
「この前みたじゃない?トランペットが頑張ってるとこ、かっこいいなーって思ってさ。どうせやるならかっこいい方がいいじゃん?」
香澄はにぃっと笑って見せた。
カッコイイほうがいい。カッコイイほうがいい、それなら……答えは決まっているはずだろう。
「私、チューバにする」

「疲れた……」
香澄が弱音を吐く。
どうやら希望者が多いトランペットにはオーディションがあったようで、香澄はそれに疲れたらしい。
「結果どうだった?」
それとなく沙月が尋ねる。
すると香澄はVサインをしながら、笑顔で答える。
「ホルンになった!」
「えぇ、そうなの」
てっきり合格したものだと思っていた沙月は驚いた。
「……ってなんでホルン?」
「単純だよ、ホルンだけ音が鳴ったんだ!」
嬉しそうに答える香澄は、正直なのか単純なのか、将来が心配になって仕方が無い。
そんな中後ろの方から手が伸びて、沙月の目を覆う。誰かと確認しようと後ろを向くとその相手が話しかけてきた。
「よぉ!なんの話してんの?」
「うわぁ!司!」
突然の幼馴染みの登場に驚き、沙月は声を上げる。香澄は口を開け、ぽかんとしている。
「何よ」
沙月は司に向けきつい言葉を浴びせる。
「何ってなんの話してるのか気になっただけだ」
少し寂しそうに司は答える。
......なんかイラッとする。
沙月は少しむっ、とした表情をして司の背中を叩く。っ痛、司がそう言ったが、沙月は気にしなかった。
一人会話についていけずぽかんとしている香澄に気付いた沙月は申し訳なさそうに状況を説明し始めた。
「あ、ごめん香澄。こいつは司って言ってね、私の幼馴染みなの」
申し分程度の紹介をしてやった。
それを聞いた香澄はやっと合点がいったようで納得の表情を浮かべた。
そんな香澄に司は自己紹介を始める。
「俺は東雲司(しののめつかさ)、沙月の幼馴染みだ。
担当はパーカッションだけど、よろしくな」
自己紹介を終えた司は満足感に浸っていた。
「司くん、だっけ?私は安藤香澄!よろしくね!」
「香澄......なんか演歌歌手みたいな名前だね」
「良く言われる......」
このやりとりどっかで見たような、沙月はそう思った。
「......って司、またパーカッションなの?」
沙月はふと疑問になったことを問いかける。
中学時代もパーカッションだった司。東高でもパーカッションにしたらしい。
「そうだよ、当たり前だろ!
パーカッション愛は誰にも負けない自信があるからな」
自信あり気に答える司。
そういえば、という顔をして司が話し始める。
「そういや瑠奈トロンボーンだったみたい」
「瑠奈が!?」
入学式の後、香澄に告げ口をした瑠奈はずっとトランペットだったのだ。トランペットを手放すことすら嫌がっていた瑠奈がトロンボーンに行くのは少し考えきれなかった。
「そう、トロンボーンにしたらしい。
新しい道を切り拓くーって言ってたけど」
「まぁ瑠奈らしいね」
司との会話を終えると、沙月と香澄は部活が終わった音楽室を後にした。

その日の帰り、沙月と香澄は一緒に下校していた。司はまだ練習したいと言って残った。偶然にも沙月も香澄も同じ電車に乗って登校していたため、駅まで二人で歩いた。
「そういえば、顧問の先生来ないね」
香澄が思い出したように話しかける。
沙月がその問に対し、うん、と答える。
そして、沙月は続ける。
「聞いた話だと、前の顧問が離任されて新しくくる顧問を待ってるとか、そんな話を朱晴先輩は聞いたよ」
「そうなの!どんな先生かなー」
香澄のわくわくした表情の顔を横目で見ながら、沙月は九十九里浜を眺める。少し薄暗い朝とは打って変わって、夕景の九十九里浜もまた綺麗だった。
夕陽が海面に反射し、海を橙に染めていく。そんな浜を見ながら、沙月と香澄は歩いていた。 いつか私たちもこんなふうに輝く金を取れるのかな、そう考えながら眺めるその浜は少し淀んで見えた。

翌日。
沙月は突然なった目覚まし時計を止めるとふぁー、と欠伸をした。
朝だ。沙月はベッドから飛び起きて顔を洗いに行く。蛇口の取っ手を上げると、ちょろちょろ水が出てきた。
ぴちゃぴちゃと水で顔を弾く。顔を拭いた後に白い頬を叩く。
「……よしっ」
別に今日特別な何かがある訳ではないのだが、何故か俄然やる気が湧いた。
毎朝の一連の流れをして鼻歌交じりで洗面所を後にする。
「おはよー」
母親と父親に挨拶を告げ、髪を結びながら食卓につく。出された卵とウインナーと白米。正直、これを朝ご飯とするのはいかがなものかと思うが、文句を言わずに食べる。
「そういえば、楽器は決まったの?」
母親が話しかけてくる。その問いかけに沙月は答える。
「んー、またチューバ選んじゃった」
「またチューバか、お父さんはサックスを吹いて欲しいけどな」
がははは、と笑い声をあげながら冗談を言う父。今となってはこんな父だが、沙月に名前を付けたのは父だ。月のようにお(しと)やかな子に育て、という意味らしい。
ふと、時計を見ると家を出なくてはいけない時間が迫っていた。
沙月は慌ててご飯を済まし、着替えに部屋へ行く。
机の上にあった教科書を取って鞄に入れた。その時、はらりと一枚の写真が落ちてきた。
末広中学校銀賞、と下に書いてある。
沙月にあの頃の記憶が蘇る。
いやだ、いやだ、もう二度とあんな思いをしたくない、朱晴先輩にさせたくない。
沙月は改めて胸にその決意を刻んだ。
そして、沙月は家を出た。

Einsatz

Einsatz

中学生最後のコンクールが散々な結果だった沙月は 吹奏楽の強豪校の千葉東高校に入学する。 そこで吹奏楽部に入って吹奏楽を頑張ろうとするのだが東高吹奏楽部にはちょっと厄介なわけがあって.....

  • 小説
  • 短編
  • 青春
  • 恋愛
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-14

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原著作者の表示の条件で、作品の改変や二次創作などの自由な利用を許可します。

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  1. 序章「プロローグ」
  2. 一章「高校生と吹奏楽」
  3. 第二章「部活と顧問」