《神霊捜査》第五部 赤い目の牛 (前編)
《目次》
第一章 詐欺事件
(1) 捜査協力依頼
(2) 事件現場検証
第二章 稲荷の祟り
(1) 油揚を供えよ
(2) 狐と稲荷
第三章 解決したのか
(1) 出頭
(2) 自首
第一章 詐欺事件
(1)捜査協力依頼
今日は朝からマスコミが五月蝿く 、新聞もテレビも詐欺事件と殺人事件で、報道合戦をやっていた。
五島の携帯電話に着信があった。
「はい、五島です。」
「先輩ですか?只野です。」
「ああ、警視総監。・・・久し振りだね。元気そうで何よりだ!」ー
「先輩のお陰で、神霊捜査課も上手く行っているようでありがとうございます。」
「いやいや、彼等が頑張っているからね、私も遣り甲斐があるよ。でもまたこんな仕事を再開させるとは思って無かったよ。ハハハハ。今日はどうしたんだい? 何か問題でも起こったかね?」
「実は、今朝のニュースを見られたと思いますが、油羅畜産詐欺事件のことに関係して別の難解な事件に発展しそうなんです、内容は神霊捜査課長から説明させますので、又、宜しく彼等を指導して頂きますよう、お願いしたいと思い、久し振りに先輩の声も聞きたくてお電話しました。」
「うん、私も君の声が聞けて、昔の東京の警視庁のことを思い出して、この老体に力が沸いて来るような気がしてきたよ。」
午後になって、神霊捜査課の本郷課長から連絡が入り、捜査会議を開きたいから、お越し頂けないかと言って来た。
車の迎えをよこすからというのを、歩く方が身体に良いからと断り、歩いて、博多南西署に向かった。
今日の会議は博多南西署の会議室で、おこなわれ、大勢の署員が参加していた。
伊藤署長が挨拶をして会議が始まった。
「今から、油羅畜産牧場詐欺事件に関する県警全体会議を始めます。今日は県警本部から、本部長の堤警視正殿がおみえです。今回の事件の関連全般の捜査指揮を執られることになっております。それでは堤警視正殿から挨拶をして頂きます。」
「エヘン!堤です。今回の捜査は只野警視総監から直々のご下命で、県警全体だけでは無くて、日本全国の警察庁挙げての大捜査となっております。福岡県警の実力を、全国に知らしめることに最適の機会だと考えています。諸君もそのことを心掛けて捜査に全力を集中することを希望します。」
五島は、本郷の雛壇に席を用意しておりますから、前に座って下さい、というのを、断って、一番後ろの席に、雫と並んで座っていた。
「今回の事件の概要を、再度、戸張捜査一課長から説明して下さい。」
戸張の説明は概略次のようなことであった。
東京の牧畜大手生産会社油羅牧場が、黒毛和牛一頭持ち主制度で、資本参加者を募った。
当初は順調な参加者が集まり、53,000人の投資家から3,000億円の金を集めた。
社長や、会社幹部が各地で、説明会と、パーティーを催して、投資家を集めたのであった。
しかし、何の前触れも無く、突如、会社更正再生法の適用申請をしたのです。
それと同時に、本社を始め、全ての支社を閉鎖して誰もいなくなったのです。
債権者である投資家達はパニックとなった。
どこに押し掛ければ良いのかさえ分からず、右往左往するだけとなった。
マスコミは、社長や、会社幹部を追った。
詐欺事件として告訴状が出され、警察庁も動き出した。
そんな矢先、長野県田城原高原の油羅牧場の牛が牛刀で首を切られているのが、発見されたが、胴体はあるが、首が無いという事件が起こった。
村役場所員や、、巡査が捜索していたら、田城原高原の山林で、人間の遺体が発見された。
不思議なことに、この遺体にも首がなかった。
遺体の身元を隠す為の工作とは思えなかった。
指紋検証とDNA検査で、遺体は油羅畜産牧場の大藪社長と判明した。
これと同じ頃、九州阿蘇山のカルデラ内の赤牛牧場の中で、牛の首と、また首無し遺体が発見された。
牛の首は、黒毛和牛で、目がくり貫かれ、血で真っ赤に染まっていたとのことで、検証の結果、長野県田城原高原牧場の首無し黒毛和牛のものと判明した。
