タイトル未定
真実
私が物心ついたときには、父親はいなかった。
母親からは、父は死んでしまったと聞かされていたが、どうにも嘘臭かった。
真実が知りたいところではあったが、父の話をすると、母は決まって嫌な顔をするので、私もその話題は自然と避けるようになっていた。
幼い頃は、父が居ないということで、馬鹿にされることもあったが、高校にもなるとめっきりなくなった。
高2の夏、私はふと疑問に思った。
母はパートで仕事をしてはいるが、生計を賄えるほど稼いでいるとは到底思えない。
では誰が我が家で消費されるお金はどこから来ているのだろうか。
私は母に尋ねてみた。
「…そうね、もう大人になるものね…」
母は何か重苦しい表情で、自分を諭すかのように言った。
話を纏めると、父は生きてはいるが、ある会社の社長として別に家庭を持っており、母とは元々愛人関係であったそうだ。
私はその父と母との間に望まずして生まれてしまった子供らしい。
このことは私にとってあまりに衝撃的な出来事だった。
自分の人間として存在する価値が否定されてしまったようにさえ思えた。
涙は流れなかった。
言葉も出なかった。
私はただ、絶望した。
「ありがとう」
そう言って私は自室へ戻った。
部屋は暗かった。
何分、いや何時間だっただろうか、私はベットからジッと天井を見つめていた。
答えのない問いが脳を駆け巡った。
大きなため息を一つつき、私はカーテンを開けた。
綺麗な満月が登っていた。
闇に包まれた私の部屋が僅かに明るくなった気がした。
私は母に手紙を残し、月に向かって進むことに決めた。
タイトル未定