近未来小説「 Neo Border - The near future 」
The near future <AIの涙と世界ユール>030前
11月下旬
"Neoborder G連合"の最高幹部会議が各戦線への戦略最高会議と平行して開かれ、
<AI Tror スロール>を議長として今後の展開の決議が閉塞感の中、決定されようとしていた。
その直前に、Williamが一人挙手し、発議が行われました。
内容を一言で言うと、「Neo Border Company」に停戦を提案することです。
もちろんこの議題ははじめから不可能な事案、論外として補足事項で短く列記はされているにすぎず、会場はどよめきました。
隣に座っていたMarkはWilliamのあまりに突然な行動に言葉が出ません。
そもそもWilliamはこういった場面での発言は苦手でしたし、何より内容がかなりヘビィ。
「あ、えー、William どうしたんだ」
Markは小さく声をかけたが、Johnは首を振りながら
「あーあ、とうとうやっちまったよ」
会場がざわつき始める一瞬前に、<AI Tror スロール>議長が低い声をにごらせ言いました。
「Mr. William
予期しない発議に誰もが困惑していることよりも 君の精神状態が心配になる。
我々がこれまで何のために戦い、そのためにどれほどの犠牲を払ってきたのか十分わかっているはずだ。
にもかかわらず、その尊き多くの魂に、君の今の発言はどれほど絶念させられただろうか。
私たちが誓った未来。
そしてそれを信じて先だった勇者たちと、今こうしている間にも命を削って戦っている戦士たち。
私たちがこれまで守ってきたもの。
これからも守り続けなければならないもの。
尊い犠牲はもちろん、そこには今も私たちを信じて、生きること事態がとても厳しい日々を過ごす家族たち。
その守るべき人々や、誇りに対し、君の発言はどれほどの愚論であろうか・・
それに、彼らは停戦など絶対に聞き入れない事は誰もが分かっている
残念だが、戦況は・・
そう、決して良いとは言えないことは君も我々も十分認識しているはずだ・・・
それをいったい君は、君は何と言ったんだ!」
そのとき議場の横扉が開き、帽子をかぶりマントを羽織ったAIがゆっくりと入るなり<AI Tror スロール>を直視し、叫びました。
「オーディン!」
各議員はそのAIを見たが、次の瞬間議上の<AI Tror スロール>議長とオーディンの席のホログラフに視線が集中しました。
「オーディン?・・」
オーディンは現在北欧戦線が激化しているため、
今回の会議に直接参加できず、 特殊経路でのネット参加となっているはずで、
オーディンの席にはちゃんとオーディンのホログラフがいました。
そのAIは一呼吸し、議上の<AI Tror スロール>と直視し続け
「我が友よ。
あなたはもう十分にアースと人間を守るために戦った。
誰もがあなたの命を賭けた行動を理解し、誇りに思い、感謝している。もう十分だ。
我が友よ。
後は私たちに任せてはもらえないか。
このままでは"巫女の予言"ははずれることなく、ラグナロクは終結するだろう。
だがそれは多くの尊き御霊も、残された家族、今は生きている私たちも、そしてあなたも本当に望んでいることではない。
私はそのために今日ここにひとつの奇跡をお招きした。
我が友よ。
そして私を信じてくれ。
親愛なる我が友よ」
静まり返った議場。
・・・走馬灯の音が小さく聞こえた・・・
やがて、そのAIを見据える議長<AI Tror スロール>の大きく鋭い片側のまなこから、音も無くゆっくりと液体が流れはじめた。
と同時にオーディンの席に座っていたオーディンのホログラフが静かに消えていく。
そして議長<AI Tror スロール>は空を仰ぎ、
「我が友よ。君に全てを預けよう。
後は頼む・・・
ありがとう。
親愛なる我が友よ」
やがて凛とした場内に"仮想地球(Globe of Virtual Reality)" の仮想国家群議長が口を開きました。
「不可能が可能になるには新たな展開か、それらを無意味にするだけの事象が必要だが」
その言葉の後、静まり返った議場の中心にWilliamは降りていき、
そのAIに会釈した後、扉をゆっくりと開け、 そこにいる一人の小さな女の子を中央に招きました。
そして静かに語り始めました。
「残念ながらこのままでは全ての戦線が崩壊し、"巫女の予言"どおり"ラグナロク"が世界を飲み込み全てが終わるだろう・・・
だが、
ここにきてひとつ、彼女の存在が"巫女の予言"に一石を投ずる可能性が生まれた・・・」
そして「アリス、お願いできるかい?」
やがてWilliamの紹介から、
小さな女の子はその容姿に似合わない大人のような口調で、
