繰り返し輪廻1
1回目
障子を開け放った時、少年の視界は赤色で塗りつぶされた。
それが家族によって造られた色彩である事に気が付いた少年は絶叫した。
「「「「「「「「 貴様らァァァァァ――――――――――ッッ!!!!!!!!!!! 」」」」」」」」
「琥珀、今日も気合が入ってるな」
「はいっ、父上。御家の名に汚点を残さないよう、日々精進しております!」
そうかそうか と言って、自分の頭を撫でてくれる父の手は優しい。
「母上も、天でお喜びになっているだろう」
少年の瞳が蔭る。
「…そうか、すまない」
「―――いえ、義父上…お気になさらないでください」
少年は悲痛な目をしながら引きつった笑みを見せた。
再び剣術に励み始めた息子を見て、思わず溜息をつく。
(記憶がなくとも…恐怖は残る…か……)
まだ幼すぎる背中が、とても孤独に見えた。
心に深すぎる傷を負った子供は、目の前にある“強くなる”という目的のみに縋りついている。
(こういう“強さ”は、とても儚い……)
いつか、必ず――――――――――――――――――――――――――……
偽りの“強さ”は瓦解する。
「琥珀、なんだお前か」
「…―――兄上」
「兄などと呼ぶな、気持ち悪い。ったく、何で父上はあの女の子供などを引き取ったのやら…気がしれn…!?」
兄弟子は、自分の喉笛に押し当てられた小刀を見て絶句する。
「「私のことを中傷なさるのならば、それは構いません。私自身に非があるのでしょう。しかし、義父や母のことを憶測で中傷しないで頂きたい!!」」
普段感情を表に出さない琥珀が、母親のことになると目の奥を怒りで染めて食ってかかる様子は、まるで小さな鬼の様だった。
屋敷の中ではたいていの者が、少年を【落とし子】と呼んだ。
「――ッ、どうせ…お前なんて誰も必要としていない! さっさと出ていけ!!」
少年の小太刀が揺れる。
兄弟子はその隙を見逃さず、少年を組み伏せた。
「――――ッ! お放しください!!」
発達途中の体と言えど、16と7では力が違い過ぎる。
「今度喧嘩売る時には、そういうことまで考えてからにしろ。クソガキが!」
兄弟子が拳を固くし、少年のみぞおちにめりこませた。
「「「「「そこまでです! 兄者!!」」」」」
「…? 何だ、惣介か。何の用だ、今は忙しい」
「兄者!」
惣介がもう一度呼びかける。
「ご覧ください、勝負は決しています。これ以上の戦闘は、我が流派の真意から反します!」
兄弟子は小さく舌打ちした後、馬乗りになっていた少年から退いた。
「惣介に、感謝しろ…クソガキ」
悠々と居間から立ち去る兄弟子に、惣介は頭を垂れていた。
「――よし、アイツ行ったぜ? 大丈夫か!! 琥は…!?」
パン!!!
惣介の差し伸ばした手が、あっけなく弾かれる。
「…………助けは不要でした、惣介様。僕の様な者に関わらないでください。」
「―――――――バカか? お前」
「「「ふェ!?!?!?」」」
「まず手当だろ! バカ!!! ほら、こっち来い!!」
「―――だから!!!!!!! 僕に構わないでください! 貴方はッ、この流派を継ぐお方なんですよ!?」
「だから、どうした?」
どうした? って…!?
簡単な事じゃないか!
自分の様な立ち位置の者と、この人は本来、関わる事の無い存在なのだ。
「わかりました」
*更新、お楽しみに!!*
繰り返し輪廻1