WE CAN GO!(目玉おじさんの冒険記)(7)

阿門 遊

七 南へそして極地へ

 右目は街中を巡り、仕事を探した。右目には手足がないため、重い荷物などは運べない。だが、遥か彼方まで見渡せる視力はある。
 この眼を生かせば何とかなるだろう。街の中で、求人募集の張り紙を見つけた。コンビニだ。空いた棚に商品を入れる、在庫管理はできないけれど、レジならできるはずだ。
 ええい。何とかなる。右目は店に飛び込んだ。最初、店主は、目に何ができるんだ、仕事がちゃんとできるのか、それにどこのどいつかもわからん、と、右目を雇うことを渋ったが、レジにお客さんの行列ができ、あまりにも忙しかったので、とりあえず雇ってみるか。ダメだったらクビにしようと、軽い気持ちで承諾した。
「ありがとうございます」
 右目は自分の視力をいかして、お客さんがレジに並ぶ前に、準備態勢に入る。お客さんの態度から、まだ商品を探したいのか、もうお金を支払いたいのかがわかったからだ。最初は、心配していた店主も、右目のお客さんのあしらいに感心した。
 数ヶ月、コンビニで働いた右目は、今度は、別の仕事がしたくなった。コンビニでの仕事以外にも、飲食業やファッション関係の店舗、清掃や配達など多彩な仕事があり、様々な人が働いていた。右目は、この街を、もっと知りたかった。右目は店長に別れを告げた。
「残念だな。もし、他に仕事が見つからなければ、いつでも帰って来いよ」
自分よりも身長や体重が何千倍、何万倍もある店主から励まされた。
「これまで、大変お世話になりました」
 頭を下げると、右目はコンビニを後にした。次の仕事は、住宅地図の確認だった。地図を体にぶら下げて、見上げても頂上が見えないようなオフィスビルから始まり、ゴキブリでも通らないような狭い路地まで、一日中、転がり回った。何日も、何日も続けた。おかげで、この街の全てを知ることができた。同じ一日にも関わらず、朝、昼、夜と時間とともに目まぐるしく変わりゆくこの街をもっと知りたい気になった。だが、反面、潮どきだとも感じた。
「これまで、ありがとうございました」
 住宅地図の社長に礼を言うと、右目はこの街を出た。

 左目は極地にいた。あのジャングルとは全く異なる気温・気候だった。あまりの冷たさに目の中の瞳までが凍ってしまいそうだった。でも、体の外が冷たければ冷たいほど、自分の体が温かく感じ、生きていることを強く意識した。
 極地の基地隊員の助けを借りて、犬ぞりや雪上車に乗せてもらい、雪上を探検した。ペンギンと一緒にダンスをしたり、ペンギンの羽毛に隠れ、極地の海で海中水泳にも興じた。
一番の喜びは、探険隊員の協力の下、極地点に立つことができたことだった。
極地点と言っても、何もないただ広い氷原に、いくつかの国の旗が「わたしはここにいる」「わたしの存在はここよ」と言いたいように、屹立していた。
 口を開くと、その隙間から寒気が流入し、胃や腸など、体の中の内臓が凍りつきそうだった。それでも、左目はバンザイの声を何度も上げた。自分も、旗と同じように、「ここにいること」を示したかったのだ。

 少年は高校生になっていた。目が不自由なまま、島から船に乗り、街に着くとバスで学校に通学した。島でいた頃よりは、多くの知識を得て、多くの友人を得た。両目から入ってくる情報を友人たちに披露した。みんな、よく知っているなあと、よく勉強しているなあ、と感心してくれた。
 少年が特別に勉強している訳ではなかった。右目が見たこと、左目がみた事実をそのまましゃべっているだけだった。少年は、自分の両眼が世界を一周していることは、決して言わなかった。言っても、どうせ、誰も信じないことはわかっていたからだ。

 

WE CAN GO!(目玉おじさんの冒険記)(7)

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七 南へそして極地へ

  • 小説
  • 掌編
  • ファンタジー
  • コメディ
  • 全年齢対象
更新日
登録日
2015-06-13

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