《神霊捜査》第五部  赤い目の牛(後編)

《神霊捜査》第五部 赤い目の牛(後編)

《目次》
第四章 30年前の事件
(1)大薮稲荷神社
(2)油羅畜産牧場
第五章 宝探し
(1)再現場検証
(2)由良里様の教え
第六章 神実の型出し
(1)由良里彦様の下リ首
(2)お牛様の神業

第四章 30年前の事件

(1)大薮稲荷神社

五島は、思うところがあって、神霊捜査課の本郷課長に依頼して、被害者の大薮耕司と犯人の滝田治や、大薮の息子の大薮順一等の阿蘇一の宮時代の情報を調査するように依頼した。
2、3日して熊本県警からの調査資料が届いた。
内容を読むと、やはり思った通りの答えが記載されていた。

動物霊懸かりした、大薮耕司は、キツネ特有のピョンピョン跳ねる煽動で、次々とお告げを始め、その的中率の良さに村で評判になった。
両親も驚き、本人の言うように、所有していた畑に祠を建てた。
その稲荷神社の神徳は、絶大で、一年後には、両親の持っていた田圃を売却してまでも、小さかった祠を神社と言える建屋に建て替えた。
信者はみるみるうちに、増えて、熊本県、九州のみならず、全国から信仰御利益を求めて集まって来るようになった。
大薮稲荷神社と称し、近隣の旅館や、商店が大いに繁盛するようになった。
大薮耕司は、神主として、「油揚げ袋」なるものを考案して、社務所で販売をした。それまで油揚げを信者に供えさせていたものを、浄財に代えさせて、自分達の資産を増やしたのであった。
そんな折、信者の一人が自分の孫から殺されるという事件が起こった。
カルデラ内の阿蘇山を挟んで、北側の一の宮町と反対の南側に位置する、高森町に住む大山尚司という信者が、油揚げを供えて、自分の職業の、地鶏繁殖と、豆腐製造が繁盛するように祈願し、それが叶えられたら、もっと、油揚げを持って来て供えますと、約束した。
大薮稲荷は、彼の願いを叶えてやり、大山は一躍大金を所有する長者と成り上がった。
大山は稲荷様との約束通り、大金を大薮稲荷神社に寄進した上に、熊本に販路を広げ、高森は地鶏の養鶏場だけにして、家族に管理を任せて、自分は熊本市内に豆腐製造工場を創り、妾と生活をして、長男に遺産分けして縁切りを言いわたした。
長男は妻と三人の子供と母親をかかえて、養鶏場の経営に精を出した。
しかし、ある時、数羽の鶏が死んだことから、不思議に思った長男は保健所に知らせ、検索の結果、鶏インフルエンザと判明した。
保健所の命令で、50,000羽の鶏の全てを殺処分せざるを得なくなり、長男の養鶏場は窮地に陥り、熊本の父親の所に、泣きついて行ったが、すでに妾との間に新しい子供をもうけていた父親は、援助を拒否してしまった。
実は父親もこの時には豆腐製造工場を何ヶ所も建てて、手を広げ過ぎて、資金難になっていたのであった。
高森の長男の養鶏場は破産し、そのショックで、母親が脳溢血でこの世を去り、長男の妻も心労から、若年性アルツハイマーになり、入院をさせなければならなくなり、そのことを悔いた長男は、三人の子供を残して、妻を殺し自分も阿蘇根子岳に登り、崖の上から投身自殺をしたのであった。
残された子供達は、頼る所を失い、長兄の同級生の大薮順一に相談して、大薮稲荷神社の助けをこうように相談した。
ここで、この兄弟の悲劇が増幅させられた。
順一は前から好意を寄せていた、この兄妹の妹大山雅子を自分の女とすることを望み、牧場を救済するが、その代償として順一の女になるか否かと二者択一を迫ったのでした。
16才だった雅子は、高校の先輩と交際中であったが、大薮稲荷神社のお告げと言われ、神社に参りに行き、神社の別室に連れ込まれ、順一に暴行されて、その時撮られた写真で脅され、嫌々いうことを聞くことになったのでした。
しかし、約束は守られず、大薮稲荷神社に文句を言いに行くと、熊本のお祖父さんに渡しておいたと、知らされ、熊本のお祖父さんに会いに行くと、孫に会おうともせず、居留守を使う始末だった。
大薮稲荷に狂い、大薮稲荷に傾倒し、両親を死に至らせ、妹を酷い目に合わせた原因は全て、お祖父さんにあるという、恨みを大薮稲荷の霊術で思い込まされた長兄は、隙をついて裏木戸から侵入して、台所にあった出刃包丁で自分の本当のお祖父さんの首を後から切りつけて殺害するという大事件を起こしてしまったのでした。
この事件は当時大問題となり、マスコミが連日大薮稲荷神社に押し掛けて、大薮親子は逃げるように上京したのであった。
順一はそれでも雅子を離さず一緒に東京に連れて行っていたのでした。