首無し遺体の方は、矢張り、検証の結果、油羅畜産牧場の副社長をしていた大藪の長男と判明した。
この怪奇殺人事件にマスコミは騒いだ。
マスコミの調べで、会社再生法申請と同時に、長野の牧場は無人となり、牛達は誰でも牛を連れ出すことが出来たとのことで、牛殺しの犯人は、誰も見て無くて、まして、社長の事件も、目撃者は無く、何も証拠らしいものも無く、切り口から、社長の遺体から首を切りとったものも、牛刀ということだけは判明した。
社長の足取りも分からず、使用していたワンボックスカーの車もなかった。
阿蘇山で見つかった、副社長の首もやはり牛刀で切り取られていた。
ここに社長の車が乗り捨てられていて、車の検証から、社長と副社長の他に後二人の不明な指紋が検出されていたことが判明した。
また、車の中から牛の血のついた大きな段ボールと、綺麗な段ボールの2個が見つかっていたことが報告されていた。
果たして、二人の首は何処に消えたのか?怪奇殺人事件とマスコミが騒いだ。
そして巨額な3,000億円という金は一体何処に消えたのか?3,000億円といえば、1万円札で30屯以上の重さになり、簡単には移動させることは出来ない筈で、何処に行ったか検討もついていなかった。
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(2)事件現場検証
五島と神霊捜査課の全員とトバケン、鎮西刑事の9人は、熊本県警と連絡をとり、阿蘇山のカルデラ内の事件現場の検証をすることになり、博多南西署のワンボックスカー、1O人乗りの車で、九州縦断道路を南下した。
高速道に乗って、1時間余りで、阿蘇山に向かう為に熊本インターで降りて、国道57号を東に進み、大津、立野を経由して、赤瀬の先から赤水線登山道で上がり、米塚の近くで、熊本県警の捜査員と合流した。現場は米塚の南側の裾野であった。
現場の近辺での熊本県警の捜査では、凶器と思われる牛刀は見つかっていなかった。
事件現場は草原で、牧場として、簡単な柵が作られているだけで、肥後の赤牛を放牧した見通しのよい所だった。
昼間は、観光客がすぐ上の道を車で通る所で、目につきやすく、事件は、人目の無い夜間に行われたものと推測された。
ということは、この辺りの土地勘を持っているものの犯行と思われた。
この時、熊本県警の刑事に人吉署から連絡が入り、人吉で、人の生首が二つ遺棄されているのが見つかったという知らせであった。
「首は神社の境内で見つかったのではありませんか?」
と、五島がその刑事に言った。
「エッ!どうしてそれを? 今の電話が聞こえましたか?」
「いいえ、阿蘇青井神社の拝殿のモチの木の下ではありませんか?」
「はい! そう連絡がありました。」
と、刑事は驚いて五島を見た。
熊本県警の刑事達と一緒に五島達も人吉に急行することにした。
緊急サイレンを鳴らして益城町、御船町を経由して御船インターから九州縦断道路を使って人吉インターまで1時間半位で到着した。
人吉駅近くの阿蘇青井神社に着いた、まだ現場検証が行われていた。
ミカン箱二個が、拝殿の左側、向かって右側に植えられている、モチの木の根本に置かれているのを、清掃中の神社職員が見つけたということであった。
防犯カメラから、夜中の2時過ぎに、フードを頭から被った二人の人影が、木の下に遺棄している様子が映っていたが、顔や、年齢等詳細なことは判明しなかった。
五島は、雫を呼んで、二人で、現場検証が行われている横で、拝殿に向かって、二礼三拍手一礼して、参拝した。
「雫が『人吉城祉』と聴こえました。」
と、言った。
五島が、熊本県警の刑事に、人吉城祉を捜査するようにと、進言した。
「帰りに済まないが、もう一度、阿蘇に入り、行きたい所があるのだが、寄ってくれないか?」
と、五島が本郷課長に頼んだ。
五島が皆んなを案内したのは、阿蘇山のカルデラの外輪山にある大観望の近くの阿蘇国造神社であった。
境内には、千年とも二千年とも言われる「手野の大杉」と言われる巨木が神社を囲んで、護る巨人のように立っている、由緒ある風格のある神社だった。
