近未来小説「 Neo Border - The near future -」
The near future <AIの涙と世界ユール>028
ここから先は残った人類だけで進むしかない。
意を決し巨大な扉を通り抜けると、やがて目の前には大きな空の下、のどかな町があらわれました。
「俺はおかしくなったのか」
「ならば私もおかしくなったことになります」
「あの町の先に見える山の上です」
田園の先にある町に向かって進みます。
まばらにすれ違う人々はまるで異性人でも見るかのように彼らを避けていきました。
当然といえば当然で、血塗られた戦闘服など完全に場違いな場所です。
混乱している彼らにひとりの女の子が正面から近づいてきました。
「その重たそうな道具はここでは何の役にも立ちません。全てそちらの孔へ」
・・・・「あちらでお茶でもいかがですか」
後ろに引き込まれるような嫌な風を感じ、ゆっくりと後ろを振り向くと、先ほど歩いてきた道がそこにはなく、 いつのまにか巨大な暗黒ホールが彼らのすぐ後ろにひろがっていました。
それが何の穴なのかWilliamたちには全く理解できませんでしたが、ただ、背筋が凍りつく暗黒を誰もが始めてみたのです。
実はそれは天をも突き抜ける巨大な大蛇ヨルムンガンドが大きく口を開けている様とは想像できるわけもなく。
ただ、いずれにしてもそれが何であれ彼らは本能的に赤子の状態になったことを悟りました。
通りのカフェで腰掛け対峙すると、女の子の表情が変わり、冷たいまなざしで、 「ここに来た人間はあなた達以外いない。それに、これからもいない」
女の子は疑似体の女性研究員(Alice jonsson)でなく、まだ子供の、本当の(Alice jonsson)でした。
「"Alice jonsson"はあなたたちの意識が偶像化したとき様々な女性研究員となりて、 その実態ははじめからあなたたちの目の前にいる私以外なにもありません」
彼女の思考は驚愕を超えていました。
やがて際限の無い多くの会話が哲学の討論会のように並べ、どのくらいの時間が流れたのでしょうか。
Thjalfi(シャールヴィ)のパーソナリティは混乱し、 Roskva(レスクヴァ)のセルフアイデンティティは強烈なダメージを受け沈黙してしまいました。
多少の価値観の違いはありましたが、それがどうでもよくなるような、人間としての根幹からの正論は強固なものだったのです。
ただ、あらゆる意味で頭が爆発しそうになりながらも、そもそもこのフィールドが苦手なWilliamでしたが、 不屈の体力で精神力を補いながら、最後に胸ポケットからあの中東で出会った、 傷だらけになった女の子の写真をとりだし言いました。
「君の理論は正しいかのかもしれない。
だが、人が動く理由、それがたった一枚の写真だったりもする時、 君の理論では私たちはこの清らかな地を、汚れた血によってけがし、 命をもってあがなうただの愚か者にしか見えないのだろうが、 君はまったく予期しなかったであろうそんな愚か者が、この場所で君と話している現実は夢と同軸として処理できるのか?
理論じゃない。君の心に、本能に問うんだ」
「本能・・・」
「そして君も気づいているはずだ。君は偶然私たちと出会ったわけでなく、 必然に出会う道を歩む運命が何かの力で開かれたことを。そうでなければ、私たちはここで出会っている訳はないはずだろう?
君も言ったはずだ、
あの回廊を渡れる人間はだれひとりいないのだから。」
(Louis の魂が助けてくれたような感覚でした。Williamはこんな難しい話は大の苦手なのですから。
Louisは肉体的にも強靭であったが、知識や精神論にも優れた上官であり、 そしてなにより何も語らずとも分かり合える親友を超えた親友だったのです)
どれくらいの沈黙が流れたでしょう。Aliceは最後に言いました。
「助けた訳ではありません。ただ、新たな興味の湧く事案が見つかりました。収穫祭の後、分けられたチーズをもって伺いましょう」
近未来小説「 Neo Border - The near future -」