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(2)油羅畜産牧場

「はい、こちらは、警視総監室です。どちら様でしょうか? 」

「福岡の五島朱鳥といいます。総監はおいでですかな?」

「ああ! おられます。少々お待ち下さい。今お代わり致します。」

「代わりました。只野です。五島先輩、いつも御迷惑をお掛けしております。
何か、問題でもおきましたか?」

「いやあ、実はこの間の油羅牧場の詐欺事件と、殺人事件のことだが、まだ、終わっていないので、も少し、捜査を続けたいと思ってね! それで、そちらの油羅牧場の事件の捜査記録を全部に目を通したいと思ってね。こちらに君の所に上がっている全ての捜査記録のコピーを送ってほしいと、思ってね。それで電話した訳なんだが。」

「解りました。すぐ秘書に送らさせます。」

2日後、警視総監から書類が届いた。
五島は早速目を通した。

東京の世田谷区代田のアパートに大薮親子と大山雅子の三人は身を寄せて隠れて住んでいたのだが、ある日、代田駅の広告用の整理棚にあったパンフレットを見つけた。
そこに油羅畜産牧場の会員募集広告を見つけ、これで、募集詐欺を思い付き、会員が集まらず、傾きかけていたこの牧場の株式を買い漁り、社長になり、自分の思う通りの黒毛和牛一頭持ち主会員制度で、たちまち大金を集めたのでした。
それには稲荷の力があったことを大薮親子は、忘れていました。
この時、お抱え運転手として、 募集した中に、滝田治がいて、熊本県阿蘇地区の出身と知り、滝田治を雇い、何時も運転させていたのでした。
この犯人の滝田治という名前は、母親の姓で、本名は、大山治ということを、大薮親子には隠していて、雅子の弟だったということが、尋問で、判明したのでした。
それで、雅子も、弟と共犯として後日逮捕されて、後一人の謎の人物が大山雅子だったということも判明した。
それに後一人、犯人逃亡幇助罪で、雅子の高校生時代に付き合っていた男が捕まり、阿蘇の米塚から人吉の阿蘇青井神社まで移動した時に使用した軽トラックを貸したことも判明した。
この軽トラックは人吉の城跡の駐車場で発見されて、検証結果、荷台から、大薮親子の血痕が見つかり、この車を使用したことも判明した。
大薮親子は始めから黒毛和牛オーナー制度で、詐欺行為をする計画で、集めた資金は、和牛の購入には当てず、金塊や、宝石類を購入して、他はスイスの銀行口座に振り込んでいたと、大山雅子や、滝田治(本名、大山治)等の証言で判明した。
事件当日、会社更正法を申請した日、大薮親子は雅子を連れて、専属運転手の滝田治の運転するワンボックスカーで、金塊や、宝石類を隠匿していた長野県田城原高原の油羅牧場に行き、隠匿していた金塊や、宝石類をダンボールに積めて運び出し、海外に逃亡する計画をしていたことを
知ったという。
大薮社長が息子の副社長に一頭の黒毛和牛を牧場の放牧地で、牛刀で殺して牛の首を切るよう命令して、実行させた。
理由は、怪奇事件を起こして、財宝から、債権者の目を反らすことが目的であった。
この行為を目撃していた、姉弟は、いずれ自分達の口を塞がれることになりかねないことを恐れ、親達の恨みもあり、この際に反旗を翻して、大薮親子を殺害することを相談して、隙をみて、牧場で、牛刀で二人を殺害し、二人の首を切り、捜査の撹乱を狙って、わざと、副社長の遺体だけ、ニ人の首と共に阿蘇に運び、昔自分達の牧場だった米塚の裾野に遺棄し、首は、人吉の阿蘇青井神社に運び、発見されやすいように拝殿の前に供えた。
何故、人吉の阿蘇青井神社なのかについては、頑なに白状していないとのことだった。
後一つ、金塊や、宝石類の行方についても、ニ人とも証言を避けていて、行方知れずのままとなっていたのでのであった。