9名で並んで、二礼三拍手一礼して参拝して帰路についた。
鳥居をくぐり終えた時に雫に通信が入った。
『金銀宝珠でまぶしい。』
とだけ、何の意味か不明だった。
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第二章 稲荷の祟り
(1)油揚を供えよ
五島はコーヒーを飲みながら、先日捜査会議でもらった捜査資料に目を通していた。
被害者の首無し死体で発見された油羅畜産牧場社長の大藪耕司の出生に関心を持った。
大藪耕司の出生地は阿蘇の一の宮町で、35歳の時に神懸かりになり、自費で稲荷神社を建立して自ら宮司になり、それが霊験あらたかで、よく御利益があると評判になり、阿蘇町だけでなく、九州一円、ひいては、日本全国から信者が参りに来るようになり、近所の旅館や、商店を大いに繁盛させて、一躍村一番の長者になった。御利益を求めてくる信者に、始め宮司は「油揚げを供えよ」と言っていたが、余りにも多い油揚を見て、油揚を絵に描いた小袋を社務所で販売して、それに浄財を入れてお供えるように変更して、大金を儲けたのでした。
そんな矢先、ある一信者が御利益を得て、会社を繁盛させて、にわか成金になり、蓄えた財産を独りで散財し、家族をないがしろにした報いで、孫から殺されるという事件が起こったことから、突然、神社をたたみ、一家で上京して、何かの縁で、当時落ち目であった油羅牧場の株式を取得して、社長となり、息子を副社長にすえ、今回の詐欺事件を起こしたと書かれていた。
「ウム。稲荷か? 伏見稲荷か、鎮西日光稲荷か、祐徳稲荷か、どこの部類かな?」
と、五島は独り言を言った。
「ピンポン・・・」
「先生!おられますか? 雫です。」
突然、雫と真ちゃんが訪ねて来た。
「こんにちわ! はい、エクレアを買って来ました。」
「ありゃ、今コーヒーを飲んだばかりだ。 」
「判りますよ、良い香りがしていますもの。」
「君たちは勝手にコーヒーでも入れなさい。わしゃ、コーヒーは一日に一杯で十分だから、緑茶でも飲むか。」
ガリガリとコーヒー豆を挽きながら目敏く真ちゃんが捜査資料を見つけた。
「先生も見られておられたのですね! この害者の大藪耕司は一の宮町の生まれだったんですね! 先生が案内してくれた国造神社のあるところですね。あんな田舎で、キツネか稲荷か知らないが神社を建立して、繁盛すること等あるのでしょうか?」
「真ちゃん、前にも一度言ったと思うが、稲荷とキツネは別物だよ!」
「あっ、そうでしたね。違いは何ですか? きつね馮きとか言いますよね。」
「きつねも稲荷も動物霊だが、大きな違いがある、我々神業人は大いに稲荷に被害したんだが、不思議なことに狐には被害を受けていないんだ。」
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(2)狐と稲荷
五島は雫と真ちゃんに今迄の神業から知り得た話を始めた。
稲荷とは元々は狐の体を利用した意思存在で、地球神界が、神界戦争で、地系の親神軍が負け、天体系の山武姫軍の手に渡った時に、稲荷をそれまで部下としてつかっていたものが、神無月に全ての神々が会議をする為に出雲大社に集まって、一柱も神様が居ない隙に、稲荷や、他の動物霊等が、反旗を翻して、一斉に一人歩きを始めて、神々の言うことを効かないようになって、勝手な悪さをするようになり、稲荷は道城義則様の管轄にある稲の管理のお役、つまり富を自由に使う権利を持ち去り、それを使って、人間に御利益を与えていたのだった。
この見返りに稲荷は好物の油揚げを供えることを要求し、供えてくれた者には、その人を金持ちにしてやるという個人利益を与えていたのだった。
でも、これには恐ろしい仕組みがあったのです。
それは、その富はよそから持ち込んで来た富では無くて、その人の家系の本人より後の三代後迄の子孫の生涯で得るはずの富を一度に、前倒しして持って来て与えていたのです。
