雨上がり
幼い頃、絵を描くことがとても好きだった。
買ってもらった大きなスケッチブックと、鉛筆を一本だけ持って、一瞬を捕まえに行く。
家の庭の、初夏の風に恋をしたばらの花
どこからかやって来た 陽だまりで昼寝をする猫
近所の家の池に映る自分の姿
あの頃の僕には描きたいものがたくさんあった。
どんなに分厚いスケッチブックでも足りないくらい
あの頃の僕は真っ白な紙に何を描こうとしていたんだろうか。
あの時何かを探して走った道を、
今ゆっくりと歩いてみる
あの頃の僕にこの景色はどんな風に見えていたんだろうか。
6月の夕暮れ
さっきまでの雨が全ての迷いをさらっていったかのように
澄んだ空気が僕を包み込む
紅く染まっていく空と雲 優しくて 懐かしくて
それは雨上がりの魔法
夢の中で出会ったような
夕焼け色に色づいた紫陽花の花が咲いていた
この一瞬を忘れないようにと
僕は心の中で繰り返した
雨上がり