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第五章 宝探し

(1)再現場検証

五島は、雫ちゃん、真ちゃん、上川史子ちゃんを誘って、再度現場検証をすることにして、真ちゃんの運転する覆面パトカーで、阿蘇に向かった。
まず、最初に行ったのが、米塚の南側山麓の牛の首と、副社長の首なし遺体が遺棄されていた場所だった。

「史子ちゃん、現場検証の書類をよく見て、頭の中で再現して、おかしな点が無いか、気をつけて、君が検証しているつもりで、やってくれよ!一番の問題は、彼等が何処に財宝を隠したか捜すことだから、見落とさないでおくれ、史子ちゃんの科捜研時代の腕を見せてくれ。」

「あら、先生、そんなにプレシヤーをかけないで下さい。」

「雫ちゃんは、神様からの通信に注意していておくれ。」

「真ちゃんはこの検証の様子をつぶさに記録しておくこと。警視総監に書類は送るのだからね!」

「もう。先生、その言葉がプレシヤーですよ!」

「分かったよ。とにかく皆、気をぬかないこと!」

史子は持参してきた検証資料を片手に歩き回り、検証の再現をした。
雫は北側を向いて、目を閉じ、神会わせに集中していた。
真は雫の横で、デジタル録音機を片手に耳をすませた。

約、一時間ぐらい経っても何も新しい発見は無かった。
次の現場、人吉市阿蘇青井神社に向かって九州縦断道を走っている時に、雫が通信を受けた。

「今『米塚は雅子の夢と恋を壊された場所』と聴こえました。」

「そうか、それで、あそこに置いて、恨みの念を消したのか?ということは、今回の事件の主犯格は滝田治、いや、大山治ではなく、姉の雅子かも知れないな!」

「あの姉弟はとても仲が良かったようです。」

人吉の阿蘇青井神社に到着。
同じようにここでも、再度検証を行った。
でも、ここでも、何も新しい発見は無かった。
ただ、一つ、拝殿に向かって、神合わせしていた雫に通信があった。

『末代に聴けば解る。由良里。』

五島はこの通信を聞いて、確信した。

「よし、解った。皆、阿蘇に戻るぞ!」

「阿蘇の何処に行くのですか?」

と、真ちゃんがハンドルを握って五島に訊いた。

「一の宮の国造神社(こくぞうじんじゃ)。」

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(2) 由良里様の教え

阿蘇山の北側の外輪山の麓に大杉にガードされたようにひっそりと存在する、国造神社の境内は、ひやりとする外気が皆を包んだ。
ここでも、五島は皆に指事して、 今度は、財宝が隠されていないかを重点的に調査して回った。
史子ちゃんが、拝殿の裏側の床下の土を掘り返した跡、穴が掘られたような跡を発見した。
早速、熊本県警に連絡して、大掛かりな捜索が行われた。
国造神社の拝殿の床下から大きなポリプロピレン制のキャリーストッカー三個にぎっしりと、宝石類や、金塊が詰められた衣装ケースが発見された。
検証から、大薮親子や、大山姉弟の指紋が見つかった。
姉弟が埋めて隠したものと思われ、逮捕されていた姉弟の尋問で、証拠の指紋等を示され、もう言い逃れが出来ないと、この二人が、隠したことを認めた。

