空 ノ 彼方
短編集です。深い感じの物語です。どんな解釈をしていただいてもかまいません。
・世界 ノ キャンバス
世界 ノ キャンバス
目が覚めた時、そこはいつもと違った。
自分でも知らないところ。
いや、考えてみると自分の知っているところなんて何もない。
僕は何も知らないのだ。
好きな場所は?大切なものは?大切な人は?好きなことは?
僕にはまだ何もない。
ここは、僕の第一歩。あたり一面真っ白な世界だった。
ここにはまだ何もない。歩いてみる。すると壁らしき所にぶつかった。
「痛……」
あたり一面が白くてどこに壁があるのかなんて分からなかったのだ。
ふとその壁らしきものを見ると、先ほどぶつかった高さの所に少し赤いシミのようなものができているのがわかった。
「っ…!血っ…!?」
しかし、僕には傷はなかった。僕の血ではない…
本当に血なのかすら怪しい。
不思議に思って僕はその壁のシミに触れてみた。
すると次の瞬間_____
その触れた箇所から様々な「色」が壁というキャンバスに広がる。
僕は壁の色んな所に触れてみる。
すると僕の触れた所から「色」が広がるのだ。
このキャンバスは僕にしか作れない。
「僕の好きな場所は…屋上…」
そのキャンバスを「色」で染めながら、僕は無意識に呟いていた。
「大切なものは…昔、母さんからもらった一冊の本…」
母さんって誰だっけ…
「大切な人は…巴さん…あと、優斗と奏斗。」
巴さん…?優斗と奏斗って……?
「好きなことは、椅子に座って、庭の木にとまる鳥たちを眺めること…
パンを撒くと近づいてきていたな…懐かしい…」
…懐かしい?
もう、覚えていないのに、僕は。
その時、僕は気付いた。
僕が作ったこの一面のキャンバスはもう、色あせ始め、そして、白に還っていっていることを。
早いものだ…でも、また白くなったならもう一度…
こんにちわ、新しい僕。…いや、私、かもしれないな。
今日から新しい「色」を作っていこう。
また白に還るまで。
---fin---
空 ノ 彼方
ご愛読ありがとうございます。
これからもこの短編作品は続けて書きますので、よろしくお願い致します。
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