だから、その本人の代は良いとしても子供、孫、曾孫の代になると、酷い貧困生活を強いられることになるのです。
これが稲荷の仕業です。狐とは、また別に、東北の岩手県紫波町の志和稲荷温泉での取り継ぎを見ると、
『宮(きょう)の白狐(びゃっこ)は 都落ち
落ちて 落ちて 拾われた
踊りも出来ねば 舞も知らぬ
鈴のひとつも よう振らぬ
都落ち・・・ 金箔剥がれば 化ダヌキ(・・・・)』
『上義姫直系。我らは鈴をお預りしていた
気高き血を あやつらは 穢した
上義直系の 孤高と品格は 我らが本分
一緒にしてくれるな
我らの舞は それはそれは 美しい』
『一番大事な鈴ではなく ちがう鈴を持って下った一団がいる
だから 本当の鈴は 傷ついてここで守ってもらっているのだけど
そうじゃない方が 本物以上になって今に至ってる』
取り継ぎ役の霊視感想は、志和キツネの大将 白狐のばあちゃん
本物の鈴をかかえて、じっとここにいる。
白狐が分裂。別派をたてた"うそ"が勢力を上げた。
『わたしはここのもの
その話、今度の京都で して頂きたくて お呼びしました。
京の白狐は西のこと
都を落ちるのは 西に下ること
西のイナリが 都落ちしたほう
ここが 本拠地』
つまり、同じ狐でも、体を意思存在に乗っ取られて自在に使われている稲荷と上義姫之大神様から鈴の守り役として眷族神として働くキツネは別物なのである。
別派の 京都のキツネは天皇家の家系の管理人だったと後日京都御所で判明した。
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第三章 解決したのか
(1) 出頭
失踪していた油揚羅畜産牧場の総務部長が警察に自ら保護を求めて出頭して来た。
社長、副社長の死をニュースで知り、自分も狙われているのではないかとの恐怖心から保護を求めて自ら出頭して来たのであった。
総務部長の事情聴取で、会社の破綻前日に社長から、前から計画していた通り、会社再生法の申請書類を提出して、身を隠すように指事されて、幹部社員全員に500万円ずつ支給されて各自である程度落ち着くまで、身を隠すように言われて、旅に出て隠れていたが、ニュースを見て恐くなり、警察に保護を求めたと白状した。
他の資金については、全て、社長、副社長が管理していたので、自分は知らないが、かなりの資金をスイスの銀行に送ったことや、、金銀財宝を、特に金とダイヤモンド等の宝石を多数購入していたことが分かって来た。
また、総務部長と連絡を取り合っていた他の幹部社員13名も、警察に各地で保護された。
ただし数名の者には連絡が取れず、行方不明のままだった。
警察は念の為に、出入国管理事務職で、調査したが、海外に出国した様子はなかった。
「詐欺事件として、訴えられているので、あんた達を、一応任意ではあるが、調べさせてもらうから、不利なことは答えなくても良いからそのつもりで。」
「判りました。私達は本当に何も知らないのです。」
「詐欺事件は始めから計画していたのかね?」
「私には判りませんが、社長と副社長はそのつもりだったのかも知れません。」
「総務部長、黒毛和牛は本当は何頭飼育されているのだね?」
「私の知る限りですと、長野県の田城原高原と、北海道の白老の契約牧場の5,000頭余りと後は、阿蘇の赤牛70頭位だと思います。」
「我々の調べだと、黒毛和牛だけでも、100,000万頭は居ないとおかしい計算になるが、君たちはそのことを知っていて、黙って仕事をしていたのか? 詐欺行為という認識は当然あったのではないのかな?」
「私は一度、社長にそのことを質問したことがありましたが、心配するな、ニュージーランドとオーストラリアで。現在60,000頭程黒毛和牛を飼育している大きな牧場を購入交渉をしている最中で、その資金をスイスの銀行口座に預金しておいて、資金証明を作らないといけないので、準備しているところだと言われて、後100億円程いるから、営業の尻を叩いてくれ、と逆に言われて、働いていたところ、一ヶ月程前に、社長の知り合いという弁護士と税理士が会社に乗り込んで来て、海外の買収交渉が、決裂して、会社が立ゆかなくなる可能性が出たので、会社更正再生法の申請を準備するからと、会社の経理関係の資料を全てパソコンからフロッピーにダウンロードして行きました。
