Psalms

“主よ。 もし、私が悪事を働いているというなら、話は別です。”

- 詩 篇 7:3
ぼんやりと登る紅色の朝日に電車の窓からさし刺さる光が眼に入ったのか俺はゆっくりと重くなった目蓋を開ける。午前五時の車内はひんやりと隙間風が吹き涼しかった、人気もなく、密封された動く鉄の箱のように思えた。うつらうつらと聖書を読んでいたところついに爆睡してしまった自分が情けなかった、しかし、今朝鏡を覗いて反射した古傷を見て想い出した過去が夢にダブったことには多少首を捻らした。その上、何故かジョギングをする代わりに電車に乗った動機がさらに意味不明だった。無意識に疲れていたのか、昨日の喧嘩でそれほど体力を消耗した訳でもないのに睡魔が襲った。MP3を点けて正面スクリーンにでてきた曲名、“カードの家”、で環境音楽のような音色がきっと俺を眠りつかしたのは間違いないかもしれない。
“マルタ・・・”
その名前が頭裏に響かった。今さら心配しても当てがない、なんと無力だったのか、しかも情けないことに死んでいるか、生きているのかも分からずにただ悲しむ自分がみっともない。 古傷が痛む、駅のホームに一人息苦しく佇む俺は普段行き行く人で混みあった広い階段を真っすぐ下りた。駅方面を出ると数日前、聖書を買った中古本屋の定員が頭を下げ挨拶した。
「おはようございます。」というとほうきを持って店の中に入っていった。そのあとを、太った黒猫がこちらを少々伺い中に小走りで入って行った。
「あの猫確か昨日、街路樹の小道で夜・・・」デジャヴを見たかのように首を傾げる。
いつものコーヒー店で朝食を済ませようと席をとった。カウンターでワッフルを注文すると店員は横に掛ったアルミ網に置いてあった一個百五円のプラスチック袋に包んである冷え切ったワッフルを指差した。日本では出来立てのを注文できないのかと確信して改めてオーブン・トーストとコーヒーを注文した。トーストの味はともかくよかったものもコーヒーはやはりアメリカの方が情的だったかもしれない。アメリカに長い間住むと贅沢になるものだな・・・と自分で納得した。コーヒーを飲んでいるうちになんとなくカウンター側向くとそこには前にはなかった油絵が広々と飾ってあった。フレームのレーベルには“エン・ゲディ”とつづってあった。エン・ゲディとは古代ヘブライ時代、死海西岸のオアシスに存在した植物園のことを意味した。実物を見たい事がないのでこの油絵は何かさえ分かれば以外と興味深いものだ。
うとうとと、絵に見惚れていると登校時間が迫ってきた。急いでコーヒーを飲み干してガムを噛みながら外へ出てみると、他の生徒も同じ方向に向かっていく。ドサクサ紛れに制服を着た団体の中にすっかり溶け込み鹿の群れのように学校にたどり着いた。
下駄箱で靴を履き替えると廊下の右の方から千尋の声が聞こえた。
「ニッキー!グッド・モーニング!」
“おはよう。”と言い返そうとするが日本語を話してはいけないと思いだし合図で澄ました。短距離で会話を交わそうと彼女の近くにいってみる、白い体操着を着た千尋は手を引張り、階段の方へと導いた。
「千尋、一時間目体育だっけ?」
「うん、それより忘れないでね?放課後の集会、分かった?」
「ああ、それより、他に誰が来るんだ?」
「それは見てのお楽しみ。待ってるからね!」

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  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • 青春
  • アクション
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2012-03-22

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