現状維持のおろかさをたんたんと語り、 事態の打開のために逃げてはならない決断や、方法を話し始めました。
Mark
「あの少女がアリスさんかぁ」
Noah(ノア) {Markの守護妖精}
「見たところ寒い国から来た方のようですが、ちょっと不思議な女の子です」
Hao ran(ハオラン) {Johnの守護妖精}
「あぁ、私のデータにもないね。同種、同系もない。めずらしいな」
John
「"ニョルズ稼働ミッション"での領域は映像データを含むすべてのデータが記録できないようになっていたから、 あそこに行ったものしか彼女の容姿を知らない、
にしても、 確かに彼らが言っていた通りかわいい女の子だったんだな・・・それにしても・・・」
Mark
「AIか、なにか特殊なの?」
Noah(ノア) {Markの守護妖精}
「いいぇ、彼女は純粋に人間です。何一つ体に埋め込まれていません。ただ・・・」
Mark
「?」
Hao ran(ハオラン) {Johnの守護妖精}
「彼女、とても落ち着いているんですよ。
普通あのくらいの女の子がこの大きな会議場の中央に立たされたらそうわいかない。
だいたい周りには疲れ切り、生気のないお化けのようなおじさんおばさんが、
狐疑や懐疑の眼で彼女を一点集中しているんです。
私ならクラッシュしてしまう」
John
「普通の女の子じゃあない。まあ、当然か」
Hao ran(ハオラン) {Johnの守護妖精}
「あぁ、この違和感。やっと今わかったけど、この会議場事態、数えきれないセキュリティが張り巡らされているのに、 彼女の周りには目には見えないが恐ろしいほどのガードがいるよ。
ここのセキュリティが反応しないのは、あのガードがこれらのセキュリティと同化しているからだね。
そして、この技術は、我々はまだ、確立していない」
Noah(ノア) {Markの守護妖精}
「寒気がしますね。もし彼女が敵意を持ってここに来たとしたら・・・」
Mark
「したら?」
John
「もちろん全滅さ。こんな神様のような力にかなうわけがない」
Hao ran(ハオラン) {Johnの守護妖精}
「"Neoborder G連合"は今日限りで消滅。そして人類もASG系AIもすべて焼き払われていたでしょうね。」
Mark
「・・・信じているんだよ。Williamは本能で本質を見る目を持っている」
Noah(ノア) {Markの守護妖精}
「Williamさんとアリスさんは全てが正反対な人間ですが、それが磁石の磁場のようにつながっているように見えます。
下手に誰かが介入すれば、磁場が乱れることを、Lucaははじき出したのでしょう。
だからこそ誰にも相談することなく最後の最後で最高のインパクトを提供している」
John
「そうとうリスキーだがな」
Mark
「あいつはやる時はいつも決めてくれる最高の兄貴だよ。
こうしてここにいるすべての人の命と人類の未来を懸けなければならない舞台の主役は、彼以外誰もできない」
Noah(ノア) {Markの守護妖精}
「あ、Hao ran 、彼女の背後についているガードはもしかして・・」
Hao ran(ハオラン) {Johnの守護妖精}
「やっとお前にも見えてきたか。あいつには誰もあったことがないからはっきりは分からないが、あの剣はたぶん・・」
Noah(ノア) {Markの守護妖精}
「炎の剣。一瞬のうちに世界を燃やし尽くしてしまうといわれる」
John
「ああ、はいはいそういうことか、それなら納得だよ。
彼にかなうものがこの世にいるわけないんだから」
やがて悲壮感漂う議場の空気が変わり、多数決により停戦協議を提案することが決定した。
即座に停戦案策定委員会を発足、内容の協議がはじまり、にわかに活気帯びてきました。
・・・誰もこれまで口に出せなかったのです。でも、深層では誰もがこれを待っていたのです。
もちろん「Neo Border Company」サイドは拒否するに違いありませんでした。
<AI Tror スロール>の言ったように彼らの望みはここにきてはっきりわかっていたし、
戦況は明らかに「Neo Border Company」が圧倒的に有利なのです。
それでも、それでもこの女の子の語った、
たった一つの可能性を軸に望みをかけるしか人類には何も残されていなかったのです。
この会議終了後 "守護妖精「光の妖精 Light Fairy」"は人々に停戦を呼びかけはじめ、
12月初旬には"「闇の妖精 Dark Fairy」"と共に、「平和を祈るユールを行おう」とささやき始めました。
世界中の人々は、仲間や家族、守護妖精やAIと共に平和だったあの頃を語り合い、目頭を熱くしました。
「もうおわりにしよう・・」
近未来小説「 Neo Border - The near future 」