長野の田城原高原の油羅畜産牧場で、隠匿してあった財宝類を、大薮親子の命令で、この衣装ケースに移し入れたことが、滝田治の魄を刺激することになった。
姉の雅子に相談し、姉も恨みを持っていたことから、共謀して、この際、二人を殺害し、狂気事件と見せかけることにした。。
牛の首切りを真似て、大薮親子の首を切断して、この事件を作り上げ、田城原高原から阿蘇に入り、昔から知っている、祭り以外人気の少ない国造神社を選んで、財宝類を隠し、後日の為に二人で口裏を合わせて黙秘を決め込んでいたことが判ってきた。
お弟の刑期は長くなるであろうと想像出来たので、時期を見て、詐欺被害者の資産取り戻しの一部の補助として、この財宝を出して、弟の刑期軽減を願うつもりであったと、姉の雅子は白状した。
「五島先生、どうして判ったのですか?」

と、真ちゃんが訊ねた。

「なに、人吉の阿蘇青井神社の由良里彦之大神様の御教示から判ったんだ。」

「ああ、あの『末代に聴けば解る。由良里。』という通信ですか?」

「そう、国造神社は、末代日乃王天之大神様の御陣場なんだ。」

「ああ、それで、ここの調査をしたのですね!」

「先生、今回の事件の全容に関係している、先生方のされた全ての神業を話して聞かせて下さい。お願いをします。」

と、雫が五島の顔をまともに見て、訊ねた。

「うん、解った、また時間を見つけてね。その内に話して上げよう。」

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第六章 神実の型出し

(1) 由良里彦様の下リ首

今夜は珍しく、五島から、神霊捜査課の連中に声をかけて、玉の井で、勉強会と称する飲み会を催した。
今夜のメインは鶏肉料理であった。
この店の板長の実家の宮崎から、自慢の地鶏を取り寄せて、砂ずり、ササミ等の刺身に、タタキ、鶏すき等に料理していたのであった。
つきだしの鶏皮の酢の物一つを摘まんだだけで、その後から出てくる料理の美味しさが判るようであった。
やはり、鶏肉には、薩摩芋焼酎の水割りが良く合うと五島は思った。

「今夜は先生、例の阿蘇の事件の神業のお話をしてくれるのでしょうね?」

「まあ、そんなに急ぐなよ。まずは、この地鶏の美味しい命を頂いてからにしよう。」

「先輩が見つけて下さった財宝を現金化したら、100億位にしかならなかったと聞いております。いざ現金化するとなると、宝石類は値を叩かれれますから、元を取ることは出来ませんね。今、スイスの銀行口座を調べているようですから、それがとりもどせれば、債権者も大分助かるでしょうけど、時間がかかりそうです。」

「先生、どうしてあの国造神社に宝石類を隠したということが解ったのですか?」

「真ちゃん、君は何を記録しているんだい?、始めに国造り神社に行った時に、末代さんが、なんて言ってたかい?」

「そう、確か、眩しいとか何とか聴こえました。」

と、雫ちゃんが思い出した。

「あっ!そうでした。でも、どうしてあそこが末代様の陣場と判ったのですか?」

「ああ、前に神業で、あそこで、末代様からご指導を受けたことがあったから、末代様の陣場と知っていたんだ。」

「そうでしたか。では人吉の阿蘇青井神社のこともその時の神業ですか?」

五島は、箸を置いて、芋焼酎の水割りをゴクリと飲み干して、静かに語り出した。

地球管理神の主宰神である地乃世界之親神様の次男神、日本国の大国魂である末代日乃王天之大神(まつだいひのおうあめのおおかみ)様が、根元様から任された末代プログラムに添って、五島達神人を神業上で、ご指導されていた流の中で、我々に阿蘇、人吉の神業をご指示された。
神人の各自の事情で、その時の神業参加者は、極端に少なく、五島と、取り継ぎ役の娘とその妹の三人だけでの神業となった。
阿蘇の南側の高森にあるらくだ山で、地乃世界之大神様の長男神、日乃出生魂之大神(ひのでいくたまのおおかみ)様の正式祭事を阿蘇山の中岳に向かって終えて、その日の宿の産山に行く為に、車を走らせていた時、取り継ぎ役が、国造神社の存在を発見して、急遽、立ち寄ると、何と、末代様の御陣場であることが判明した。
翌日、人吉に入ると、真っ直ぐに阿蘇青井神社を取り継ぎ役が指定して、神社に近づくに従い、取り継ぎ役が被害を受けだし、苦しむようになり、妹が必死で浄めや、手当てで保護しながら、豪雨の中、車で阿蘇青井神社の門前に着ける。

