しんでつづくおはなし

カヨは中学3年生の女の子でした。佳代は優しくとても良い女の子でした。
カヨは父の雄一と2人で暮らしていました。
雄一はいつも真夜中になると、しわしわになったスーツ姿でカヨの前にあらわれます。
カヨは目を覚ますといつも花瓶にある花が違うことを見て、雄一が来てくれたことを知ります。
カヨは雄一がくれた花の本をひらきながら、きょうの花をさがしました。
カヨが花を眺めていると、いつものように看護婦さんがきて朝の検査を受けます。
検査がおわると、週替わりの朝ご飯が運ばれてきて、カヨはいつものように1人で「いただきます」をして、朝ご飯を食べます。
食べ終わるとカヨは、いつも雄一のことを考えていました。
お昼ご飯をいつものように1人で「いただきます」をして食べます。
食べ終わるとカヨは、雄一のことを考えていました。
夜ご飯をいつものように1人で「いただきます」をして食べます。
食べ終わるとカヨは、雄一のことを考えていました。
カヨは眠る前にいつも「おやすみなさい」といって眠ります。
カヨは体が弱い女の子でした。

ある日のことです。朝早くに、雄一は病院から電話がきました。
カヨの前に、死送り人が現れたのです。
死送り人が現れると、送られる人物の命が短いことがわかります。
雄一はいそいで佳代のもとにむかいました。
佳代の死送り人は年配の男性でした。
死送り人は言いました。
「今日が終わると彼女はしにます。」
雄一は何も言えませんでした。
少しして、雄一はカヨに言いました。
「出かける準備をしなさい」
カヨは服を3枚と、花の本をもっていくことにしました。
カヨの支度が終わると、雄一はすぐに病院から出ました。
車には雄一とカヨと死送り人が乗っています。
死送り人は、送られる人の最後まで一緒にいます。
雄一は車を走らせました。
そして、飛行機に乗り、バスに乗り、電車に乗り、タクシーに乗り、船に乗りました。
雄一は「明日」から逃げました。
雄一はカヨのために逃げ回りました。

ある日のことです。死送り人がいいました。
「時間だけがすべてではない」
雄一は言葉の意味よりも、自分のしている行いについて口出しされていることに怒りを感じました。
雄一はカヨのために必死に「明日」から逃げていました。
カヨが少しでも長く生きるために逃げていました。
すべてはカヨのためでした。
雄一はカヨの顔をみました。
カヨは笑顔を雄一に見せました。
しかし、次の日。
カヨはもともと体が弱い子なのに、ずっと休むこともなく「明日」から逃げていたので、とうとう体が動かなくなってしまいました。
雄一はカヨをおんぶして「明日」から逃げました。
飛行機に乗り、バスに乗り、電車に乗り、タクシーに乗り、船に乗りました。
雄一は何かにつまずき転びました。
雄一は涙をながしました。それは転んだ痛みの涙なのでしょうか。
雄一の前に死送り人がかがみました。そしていいました。
「時間だけがすべてではない」
雄一はカヨのためにしていることだといいました。
雄一はカヨの顔をみました。
カヨは涙を雄一に見せました。
雄一は驚いてカヨにききました。
「カヨ、どうしたんだ?」
カヨはいいました。
「もういいよ」
何度も何度も雄一にいいました。
そして、死送り人が言いました。
「時間だけがすべてではない」
雄一はカヨにもう一度ききました。
「カヨ、どうしたいんだ?」
カヨはいいました。
「お父さんと今日を生きたい」

雄一はカヨを背おいながら家に帰りました。
病院にずっといたカヨは家に帰ってきたのは数年ぶりでした。
雄一は朝ご飯をつくりました。
そして、2人で「いただきます」をして食べました。
雄一はカヨとお話をしました。
雄一は昼ご飯をつくりました。
そして、2人で「いただきます」をして食べました。
雄一はカヨとお話をしました。
雄一は夜ご飯をつくりました。
そして、2人で「いただきます」をして食べました。
食べているときに雄一は涙をながしました。
しかしカヨは笑顔でした。
そして夜中になり、「今日」の終わりが近づきました。
雄一はカヨを布団に寝かせ、ずっとカヨの手を握りながら涙をながしました。
しかしカヨは笑顔でした。
雄一はカヨにききました。
「カヨ、どうして笑っているんだ」
カヨはいいました。
「お父さんと朝ご飯を食べれたから
 お父さんとお昼ご飯をたべれたから
 お父さんと夜ご飯をたべれたから
 お父さんとお話をたくさんできたから
 お父さんと一緒にすごせたから
 だから、幸せなの。」
雄一は涙をながしました。
そしてカヨはお花の本を雄一にとってきてもらうように頼みました。
カヨは横になりながら本を開きました。
本からはいろんな色の花の押し花がはらりはらりとこぼれだしました。
「これは6月の雨の日の朝に花瓶にあった花で、これは2月の雪がとても積もっていた時にあった花。」
カヨは花を見せながら言いました。
雄一は静かに泣いていました。
そしてカヨは雄一にいいました。
「おやすみなさい。おとうさん。ありがとう。」
そして雄一もカヨにいいました。
「おやすみ。カヨ」

次の日、カヨはずっと眠っていました。
雄一はカヨの頭をなでました。
死送り人がいいました。
「カヨさんはなくなりました」
雄一はうなずきました。
そして雄一はいいました。
「もっとカヨのためにできることがあった。
1日一緒に生きたことだけで、カヨは幸せだといってくれた。
もっと時間が俺にはあったのに。」
雄一は泣きました。
死送り人はいいました。
「私も大切な人を失いました。」
雄一は死送り人の顔をみました。
死送り人はいいました。
「失った時に気付いたのです。自分にとっての幸せを」
雄一はききました。
「あなたの幸せはなんですか」
死送り人はいいました。
「いつ死んでもいいように、今を全力で生きれることです。
呼吸ができる。話せる。足が動く。手が動く。それらすべてが幸せでした。
しかし、その幸せに気づくことができず、死ぬ前に後悔をしてしまうと、それは幸せにはならないのではないだろうかと思いました。
私は、今が幸せであり、今も幸せです。その日その日の自分に振り返ったとしても、いつも一生懸命生きていた。
それが今の幸せにつながっています。
そして私にもいつか終わる日がきます。あなたにも終わる日が来るのです。生きたら人は必ず死にます。
みんな知っていることなのです。なのに終わる日が来るときには後悔をする人もいます。
いろんな人に囲まれて死ぬことができる。それが幸せだと思う人もいるでしょう。
しかし、病院の隔離された部屋の天井を眺め、後悔をつぶやく人もいるでしょう。
私の今の幸せは、あなたのように幸せについて考えようとする人に、知ってもらいたいのです。本当のあなたにとっての幸せを。
だから私は死送り人になったのです。」
雄一の涙はとまりました。

ある日、1人の年老いた男性の前に、しわしわのスーツを着た男性がおとずれました。
「誰だ?」
老人は聞きました。
男性はこたえました。
「死送り人です。」
男性のしわしわのスーツの胸ポケットには、一輪の押し花が入っていました。

しんでつづくおはなし

しんでつづくおはなし

人は生きたら死にます。生き続けることで死に近づいています。そんな終わりを知っている中で、なぜ生きるのか? そのような疑問を一度考えてみてほしく書かせてもらいました。それぞれの価値観や環境によってのとらえ方は異なると思います。 しかし、死ぬことはみんな一緒です。その共通した部分を一度自分におきかえて考えてほしいです。

  • 小説
  • 掌編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-14

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