申請当時私は資料を副社長から預かって申請に行っただけで、その他のことは判りません。」
総務部長のこの証言は他の幹部社員の証言とほぼ一致していて、今回のこの油羅畜産牧場詐欺事件は、殺された社長と副社長の二人が計画したと思われる事件であった。
詐欺事件の被害者5300人は会議を開いて、破産法の申請したが、管財人の調査では、本社や、各地の事務所は全て賃貸で、その僅かな敷金と、長野の牧場と80頭余りの黒毛和牛、北海道白老の契約牧場の牛4,900頭余りの黒毛和牛が残ったが、その北海道の契約牧場も、飼育管理費の未納がかなりあり、その分の支出を差し引くと、残りの分配金はとても少なく、また、スイスの銀行口座の預金を調査したら、、入金が入れば、その都度、引き出され、どこか別人の口座に移されていて、残高はごく僅かという調査結果が判明していたのでした。
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(2) 自首
神霊捜査課の誘いで、玉の井の食事会に五島は参加した。
今日の目玉の肴は近海根付き鯵(あじ)の「なめろう」と蓴菜(じゅんさい)の酢の物、鮎の塩焼であった。特に根付き鯵は油がのっていて、葱や、大葉、生姜、茗荷(みょうが)を刻んで、なめろうに混ぜ混んであって、良い味と涼味を出していた。これをチシャ葉、大葉、エゴマの葉に包んで食べるのも、冷やの地酒によく合って美味しかった。
「五島先輩、もうご存知でしょうが、例の油羅畜産牧場の殺人事件の犯人が凶器の牛刀を持って熊本県警に自首して来ました。調査と証言の結果、犯人に間違いないとして、今朝、送検されました。」
「ああ、よかったね。早く解決して。」
「ところが、熊本県警も頭を悩ませていることがあるのですよ。」
「ふむ、犯人の証言に疑問点が多いことだろう?」
「先輩はどうしてその事をご存知ですか? 熊本県警は自白と凶器の証拠品等で、充分公判を戦えると思って送検したそうですが、尋問にはっきりと、答えてないようです。」
「何故、首を切ったか、何故その首を人吉の神社に置いたか、一人での犯行なのか?等だろう。」
「そうなんです。よくご存知で!」
「犯人は油羅牧場の社員だったそうだね?」
「はい!社長の運転手をしていた滝田治という男で、一の宮出身で、大藪一家に恨みを持っていたそうです。
副社長とは同級生で若い頃から、番長と子分の関係だったようです。
その関係で、副社長を頼って東京に出て運転手に雇ってもらったと供述しています。
しかし、犯行の動機はただ恨みを持っていたと言うだけで、どんな恨みか?車の中から出た二人分の指紋や、Nシステム、つまり車両捜査システムから割り出した、画像にはフードを被った別の一人が写っていたのですが、知らぬ存ぜぬで、自分一人の犯行と言ってきかないようです。
だから、そんなことは、記載の無いままの送検となったと聞いています。
何故、人吉の神社に首を置いたかについては、ただ思い着きで、そうしたと言うだけで核心的なことは話そうとしないようです。」
「なるほど。ところで、首を運んだ車は見つかったのかね?」
「ああ、そうでした。熊本県警の署長から、先輩に御礼を申し上げてくれと頼まれていました。
犯人の使用した軽トラックが、先輩から教えいただいた、人吉城跡の駐車場に放置されていたそうです。
先輩はなんでその事がお分かりになったのですか?」
「うん、いつか話してあげるよ。
何れにしても殺人事件の犯人が自首して来てよかったね。」
(前編完)
《神霊捜査》第五部 赤い目の牛 (前編)
《おことわり》
この物語の登場人物、商店、会社名等は全て架空ですので、その事をお断りしておきます。