平成9年9月25日午後1時40分のことであった。
私は、取り継ぎ役の苦しみを横目で見ながら、自分が先達になり、強引に車中で祭りを施光した。
取り継ぎ役の左手にサインが出た。
自動書記の合図である。
急いで、手帳を広げ、ボールペンを持たせた。

『今はすべが無い。』


五島が質問 「祭りはどうしましょうか? やめますか?」

『一度目の祭が残ったということに代わりはない。国東半島の神業を待って、国東八神団の力添えなくば、このことはいかんともし難い。その足で再度来るのが望ましい。末代。』
午後1時51分了。

取り継ぎ役の目には、青井神社の拝殿の正面に向かって右側のモチの木にあろうことか、由良里彦之大神様の血の滴った生首が、ぶら下げてあるのが霊視されたのであった。
それを聞いた私達三人は、車を降りて、根元浄めを、そのモチの木に向かって100回施光した。
その後、我々は逃げるように、人吉を後にした。
由良里彦之大神様とは、実は末代様の守護之宮における御守護之大神様となられた時に使われる別名である。

この神業の事実 を知った我々は、その後、国東半島の神業を無事了として、国東神団、特命八神を顕祭した、その神々は 地球神界の神籍は持たず、九州の地を巡りながら、神々の諍いを鎮めて廻る、強者(つわもの)ばかりの天体龍体神により構成された特命神団であった。

神界の準備が出来たのであろう。
私五島に気付けが来た。

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(2) お牛様の神業

私に来た気付けは、本人には気付かないものであった。
ある日、他の神業で取り継ぎ役と会った時、

「あら!五島さんどうしたの?その目は?」

「えっ?目?どうもしてないけれど? 何かおかしいかい?」

「だって、左目が飛び出て垂れ下がっていますよ。」

と、彼女は霊視したのであった。

「何だろう?何の知らせだろう?」

「あっ、五島家のお牛様が呼んでおられる。」

と、いうので、我が家に、神人達が集まって来た。
我が家で、取り次継ぎ役が、亡くなった母の形見の青銅製の牛像に挨拶をしたところ、サンゴと名乗る高位神がこの牛像に懸かられていることが判明した。
神感の無い私はそのことに気付かない為に、取り継ぎ役に判るようにサインを出しておられたのであった。

皆が一息入れる間もなく、サンゴ様から通信が入った。

『行くわよ!』

我々は、慌てて、段ボール箱に半紙を敷いて、重さ6~7kgあるお牛像を入れて、当時の私の神業車「八百八光号」という8人乗りのワンボックスカーの後部座席の中央に納めて、出発した。
行先は熊本阿蘇でも、人吉でも無く、大分県宇佐市の宇佐神宮であった。
宇佐神宮二ノ宮(姫之大神を祀る本殿)前の広場の直下、100段の階段下の門前に接する農道に車を止めて、門前から眼上真正面に二ノ宮を見上げる形で、火、水、松ぼっくりを供え、末代様指導のままに先達取り継ぎ殿で祭事を挙行すると、

『さらって欲しくて来たのか。帰るなら今だ。
このカラクリは、お前たちには一生分からない。
そばに近づけば近づく程、我らの姿は観えなくなる。
我々は、そんな子供(取り継ぎ役のこと)を欲しがったりはしない。
生宮なんぞに用はない。龍体神だ。
我々は、龍体神界を、そのまま頂戴しようと考えている。
だから、そなたたちが、如何にマツリとやらをやろうとしようと、
何の効果もない、ということだ。』

と、全くけんもほろろ、拒絶され、突っぱねられてしまった。
(とんでもない意思存在だわい・・・・)と、呆気にとられていると、転瞬、取りt継ぎ役殿が、「あっ!サンゴが来た!」と叫んだ。
五島家お牛さんの体を借りたサンゴ姫様が、取り継ぎ役の眼前に、光来されたのだ。
(行くわよ!)
間髪を入れず、サンゴ姫様は急坂の石段を駆け上がった。
はっ!と気付いた取り継ぎ役殿が靴をはくのももどかしく、内股、カカトを外側にはね上げて、ぎこちなくサンゴ姫の後を追いかけた。
駆け上がりぎわ、「八百八光連れて来て!」と、叫んだ。
「若い者達、続け。取り継ぎ役を助けよ!」
と、年配の神人が叫ぶと同時に、若い者二人が取り継ぎ役殿を追った。
二人は30段も駆け上がると、取り継ぎ役においついた。
その 取り次継ぎ役は、準備運動なしの突然の急激な運動量から、足がもつれてへたり込みそうになっている。
両脇を若い者二人が抱え上げた。
殆ど宙吊り状態の彼女を抱えて、二人は46段登った先の"おどり場"へたどりついた。
一息入れる間もなく、より安定した両脇の抱え込みの態勢を整え、残る54段を、彼女を宙吊りにした二人は、必死懸命に駆け上がった。
彼女の両足は、ばたばたと、それでも石段をとらえようと、その努力を怠らず、健気に運動する。
両サイドから、急坂の石段に覆い被さる社叢のみどりたちが、三人の後(うしろ)から押し上げる神在で加勢した。
80段も登ると、三人の速度はみるみる遅くなった。
「うゃあ~!」自分を励まし、最後の気力をふり絞る若者二人の奇声と伴に、三人はついに100段を登り切り、見上げる私達の視界から消えた。
石段を登り切った取り継ぎ役殿は、平坦な広場を真っ直ぐに二ノ宮正面に進むと、二人に指示した。「大十字浄め1回!お願い!」
三人によるこの大十字浄めの神光に のった八百八光之大神は、慌てふためく"彼ら"が閉める寸前の"彼ら"の構築した"門"の締め切らない隙間から、いずこともなく現れて、行動を伴にしていた国東特命八神伴々に、"彼ら"が構築した「虚の世界」へ飛び込んだ。
その瞬間、サンゴ姫様が帯同する、そのものである底津岩根之大姫神様の「根元神力」(根元イブキ、ヒカリ、チカラ)の作動により、"彼ら"の構築した宇佐神宮虚の世界は、忽ちの内に雲散霧消、瓦解崩壊し、仍ち根元原質へと遷った。
サンゴ姫様の「強権発動」のタテカエの様(さま)を、私達は目の当たりに現認することとなったのであった。
この後、我々は人吉の阿蘇青井神社に参入して、無事に由良里彦之大神様の首を取り戻すことができたのでした。
由良里様の首を取ったのは、この虚の龍体育神界の意思存在だってのです。
その後の山梨神業の時点で、由良里様の体を、長野県田城原高原の山中で捜しだして、
体と首の修復がなされたのはいう迄もありませんでした。

「今回の事件は、将にこの神実を現界に、もろに型だしされたことではあったのだろう。
その型だしに魄の慾心を付け加えて、強力な悪のお役迄も再現したのだろうな。
でも、実はまだまだ、赤目牛という最強力な意思存在がタテカエされなくて、残ったままなので、このタテカエ神業をしなくては、何度でも、災難は型だしされることになるだろうよ。」

と、五島は皆に話した後に、付け加えた。

(完)

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《神霊捜査》第五部 赤い目の牛(後編)

《おことわり》

この物語の登場人物、商店、会社名等は全て架空ですので、その事をお断りしておきます。

《神霊捜査》第五部 赤い目の牛(後編)

  • 小説
  • 短編
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-13

Copyrighted
著作権法内での利用のみを許可します。

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  1. 第四章 30年前の事件
  2. 第五章 宝探し
  3. 第六章 神実の型出し